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投稿練習シリーズ

投稿練習

作者: 三水 歩

私が練習用として投稿したものです。

     放課後ネクロマンサー


 最初、私はそれを見間違いだと思った。

 その次に、これは夢だと思った。悪い夢だと。

 そしてそれが現実であると理解した時、私は我を失わずにはいられなかった。

 ロッカーの中で震えながら、べちゃり、べちゃり、という足音のようなものが通り過ぎるのをひたすら待ち、耐えていた。


 しかし無情にもロッカーが開けられた。私は目を瞑る。その異形を見ないようにするために。私の心を保つために。


     一


 十月。そろそろ暑さも抜け、日が傾くのも早くなってきた頃か。

気が付けば、今日も授業が終わっていた。授業の内容はほとんど聞いてないし、覚えてない。僕はあくびをしながら、放課後の開放感あふれる教室で教科書をまとめて帰る支度をする。

 ここ一週間ほど、家に帰ってはネットゲーム、深夜までやっては授業で居眠りをして、そのくせ休み時間は友人と遊んでの繰り返しだった。しかしやはり人間というものは昼間動き、夜は眠るように体ができているからだろうか。授業のほとんどを寝て過ごしたにもかかわらず、まだどこか体にけだるさを感じる。今日くらいはゲームは止めて、早めに寝たいものだけど。

 「おーいケンちゃーん。帰ろうぜい!」

 後ろから若干男口調気味な女の子の声が響く。彼女は高橋恭子。僕は恭ちゃんって呼んでる。僕の幼馴染だけど、小学校は別だったし、再会したのは去年のことだから、まあ、ほかの人と比べれば少し仲良しっていうくらいの子だ。

 「ああ、いいよ。 どうせだから、将太とお嬢様も誘っていこうか。」

 「ああ、荒川君とさっちゃん? そうだね、久々に四人で帰ろっか!」

 そう言うと彼女はニコニコしながらかばんをグルグルと振り回す。振り回すたびに彼女の短めに切りそろえられた髪の毛が揺れる。

 「あれ、そういえば今日は部活無いの?」

 ふっと疑問に思い、僕は恭ちゃんに聞いてみる。

 一瞬かばんを振り回す腕を止め、彼女は僕から目を逸らす。

 「ああ、うん。……いーのいーの! 今日は顧問の先生用事あるらしくてさ! 自主練って言われてるんだよねー。いやーラッキーラッキー!」

 「いやいや、自主練って言われてんのにサボっちゃダメだろ。向上心ないなあ……。」

 「ふふふふふ、そんなこと言ってケンちゃん。授業で『自習』って言われて、ケンちゃんは何か勉強したりするのかい? アタシは絶対しないけどな!」

 よくわからないが勝ち誇った顔をする幼馴染に苦笑する。まあ、確かに自習とか自主練とか言われても、実際進路とか目標の決まってない連中にとっては何もすることなんてない、実に無駄な時間だ。まあ、昼寝するにはもってこいだけど。とにかく僕自身そういう考えの持ち主なので、そう言われるとあまり強く言えないのも事実だ。

 幼馴染の言葉にそうか、とだけ適当に返事をして、僕は将太とお嬢様を探すために立ち上がる。

 「おう、ケン。今日はまだ残ってたんだな。いつもなら一目散で帰るのに珍しいな。 ……ははーん、さてはお前、もうあのネトゲに飽きたんだな?」

 そう言って話しかけてくる人物。金髪で、そのいかつい風貌からはとても同い年には見えない。どう見ても高校生か、完全に土木とか道路工事とかの人だ。中学生だと思う人はまずいないだろう。耳にはピアスをつけていて、よくわからないけれど指輪とかネックレスを平気で学校に着けてくるような男だ。しかし、ここで特筆すべきことはそんなことじゃない。もっと彼を言い表すのにふさわしい言葉がある。

 天才。

 この一言に尽きる。

 彼とは、小学生の時に同じ空手教室に通っており、親友である。でも、親友と思う以上に、僕は彼を尊敬している。

 成績は必ず学年で十番以内、スポーツ万能、格闘技もお手の物、さらにはイケメンときたもんだ。天は二物を与えず、なんて言うけど、将太を見た時にそんな言葉は嘘だったんだと思い知った。人は決して平等なんかじゃありえないんだと。対等なんて、存在しないと。

 とりあえず将太の方から話しかけて来てくれたおかげで、こちらから彼を探しに行く手間は省けたようだ。

 「……ゲームは飽きてはいないけど、そろそろ寝不足で体力がヤバいからさ。今日はゆっくりしてみようかなって。」

 あくびをしながら僕は返事をした。

 「おんや、荒川君。さっちゃん一緒じゃないの?」

 恭ちゃんが将太に尋ねる。

 「ん? ああ、なんかさっき委員会あるとか言ってたな。なんか、インフルエンザが流行ってるから、そのお知らせ用のプリント作るんだってよ。」

 「うへえ、保健委員ってそんなことまでするんだ……。アタシ、めんどくさくて絶対できないなー。」

 恭ちゃんは苦そうな顔をしながらため息を漏らす。その様子を見て将太は肩をすくめて苦笑する。

 「全く同感だぜ。でもまあ、内容とか文面自体は昨日のうちに出来上がってたらしいからな。 あとはパソコン借りて、文字打って印刷するだけだし、二十分もあれば戻ってくるだろ。」

 ずいぶん詳しく話してくれるのは、ほかでもない。彼、荒川将太と、件のお嬢様、今井さつき。彼らは、恋人同士。つまりカップルなのだ。将太はみんなの前でのろけたりとかはしないみたいだけど、お嬢様はすぐに頬を染めながら将太のことをペラペラとしゃべりだす。まあ、かといって将太の秘密とかを簡単にばらすようなことはしない。

 学年一位の成績で、今井財閥の一人娘である彼女は、そのくらいの常識は備えているのだ。

 「そっか。それじゃ、どこかで待つ? ……僕としては、昼寝できるとこがベストなんだけど。」

 「お前なあ……まあ、それなら図書室とかでいいんじゃねえの?」

 なんだかんだ文句を言いながらも、彼は僕の意見を結構尊重してくれる。全てのステータスにおいて彼の方が勝っていても、彼は人の意見はちゃんと聞いて、可能な限り周りの意見を尊重しようとする。

 実に、委員長向きなんじゃないかと思うのだが、本人は断固としてそういった役員を拒否する。なんでも、人の上に立つより下にいる方が楽だから、だそうだ。

 「図書室かー。じゃあ、せっかくだからなんかオカルト臭い本とか探そうかなー。にっしっし。」

 「ちょっと、恭ちゃん勘弁してくれよ。僕がホラー苦手だって知ってるだろ?」

 抗議する僕に対して恭ちゃんは犬歯をむき出しにして笑顔になる。

 「うん、知ってるとも! だからこそ、探すんじゃないのさ!」

 くそ、こいつ最悪だ。せっかく寝ようとしてるのに邪魔する気満々だよ。……今度机に悪戯書きしてやる。

 「お前ら、どうでもいいけど図書室で騒ぐんじゃねえぞ。俺たち以外にも図書室使ってる奴いるんだからな。」

 ケータイを打って歩く将太に叱られながら、僕たちは自分の荷物を持って図書室に向かう。

 

 この時までは、平和だったんだ。


     二


 二人しかいないパソコン室に、カタカタとキーボードをたたく音だけが響く。

 時刻はすでに十六時半を指している。

 よその学校の保健委員がどういう仕事なのかは知らないが、私たちの学校では保健委員が保険体育に関するプリントを作成したりする。他にも、学校内であった事件や事故なんかのニュースをわかりやすくまとめたものを風紀委員が作成したり、美化委員が清掃チェックなるものを毎日実施したりと、各委員会の仕事は地味に多い。

 私、今井さつきもまた、保健委員であり、現在は先述のプリントを作成中である。

 「ふああ……お嬢、よく集中力もつねー。 わたしゃもう限界だよー。」

 そう言いながら私の席で伸びをする風紀委員の本井(もとい)(ただす)。変わった名前だけど、実際は綺麗な黒髪の女の子だ。美少女と言っても差し支えないだろう。少ししゃべり方が独特なのは、小さい頃からの癖なんだとか。

 「規ちゃん、私は事前から準備してただけだよ。これが終わったら、規ちゃんのも手伝うから待っててね。」

 「おわ、ごめんごめん! そういうつもりじゃなかったんだよ! やりますやります!」

 そう言って、私に負担をかけないようにするためにもう一度やる気を出す彼女の姿を見て、クスリと笑ってしまう。自分のことになるとどうでもいいみたいなことをすぐ言うのに、人に迷惑だけはかけないように心掛けている。と、本人が言ってた。

 まあ、そんな彼女が私は好きだったりする。もちろん、人として。

 「それにしても、インフルエンザ流行ってるよねー。あれかな、学級閉鎖とかにならないのかね?」

 にしし、と彼女がいたずらっぽく笑う。対して私は、少し俯く。これを彼女に話してもいいものか。

 私の異変に気付いたのか、規ちゃんは私に不思議そうに尋ねる。

 「どしたの? 変な顔して?」

 私は、先生たちの会話から漏れ聞いてしまったことを話すことにした。

 どうやら、近頃のみんなの欠席は、どうもインフルエンザだけではないらしい、ということを。

 らしい、というのは、かいつまんだ話を整理して、勝手に補ってるからなんだけど、それも含めて彼女に話す。

 「……先生から聞いたんだけど、近頃欠席者が多いじゃない? 中には特に具合が悪くて、何日もうなされている人もいて、突然何か幻覚でも見ているかのように叫びだすこともあるんだって。……暴れ出したりとか。」

 「……ふーん。症状が重いってだけでは、なさそうだけど。違う病気とか?」

 私は彼女の言葉に首を振る。

 「まだ、はっきりしていないみたいなの。先生方は、もしかしたら伝染病の可能性もある、って話していたけれど、それもどうにもしっくりこないみたいだし……。」

 「……と、いいますと?」

 「実はあんまり知られてないけど、各クラスに、必ずその重い症状の子が一人いるの。三学年各四クラスに一人ずつ、そして先生にも一人。計十三名が、そういう症状なの。……風邪とか伝染病の広がり方としては、不自然な気がしない?」

 規ちゃんは、確かにそうだね、と神妙な顔をする。が、すぐにいつもの明るい表情に戻すとこう言った。

 「まあ、何にしても、本物のインフルエンザも流行ってるわけでしょ?その気持ち悪い伝染病みたいなのはほっといて、とりあえずインフルのことをプリントに書いておけばいいんじゃない? 保健委員だって、お医者さんじゃないんだし。伝染病の面倒までは見なくていいんじゃないっすかね?」

 まあ、そうなのだけれどね。実際、ここであれこれ議論していても何も解決したりはしない。

 「とりあえず、わたしゃトイレ行ってくるよ。もしその間に終わったら、先に帰ってていいからさ。」

 「ふふ、ちゃんと待ってるよ。」

 彼女は軽く手を上げてパソコン教室を後にする。私はパソコンのファンの音だけが聞こえるこの部屋に一人残された。

 再び画面に向かおうかとも思ったが、あと三行ほど打ち込めば終わってしまうので、彼女が戻るまで待つことにした。適当にインターネットを開き、特に何を検索するでもなく、どうでもいいことをクリックして画面を眺める。

 しかし、さっきの伝染病。実は話に続きがある。私は目を瞑り、考える。

 件の症状を発症した三年生の一人が、昨日から行方が分からなくなっているらしい。どうも今日の五時限目くらいに入ってきた情報らしく、まだ誰にも伝えられてない話なのだけれど。インフルエンザよりも高熱で、幻覚症状まで出ているのに、一人でどこかに行ってしまうなんていうことが、ほんとにあるんだろうか。

 私は一人疑問に思う。今回のこの伝染病には、何か意図があるのではないかと。各クラスに一人、というのはあまりにも出来過ぎではないだろうか。インフルエンザにかかってないクラスの中で、一人だけそんな症状で欠席する生徒がいる。それも、大半のクラスではインフルエンザなんてそれほど猛威をふるっていないのだ。

 さらに深読みをするなら、このインフルエンザ自体、怪しいものだ。暴れるなんて、インフルエンザの症状としてあり得るのだろうか? クスリを飲んで幻覚を見る、というのは聞いたことがあるけど、熱が出過ぎても同じようになるのだろうか。

私は検索する内容をインフルエンザに関することに絞り、ネット上の情報をあさり続けた。結果、あまり大した内容のものはなかったうえに、いつの間にか眠ってしまった。

 ……。

 「……あれ?」

 目を開けると、あたりが少し暗くなってきていた。

 眠ってしまったのだろうかと思い、私は何気なく窓の外に視線を移す。

 気になるものを見つけ、なんだろうと思い窓に近づいて下をよく見てみる。

 何やら男子生徒がふらふらとした足取りで、校庭を歩き、校舎に入ろうとしていた。

 (何か忘れ物でもしたのかしら……でも、こんな時間に?)

 そう思っていた時に、ちょうど男性教諭が彼に駆け寄って何かを言っているようだ。そんな様子には目もくれずにふらふらしながら校内に入ろうとしている男子生徒の肩を先生が掴む。そして自分の正面に正対させるような形で再び何かを語りかける。

 その時。

 男子生徒が突如すさまじい速度で、先生の首筋にかじりついた。

 「ぎゃあああ!」

 この世のものとは思えない悲痛な叫び声とともに、地面に崩れる教師。しかしその生徒は構わず喉を、顔面を貪り続ける。

 そしてついに先生は動かなくなった。

 「な、に……アレ……。」

 なんで、先生を襲ったの? なんで先生は倒れてるの? どうして、何事もなかったかのように歩き出すの?

 ……どうして学校に向かって来てるの?

 胃の底から震えあがるような恐怖を感じて、私はすぐにパソコン教室を飛び出そうとする。本能が、早く家に帰らなければと言っている。いや、あんなものを見てしまっては、家の中だって安全とは言えないかもしれない。

 とにかく、この場には一秒だっていたくなかった。早く、あの男から逃げないと……!

 焦って机の角や、パソコン室の椅子をひっくり返しながら、私は走って教室から出る。

 廊下はいつの間にか暗くなっており、人の気配もないようだった。

 「規ちゃん……!」

 私ははたと思い出し、彼女を探すために近くのトイレに駆ける。しかし、彼女はいない。どこにもいない。どうしよう。

 先に帰っているのかもしれない。いや、きっとそうだ。そうとしか考えられない。

 頭のどこかでは、そんなはずはない、と否定する声が上がるが、しかしそうとでも思わなければ、彼女を探さなくてはならない。あの男子生徒が来るかもしれないのに、彼女を探す? 危険を冒して?

 ……できない。そんなのは、怖すぎる。

 私は急いで走る。図書室には、彼がいたはずだ。

 「将太君……!」

 私は恐怖で半分泣きながら図書室を目指して走った。


もしもこんな稚拙な文章を見ていただけたならうれしいです。

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