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星のアスクレピオス  作者: 面沢銀
前半パート  星へと至る予選編
14/66

それでは皆様お待たせしました。

 『才能が一つ多い方が、才能が一つ少ないよりも危険である』


 なんて言葉をどこぞの名言集みたいなので目にした事があったような気がする。

 要するに、多芸に秀でると進むべき道が多くなって道に迷うって事なのだと俺は取っている。

 もちろんこれは俺の解釈であって、意味が正しいかわからないし、ちゃんと調べたわけではないし、そもそもこれが誰の言葉かさえも知らない。


 あの女性を語る上で。


 最強である事に異を唱える事さえも馬鹿らしい、才能だらけのあの女性を表現する事において。

 どうしてもその言葉が出てきてしまうのだ。

 もっともあの女が言うには最強ではなく最新らしいのだが。

 俺にしてみれば、いや俺じゃなくても観測者としてはその言葉の意味合いは変わらないのだ。

 最新こそが最強なのは自明の理なのだから。

 だからこそ、先の言葉には進化系があると唱えたい。

 才能が一多いなら危険で済むが、才能が百多かったら諦めるしかないと。

 天才の上は天災なのだと。

 だからこそ声高く言いたい、諦めた先を目指せるのが旧型の意地なのだと、人の意志なのだと。



 

 二人の名前が消えた事に驚いていたのもあり、気がつくのが遅れてしまっていた。

 いや、知っていたからこそ気がつく事ができなかった。

 俺が起きて、當間と西村の敗退を知った直後に連絡が来たのだ。

 連絡者の名前は木田成美。

 俺があさぎの端末を目にした時に知った名前だと思った女の名前だ。

 だが、俺の端末に名前は無かった。

 無かったのだ。

 以前から知り合っていれば名前があるというのなら、その名前は俺の端末に最初から有ってしかりだった。

 なのに無く、そして今は有る。


 つまり。

 俺はおそるおそる端末の呼び出しに応じる。


「もしもし」


「瀬賀千鶴、住所も連絡先も星座に能力さえも私に握られたわけだけど。それで今はどんな気持ちかしら?」


「良いわけねぇだろ」


「そう、それは残念ね」


 挑発するように、弄ぶように木田は続ける。


「昨日の二人、あの二人を調べていたらあなたが居たから驚いたわ。知らないでしょうけど、急に大学に来なくなったから割と有名なのよあなた。もっとも、ご不幸があったってのはあなたの仲の良かった友達から聞いて知ってはいたんだけどね」


「じゃあ、お前が當間と西村を!?」


「間抜けというか何というか……あなた達が勝手に戦術をバラしてくれたから殺りやすかったわ。確かにあの二人は初見では一発を貰っただけで尻込みするし、再戦をしたいとも思わない。けど、それは種がわかれば怖くないって事だから、本当にそこは感謝してるわ」


「テメェ……」


「だから、というわけではないけど特別にあなたは殺さないであげてもいいわよ。もっともあなたのパートナーは別だけど」


「まさかあさぎを!?」


「良い反応ね、まだ大丈夫よ。ただ攻撃に特化してるんですってね。それでは私は倒しきれないわ」


 意味深に木田はそう言った。


 倒しきれないと言い切って見せた。

 倒せないではなく、倒しきれないと。


「知ってるかしら、特殊能力って星座を司る星の名前が使われているのよ」


「それは知ってる」


 そう、だからこそ土田が矢座である事を看破したのだ。


「ならわかるわよね、あの子。あさぎだったかしら、星座はその人間の性格に寄る。あの子は猪突猛進だからエリダヌス座、だからあなたみたいな子が舵を取らないと川に飛び込むわ。面白いゲームよね、私は好きよ」


「さっきから何が言いたいんだよ」


「つまり、星の名前を知られるのも致命的って言っているの。これから戦うための知識よ、あさぎちゃんじゃない別のパートナーと組んだ時に知識くらいは多く持ってないとパートナーが成立する前に殺されちゃうじゃない」


「ふざけるな! 俺達はやられない!」


「あら? あらら? もしかして私達と戦おうっていうの?」


 しまった、と思う。

 だが、思うだけだった。

 當間と西村を殺して、あさぎまで馬鹿にされて、おまけに殺さないでおいてやるなんて言われて。

 そこまで言われて冷静でいられるほど俺は人間ができていない。


「いいよ、やってやるよ! 俺達がお前をぶっ倒してやるよ!」


「あーらー、残念。でも、そこまで言うなら仕方ないわね。いつがいい?」


「いつでもいいぜ! ぶちのめしてやる!」


「そーう、じゃあ明日の夜の10時に私達の学校で」


 そして木田は一方的に連絡してきて、一方的に連絡を切った。

 人を喰ったような女だった。

 狡猾とでも腹黒いとでも言える木田成美、あさぎに連絡を入れると久しぶりに大学に足を運び木田の情報を集めた。

 少しでも攻略の糸口になるような事があればと思ったのだが、ずる賢い木田がそんなミスを犯しているはずもなかった。

 ただ、少しだけ嬉しかった事はかつての友人が声をかけてくれた事。

 皆、多くは聞かなかったが単純に心配してくれていた。

 もうすぐ学年さえも変わってしまうというのに、こんなに心配してくれる人達に支えられていたのにどうして俺は引きこもってしまっていたのだろう。


 生き残りたい。

 勝ち残りたい。

 そして、新たに出来た友達の仇を打ちたい。

 その並々ならぬ決意と意志は普段の俺からしてみれば考えられないものだった。

 そして浮かび上がった木田という人物像は意外でもあり、納得できるものでもあった。

 成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗、芸術面にも秀でており、交遊関係も広い。

 その分、世渡り上手なところも有り。高飛車な性格を隠そうともしない。

 いわゆる八方美人なその振る舞いに対して快く思わない人は男性にも女性にも多い。

 それでいて表面上は敵意が現れないあたり、実績を残している木田に頭があがらないのだろう。

 完璧な立ち振る舞い。

 それは嫉妬心さえも力でねじ伏せてしまう、帝王たる佇まいだ。

 女王。

 そんな言葉が木田には見事に当てはまっていた。

 そのような、良くも悪くも有名人だったからこそ木田の名前を俺は知っていたのだろう。

 と、いう事を日もとっぷり暮れた頃、俺は合流したあさぎに伝えた。


「気に入らないわね!」


 あさぎの感想はストレートそのものだった。


「何よそのいけ好かない女は! 一昔前のギャルゲーのヒロインかっつーの! お高くとまりやがって! あれでしょ一緒に帰って噂とかされると恥ずかしいしとか言っちゃう系の奴でしょ?」


「例えが古い!」


「まぁ、何でもいいわ! 私達は明日、何だろうと変わらなく、滞りなく、その木田って奴をぶちのめして、善人君とつくしちゃんの仇を打つ! いいわね千鶴!」


「ああ、もちろんだ」


 その意見に異論は無かった。

 明日、木田を倒し。

 そして明後日に帰ってくるというあさぎの協力者と合流し、そしてヨアンナさんとサバンナマスクと今度こそしっかりとした同盟関係を結ぶ。

 依然、その予定に変わる事は無い。

 予定外の事は當間と西村の離脱だけで十分だ。

 が、人生なんて予定通り進む事の方が少ない。

 翌日、夜10時。

 待ち合わせの俺の大学、そこの境界線内に入ると同時に爆発音が響いた。


「な、何だ!」


「っと、そういう攻撃をする能力なの!?」


「わからない!」


 揺れる地面に軋む校舎。

 それは既に何らかの戦闘行為が行われている証拠だった。


「俺が知っているのはあさぎでは倒しきれないって言ってた事だ。だから防御に特出した能力だと踏んでたんだけど」


「うん、それは聞いてる。だとしたら相棒の方の能力!?」


 そして再び爆発音。

 いや、二回目だから違いが少しわかる。

 爆発というよりも何か物が砕けた音だ。


「これは尋常じゃないぞ」


 俺が言うと校舎の二回の窓から人が飛んできた。

 ドカンと鈍い音をあげながら地面に激突したそれは、紛れもなく木田成美だった。


「木田!?」


「コイツが!?」


 構えるあさぎだったが、あまりにも木田の様子がおかしかった。

 そしてその異常な状況をさらに助長するように、もう一人、空から人が降ってきた。

 どこぞのアニメ映画のように少女がゆっくり降ってくるなんて幻想的なもんじゃない。

 確かに少女が降ってきたが、さながら砲丸投げの球のように、勢いよくズドンと地面に落下する少女。

 目を覆いたくなるくらい無惨に横たわる、息も絶え絶えの女の子。

 歳の頃としては小学校四、五年生といったところだろうか。

 ジャンパースカート姿の少女の腕はあらぬ方向に曲がっており、顔面は蒼白。


「ひっひっひっ」


 という荒い息づかいが聞こえてなければ、死んでいるとさえ思っただろう。

 そして、その少女の横に、今度はスタリと着地する一人つの影。 

 背を向けるように着地し、ゆっくりとこちらを振り向いたソレ。

 長い黒髪をたなびかせ、上半身はビーチバレーの選手が付けるようにビキニの上、下はスパッツ。穿いてる靴はランニングシューズ。

 服飾はいずれも白を基調に統一されているからこそ、その黒い髪が映える。

 背は俺より多少低いくらいでほとんど同じくらい、つまり180センチ近くあるだろう。

 胸は張り、腰はくびれ、足はスラリと延びている。

 まるで彫刻が命を持って動き出したような、さもなくば天使が地上に舞い降りたかのようなその存在。


 天使という表現は言いえて妙だ、なぜならば彼女の背中には大きな翼の入れ墨があったのだから。

 そして女優のように綺麗で、モデルのような小顔な彼女は確かに見た目だけなら天使だ。

 しかし、その天使は極めて不機嫌そうに。

 足下の少女を蹴りとばしてみせた。

 容赦の無いトゥーキック。

 実際、サッカーボールでも蹴飛ばしたように、サッカーボールが飛んでくるような勢いで俺達の足下に少女は転がった。

 残酷な振る舞い、残虐な行動、むごい仕打ちを平気で行う様は、天使などという美しい物とはかけ離れた。


 悪魔の所行だった。

 蛇に睨まれたカエルとはこんな気持ちなのだろう。

 その振る舞いと、圧倒的な存在感だけで俺達は彼女に呑まれてしまった。

 戦おうという気持ちなど起きるはずもない、許されるならここから逃げ出したいと思い。

 そして、そうしたところで彼女が見逃すはずもないという事も理解してしまっていた。


「ん、何だお前等? どいてろどいてろ、巻き込まれるぞ。あ、言っておくが……アタシの喧嘩に手ぇ出すなよ!」


 行動だけなら冷酷で無慈悲といった様子の彼女は、まるで代わりにコンビニにでも行ってくるような軽い口調と、子供のイタズラをとがめる厳めしい口調で緩急をつけて俺達に忠告すると、跳んだ。 

 一歩踏み出すだけの動作が、跳ぶというよりも飛ぶと表現した方がしっくりくるくらいに低空で迫る。

 ひっ、という木田の短い悲鳴を打ち消すように、片手で木田の髪を掴むとそのまま片手でつるし上げ、女性のボディーブローがその状態の木田に炸裂する。


「~~~~~~!?」


 木田の悲鳴は声にさえならない。

 打たれた腹を力点、掴んだ髪が作用点に成って木田の体がブランコのように浮き上がる。

 ぶちぶちという何本か髪が抜ける音と一緒に、木田が嘔吐する。

 そんな木田を汚いとでも思ったのか。


「はい六回目ー!」


 髪を掴んで浮き上がった木田の体をそのまま地面に叩きつけた。

 バゴンという爆発音が響く。

 地面が揺れる。

 その衝撃でうねりを上げる空気が俺とあさぎの頬をなでる。

 圧倒的だった。

 こんなの戦いにさえなっていない。


「や、や、やめて……それいじょう……お姉ちゃんをいじめないで……」


「うっせぇな!邪魔するなって言っただろ!!」


「ひ、いぃ!プルセペ!」


 倒れる木田をかばうように少女が木田に多い被さる。

 同時に呪文を唱えると少女の体が光に包まれた。

 その光ごと女性は少女を踏みつぶした。


「ぐがっ……ごめんね……成美お姉ちゃ……ん」


 そして少女の体がさらさらと消えていく。

 それは少女の死を表している。

 名も知らぬ少女は木田成美を庇って消滅した。


「んな……そんな……」


「だから邪魔すんなって言ったのに。ま、これで邪魔者は無しね。それじゃ改めまして、タイマン張らせてもらうぜ!」


「許さない……絶対に許さないんだから!」


「お、いいね! いいねぇ! やる気の無い相手を倒すなんてアタシの趣味じゃねぇからよぉ!」


 木田は怒りに震えていた。

 ただ震えていた。

 女性に怒りをぶつけるように、そして圧倒的なまでに絶望的なまでの戦力差に。

 対照的に女性の方は邪魔者が居なくなったという理由でさらに高揚していた。 

 ニヤァという音が聞こえてくるような、戦う事を楽しむ狂喜に満ちた笑顔で。

 まだ木田が自分に対して戦意を失っていないという事に対する驚喜に満ちた笑顔で。

 そして強い自分に対する歓喜に満ちた笑顔で。

 もはや、手が着けられない。

 誰にも止められない。

 まるで天災のように、災害のように、人の思いなどは届かない位置に彼女は到達しているようだった。


「ラス・アルゲティ!」


 彼女の体が光に包まれる。


「よくも……よくも……よくもぉ!!」


 木田にどんな能力があったのか、どこまで能力値をあげていたのか、そしてあの狡猾で残忍で自分が良ければ後はどうでもいいという性格をしていた木田がここまで感情をぶつける事ができる、あの少女との関係とは。

 俺のその疑問ごと吹き飛ばすように女性の拳が木田の頬に打ち込まれる。

 体勢を崩した木田の腕を掴むとそのまま校舎に戻れと言わんばかりに壁にたたきつけた。

 まるでバトルマンガのように校舎の壁が窪み、そこに張り付けにされるように木田がめり込む。


「七回!で、これで八回目!」


 女性は腕をぐるぐると回すとパンチングマシンでハイスコアを狙うようなオーバースイングで拳を大きく振りかぶる。

 そのテレフォンパンチは普通ならば絶対にあたらないのだろうが、壁に張り付けにされた木田にそれを避ける術はない。

 リンゴを地面に落としたような、パキャという小さな不快音とまたしても壁が砕け散る轟音が響きわたる。


「っしゃ、ラストだな」


 濛々と上がる壁が崩れた時に巻き上がった埃が彼女と木田の現状をシルエットに映す。

 木田の襟首を掴み、拳を振りかぶる女性。

 既に意識など無いであろう、捕まれるままに手をダラリと力無く垂らす木田。


「九回目!!」


 埃が吹き飛ぶほどの威力を持って振りおろされたその拳は、ついに木田の頭部を粉々に粉砕し。

 舞散る埃と共に、木田の体も霞のように散って消えた。



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