めくるめくめぐりめぐる。
その21
めくるめくめぐりめぐる。
「よく来たなお前さん方、いい度胸だ。嫌いじゃないぜ」
地蔵院さんはかろうじて笑っているのだろうと察する事のできる、ともすれば見逃してしまうほどの微妙な表情の変化で俺達を迎えてくれた。
この笑顔らしき物が見れなかったら俺は恥も外聞もなくとにかく土下座して財布も差し出して、何だったら身ぐるみも全部差し出した上で、媚びた笑顔で裸踊りだって披露する勢いでビビっていた。
変わったあさぎを見て、かっこつけた覚悟が何だったのかと自分でも考えてしまう。
協力関係とまではいえないが敵対関係では決してない微妙な付き合いを続けるヨアンナさんと相談した結果。
東は何を考えているのかわからないし。
ミライとはどうやって話をしたらいいかわからない、という事もあり。
消去方ではあるのだが、それでも良くも悪くも単純な天童さんから知っている事を聞き出そうという事になった。
表向きにはというか、別に表も裏もないのだけど俺達にはもう一つ理由があった。
否定しようもない突きつけられた事実として、今の俺達では東にも勝てないのだ。
強くなる必要が不可欠なのだ。
あさぎと相談した結果、そういった事情もあるしてっとり早く天童翼子へ弟子入りしようという話になった。
あの人は単純に強い、純粋に強い。
主観的に見ても客観的見ても、数字の上で見ても文句の付けようも無く、異論を挟む隙さえもなく。
他人の評価だけでなく、自己評価をさせてみてもコンマ一秒のタイムラグも無く最強であると答えるだろう。
そんな存在に安易に一手ご教授を願いたく連絡をしたところ、地蔵院さんのところで待てと言われたので地蔵院さんの家にお邪魔したのであるが。
確かにただ者ではないというか、カタギではない風格も雰囲気も持ってはいた、言うが早いヤクザである。
それも現代ヤクザのような雑居ビルに事務所とかそういう物ではなく、古風な平屋豪邸。
庭もどこの京都旅館なのかと突っ込みを入れたくなるほど広くて石が敷き詰められており、ししおどしも言うまでもなく完備している。
時代劇でしか見た事ないような、一見して何畳間なのかさえわからない和室、というか和ホールに案内されて、俺達は地蔵院さんと対峙していた。
「親父、少し話が」
「おう、何でぇ」
黒スーツの屈強な男が地蔵院さんに耳打ちする。
地蔵院さんも表情が変わらないからいったいどんな内緒話をしているのかわからないが、シリアスな話のようだった。
「わかった、消せ」
地蔵院さんは簡潔に答えた。
おやおや、消せってどういう意味なのかな?
内緒話なんて知らない方がいい、気にもしてはいけない。
「うちの娘に稽古つけて欲しいとか、絡め手だよな。アイツの事だから喜んでやるだろうよ。察するところ、お前さん方は誰かに負けちまったんだな」
俺もあさぎも答えない。
「おうおう、アイツはそんな話をしたら事情も聞かねぇでお前さん方にかまっちまうだろうからな。俺が聞いてるんだ、それが筋だろう。アイツと俺は運命共同体なんだ、てめぇの命を後でとろうとするような奴に手心を加えるってんだから何の事情も知らねぇままとはいかねぇだろう。今のお前さん方のだんまり。それは何かをお願いする人の態度なのかね?」
カンと、地蔵院さんはキセルを灰を落とした。
「負けました……協力すると言っていた人に裏切られ……いえ、利用された上で負けました」
あさぎは苦虫を噛むような表情で、声を押し殺して答えた。
確かに裏切られたわけではない、裏切るも何も最初から利用する気だったのだ。
利用された上で、なおこっちを変な方向性で信用しているのだろうけど。
「ズレてるな、別に悪い事じゃねぇがな。若いねぇ、いい経験させてもらったな。そいつに感謝するんだな、お前さんはおかげで強くなれるぜ」
ニヤリと口を歪ませて地蔵院さんは今度こそ確かに笑った。
果たしてその言葉の意味がどこまで深いのかを察する事ができない。
そういうところは地蔵院さんも東に似たようなところがある。
「最終的にはどうしたって敵になるんだ、裏切られたっていう表現がまず違うんだよ。むしろ情が移らなくて良かったってもんだ、それで協力っていうからには無条件で仲良しこよしって事でもねぇんだろ。知ってる事を教えな」
「それであなたが協力してくれる保証はないでしょう?」
心の中ではビビりまくっていたけど、完全に引いてしまうわけにはいかないから精一杯虚勢を張ってみせる。
「おうおう、いいね。その意気だよ。うちの下っ端よりよっぽどいい気迫だ。おかげでお前さんも少しは強くなったじゃねぇか。保証なんて無ぇよ、それでもリスクをかけるかどうかだ。世の中ってのはそういうもんだよ。それともお前さん、俺達に泣きつけばよしよしと頭を撫でてもらえると思って来たのかい?」
確かにその通りだ。
俺の今の言葉なんて噛みついたうちにも入らない、それでも言わないといけない気がしたんだ。
虎穴に入らなければなんとやら、持っている話をしたところで何がどうなるわけでもないのだ。
出し惜しみはしないでおこう。
そう思い至って、これまでの経緯とわかった世界の在り方の話を地蔵院さんにゆっくりと話した。
どこまで理解しているのかはわからなかったが、それでも口を挟むような事はしないで地蔵院さんは黙って聞いてくれた。
「なるほどな、俺だって見た物しか信じねぇクチだが。確かにあの跳ねっ返りと同じような事を言ってるな。アレとお前さん達が口裏合わせて俺を担ぐ意味もねぇだろうし、事実なんだろうよ。面白ぇ話だな、それでお前さん方はそのいけすかねぇ連中に一泡吹かせてやりてぇのかい?」
「その気持ちは無いわけじゃないですけど、だからといってどうしようも無いですし。戦い続けるしかないです」
「その東とかいう奴が本当の事を言ってて、ミライってお嬢ちゃんが本当に願い叶えるというっていう確証も無ぇのにかい?」
「はい」
あさぎが迷い無く答えた。
「話は分かった。ブレねぇってんならそれでいい。まったく若いのに大したタマだぜ」
「話は全部聞かせてもらったぜ!」
地蔵院の言葉と同時に奥の障子が開いて天童さんが登場した。
ずっと奥で聞き耳を立てていたのだろうか、余裕をもって決めポーズまでしている。
格好いいと思っているんだろうか、思ってるんだろうなぁこの人は。
「最初から聞いてたくせに!」
「いいねいいね! 千鶴のその突っ込み、私を相手に何の躊躇もしてないのがいい!」
含みのある言い回しだった。
覚悟はしていたけど、この人を相手にするという事はそれこそ選択肢を一度でもミスしたらデッドエンドになってしまう相手なのだ。
だというのに緊張感がサッパリ沸いてこない。
「バサ子さん!」
「おーネギ! ……だよな? 久しぶりってほどでもないのに随分と見違えたね、元気にもしてなかったんでしょ? いいよ、バサ子さんが稽古をつけてあげる。笑ったり泣いたりできなくしてやる!」
「望むところだ!」
元気にしてないと稽古をつけるという発想が俺にはサッパリ理解できない。
「千鶴、あんたもだよ。世界最強の英才教育をタダでできるんだから幸せ者だよね!」
そうして俺達はなし崩しに、計画通りに天童翼子に弟子入りしたのだった。
当面としては修行は明日からという事で、そのまま豪勢なご馳走をいただく事になった。
鯛の活け作りなんて物を食べられる日が来ようとは事になるとは俺は思ってもいなかった。
「ここまでもてなされるとは思ってなかったけど、次に来る時はメロンとか持ってきた方がいいかな!?」
あさぎもテンパっていた。
小金持ちになったというか、させられたといか、そうなったとはいえ、やはりこう染み着いた物は抜けないものだ。
「それで、なんだミライって呼び名を変えたんだっけか?」
地蔵院さんがおちょこで酒をクイっと飲みながら話を切り出した。
それにしても、今の動きが様になる人だ。
「そうなんだよオジキ、私はミクがよかったのにさ。千鶴もあさぎもあたしに投票しねぇでやんの」
「名前なんてどっちでもいいじゃねぇか」
心底興味なさそうに地蔵院さんは天童さんの苦言を突っぱねた。
俺だって正直どっちでもいいけど、どっちがいいと聞かれたからそっちを選らんだだけだ。
「実際に神さまなんだろうが、その神様気取りのガキんちょに俺達はいいようにされてるってのはオメェから聞いてたし、今更驚きもしねぇんだが。何だ二人の話を聞くとオメェはそのガキの片棒を担いでんだと?それはどうして俺に言わなかったんだ?」
地蔵院さんもこればかりは気になったようで、いつものどうでもいいような口調ではなく、天童さんを問いつめるように聞いた。
だが、当の天童さんはというと。
「片棒?え、何の事?」
とぼけるというわけではなく、本当に意味がわからないといった様子で小首を傾げる。
それどころか、心底困ったように俺達に助けを求めてきた。
「え、千鶴もあさぎもオジキに何を言ったんだよ?意味がわからないんだけど?」
狼狽する天童さんを見てというか、見かねて地蔵院はんは大きなため息をつく。
「おめぇは頭がいい割に、本当に阿呆だな」
地蔵院さんは呆れながら、クイッともう一杯酒をあおった。
まるで天童さんの代わりにヤケ酒を飲んでいるようにも見える。
「俺達も俺達から見てってだけなんで、天童さんがミライと初めて会った時はどうだったんです?」
俺の質問に、天童さんは思った通り包み隠さないようすで話を始めた。
「私が死のうとしたらさ、あの船の上にいてさ。そんで会った」
包み隠さないのはいいけど、サッパリ意味がわからない。
思わずズッコケそうになったけど、俺よりも驚いた様子のあさぎが声をあげた。
「死のうとしたって、自殺を天童さんが考えたって事ですか?」
「そうだよ」
あっけらかんに、どうでも良いような事を話すように天童さんは理由を話した。
「いろんな人に話して、いろんな人に贅沢だなんて言われて、理解もされない話どころか恨みまで買う話なんだけど、自分で言うのもアレだけど、私って何をやっても天才で完璧で無敵なわけだ」
「本当に自分で言う事じゃねぇやな」
そう言いつつも地蔵院さんは嬉しそうに笑いながら茶々を入れた。
「何をするにしても最初から完璧でさ、よく言われたよ百年に一人の逸材とか何とか。私は何をしても達成感ってものが無かったし、誰に勝っても満足できなかった。その癖、私に負けた相手はそれこそ血の滲む努力をしてるわけだ、それを気まぐれで同じことをちょっとやってみただけの私が才能で凌駕しちゃうのよ。そりゃ恨まれたわよ、逆恨みでも恨みは恨み。良い気持ちじゃないしさ、言うなら私にとって生きているのは何をしても作業なのよ。結果はわかりきってるから面白味もない、しかも周りにはやっかまれるし恨まれるのよ。価値も勝ちも行きすぎると苦痛、私はもっと地味な方が良かった、きっと刺身にタンポポを乗せる方がよっぽど楽しいんじゃないかな」
確かに理解できない悩みだった。
理解のしようが無い悩みだった、この庭園や屋敷や目の前に広げられた料理のように。
持たない物にはわからない悩みっだった。
天から授かった才が天童さんを苦しめていた。
天から授かった災が天童さんを苦しめていた。
天才、翼子。
天災、翼子。
それは災害だからこそ、自分も相手も苦しめる。
「まぁ、それでもそんなもんかと思って生きてたんだけどさ。ある日起きたら枕元に端末があってさ、半信半疑だったけど戦う世界に行ってNPEを一匹倒した時点でそうかと悟った。私は特別なんだとは思ってたけどさ。さすがにファンタジーのレベルだとは思ってなかった。そしたらもうどうでも良くなったのよ、私の特別性はどっからどこまでなのかもわからない、何をやっても私は特別だから楽しめないんだなって思ってたけど、これじゃもうどこまで行っても楽しめない。そんな絶望、わからんしょ?」
確かにわからない苦労だった。
わかりえない苦労だった。
「んでー、まったりと死ぬかーって思ったら船の上で、ミライがいたわけだ」
なるほど。
わからん!
「いや、天童さん……。苦労されたってのはわかったんですが、まるで話が見えてきません」
「さっきから船って言ってますけど、あの木製のアレは船なんですか?」
「そうだよ、そうミライが言ってたし」
俺とあさぎの言及も素直に天童さんは返す。
そのやりとりを見て地蔵院さんはげらげらと笑いだした。
「なぁ、翼子よぉ。オメェは何一つとして特別じゃねぇんだよ。何でもできる? 笑わせるな、説明一つちょうろくにできやしねぇじゃねぇか。オメェなんて俺から言わせればただの器用なガキってだけだよ」
「んだよ……オジキまで……」
天童さんがスネるというレアリティの高い表情を見せてくれた。
「埒があかねぇから俺が代わりに言うとだな、死のうとしたら、そのお嬢ちゃんに会って。で、今度こそ自分が特別だと聞かされたわけだ。何でも前の時の願いって奴でお嬢ちゃんの親父さんがこの戦いに介入してるんだと。コイツの特別性はその一環ってわけだ」
「人という存在の最新らしいよ、背中に鬼の顔とかでるかな?」
「出るわきゃねぇだろそんなもん、最新だとか何だとか電気屋のうたい文句じゃねぇか。オメェはそっからして担がれてんだよ」
地蔵院さんはそう突っぱねるけど、天童さんの特異性はそれくらいの事を言わないと確かに説明がつかないような気がする。
だけど地蔵院さんの言葉を否定する気もない、特別だと思っている人にその理由をそれらしく言われたらそう信じてしまうだろう。
天童さんのように根が単純ならなおの事だ。
天童さんの事はさておいて、気になる話が出てきた。
「ミライの親父さんっていう事はミライにこの戦いのルールを強いた存在がこの戦いに参加してるって事ですか?」
「聞いた話じゃな。もちろん眉唾もんかもしれねぇが、ミライってお嬢ちゃんがそう言ったんだと。話を聞くぶんに、そのお嬢ちゃんが自分が追い込まれてるような嘘をつく必要はねぇわな。背伸びしてぇガキはそんな事は言わねぇ」
確かに、ミライがそんな事を言う必要は無い。
それは俺達のミスリードを何も誘えないし、何の意味もない。
「東さんもそう言ってたし、そうなんじゃないの?」
思いがけず、あさぎが賛同してきた。
どういう事だろうと俺も地蔵院さんも首をかしげる。
「いや、千鶴が消えた後に何か話が進んでてさ」
そういえば東は種明かしはまだあると言っていた。
話をまとめていくと、俺達はこれしか知らないからそう思っていたけど、本来はこういうルールというかこういう形で行われる戦いではないのではないか?
やはり最初に東はちゃんと言っていた、当然と思う事を疑えと。
腹立たしいし、忌々しい。
あの東の野郎、わけのわからねぇ言い回しでこっちの思考を操作してやがる。
わかってしまえば最初からちゃんと説明してるじゃねぇか。
「前回の優勝者の願いが、一人は『この戦いの再参加』一人は『主催者を次回の大会で大会中に感知できる事』それで共通の願いっていうのが『ミライよりさらに上位の存在の介入』って事らしいのよ」
ミライをそんなに多くの追加ルールで縛っていたのか。
それじゃ確かに子供っぽいミライにはかなりのストレスだ、戦いを止めさせるでもなく大きなルール変更でもなく客席からの介入を許容させるという、条件の穴を突いた合法的な改竄。
それは確かに規約には抵触しない。
つまりこの戦いは前回からの延長だ。
いつ始まったって?
とっくの昔に始まっていた。
「そーそー、だから私はてっきり東が前回の戦いの優勝者再参加だと思っていたらそれは違うらしいのよ」
それは俺も驚きだった。
思わず声をあげてしまう、ここまで戦いの流れを把握しているのならそうとしか思えなかったんだけど。
「つまるところ、この戦いには『二度目の参加者』と、もしかしたら『お父様』とやらが参加しているわけ?」
「そういう事だろうな」
うーむ、問題が解けたと思ったら別の問題が浮上してきた。
もっとも、これは俺達にとって不利に働く問題ってわけではないだろう。
前回からミライと戦うべく。
いや、ミライ戦いたという理由なのかは解らないが、ミライに至るべく画策されていたのだ。
目的が同じというわけではないが、とりあえず方向性は同じだ。
「ああ、そっか!」
天童さんはポンと手を叩いた。
「いろいろとミライをどうにかしようとやっきになってる人がいて、そんな中でミライに言いくるめられて戦ってた私はだからミライの片棒を担いでるんじゃって思ったわけだ。まぁ、騙されてたわけじゃないけど。バッチリ私ってば利用されてたわけね」
「「「そうだよ」」」
思わず三人の声がハモってしまった。
「オメェはいったい何て言いくるめられてそのお嬢ちゃんの言いなりになってたんだ?」
「言いなりっていうか『こういう戦いで徒党を組む連中がいると戦いが長引くでしょう』って言われて、あとは私ならそういう連中も楽勝でしょうとか何とか。私も『応ともさ』って感じで……」
地蔵院さんは頭を抱えつつも、それでも天童さんを評価した。
「なるほどな。まぁ、利用されたのは間違いないが結果としては悪くねぇんじゃねぇか。ダラダラ引き延ばすのもウザってぇしな」
「私もそう思って引き受けた部分もあるしね、でもそんなワクワクが押し寄せてくるような相手はいなかったよ」
腕を組んで思い出すように頭を捻る天童さん。
ミライは天童さんを利用したのだろうけど、戦いの進行を考えるとそれもやむなしなのかもしれない。
「なら、ミライの誤算は徒党を組む連中に再参加者やお父様がいなかったって事ですね」
「おそらく、そういうこったな」
現状で出せる結論に届いた。
内容を知っているから再参加者は徒党を組んで予選を突破してくるだろうと踏んで、天童さんをけしかけたミライの思惑は外れたわけだ。
きっとミライにその事を指摘したら『そんな理由じゃなくて単純に間引きがしたかっただけだ』と言い返してくるだろうけど。
いずれにせよ、この流れで事が進んでいたのは間違いないだろう。
すっかり毒が抜けてしまい、あとは単純な世間話をしつつご飯を食べて帰宅する事になった。
天童さんは俺の世界の住人という事を聞いたのだが聞いてみるととんでもなかった。
だいたい健太君から聞いた通りなのだけど他にも天童さんは絵画の古典を開くほど芸術に精通し、個人事業として雑貨の輸入会社と自身のデザインの服のブランドも立ち上げていた。
強さ以外にも才を持ったとんでもない人であるのは間違いなかった。
それを苦に感じているというのは、少し以外ではあったけど今はそうではないようなのが救いだろう。
その話をまるで童話の主人公の話を聞くようにあさぎはうっとりした顔で聞いていたのが印象深い。
「バサ子さんってさ、良い人だよね?」
それでいて帰り道のあさぎの天童さんに対する評価は疑問系だった。
ぼんやりと星空を見上げながら、まるで自分に言い聞かせるように。
「そうだとは思う、少なくても人を裏切るようには見えない」
希望的な事だけど、あの人はねちっこく裏切るような真似をするくらいならストレートに潰しにかかる人だ。
置かれた立場をわかったうえで、今後はミライとどう接するんだろうか。
「何でも正面からぶつかるような人だよね、気に入らないなら気に入らないって言う。敵なら敵でそれでいいっていうか、真似できないなぁ」
「真似する必要もないだろう」
あそこまで極端だと真似しようもない、という言葉は伏せた。
それにあさぎは、もうすでに真っ直ぐぶつかっていった。
それで得た失恋だ。
やっと得られた失恋だ。
「そっかそうだよね」
何が言いたいのか、あさぎは一人で納得したようだった。
相変わらず星を見ながら。
「前を向かないと危ないぞ」
「前ならいつも見てるよ、前しか見えない目玉がついてる」
「知ってる」
「けど、今は上を見てるの。今はね」
「そうか、転ぶなよ」
「転ばないよ」
あさぎはさらに続ける。
「もう二度と転ばない、転べない。たとえバサ子さんと戦う時が来ても」
満天の星空を見ながら、いずれ倒すべき相手の下で特訓をする決意を固めたようだった。
「そうだな」
俺も続く。
どうなるかはわからないが、確かな事は二つ。
負けれない、強くなるしかない。
脱落すべき人数はこの時、あと残すところ14人に迫っていた。




