ふるさとを思う〜復路〜
夢の中に見たふるさとは
確かな質量と空気感を持って
今もそこに在った
愛想よく『ようこそ、いらっしゃい』と
よそ行き顔をして
よく見知った制服の群れ
いつもの通学路
同じようにたどっても
そこには誰もいない
私が居なくても世界は回っていた
私が居なくても
家族は平穏無事に日々を過ごしていた
全てが昨日のことのように
思い出は
優しく色鮮やかに語りかけてくる
けれども
その手はもう届かない
私は既に異物であり遺物だった
とうに存在しないものだった
触れること叶わぬ幽霊ならば
もっと全てが変わっていたならば
諦めもついただろうか
ふるさとはあの夢とよく似た懐かしさで
『捨てていったのは誰だ』と
『置いていったのは誰だ』と
問いかけてくる
大事にアルバムに綴じて
それでいて押し入れに仕舞い込んで忘れたのは
一体誰だと
居たたまれなくなって
半ば逃げるように夜行バスに乗り込んだ
『じゃあね』と家族に背を向けた
懐かしい風景の中で
大切な人々に会い語らい在った今
そこに在る意味はない
星降る街並みは流れ
今は長く続く深い闇の中
あちらからこちらへ
こちらからあちらへ
夢からもう一つの夢へ
夜を越え1,000キロの道のりを行く夜行バスは
そんな弥次郎兵衛でさえ歓迎してくれるらしい