無題のドキュメント。
最終話
無題のドキュメント。
この『防人あさぎ様』と宛てた手紙はこれでもう何通めだろうか。
まぁ、手紙と言っても俺がポチポチとワードで打っているだけで、手紙といっても投函される事などないのだが。
こうやって打つ事によってお前にいつか届く気がしてならないのだから仕方がない。
で、あさぎよ。
お前達は今どうしているんだ?
サバンナマスクは元気でリングで暴れているのか?
ヨアンナさんは旦那さんと仲良くしているのか?
ヨアンナさんの研究は俺達の世界を繋ぐ研究だろうから、早く成果を出してほしいところだよな。
こっちは相変わらずだ、ミライの一件でその気になったから。
ってのは言い過ぎだけど、當麻君の意志を継ぐのも俺の仕事かなと思っているから、志を変えずに医者を目指してるよ。
編入の試験に比べれば、今の授業はまだ楽な方だ。
現場はもっと過酷だとは聞くけど、きっと天童さんとやりあうよりはマシだろう。
その天童さんだけど、相変わらずテレビで顔を賑わせているよ。
俺もあんだけテレビを賑わせている人を知らなかったなんてモグリだよな。
そっちでもあるかどうか知らないけど丸一日生放送する夏の番組で、この前にマラソン選手として選ばれたんだけど。十時間でゴールしちまって度肝を抜かされた。
相変わらず自由な人だよ。未だに仲良くしてもらってるのが不思議なくらいにね。
テレビで思い出したけど、この前に水島さんの二人目のパートナーの灰山さんをテレビで見たよ。
なんか話を聞くぶんに、水島さんを崇拝する変な宗教みたいだった。
ちょっといっちゃった人だったし、俺は見なかった事にしてそっとテレビを切った。
加々美ちゃんは引きずってるって事はないみたいだけど、いまだに彼氏を作ったって話は聞かない。
もっとも海外留学しちゃったから、なかなか連絡はとれないんだけどね。
連絡といったら、何だかんだで日下部とは連絡を取り合っている、友達としては面白い奴なんだがな。
結局のところコスプレは未だに止めてない、なんだかんだ言っていたがアレは絶対にアイツのただの趣味だ。
もうすぐ、夏になるってこの時期になるとやっぱりあの時の事を思い出すよ。
お前は女々しいって笑うかな。
それじゃ、また手紙を書くよ。
追伸。
明日はインターン試験があるんだ、合格を祈っていてくれ。星を治した名医が試験に落ちたら格好がつかない。
俺はタイプする指を止めてそのまま文章を保存する、次に書く時にはまたこれを消して一から書き治すのだ。
届くはずのないのに、届いたと信じて書かれる手紙。
手紙を心と置き換えたら、なんとなく俺の言ってる事がわかるだろう。
それにしても我ながら思う、まるで厨二病の発想だ。
けど、それでもいいだろう。
俺たちは、世界は、そういう風にできている。
これからお盆が来たら家族の墓参りに行かないとな、きっと俺の元気な顔を見たがってるだろうしな。
いろいろな事を乗り越えて俺達は生きている。
同じように何があっても地球は回ってるし、地球がいつから回ってるかわからないように、俺達はいつから進みだしていつまで進むのかわからない。
わからない事を考えたって仕方がない。
だから確実な事を考える。
今はいなくなってしまった人と、いつか訪れるであろう再会を考える。
その時に恥ずかしくないようにしていないといけない。
迷う人がいれば、苦しんでいる人がいれば手をかして、助けよう。
俺達の周りには、俺達が考えている以上に誰かの繋がりで溢れているんだ。
だから、少しだけ優しくなれればいいじゃないかと思う。
それは別に難しい事じゃなくて、一緒に笑ってあげるだけでもいいと思うんだ。
最高にいい笑顔で。
俺の相棒が見せた無邪気な笑顔のように。
この星がミライに向かって船を出す時に見せた笑顔のように。
星の未来の笑顔を思い出しながら、鏡に向かって笑ってみせた。
そうそう、こんな感じの笑顔だったよな。
明日もこの笑顔で過ごそう、なんて事を考えると試験の不安なんて吹き飛んだ。
窓からふと見上げた夜空には満天の星空が広がっていた。
それじゃ、また明日。
星のアスクレピオス
おしまい。




