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星のアスクレピオス  作者: 面沢銀
後半パート  星まで届く本戦編
54/66

防人あさぎ

 その27

 防人あさぎ





 振り返るのは終わってからだ。

 いつのことだか、最近の事が遠い昔の事に思える。

 楽しい事もあった、辛い事もあった。

 するべき事は全てやった。

 守る者と壊す者の最終決戦。



 戦力比較。

 


 瀬賀千鶴、男性。

 体格はやや背が高い。

 体力はそれなり、能力的には自己回復と特殊能力に突出。

 格闘技経験は対戦者である天童翼子から多少の手ほどきがあった程度。

 星座の加護は蛇使い座、能力値は防御と補助にかたよりつつも平均的


 防人あさぎ、女性。

 身長、体格共に平均的。

 体力は平均以上、能力的には攻撃力と防御に完全に突出。

 暴走癖が有り。

 星座の加護はエリダヌス座。


 日下部阿左美

 身長はやや高め、(痩せ型?)、前回の優勝者。

 体力はおそらく平均、能力的な補助に特出。

 戦闘への介入の可能性は事前の取り決めによって補助以外は無し、性格からして反故される事はないだろう。

 星座の加護は蛇使い座。


 烏丸慧

 身長は高め、体格は細身ながらも筋肉質、ガイアが囁くようなファッションセンスは変わらず。

 体力は平均以上、能力的には攻撃力と防御力に完全に突出。

 現状まで声は全く聞き取れず。

 能力名はフォーマルハウト、星座の加護は東の魚座。





 前日の日下部と長く話をしたから、今となっては何も話す事は無かった。

 因縁という因縁があるわけでもなく、こうなる理由があったとも思えない。

 もともと、これはそういう戦いだ。


 物事を複雑に考えたって仕方ないだろう、どんな人生だって理由なんてあって無いようなもんだ。

 来るべき時には、黙ってそれに立ち向かうしかない。

 足下ばかりを見てたら転ぶし、前ばかりみてたら位置を見失うし、後ろを向いてちゃ進めない。

 だからといって立ち止まってばかりじゃいられないが、せっかく立ち止まったのだから横を向いてみるべきだ。


 俺にはあさぎが、日下部には烏丸がいる。

 思えば二人にも何の因縁もないのだけど、それもやっぱりそういうもので。

 俺もあさぎを無条件に信頼するように、日下部も烏丸を無条件に信頼している。

 俺と日下部は多くを語ったからこそ、言葉はいらず。

 あさぎと烏丸は何も語らなかったからこそ、言葉はいらず。

 あさぎも烏丸も一歩前にでる。

 それはクラシックな西部映画の早打ち対決のような構図であり。


「「ケバルライ!!」」


 お互いに蛇使い座である俺と日下部の強化呪文が合図となり。


「フォーマルハウト」


「リゲル……」


 日下部から聞かされていたように、烏丸の手に赤い刀身の刀が握られる。

 可視光では最高級である、夜空を照らす星の名を冠したそれは、その名に恥じないくらいに赤く美しく。

 神話生物のクトゥグアの住処という逸話のように、生ける炎に見える刀身が赤く発光している。

 その刀の構えは分類ならば大上段の構えなのではある

が、それは既に構えという体なく、構えよりも姿勢と表現した方が正しく、その姿勢さえも異端すぎた。


 腰を落とすというよりも、身を伏せるといった方が正しく、陸上のクラウチングスタートのように手を地面について片手で刀を握る。

 武家を先祖に持つという烏丸らしい、刀を出現させる能力と。

 そして素人目から見てもわかるほどに、初太刀に乾坤一擲の全てを乗せるという決意が見てとれる構えだった。


 試合ではなく、死合であった頃の。


 武道家の敗北は死と定められていた頃の、剥き出しの刃のような圧力を烏丸はすでにその身から発散させていた。

 これまでの全てでこうしてきたのだと日下部は言っていたが、つまりはそういう事なのだろう。

 俺達が戦うという事に、命を奪うという事に葛藤していた頃ですでに。

 いや、おそらく烏丸は物心ついた時から闘うという事は総じて命をかけるものだと理解していた。

 理解しつつも、その機会が無かった。

 そして、与えられたこの機会。


 最初から覚悟の強さが桁違いだった烏丸に、果たして誰が太刀打ちできただろうか。

 烏丸が日下部に目配せする。


「フォーマルハウトの能力は刀を出すってだけじゃないわ、その刃は全ての能力補正を無効化する。烏丸の刀の前ではどんな能力差も無意味よ」


 恐ろしい能力であると同時に、日下部が天童さんを倒せるのは私達だけだと思ったという言葉を思い出す。

 烏丸の能力なら確かに天童さんの企画外の能力は無意味になるし、天童さんの性格からしてこういった勝負から逃げるはずもない。

 刹那の勝負となればどう転ぶかわからないし、それでなくても天童さんは狡猾な事はできない人だしな。


 無論、烏丸を卑怯と言う気は無い。


「代わりに、刀が消えたら烏丸の能力値が無くなるわ」


 強い能力だからこそ、やはり代償があった。

 最弱と最強を内包する烏丸と、天災を乗り越えたあさぎ。

 見守る俺と日下部は互いのパートナーを信じるしかない。

 静寂。

 無音。

 沈黙。

 沈黙の中、瞬きする間もなく、最後の戦いが始まった。


 決着は一瞬。


 その全てがスローモーションに見えた。


 烏丸が駈け。


 振りかぶり。


 振りおろし。


 あさぎは微動だにせず、その斬撃を迎え打った。


 一歩も動く事もなく。


 無駄な所作などただ一つ無く。


 右手で烏丸の刃筋をいなし。


 左の拳を烏丸の胸に打ち込んだ。


 いつもの気合いさえ無く。


 得意技の蹴りでさえ無く。


 表情の変化さえも無く。


 防人あさぎの使う格闘技が、そもそも刃を想定して生まれた柔術で無ければ。


 烏丸の能力がここまで極端なものでさえ無ければ。


 それとも、俺達がもっと二人の戦いに介入していたら。


 そんな無粋な感情さえも一切合切、全て紛れもなく不純物であるという説得力を持った、絶対的な。




 静かで儚く、寂しい決着だった。



 それでも俺達に、この場にいる全員に悲しみは無かったと思う。

 それは吹き飛ぶ烏丸の子供のような無邪気な笑顔が物語っていたし、俺達だって微笑みこそ無かったが嬉しい気持ちで心が満たされていた。

 それは最後まで勝ち残ったとか、願いが叶えられるといった直接的なものじゃなく。

 ここに至るまでの全ての想いが、全ての人が、全ての戦いの最後が、全ての戦いで学んだ、変化した、成長した、そういったこの戦いという世界の終着点を勤めたのが自分達であったという誇りだった。


 この戦いの参加者全員が何かを背負っていて。

 いや、きっとこの世界に住む全員が何かを背負って闘っていて。

 誰かがこの戦いをそんな世界の縮図っていっていた。

 だから、今の俺達の心に飛来する多幸感は生きるという、未来という先に有る物ではないのか。

 もしも、これまで何度か行われていた戦いで、この感情に至っていなかったというのなら、俺達の感情は証明にんる。


 人は成長する。

 心は成長する。


 成長は見えている物を、世界を変えて。

 きっと未来を変える。

 未来をも成長させる。

 嬉しさしかない、悲しみなんて無い。

 ただ、俺は涙を流していて。

 ああぎも涙を流していて。

 逆に、烏丸は微笑んでいて。

 日下部も静かな笑顔を見せていた。


「あーあ……負けちゃった……」


 どこか嬉しそうに言って。


「最後の最後で負けるとか、ホント……ウザぁ……い……わねぇ……」


 最後に涙で声を曇らせて。

 そしてそんな日下部の様子を目にしながら、最後まで笑顔のまま烏丸は逝った。

 そしてこれまでのように世界が変わる。

 いつもの黒い空間とはうって変わって白い空間。

 それは、ミライと会う時の船のある世界と酷似していた。

 状況の変化に頭がついていかず、勝ち残ったという実感もまだ沸かない中で、どちらともなくお互いのパートナーの顔を見る。


「ありがとう千鶴……あなたがパートナーじゃなかったら……きっとここまで来れなかった」


「俺も……あさぎじゃなかったらとっくの昔に死んでたよ。一緒に戦えて……。いや、あさぎと出会えて良かったよ」


 季節をまたぐ事もない、少し前に出会ったこのあさぎは俺の大切な友人となった。

 思えば出会った時から支えられ、戦いとなればほとんど頼りっぱなし。

 少し考えが足りなくて、酔っぱらうと記憶が無くなって、純情で、一途で、優しくて、自分を犠牲にする事もいとわない。

 実はわりと人見知りが激しくて、気だてはいいのに暴力的で、偏った考え方で、知識はちょっと寄り気味で。


 強がりは弱さの裏返しで、実は酷い寂しがり屋で。

 それと車の趣味はかなり良くて、食事の好みは俺と一緒だ。

 ラーメンが好きで、天童さんと仲が良くて、天童さんはネギってあだ名をつけてた。

 長いようで短い間だったけど、あさぎとの思い出は数え切れない。

 いつだってあさぎが何かやらかして、俺がフォローする。

 それが嫌じゃなく、その全てが楽しかった。


 フォローを入れるなんて行ってたけど、いつだってそんなあさぎに俺は励まされ守られてきたんだ。

 出会いからしてそうだった、こいつは優しすぎるからな。

 自分の恋も想いも棄てて誰かを守る。



 いつだって誰かを守る人。

 いつも誰かを防る人

 防人。

 防人あさぎ。



 ……最後に肝心な事。

 あさぎと俺は住む世界が違う。

 だから、勝ち残ってもここでお別れだ。








 勝者 瀬賀千鶴&防人あさぎ

 敗北 日下部阿左美

    烏丸慧





 優勝 瀬賀千鶴&防人あさぎ

 戦闘終了








「おめでとう、やっぱりあなた達が勝ち残ったのね」


 遅ればせながら、いつのまにか星乃ミライが現れた。

 もう知った仲だからか、いつもの厨二臭い台詞もポージングも無しだ。

 まるでコンビニの愛想の悪いバイトみたいな淡々とした調子である。


「じゃあ、知っての通りお互いの願いとお互いが共通する願いを一つ叶えられるのだけど」 


 いや、ミライはミライでこれで終わりなんだ。

 だから精一杯強がっているんだろうな。

 悪いなあさぎ、最後にもう一回だけつきあってくれ。

 いつも誰かを守ってきたんだから、星だって守れるだろう。

 そんなに大層に考えなくても、目の前の女の子を守ろうと思えばいいさ。

 防人あさぎ、最後に星を防るとか出来すぎてるとは言わないよ。

  

 

 

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