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星のアスクレピオス  作者: 面沢銀
前半パート  星へと至る予選編
19/66

恋と愛が人間の原動力で、恋も愛も人を暴走させ狂わせる。

 その16

 恋と愛が人間の原動力で、恋も愛も人を暴走させ狂わせる。


「初めて会った時から思ってたけど嫌なヤツだなアンタ!」


「さすがにそう言われていい気はしないが、しかしながら聞き返すそう千鶴君。君は良い奴とやらにこの戦いで会った事があるのかい?」


 口ではそう言っているものの、東はまるで俺の言葉を意に介さない。


「あさぎも君も目的のためなら殺人をも厭わない。いや、それを悪い事と言うつもりはない。私からしてそうだ、それは否定できないな。振り返ってみれば人間関係など総じてそのようなものなのかもしれなじゃないか、受験だって出世競争にしたってそうだろう。食物連鎖のようにシンプルではないだけで本質的には何も違いはしない。受験に失敗して自殺、事業に失敗して自殺。それは間接的な他殺だろう。このゲームはそういったものの縮図だよ、野生のようにシンプルに、故に生きるという意思をよりリアルで明確にしたね。願いを叶える、つまり生きようとする意思、人間の最大の欲求、性欲でも睡眠欲でも、食欲でも無い単純な生存欲、それが主催者の求めるものだよ」


 東一樹は続ける。


「極論、この世に良い人などいない。このゲームのルールの上で誰も殺さないなどという素晴らしき善人は生き残れない。この世で生きる上で誰も殺さないなんて事はできない。本戦が控えている以上は数などこの戦いでアドバンテージにならないのはルールの上でも明らかだろう。だからあえて正々堂々と君達の前に騎士道精神に乗っ取って、この場に立つ私はその中でも良い人の部類に入るとは思わないかね?」


「よく喋るな、結局のところ何が言いたいんだかサッパリわからねぇあたり詐欺師にれるぜアンタ!」


「千鶴君は思った通りなかなかに賢いね、君の意見にさらに付け加えるなら金持ちはある意味全員詐欺師だよ」


 さらに東は言う。


「さて、話を戻そう。逆に言えばここに私が立っているという事はそのような小細工を労さずとも君達に勝つ自信があるという事なのだが、その辺りを君達は理解しているかい?」


 絶対の自信。

 その東の自信を確認するように否定するようにあさぎが声を荒げた。


「ねぇ、あなたの誰の願いも叶えないっていうのはあなたの願いも叶えないっていう事?」


「そうの通りだよ」


「それで、あなたは納得してるの?加々美ちゃんも納得してるの?」


「そうだ、それに加々美の願いは叶っている。妻の願いを叶えるのは夫の努めだろう?」


「そんな馬鹿な事って……」


「訂正しよう、叶えないではなく叶わないだ」


 一線を引くように東はそう訂正した上で続けた。


「あさぎ君に言うべき事がある。友達を助けるために鬼にもなる、素晴らしい。その決意を否定する気はない。だが、自分を許さないという気持ちでする事が、他人を殺して神頼みとは、ずいぶんとおめでたい話しで、お粗末なのではないかなと。無論、私の意見であって君の信念を、深遠を否定する気はない。ただ、私には私のやり方がある。できる事は全部する。それから神頼み……いや、神殺しをする。最も私は神など信じていないから、やることは上位種殺しか。いやカッコつけるのはよそう。人間にできる事はちょっとしたおしおきといったところだな。それも向こうにしては大きなお世話か。だが多少はカッコつけさせてくれよ、君たちよりも歳上なのだからさ」


 言いながら東はその極端に両手を広げる。

 東の背の高さをしてなお、異様とまで言える手の長さは、翼を思わせるシルエットとなり。

 ダンという破裂音に近い音をたてながら、東は構えた。

 同時に場が戦闘をするための空間へと変化する。


「さて、あさぎ君。人を殺しても叶えたいという願いと、その意思を粉微塵にしてあげよう」


「恩着せがましい言い方ね、全てを疑えなんて言っておいて、そもそもあなたを疑うべきだったわ」


「飴と鞭、いや飴と無知かなこの場合は。それに補足するならば全てを疑えじゃないな。自分の目にしたもの以外を疑えだ」


「どっちでもいいわよ、そもそも関係ないわ!あなたは私達に今からやられるんだから!」


「どちらでも良くは無い……。ただ、残念ながら今の君達では無理だな」


 あさぎがこの戦いが始まったときに手助けしてくれたという、あさぎが俺と会う前から無条件で信じていた東との関係が決裂した。

 俺も考えるべきは東を倒すそれだけだった。


「カストル、ポルックス」


 構える俺達を嘲るように東の体が二つになる。

 いや、二人になる。

 有り体に言えば分身の術、そして鏡写しのような二人になったこの状況は考えるまでもなく。


「双子座か!」


「ご名答、冴えてるね」


 余裕のある東の言葉と同時に、その余裕を行動に転化したかのような挨拶代わりの蹴りが俺の腹部に食い込んだ。

 その一発は胃や腸といった内蔵がぐちゃりと圧縮されたかと思うほどだった。

 視界が歪み、呼吸ができなくなり、一瞬だけ視界がブラックアウトする。

 視界が戻ると、俺は空を見上げていた。

 どうやら地面に倒れているようだ、振り返ってみるとこの戦いが始まって俺は初めて自分自身がダメージを負った事になる。


 喧嘩なんていつからしてないかわからない。

 一発で思い知らされる。

 骨身を軋ませ、内臓に染み渡る。

 こんなにも過酷な事を、俺はあさぎにやらせていたのかと。

 東は、倒れる俺に追撃をしてこない。

 ただ、俺を見下ろしていた。

 ただただ、俺を見下していた。


「攻撃と補助の組み合わせは確かに多いようだが、どちらも攻撃という事を想定していたかな?そしてこういったイレギュラーな能力への対処はどうかな?」


 一発でこうも動けなくなるものかと、教訓めいた事を思い知る。

 これは事実として教訓でしかない、教訓を俺の身に刻み込んでいる。

 東は補助である俺をバカにするように淡々と言う。

 違うな、バカになどしていないのだろう。

 認めたうえで『自分とお前にはこれほど差があるぞ』という事を知らしめているのだ、大人が子供に教育をするように。

 小脇ではもう一人の東とあさぎが打ちあっていた。

 この時点であさぎは俺のフォローに回れない、東がその気なら俺はここで殺されている。


 いや、この状況は俺に限ってというだけの事ではない。

 あさぎ対東の戦局がそれを如実に物語っている。

 端から見ても圧倒的な身長差。

 男としては細すぎるなどと東の体を思ったものだけど、今となってはそれは鋭い針のようにも見える。


 東が俺を蹴ったように、もう一人の東も蹴り技を主体にしているようだった。

 二人になるという事は完全にコピーという事で特性も何もかも同一なのだろう。

 極端なリーチ差から繰り出される速射砲のような東の蹴り。

 それは身長差を埋めようと愚直に前に出るしかないあさぎの体を容赦なく打ち据える。

 あさぎがどんなに前にでても、ヒラリヒラリと身をかわし、その蹴りをいれるのに絶妙な間合いを保ち続ける。

 かのボクサーを蝶のように舞、蜂のように刺すと表現していたが東はそれを足技で体言しているようだった。


「ちっくしょ! ちょこまかと!?」


「格闘技は私もたしなむし、観戦も好きだ。観ている分には勿論KOの方がカタルシスを感じるから前に出る選手のファンにはなるが、相手をするなら君のような前に出るタイプはやりやすい」


 バキリと鈍い音と同時にあさぎの顔面に東の蹴りが入る。

 そこに容赦は微塵も無く、あさぎも俺と同じように地面に転がった。


「休憩はそろそろいいかな?」


 俺と対峙する東も言葉と同時に、あさぎと同じように俺の顔面を蹴りとばした。


「千鶴!」


 あさぎが声をあげるも言葉さえ返せない、立ち上がれない。

 立ち上がったとしてどうする。

 喧嘩なんて小学生の頃から無縁なんだぞ、どうすればいい。


「おいおい情けないな、戦い方がわからないって感じだけど。君はもしかして本当にこの戦いを一人であさぎだけに任せるつもりだったのかい?それはどうだい、男としてさ」

 

「リゲル!」


 朦朧とする意識の中で、あさぎが俺を救うべく決め技の姿勢に入る。

 歪んだ視界の中で、俺はやめろと叫ぶけどあさぎは止まらない。


 俺を救うためだ。


 足手まといにしかならない俺を助けるためだ。

 だけど相手は二人、そしてこの状況なんて大技を誘っているに決まっているだろう。

 本当は、ここで俺が何とかしなくちゃいけないのに。


「キーーーーック!!」


 俺はあさぎのアシストさえもできぬまま。

 その決め技を東が何なく交わして。

 その猛烈な威力がそのままあさぎ自身に返ってくるような強烈なカウンターキックがあさぎの顔面に決まった。


「あさぎ!!」


 感情の爆発とその反動で思わず立ち上がる。

 立ち上がれた。

 まだだ、まだいける。


「ラス・アルハゲ!」


 まずはあさぎの回復だ、傷はこれで大丈夫にしても意識はあるか。


「いってて……サンキュー、千鶴」


 回復と同時にゆっくりとあさぎは起きあがる。

 大した根性で、礼を言いたいのはこっちだ。


「千鶴、考えて! どうしたら勝てる?」


 二人の東を見据えながらあさぎは俺に指示を仰ぐ。

 だが、悔しい事に思い浮かばない。

 これまで想定していた戦い方では駄目な事くらいしかわからない、あさぎのアシストをするだけでは東の牙城さえ崩せない。


「何かこう……聞いただけで身に付く空手とかないのか?」


「あるわきゃねぇだろそんなもん!」


 あさぎはキッパリ否定する。

 余裕などない受け答えだ、そりゃそうだ。

 だけど、こんな状況で俺だって頭なんて回るわけがない。

 

「確かに」


 なら仕方ない。

 今思いつく事はこれしかない。

 東に言われたから、挑発されたから、煽られたからというわけじゃない。

 本当に当初の作戦だ。


「じゃ、俺が盾になるからあさぎが一発決めてくれ!」


「は!? 何を言ってるの、それじゃ千鶴が! ってか千鶴は戦えないじゃない!」


「そうでもねーよ命を賭ければ! いや、最初から賭けてんだから惜しくねーよ!」


 作戦は筒抜けだ。

 そもそも作戦なんて言える代物じゃない。

 それでもこの東の余裕を持ったにやけ顔に俺自身も一発ぶち込んでやりたくて仕方ない。

 二人の東が俺に向かって構える。

 今度こそ俺を敵と認識している。


 途端に嫌な汗が俺の額からぶわっと吹き出てきた。

 端から見たら尋常じゃない汗の量、客観的に今の俺の状態を見たら心配するレベルだ。

 先ほどの大人の余裕は無くなった。

 それは俺に対して緊張したのではなく、俺を殺すという決心を固めたという事だ。

 ぞわり、と身が震える。

 悪寒が走る、背筋が凍る。


 何もしていない。

 ただ、にらみ合っているだけでこの消耗。

 命のやり取り、命を直接差し出した時の緊張感とはこうも凄まじいものなのか。

 初めての経験ではあったが。

 同じ光景なら何度も見ている、相棒が見せてくれている。

 どうせ格闘技なんて何もしらない俺ができる事といったら、あさぎと同じく前に出るしかない。


「うおおおおお!」


 自らを奮い立たせるように声を張り上げて東に突進する、東は一定の距離をたもつように俺を蹴飛ばしてくる。

 ボーリングの球でも投げつけられたような鈍い痛みが、腹部と太股に響く。

 それでも、俺は止まらない。

 来るとわかっている攻撃ならば、耐えられない事はない。


 サバンナマスクのように、プロレスのように。

 あえて攻撃を食らう。


 受けきる。


 頭部に攻撃を食らって意識を飛ばさなければ、反撃のチャンスはあるはずだ。


 あるはずだ。

 あるはずだ!

 あるはずなんだ!?


 東の攻撃を喰らいながらそう自分に言い聞かせる。

 しかし、そんなチャンスなど無いとあざ笑うように。

 東からしてみれば当然のように、そんな者ははありえなかった。

 東一人ならば、あわよくばという機会が無いわけではなかった。


 だが、東は二人いるのだ。

 一方に隙ができれば、もう一方がその隙をフォローする。

 息の合ったコンビネーションといった話ではない、息の同じコンビネーションなのだ。

 マンガやアニメの世界だったら、同じ動きをするのならその人固有の癖も同じでそこから活路を見出す、なんて展開があるかもしれない。


 だけど、俺が格闘技の達人というのならいざ知らず。喧嘩もした事のないような男だ、そんな閃きが起きようはずもない。

 リンチと表現して問題の無いこの攻撃を受けては、心が折れてしまう。

 もう駄目だと諦めたら、きっと俺は二度と立てないだろう。


 だから、俺は幸せなのかもしれない。


 あさぎを見ているから、あさぎの心意気を知っているから、それだけは絶対に無い。

 彼女の心は決して折れない、絶対に曲がらない。


 あさぎは俺を信じてチャンスを待ってくれている。


 だから、俺はそれに応えないといけない。

 この心を折りにくる猛攻に堪えきらないといけない。

 人を殺すのだから殺されても文句の言えないこの戦いのルールにおいて、心を折ろうとするのだから、折られても文句は言えない。


 文句など言えるはずもない。

 無様でいい、カッコ悪くていい。

 それが瀬賀千鶴の今できる戦いだ。

 そしてそんな俺を見てなお、飛び出したい気持ちを抑えるあさぎの戦いだ。


 防戦一方、ジリ貧、泥仕合。

 そんな言が相応しい、無限に襲い来るかのような痛みの果てに。 

 気迫と根性のみで立ち続ける俺の折れない心に、東の心が磨耗しだした。

 それは単純に攻め続ける事による消耗だったのかもしれないが、一方の東が蹴りを放った瞬間に体制を崩し。

 本来はフォローに入るべき一方が俺を普通に蹴ってきたのだ。


 俺はあえて体制を崩した方ではなく、蹴ってきた方の東の蹴りを掴みそのまま羽交い締めにする。


「待たせたなあさぎ!」


「ギリギリだったぜ! もう少し遅かったらあたしは我慢できずに飛び出してたさ!」


 ずっとこの瞬間を狙っていたのだ、あさぎがこの一瞬を見逃さない筈はない。

 最初で最後。

 唯一無二、ここ一番でしくじるあさぎじゃない。


「リゲル!」


「訂正しよう千鶴君、君は優秀なだけじゃなく努力家だ。だが、やはり本物ではない」


「キーーーーーーック!!!」


 東はあさぎの必殺の一撃の間にそうつぶやくと。


「ポルックス」


 続く言葉と同時に、俺が羽交い締めにしていた東が消滅する。

 俺が抑えていたのは偽物の方だったのか。


 痛みは本物だから、確かにそれは区別がつかなかったが。

 いや、出し入れ自由の分身なのだろう。

 ならば完全に誘われていた。

 無駄な努力をさせられていた。


「ポルックス」

 

 一度消えて、そして再び東が出現する。

 突然の出来事に飛び出す瞬間にあさぎの体がこわばる。

 後悔も絶望もする暇さえなく、今更止まる事もできずに飛び出したあさぎの顔に東の蹴りが容赦なく炸裂する。

 そのまま縦に一回転して地面に頭から落ちる光景を目にする。

 スローモーションでその光景を目にし、ぐちゃりという音が鈍く耳に響いた。


「目的のためとはいえ、これから残酷な事をするわけだが。非常に心が痛いよ、私にそういう性癖は無いわけだからね」


 一人の東が俺の喉を蹴った。

 それは確かに強烈だったが、最初の腹を打ちぬく蹴りほどの威力は無かった。

 だからこそ単純に呼吸ができない、声をあげられない。


「この世界においては力を過剰に持ち合わせてしまうために忘れがちだが、別に防御力が上昇しているからといって人体の急所が無効になるというわけではない」


 それは単純だからこそ、深い意味がある。

 声があげられない。

 すなわち呪文が唱えられない、スキルが発動できない。


 のたうちまわる俺を無視するように東はダメージの抜け切らない、まだ地面に伏したままのあさぎの右膝を蹴った。

 右膝を踏み潰した。

 あさぎの膝が本来なら曲がってはいけない方向にへし曲がる。


「あああああああああああああああああああああ!!!!!」


「回復する力があるといっても即座ではない、そして君達が感じているように別に痛みを感じないというわけではない。今まで受けたダメージがどういう物なのかは知らないが、本来なら死に至ってしまうダメージならば脳内麻薬が痛みをある程度麻痺させるだろう。しかし、単純な怪我程度ならストレートに痛みを感じるはずだ、そうだろう防人あさぎ君?」


 確認するようにあさぎに問いかけながら、東はあさぎの左足首を踏み潰した。


「ああああああああああああああああああああああああ!!」


 再び絶叫。

 目はうつろで、ヒッヒッという短いあさぎの呼吸音がだけが聞こえる。

 茫然自失とはこの事をいうのだろう。

 逆転の目を失った俺は、ただひれ伏すすだけだった。

 喉が潰された今、救いの言葉も出てこない。


「さて、ゲームオーバーだ。今となっては勝ちの目は無い。回復は不能、二人ともナメクジのように地面を這っているわけだが。仕方が無い事だな、この戦いは元より強い奴が勝つというシンプルな物だ。そういう意味では……。そうだな、愛は勝つといったところかな。私は妻への愛で君に勝ったのだろう。あさぎ君、君は以前に嬉々として友達と同じように過ごしたいと言った。友の不幸を喜んでしまった自分が許せないと言った。そして迎えたのがこの無様な有様だ。君は何もできず、何も語れず、何も伝わらぬまま消えていく。心配くらいはされるだろう、友人なのだから。それが君の望んだ物なら何も言わないが……」


 あさぎは東の言葉を耳にしながら、かみ締めながら、それでも体を動かして崩れた正座のような姿勢まで身を起こす。

 そして、東は言葉を溜めて。


「そんな勝手に自分を信じられなくなって、友達とやらも信じないで何の相談もしないで逃げ回って、自分を恥ずと言いながら都合の言い時だけ友達のように振舞って、あまつさえ他人に当たり散らすような友達ごっこに巻き込まれたとあっては、私達もその友達もさぞ迷惑だろうな、君のそれは愛でもないし友情でもないじゃないか」


 言われてあさぎの眼から光が無くなった。

 力の差を持って、絶望を持って、さらに心に燻っていた後悔を燃え上がらせた。

 そしてその後悔は、もうこの状況では後の祭り。

 あさぎの心は折れてしまったのが見て取れた。


 連鎖するように、俺にとっては心が折れないあさぎの存在がモチベーションであり。

 あさぎが戦闘不能に陥った今、俺の心の支えとなるバックボーンは脆くも崩れさり。

 自分へ向けての攻撃だというのに、どこか現実感も無いまま東の蹴りが俺の側頭部を刈り取った。

 悲しいかな、それでも少しだけ意識があって、朦朧とする視界が俺にしたようにあさぎの頭を蹴り飛ばす東を見ていた。

 フルHD以上の描画力を持つ俺の瞳は、その光景を鮮明に映して。

 俺自身も意識を失った。




 俺達二人は、東一人に完全に敗北した。






 瀬賀千鶴&防人あさぎ対東一樹



 勝者 東一樹

 瀬賀千鶴、防人あさぎ 完全敗北

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