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星のアスクレピオス  作者: 面沢銀
前半パート  星へと至る予選編
3/66

返してください、それは大切な物なんです。

ルールの表記がありますけど「長いわ!」って人は読み飛ばしても問題無く書いているので大丈夫ですよ。

その1


 返してください、それは大切な物なんです。




「えっと、これって何だ?」


 落ち着いて、っていっても頭では落ち着いていても感情はまるで落ち着いてはいない。

 何しろ意味がわからないのだ。


「もったいぶって説明するなら、そのアドレス帳てどこかおかしくない?」


「もったいぶらずに教えてくれよ!」


 面倒臭い女だと思いつつもおかしな点はすぐに目につく、考えるまでもない。

 まず、どれも知らない名前で、それに名前が文字化けしている物もある。現状を含めておかしい事だらけだ。


「順番がおかしくない?」


 順番と言われて改めて見直してみると、確かに防人の名前が一番上でそれ以降はあいうえお順になっている。

 ……そんなつまらない事かよ。

 防人が特別っていう事なのだろうか、しかし特別の意味もわかりかねる。


 ってか面倒くせえ。

 早く教えて欲しい。

 欲を言うなら帰って欲しい。


「私のも見て」


 自信満々にあさぎは自分のスマートフォンを俺に見せた。

 動機種で同じ色。

 つまるところお揃い。

 マジで怖い、コイツは本当にストーカーじゃないだろうか、ここまでガンガンに来られるとへたな事をしたら刺されるんじゃないかっていう心配もしてしまう。


 そういうわけじゃないけど、黄門様の印籠のようにグイと突き出されてしまっては見ないわけにもいかない。

 すると、そこには。




 瀬賀千鶴


 東一樹

 *****

 木田成実

 ヨアンナ・有村

 牧田加賀美

 矢沢周助

 *****

 和島津隆 



 

 と、名前があった。

 意味不明だ。

 主語が存在しない説明をされ、さらにそこから説明を省いて結果だけ見せられた気持ちだった。

 だが、その名前の一つに見覚えがある。


 木田成実。


 確か大学でどれかの講義で一緒だった女の名前だったはず。

 いまいち顔とか思い出せないが、確かに字も一緒だしこの女の歳とかとも合うし同姓同名って事はないだろう。


 つまりあれか、この女は実は同じ大学で、どこかしらで俺を目にしてストーカー行為を絶賛働いているとかそういうわけか。

 なんというか、もう死にたい。

 いつからバッドエンドルートに俺は足を踏み入れたんだろう。

 終わるなら、進めてもゲームオーバーしか待っていないならとっとと結果だけ見せてほしい。


 未読スキップするのもしんどい。

 いっそこの女が俺を苦しまないように殺してくれたらそれでいいような気がしてきた。


 もともと今となっては惰性で生きているようなもんだ、これから楽しい事があるとかカウンセラー的なものは言うかもしれないけど、それもどうでもいい。


 面倒くさい。


 そこまで気持ちが沈んだ時点で、この防人あさぎという謎の女に対しても酷くどうでもよくなった。

 そもそも今までつきあってやっただけで快挙なのだ、それ以上はもとめないで欲しい。

 期待しないで欲しい。


「私のモバ……」


 何か言ってるけど、もう耳には届かなかった。

 いつもと同じ、ただ空虚に布団にくるまって緩やかな自殺めいた生活に戻りたかった。


「聞いてるの!!」


 が、とんでもないヒステリーと机を叩く音で俺は現実に強制的に戻された。

 ヒステリーとはいえ声は金切り声じゃなくて叱り声「はやくお風呂に入っちゃいなさい」といった感じの。

 それにしても酷い台パンだ、ここがゲーセンだったら間違いなく退店を余儀なくされる。


「ボーっとしちゃって! 何も知らないから一生懸命説明してあげているのに!」


「あーもー! うっせーなー! 俺は知った事じゃねーから、とっとと帰れよ!」


「あんただけの事だったらとっくに帰ってるわよ!ってか来てないわよ!ってかパートナーでなければとっくにぶっ殺してるわよ!」


 この女とうとう本性を表しやがった!

 殺す!?

 殺すときたか!

 いいぜ、ここまで来たら俺だって黙ってられない、別に死んだって構わないけど、こいつに殺されるのだけはごめんだ。

 世の中には脅迫罪ってのがあるんだ、それに今なら不法侵入もプラスできる状況だ。

 こういう女は一回くらいは世間の厳しさを教えてやらなきゃ俺の気がすまねぇ!

 頭に血を昇らせて、いいテンションになったところで女が泣き出した。

 情緒不安定のメンヘラ女め、男が全員女の涙に弱いと思ったら大間違いだ。


「今の今まで待たされて……どうして……こんな奴がパートナーなのよ……これじゃあの子を助けられないじゃない……」


 と、不思議な事を言って肩を震わせる女。

 だけど可哀想だとは思わない。

 別な意味で可哀想な女だとは思うが。

 その時、スマートフォンがブルブルと震えだす。


「何よもう…こんな時に! いや、むしろ手っとり早いわ!」


 女はスマートフォンを操作しながら、俺にも指示を送る。


「今は従って! メニュー画面からインフォメーション! で、エンカウント!」


 その剣幕に押される形で俺もその操作をする最初の画面には確かにインフォメーションのアイコンが有り、そこにはエンカウントという文字がある。

 勢いに飲まれるよう言われるままにその操作をすると、軽い目眩に襲われる。


「出るわよ!」


 不意に女が手を引いて俺を部屋の外へ連れ出す。

 そこは不思議な光景だった。

 空はいつものようにどこまでも青く広がっていたが、広がっているだけで底があった。

 見上げた空にはまるでジオラマ模型を見下ろしたような町並みが広がっていて。

 見下ろしたという表現なのにおかしいが、俺はそれを見上げていた。

 ちっとも正しくはないけれど正確には天井に張り付けられたジオラマを下から見上げているという事になるのか。

 自分でもよくわからない表現だが、俺自身がわかっちゃいないんだから仕方ないだろう。


「まずは慣れて! でないと始まらない! ってか死ぬわよ!」


 言って女はアパートの柵に足をかけ、そして俺の手を引いて空へ足を踏み出した。

 踏みだしたただけだ。

 なのに、俺達は落下ではなく飛行と言える距離を飛んでいる。

 

「な、な、な、何これ!」


 ちゃんと反応できた俺に驚く。

 常識を外れた高さから飛び出し、規格外の跳躍を見せた。

 それは万有引力に引かれ、階下の民家の屋根に着地して、俺は手を引かれたまま地面に足を着く事なく再び跳躍に同行する。


 そもそも俺はそれなりに体重もあるというのに、女は片手で俺をまるで鞄でも持つように持っていた。

 腕が捥げるんじゃないかという痛みはあったが、それよりも坂道を自転車で全速力で走るような頬を凪ぐ風に心奪われていた。

 そして一件飛ばしで再び屋根に着地すると、俺の手を女は放した。 


「用は慣れよ、自分の身体じゃないというかさ。月を歩くように、重力が小さいんだとイメージして」


「何を言ってるの!?」


「いいからここが月だと思いなさい!」


 頭の中がパニックのまま、月面探索をする宇宙飛行士をイメージする。

 すると、踏んでいるという感覚は少し薄いけど自分の身体が軽いんだというイメージが沸き上がってきた。

 そして再び跳躍する彼女の後を追うように俺もジャンプ。

 できるわけなかった。


「あれっ!?」


「あれっじゃないよ!」


「そっかまだできないか!」


 まるで手品をやるといって失敗された感じの、言いようの無い切なさに襲われる。

 タネもしかけも存在するけど、何も出しません何も出せませんといった。

 意味ねぇと思うが、事実として彼女は再び飛んでいた。


「パラメータ次第だから、まぁちょっと待っててよ」


 言って、女は不敵に微笑む。


「今日は二人もいないし、初心者もいるから全力でやっちゃうわよ!」


 そして何かを見つけのか。


「いたぁ!」


 喜び勇んでスーマトフォンを操作して。


「リゲルキーーーーーック!!」


 空中を蹴る。

 空中を足場にする。

 空中をスターターにする。


 どう呼んでも差し支えない感じで、女はカタパルトで勢いをつけるように飛び出した。

 その様子は一陣の光の矢……なんて上品な物ではなく隕石か何かに例えた方がしっくりくる程の雄々しさと力強さ。


 俺は瞬きする暇もない程の一瞬で、たった一人の女性の手によって。

 もとい女性の足によって、一撃の下に見慣れたコンビニの天井が破壊された。

 にわかには信じられない光景だが、事実して見事なまでに天井が砕け、床を凹まし、陳列棚を吹き飛ばしてしまっているのだ。


 濛々と立ちこめる煙の中で、うっすらと見える女の顔は確かに「にっ」と素敵な笑顔で笑っていた。

 と、同時にまた目眩。

 次の瞬間にまるで今の出来事が夢だったかのように俺たちは俺の自室に戻っていた。


「へへっ、楽勝! 運もよかったからラック勝っていえるかな!」


「今の何だよ……」


「やっとちゃんと聞く気になった?これが星戦よ、読みはジハード。まったく酷い厨二病設定よね」


「いや、ぜんぜんわからない……」


 俺の様子を見て今までの様子を改めるように、やっと見た目らしくしおらしい態度で話始めた。


「やっとみつけたパートナーだから私も浮き足だってたわ。ごめんね。」


「あ、いや……」


「えっと、たぶんメールがそのうち来ると思うんだ。私の時もタイムラグがあったしね。ちょっと私の見てもらっていい?」


 言って女は自分に宛てられたメールを俺に見せる。






 初めに。

 世界はあなたの世界ともう一つの世界があります。

 酷似していますが、その世界にもう一人の別のあなたが存在するわけではありません。

 そういう意味でパラレルワールドというわけではありません。

 序列があるわけでは無いので1世界とA世界と定義します。

 あなたは1世界、及びA世界に存在するパートナーと一組になって88組176人からなる同じ境遇の方と32組64人に減るまで戦ってもらいます。

 これを予選といたします。32組になった時点で本戦となる5回戦のトーナメントを行います。

 いずれも敗北は死にも繋がるので注意してください。





 ルール1

 戦いは基本的に1世界とA世界の境界線上(以下ホライゾン)で行われます。

 その空間では参加者しか人は存在しないので思う存分実力を発揮してください。

 またホライゾンの中で受けたダメージは死亡していなければ世界に戻った時点で入る前の状態にリセットされます。

 予選空間では円滑に戦闘行為が行われるようノンプレイヤーの敵(以下NPE)を配置しております。

 後述になりますが、それらを倒してもボーナス値(以下EXP)は得られますので競って倒してください。

 NPEの強さは大きく差があり強いNPEを倒した方がより多いEXPを得る事ができます。

 またNPEにやられてしまってもリタイアとなってしまいますのでNPEとの戦闘でも気を抜かぬようにしてください。

 ホライゾンには一日の間に最低十分は滞在して頂きます。

 丸一日滞在が無かった場合は呼び出しを行いますが、その呼び出しに応じない場合はステータスペナルティが発生し、3回連続で呼び出しに応じなかった場合はホライゾンに一日強制的に転送されます。





 ルール2

 プレイヤーはいずれかの星座の守護が与えられており、その星座にちなんだ能力とステータスを付与されています。

 お手持ちの端末に貯めたEXPに応じて情報を開示していきますので随時確認してください。

 EXPに応じてそれぞれのステータスの強化が行えますが、一定の数値にまで達してしまうと制限がかかってしまいます。

 この制限を解除するには参加者を倒す事により解除されます。

 ホライゾンの中では一定の間隔でNPEが発生しますが円滑なプレイヤーの成長を促すために優先的にプレイヤーにNPEと戦闘が行えるようにエンカウントコールを定期的に行います。

 応じた場合は他のプレイヤーに遭遇する事なくNPEと戦う事ができます。

 その場合はエンカウント状態となり、NPEを倒すか十分経過しないとホライゾンから戻る事はできません。

 またホライゾンでプレイヤー通しがお互いを認識すると強制エンカウント状態に入り、プレイヤーを倒すか同じように十分経過しないと同じように戻る事はできません。

 本戦に至るまでにEXPを貯め、より多くの参加者を倒し自己強化する事が勝利への近道です。





 ルール3

 予選において参加者の死亡、または端末が破壊された時点でその参加者はリタイアとなります。

 パートナーのみがリタイアした場合はこちら側で再度お互いの世界の同境遇者を選出しますが、パートナーがやられた時点で一定のEXPペナルティーが発生します。

 またパートナーが見つからずに予選規定数に達した場合はその時点で一人の方はリタイアとなり。

 本戦においてはパートナーが敗退した時点で敗北となります。

 なお、パートナーと合流するまで、あるいは合流し一日が経過するまでの間にパートナーがリタイアした場合のみペナルティーの発生は無いものとします。




 ルール4

 優勝者は特典としてゲームそのものの廃止とそれに深く関わる事柄以外のどんな願いでも叶える事ができます。

 一つの制限として死者の復活においてのみは参加者の復活は認められておりません。

 叶えるのは、自分の願いではなくパートナーの願いを叶える権利となりますので良いパートナーとの関係を維持してください。

 またパートナーと共通の願いであればそれぞれに加えて一つ叶える事ができます。

 また参加者の皆様はいずれかの形で戦闘準備金として多額の富が与えられているかと思いますのでそれらをご活用ください。

 これらのゲームを総じて星戦ジハードと呼びます。

 それでは皆様のご健闘をお祈りします。




「ってわけなのよ」


 長い、長すぎる。そのうえ無駄に専門用語を使うからわかり難い。

 まるで保険か何かの契約書だ、説明としては不親切すぎる。

 こんな無駄に覚える事や単語が多いとか、ゲームだったらクソゲーの要素の一つだ。



 そのうえ複雑な説明のわりに要点だけを抑えるなら、よくあるバトルロイヤル物の展開にトーナメント要素を付け足しただけの設定だ。

 確かに厨二病だ、しかもいろいろカッコよさそうな横文字を使ってるわりにスマートフォンの事だけは端末としか呼び名がないのも酷く中途半端。

 何がタチ悪いって、こういうのは書いてる側はノリノリだろうという事。きっと痛々しい奴が設定したのだろう。


 ただ少しだけ引っかかる。

 いや、大きく引っかかる。


「いろいろと聞きたいんだけどさ……アンタ、このお金が与えられてるってどういう事になった?」


「私の? 私の場合は宝クジが当たったのよ。知っている人は何か特許がとれて大金が入ったとかそういうのだったけど……」


 思い出す。

 いや、思いつく。

 思い至る。


「まさか……そういうわけかよ……」


 そう、俺は確かに大金を手にしていた。

 いつの頃からかけてたのか、妹にまでかかっていた。

 それなのに結婚した姉にはかかっていなかった。

 多額の。


 不自然なまでに多額の保険金。


「ははっ……はははは!」


「な、何よ……壊れちゃったの?」


 壊れた?

 いつ壊れた?

 今?

 いいや、とっくの昔に壊れていたよ。

 どんな願いも叶えてくれるなら、叶えてもらおうじゃないか!

 俺にはその権利がある。


「ふざけやがって! 返せよ! 俺の家族を!」

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