君の家、君の帰りたかった君の居場所。
その26
君の家、君の帰りたかった君の居場所。
「こんにちは千鶴君、前に約束したものね『デートしましょう』と。あなたが約束を破るウザぁイ人じゃなくて良かったわ。もっとも、私のような雅のある女性の誘いを断れる男なんていないものね。今日、私と一緒にいられるという事に喜び、涙して、一生の誇りにするといいわ」
「相変わらずウザぁイな、お前は。まぁ、そういう意味じゃ決してないけどお前とは少し会って話がしたかったからな」
「しかし、雰囲気も何もないファミレスで。宿敵二人が顔を突きつけあうなんて。名作マフィア映画の二人みたいね」
「神の父?」
「熱よ、マンガやアニメばかりじゃなく映画も見なさい。知識の偏る男はウザぁイって思われるわよ」
熱という映画は見た事がないが。
ちなみに今日の日下部は皮ジャンに白い無地のTシャツ、そして黒いジーンズとわりかし普通の格好だった。
じっとりと暑くなるこの季節に皮ジャンという点だけがミスマッチなだけである。
もっともその一点だけで酷い違和感になってるんだが。
「そのロックというか……なんというか……その格好は烏丸の影響か?」
「違うわよ。あんな会話さえまともにできないウザぁイ奴に何の影響を受けるっていうのよ?」
あ、烏丸って前から喋らないなと思ってたけど日下部とも喋らないんだ。
むしろ日下部がウザぁイから喋らないんじゃないのかとさえ思ってしまうが。
「でも、女性のファッションに気を配れるのはウザぁイながらもなかなかの加点ね。あなたにしてはだけど、でも顔で損してるからプラマイはゼロね」
「別に普通のルックスだろ! ……だよな? いや、それはいい。いや、良くはねーけど」
「ウザぁイはねぇ。いちいち騒がないでちょうだい。ちなみにこの格好は『現の証拠』っていうノベルゲームのヒロイン『伊達正宗』のコスプレよ」
「マンガやアニメを否定してるのにゲームはいいんだ!?」
思わず突っ込みを入れてしまう。
それにしてもあさぎに始まって天童さん、ミライそして日下部といい、どうしてこうもボケ倒す女しか俺の周りには集まらないのだろうか。
加えて、ボケが辛辣っていう新しすぎるジャンルだから日下部と話すのが一番疲れる。
「ウザぁイわねぇ。いちいちそういったつまらないあげあしを取らないでほしいわ。器が知れるわよ、もっともあなたに器と呼べるほどの深さと広さがあるとは思えないけれど」
「いちいちお前は人をバカにしないとダメなのか!?」
「バカにしてるわけじゃなくて否定しているのよ、認める部分なんて他人には何一つ無い、なのに他人の存在がいないと自分を感じられない。人間なんてそういうものじゃないの?少なくても私はそう思うわよ」
「どんな育ち方したらそこまで歪むんだよ!」
こいつも厨二病をこじらせた系か。
こういうキャラが最後に改心してデレるのは好物だけど、実際にそういうキャラが目の前にいると疲れるだけだな。
「さぁ、それはわからないわ。何せ私の頭には前の戦いの勝利者の誰のだかわからない思考が入ってるわけだから。思考というより本能かしら?しこりのように自分の頭の中に別の何かがあるってわかるのよ。なら、私はどこまで私なのかしら?『我思う故に我有り』なんて言葉は一人が確定しているからこその言葉でしょう」
と、言われてちょっと納得してしまった。
前の大会の被害者っていう言い方は日下部を庇いすぎだけど、日下部の願いの根幹はそこにあるのだった。
日下部の頭の中がわからないのだから、そう言われたら俺が日下部にかける言葉は無くなってしまう。
日下部は続ける。
「かと思えば『人は誰かになれる』っていう言葉もあるわ。まぁ、この言葉は受け取り方の幅が広いから何とでも取れるから、捉え方次第なんでしょうけど。誰かが私なら、私だって誰かになれる。だからいっつもいろいろな格好をしているのよ、そしてどうせ誰かになれるなら私は星になりたい。これは前の奴と私との同意ね。もっとも私と思ってるだけで私じゃないのかもしれないけどね。……というか、あなたは私が伊達や酔狂でコスプレしてると思ってたの?」
「そういう理念を持ってコスプレしてる奴はそうそういねぇよ」
それとこれとはまた話が違うって言葉は飲み込んだ。
理に叶ってるってわけじゃないが、理由としてはわかってあげられる気がする。
「ウザぁイわねぇ」
「っていうか、何だよ?何の用があって俺を呼びだしたんだよ。まさかとは思うが本当にデートってわけじゃないんだろ」
「ウザぁイわねぇ、本当にそのつもりよ。女に言わせるなんて無粋な男ね」
「マジでかよ!」
「ここに映画のチケットが二枚あります。長編アニメ『帝都飛竜伝』です」
「しかもアニメかよ!」
さっきの映画を見ろっていう話は何だったんだよ。
それと、その映画はちょっと観たかったからラッキーだ。
「まぁ、じゃあ行くか。でも、その前に」
「ウザぁイわねぇ、何かしら?」
「どうして俺なんだ、烏丸でいいだろ?」
「アイツがまともにコミュニケーションとれる男に見える?」
そう言われたらグゥの音もでないが……。
「でも、他にもいるだろ?」
「こんな不思議ちゃんな性格の私に友達がいると思ったの?」
俺の質問に口癖さえも挟まず、淡々と返事をする日下部。
その……なんだ……。
「今日は一日つき合うよ……」
それでも俺は悪かったとは言わなかった。
俺はちょっとだけ強くなれた気がした。
ちなみに映画は面白く、DVDになるのが待ち遠しいな。原作も読みたいものだ。
というよりも、口調と言葉さえ気にしなければ日下部はそれなりに面白い奴だった。
何度か敵である事を忘れてしまったし、日下部もまたそうであるような事を言ったりもしていた。
そんな事を思ってしまった矢先。
「さて、次はホテルかしら?」
「ブーーーッ!」
俺は盛大に吹き出した。
「ウザぁイわねぇ、何かおかしな事を言ったかしら?」
「言ったよ」
ここに来て日下部の性格がまるでわからなくなってきた。
「お前の狙いは何なんだよ!」
「さぁ? 私にもわからないわ」
ハッキリと聞いたら、日下部は今日一番ハッキリと答えた。
「誰かになれるなら、私は星になりたいと思っているのは本当。これまでそれだけを考えてきたのだからね、それを否定できないのは本当。ただ、それでも私じゃない意志に従ってっていうのは頭に来るからね。ここまで来て負けるってのもザマァって思うから悪くないのよ。さすがにパートナーには話せないし。話しても答えは返ってこないしね。それに烏丸の願いも似たようなものがあるからね」
そういえば日下部のキャラクターが強すぎて忘れていたけど、この戦いのパートナーは似たものが選ばれる。
なら、烏丸もまた日下部に近い心を持っているという事なのだろうか。
「星をミライを救おうだなんてね、自分の命をかけた願いをあやふやな地球の未来に使える人達に興味があった。自分達と逆の生き方ができる相手、敵を知りたかったのかしら?それとも単純に女として自分に無い者を持つ男の色香にあてられたのかしらね。あなたは私にとって、いや私たちにとってそもそも癒しなのかしら、病なのかしら?ウザぁイわねぇ、ウザぁイわねぇ、ウザぁイわねぇ、ウザぁイわねぇ、ウザぁイわねぇ」
日下部は言う。
俺達の誰かの為に戦うというモチベーションは、言葉こそ同じではあったけど、日下部のそれは。
日下部達のそれは意味が全く異なっていた。
ここまで来た事によって、俺達は揺らがない物を心の中に持てた。
だが、逆に日下部達はここまで来てしまった事によって心が揺れてしまっていたのだ。
そして、その水鞠のように膨れ上がった矛盾は、そのストレスは行き場を無くし、呪いの言葉のように日下部の口から溢れだし。
笑っているとも泣いているともつかない表情で、目で、口元で、飲み込むように言い切った。
宣言した。
「私って本当にウザぁイわねぇ」
純粋に誰かのために戦えるわけでもなく、純粋に自分のために戦えるわけでもない。
迷いつつも一つの信念めいた物に従って戦ってきた俺達とは逆に、迷わないかわりになにもに従って進んできたのかわからない日下部。
そういった点でも俺達とは真逆であり、だからこそ。
「御託や馴れ合いはここまで、必要な事でもし過ぎるのはよくわないわ。私の矛盾の答えは、最後に勝てばわかるでしょうし」
いつものように人を小馬鹿にしたような含み笑いを見せる日下部。
「わからねぇだろうな、勝つのは俺達だ。そういうのは後で勝手に探してくれ」
「……ウザぁイわねぇ」
そう呟いた後に。
「フォーマルハウト」
さらに一言つけ加えた。
「烏丸の使う最弱だけど最強の能力、天童達が最弱と最強のコンビだとしたら烏丸は一人でそれを完結できる。ここまで来れたのが不思議なほどのウザぁイ能力よ」
「何でそれを今、俺に教える?」
日下部は笑いながら答えた。
「あなたやあなた達が特別ってわけじゃないのよ、勘違いしないでよウザぁイわねぇ」
「つまり?」
「誰に対しても、烏丸が戦う時は彼の代わりにこの事を告げてきたのよ。私は過去の誰かに乗り移られたように、烏丸は昔のように育てられてきたってところかしら? 良く知らないけど先祖が武家らしくてこのご時世に侍のような教育を受けたらしいわよ。武士道とは死ぬ事と見つけたりって奴? 今の時代に死ぬような戦いなんてあるわけないのにね、私と同じで、だから反発してあんな格好をしているってわけ、結局は似たような者なのよ私たち」
あっけらかんに日下部はそう言って。
「だから傷の舐めあいしかできない……ウザぁイわねぇ」
心の内を吐露した。
俺も自分の事を話した、それが日下部に対しての礼儀だと思ったから。
日下部がそれで何を感じたかはわからないが、対極である俺達はお互いを知る事になった。
これだって日下部の言う傷の舐めあいのように思えるが、俺は何も言わなかった。
お互いがいかにしてこうなったか、ここまで来たかを話を終えて。
「それと、最後に」
日下部は付け加えた。
「私の星座も、あなたと同じ蛇使い座よ。ウザぁイわよねぇ」
以外なようで、どこかしっくりとする正体を日下部は告げて、いつもの言葉を持って会話を締めた。
心変わりなどなく、意味など無く、だから今日という日に意味はなく、だから最初から変わらない答えを持って別れた。
意味は無いが、忘れられない時間だった。
--------決勝戦。




