その涙は電流火花。
その9
その涙は電流火花。
劇的な事など無く、これといった珍しい事でも無く。
運命とか奇跡だとか、そういった言葉遊びで片づけるつもりももちろん無くて。
終わりという物は突然に、無味乾燥に訪れた。
それを言い出したらこの戦いの始まりもまさにそうなのだろけど。
唐突な事は、唐突だからこそ、予兆が無かったからこそいざ訪れると受け入れるしか無いのだろうと思う。
今は、そう思える。
思えるが、家族を突然失った事を受け入れられず半年間も自室に閉じこもっていた俺がそんな事を言う資格はないのだろうけれど。
それでも喜ぶべきリスタートだ。
だというのに何故か、俺はこの展開に何か言いようの無い空虚な気持ちになっていた。
ボンヤリとそんな感覚の中、あさぎの家の近くの公園で彼女がやって来るのを待っていた。
ベンチに座り、雲一つない空を見上げながら、涙ながらにかけてきた電話の内容を思い出す。
「どうした!?あさぎ!」
「あのね……君子がね……君子がね……」
「何だ、君子ちゃんがどうした!?」
一瞬、最悪な展開が頭に浮かぶ。
容態が悪化したのだろうか。
頭を切り替える、それならばまずはあさぎの精神状態を整えるべきだ。
精一杯励まして、元気付けるべきだ。
心が折れる事はもう無いにしても、精神的な動揺はやはり無いはずがない。
大丈夫、戦い続ければ彼女は助けられる。
「君子が……助かるって……」
「おーいたいた」
電話の声を聞いた時は不安定な感じだったが、今は一見は普段通りにも見える。
「おっす」
「おっす」
右手を上げて挨拶すると、あさぎも右手を上げた。
普段通り。
普段通り過ぎた。
事情を聞いたし、聞いたからこそ、俺は何のために呼ばれたのかわからなかった。
あさぎは泣いていて、とにかく来てくれと呼ばれたのだ。
「いいのか、こんな所で油を売ってて」
「何の話かね?」
「何の話って……」
あさぎは小首を傾げて俺が何を言ってるのかわからないといった様子を見せる。
しらじらしい。
ここにきて演技過剰な態度に出た。
「お前、俺とあってる場合じゃないだろ。君子ちゃんと一緒に居てやらなくていいのか?」
「あー、んー、ほら、ヤッ君とかいるしね」
「……そっか」
「ちょいちょい!ヤッ君にフられたから一緒に居たくないとかそういうんじゃないのよ!月並みだけど
いい友達でいようって話になったしね、私もそれを望んでいたわけだし!」
手をバタバタとさせてあさぎは言った。
痛々しい事を、笑って言ってのけた。
あさぎの性格は知っている、それは本心から言っているのもわかる。
わかるけど。
第三者の目線から言えば振られるために告白し、そして友達の幸福には気を使って一緒には居られない。
良く言えば自己犠牲、悪く言えば破滅主義者。
報われない幸せを、どうしてこいつは本当に自分の事のように喜ぶ事ができるのだろうか。
逆を言えば。
どうして自分の不幸を悲しむ事をしないのだろうか、さっきの涙だって本当に友達が助かったからだろう。
なのに……俺は何を考えていたんだ。
「ねぇ千鶴」
「どうしたんだ?」
表情こそは普通を装っているが震えるような声で、あさ
ぎは話を切り出した。
「大切な人がいなくなるってどんな気持ち?」
「……え?」
そこであさぎの表情が崩れた、普通過ぎるっていう事はつまりは普通を装う演技なのだ。
震えた声はやがて、泣き声のように曇りはじめ。
やがて話は懺悔に近いものへとその色を変えていく。
「きっと私、どこかで、そう思いたくないけど、どこかで君子が死んじゃっても願いで復活させようって考えが頭にあったんだと思う。最低よね、それは見方を変えたら友達が死んでもいいって考えじゃない」
それは違うぞ、そう言ってあげたかったが。
俺は言葉に詰まった。
俺の戦いの当初の動機は確かに家族を取り戻すだ、それは今もなお変わっていないが。
それはもう失っている物と割り切っているものでもある、東に言われて感じていたがあさぎに同意を求められた今。
ハッキリとそれを意識する。
俺は失敗のリスクとして、現状では失う物が何もない。
だからかもしれない、今を生きる人を救う。
そんなあさぎの姿勢に俺は、だから憧れていたのだと。
だから、俺は言うさ。
いくらでも言うさ。
あの時に。
振られた時に何も言ってやれなかったら。
パートナーとしての役割を果たす、今度こそ果たせるんだ。
「でも、あさぎは泣けたんだろ。どう思って、どう考えてもさ、お前が自分を許せなくてもさ。良かったと思った事は間違いないんだろ。友達が助かって、涙を流すほど喜ぶお前が、死んでいいって思ってた何て考えるなよ」
「千鶴?」
「俺は泣くだけ泣いて、そこから何もしなかったんだ。涙を堪えて、あさぎは自分を押し殺して、可能性にかけて戦ったんだ、達成するまでの仮定であらゆる事を考えるのは当然だろう。確かに俺達は善人じゃないけど、圧倒的に正しい。だから、あさぎ。お前の考えや感情は間違っていても正しい。お前が自分を許さないなら俺がお前を許してやるよ」
「……何の……権限があって……そんな事を言えるのよ」
「俺はお前のパートナーだからな」
「そ……そうか、ははっ。パートナーじゃしゃーないわね」
「しゃーないな、全くよ。友達が助かったんだろ。それなら泣いてんじゃなくてさ、いつものようにアホの子みおたいに笑えばいいじゃねぇか」
「アホの子はよけいだよ!」
「笑う前に怒りやがった。まぁ、泣くよりはましだな。あさぎにはそっちの方があってるよ」
「怒ってるのが似合ってるって、千鶴は私にどんなイメージを持ってるのよ!」
「ロクなイメージは持ってない、ついでに言うとゴもない。四捨五入するとゼロになる」
「それってそういう基準の言葉だっけ!?……ぷっくく」
言って、あさぎは笑いだす。
「あははは、これじゃいつもと逆ね。私が千鶴にツッコミを入れるとか何か不思議だわ」
「俺は本当はボケ至上主義なんだけどな、あさぎとか天童さんとかミライとか、あの犬とか、周りが濃いんだよ」
「あー……」
いや、自分もその羅列の中に自分も含まれているんだからそこで納得されても困るんだけどな。
でもこれでやっといつものあさぎが戻ってきた。
「にしても千鶴は優しいよね、励ましたりおどけたりさ」
「気のせいだろ」
「そんな事を言われても、惚れてはあげないよ?」
「こっちから願い下げだよ」
「なら、純粋にありがとう」
「どういたしまして」
俺があさぎのありがとうを受け取ると、あさぎはやっと笑って。
笑いながら、涙を流した。
「って……おかしいな、また涙が。全く情けない限りね、でも大丈夫だよ、ちゃんと戦うから」
「戦うって……」
そこで俺は気がついた。
目的が助かり、だから動機が喪失したのだ。
「もうあさぎに戦う理由は無いだろ。君子ちゃんはもう大丈夫なんだろ」
「そりゃそうだけど、リタイアはできない戦いだし。勝たないと千鶴の家族を蘇らせられないじゃない」
「それはそうだけどさ。そういえば……あさぎはこれから何の願いを叶えるために戦うんだ?」
「そうねぇ……何にしようかな?」
すっかり止まった涙の後を拭いながら頭を捻るあさぎ。
そこで、ふと気がついたといより思い出したといった表情を見せる。
「なんだっけ一回戦でバサ子さんと戦った相手の願い。うまく立ち回れば戦いを止められるって。あれって千鶴はどう思ってるの?」
あさぎが思い立った疑問は、俺も良くわかっていない。
そもそも、その願いの真意や日下部の企みが何なのかあまりにも情報が少ないからミライとの話で日下部達と会合をしなければという話になっていたのだから。
その辺りを含めて、俺はこれまでのミライとの経緯をあさぎに話をした。
「ふーん、なるほどね。……千鶴の立場っていうかやられた事を考えたら何とも言えないんだけどさ。私は東さんって良い人だと思うのよ。初めて会った時は本当に優しかったし」
良い人かはともかく、優しいというのは俺も同意する。
結果的に見てもそうであるし、今後起きうる事もきっと東の行動や言動に関わってくる事なんだろう。
前提をまず疑え。
東の言葉だ。
東の言葉……。
悔しいが、東の言葉は必ずヒントになっている。
それに東は大会の参加者全員に会ったとミライが言っていた。
もう残りの人数も限られている、東は最期にだいたいわかってるがネタバレになるから言わないと言っていた。
そうなると全てを繋げるのに、俺がまだちゃんと話をしていなのは日下部か。
「何か思いついた?」
「思いついたっていうか、やっぱりそうするしかないかってとこだな」
「日下部ね、私もアイツとはもうちょっと話をしたかったのだから」
そういえば、こいつ昨日の時点で翼子さんと一緒に日下部とにらみ合いしてるんだよな。
何だか俺の周りは綱渡りみたいな人間関係が構築されていってるけど、これって戦いが終わる前に俺の胃に穴があくんじゃないか。
いつの間にか空は曇天で雨が今にも降りそうになっている。
公園には俺達しかおらず、周りの雑音も無いといっても差し支えないほど静かだ。
今までは酷いくらいに思い通りにはいかなかったが、今度ばかり三文小説のご都合主義のような演出になっている。
唐突なようでいて、それなのに。
それが自然であるように。
「東が言ってたのは本当ね、見た目とは裏腹に頭が回るのね、最もそれくらい頭が回ってくれないと私にはまるで釣り合いがとれないわね。とれたところで格が同じと思われるの片腹痛いのだけど。本当、ウザぁイわねぇ」
日下部阿左美とそのパートナーが現れた。




