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星のアスクレピオス  作者: 面沢銀
前半パート  星へと至る予選編
13/66

この友情は他人専用です。

 その10

 この友情は他人専用です。




「なんて事があったのさ」


「なるほどね」


 昨日の出来事をあさぎに説明すると、あさぎは唸ってしまう。

 別に二日酔いで気持ち悪いとか、頭が痛いとかいう理由で唸っているわけではない。

 昨日の當間と西村のやりとりを説明したうえで、どうするかで頭を悩ませている。


 そういう意味では頭が痛いという言葉は、あさぎの場合はあってるのかもしれない。

 おそらく彼女の脳の情報処理能力を大きく越える問題定義だろう。

 ちなみにあさぎは二日酔いというものを経験した事が無いらしい。

 あれだけ泥酔していたわりに大したものだと思うのだが、その後に続いたあさぎの言葉の『戦いに身を置いているんだからいつでも戦えるコンディションじゃないと』という発言に俺は大いに苦言を呈したい。


 昨日の酔っぱらった朦朧とした状況でお前は絶対に戦えなかっただろうと。

 振り返ってみると、あのときに當間が西村を制止しなかったら俺達はゲームオーバーだったのではないか。

 土田の時といい、俺達は運に助けられている部分が多く見受けられる。


 もっとも、この戦いではスタートからして運が強く関わってきているのだから、運も強さのうちという言葉に大いに甘えさせてもらおう。

 反省はしても、いちいち気に病んではいられない。

 あさぎは昨日の酔いつぶれた事をもっと反省した方がいい。


「いや、さ。本当に私は千鶴を信じているのよ。本当、信じているんだからね。でも、やっぱりここはハッキリと千鶴の口から聞いておきたいの」


「おう」


「私が酔っている間に、千鶴は私に変な事とかしてないよね?」


「するか!!」


「そう……いや。大丈夫、千鶴の事を信じていたから、まるで心配してなかったわ!」


「なら聞くな!!」


 こいつは俺が真面目に話をしていたのに、聞きもしないでそんな的外れな事を考えていたのかよ。


「変な事ってのは具体的に言って挿入していなくても、乳を揉んでても私の中では変な事とカウントするけど大丈夫?」


「うわー! すっげぇはしたねぇ! それに揉むほど無いだろ!」


「いいえ、私のはジャストフィットサイズです!」


「自慢するなよ!」


「むむっ! 同意しないってところを見ると本当に触ってなかってみたいね」


「今のはカマかけかよ!」


「そんな面白エッチな話はさておいて、うーん。何にしてもその二人にはもう一度会ってみるしかないと思うのよ」


 あさぎの急なハンドル捌きで会話が本筋に戻る。

 あまりに急すぎて、きっとUターンどころかVターンくらいの角度だ。


「當間君の言う星空同盟って響きは超カッコイイから惹かれる物っがあるわね」


「そ、そうか?」


「あ、大丈夫! ツッコミは入れないで、問題はそこじゃないってわかってるから」


「ならいいけど」


「その西村さんって人が急変したのは気になるわね」


「あ、そこね」


 確かに気にならないわけではない。

 あれを交渉というのかは甚だ疑問ではあるが、それでも西村つくしはあのまま戦闘を強行できたはずだ。

 凶行に走れたはずだ。

 それこそ俺は恐慌状態だったわけだし、あさぎだってあのぐでんぐでんの状態では成すすべはなかっただろう。

 つまり、勝てる戦いだったはずだ。


 西村はあきらかに當間の提唱する同盟関係に乗り気ではないようだったから、ナイフを取り出した時のあの目は戦闘行為に関して物怖じする様子は無かった。

 だというのに、あの豹変は確かに気になる。

 それで助かったと言っても過言ではないのだからなおさらだ。


「ここであさぎちゃんはある一つの仮定を提唱します」


「ほうほう、聞かせてくれたまえ」


「當間君の同盟を組もうと言ってきたのは、まさにそこが原因なのではないかと思っちゃうのです」


「つまり?」


「サバンナマスクが水島さんに協力を持ちかけたのが健太君の事を考えてだったように、當間君もその西村さんの事を考えての事ではないかと思うのです」


 ……確かに。

 ヨアンナさんのように『ただ勝ち残るため』という形で築かれる同盟関係とは違う理由。

 それこそ、ルール外のところで結ばれる協定だ。

 それならサバンナマスクと健太君の関係と違うのだからお互いに納得しない部分も出てくるだろう。

 つまり西村が同盟を組みたくない理由。


 ならば、あの会話の行き違いも納得いかないわけではない。

 むしろ、そういう理由ならば納得できるし。

 その仮定が出てしまったならば、その理屈しかありえなく思う。

 それだけ、西村の豹変は異常だった。


「あさぎ」


「何?」


「馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、そんなに馬鹿じゃなかったんだな」


「地獄腹パン」


「ふぐっ!」


 まるで会話の流れとその動きがワンセットになっていたかのような、ニュースのアナウンサーが原稿を読み上げるような抑揚の無い美しい発音とそれにリンクするような流れる挙動のあさぎのボディーブローが俺の腹部に突き刺さり。

 俺はそれ以上の悲鳴をあげる事もできず、呼吸もできずにその場にうずくまった。


 俺が回復するのを待って、端末の連絡機能を使って當間善人に連絡する。

 しかし善人と書いて「よしと」と読むらしい。

 読めないわけではないけど、ちょっと凄い名前だ。


 そういう意味ではパートナーである、つくしも変わった名前だと思う。

 俺も女みたいな名前だから人の事は言えないが、そういえばあさぎも大概な名前だな。

 ところで端末には出会った人の名前が表示されるわけだけど、サバンナマスクはサバンナマスクと表示されている。


 どうしてそこは本名じゃないんだ?

 まさかとは思うがサバンナマスクが本名じゃあるまいな……。


「はい、當間です。こんにちは。えっと……この前はすいませんでした」


 出会った時のテンションはどうしたのか、當間は別れ際に見せた時のような丁寧な物腰で電話に出た。


「ああ、えっとだね。その同盟の話をもうちょっと詳しく聞いてみたいんだよ。今回はちゃんとこっちのパートナーを相席したうえで」


 丁寧な様子に丁寧に答える。

 だけど、その様子に當間君は少し戸惑ってみせる。


「そんな、いいんですか?あ、でも……つくしちゃんが何て言うかな…」


 當間の電話口の対応で予想はだんだんと確信へと変わってくる。

 罠を仕込んでいるなら簡単に食いついてくるであろうこの持ちかけに、當間は戸惑いを隠せず。

 さらに西村に確認を取ると言った。

 それを含めて演技という可能性は否定できないが、少なくても好戦的な様子の西村さんを気にするあたりあさぎの予想が近からずも正しいと思えた。


 話としては相談してみるという事で當間が電話を切り、さらに當間からの連絡で会うという事に落ち着いた。

 それから三日後、会う場所は水島さんとサバンナマスクと話をしたカラオケボックス近くのファミレス。


 禁煙席。


 これは俺達からの条件の一つだった。

 人目があれば、どんな話の流れになったとしても西村さんがナイフを取り出したりはしないだろうという考え。

 が、もちろん俺もあさぎも服の下に少年雑誌をインするのを忘れてはいない。

 俺達は約束よりもやや早く店内に入ると、どこぞの狙撃者とは違い店内中央の席に腰を下ろす。

 こえならばすぐに逃げる事が可能だ。

 なにせ俺達を狙う相手は目の前にしかいない。

 いない……、とは言い切れない部分は確かにある。


 星空同盟がまだ自分達二人というのが嘘で、別の同盟相手が実は店内に潜んでいるという可能性は捨てきれない。

 捨てきれないが、それを言い出したらこの場が既に危険なのだ。

 いずれにしても、それでも現実の世界で切った張ったをする騒ぎは相手も避けたいだろうから大丈夫だとは思うが。


 そういう意味では俺達のサバンナマスクとヨアンナさんとの同盟も強固とは言いがたい。

 同盟関係を結ぶとは言ったものの、現状では口約束でしかない段階だ。

 だから、俺達は協力を仰げない。

 ヨアンナさんはともかく、サバンナマスクなら来てくれたかもしれないがサバンナマスクはこのケースでは目立ちすぎて意味がない。

 そんな事を考え出したら仮にヨアンナさんが来てくれたとしても同じなのだけど。


 俺のそんな心配をよそに、あさぎはまるで心配などしていないようで席に座るやいなやドリンクバーとイチゴパフェを注文しており。

 イチゴパフェはすでに完食しており、ドリンクバーも既に三杯目。

 お前は少しは緊張しろ。

 そんなツッコミを心の中で入れていると、あさぎの100倍、俺の倍くらい緊張した様子の當間が入店してきた。

 西村さんも澄ました顔をしているが、どことなく緊張の色が見える。


「防人あさぎです、この前は何か情けない姿だったみたいでごめんなさいね」


 言ってあさぎは當間に握手を求める。


「當間善と……あいたたたた!?」


 ぎぅ! と。

 横目で見る俺からでも當間の手がひしゃげているのが目に見えてわかる。

 あさぎってば星座の加護が無くてもハイパワーですのね。

 って違うわ!


「うわー! あさぎ何をやってるんだ!」


 思わず周りを気にせず声をあげる。


「うふふふふ! 折檻よ!」


「痛い! 痛い! 痛い!」


「人の酔っぱらった隙を狙うなんてセコイ事をするからよ! 思い知れぇー!!」


 ドヤ顔のあさぎの後頭部を思わず反射的にスパーンと叩いてしまった。


「思い知るのはお前だ! 交渉に来てるのにいきなり暴力に打って出てどうするんだ! ほら、ビビッテる! 當間君がマジビビリしてる! だいたい戦うのに自分を見失うほどよっていた私が悪いとかなんとかってのはどうなったんだ!」


「いったいなぁ! 何するのよ!それとこれとは話が別! 悔しくないのか! お前は酔っぱらった隙を突かれて悔しくないのか!」


「悔しいです!」


「じゃあ今からお前を殴る!」


「それで何で俺が殴られなきゃならねぇんだよ!」


 どこのラグビー部だよ。


「いいから」


「何で拳を振りかぶるんだよ! いいからじゃねーよ! お前に殴られると普通に痛ぇんだよ!」


 あさぎに握りつぶされた手を押さえながら善人君はコクンコクンと鹿威しみたいに頷いている。

 ちなみに鹿威しって『ししおどし』っていって日本庭園にある竹が水を受けてカコンって鳴るアレの事な。

 半ば本気でじゃれあう俺達を見て、クスリと西村つくしが笑った。


「仲がいいんですね」


 そう言う西村に少し照れながら俺達は大人しくなる。

 確かに仲はいいけど、西村が思ったような関係じゃないけどな。

 そう考えるとちょっとバツが悪い、あさぎもどうもそんな感じだ。


「それで、星空同盟についてなんですけど」


「良い名前よね、星空同盟」


「え、ありがとうございます」


 いや、あさぎ折角の話の腰を折るなよ。


「千鶴がメリットどうのこうの言ってたみたいだけどさ、聞きたいんだけど。実際のところ組めば勝ち残るメリットはあるわけじゃない。それで、組めないなら倒せばいい。倒すとなればあの時に倒せた。さすがの私もあの時に襲われてたらアウトだった。それは白状するし、逆にもうあんな隙は見せない。そんな千載一遇のチャンスを棒に振った理由を知りたいんだけど?」


 あさぎの質問が事の他意外だった用で當間君は驚いた表情を見せると、顔を背けた。

 同じように西村さんも俺達を見ないように俯く。

 少しの沈黙。

 その少しの間すらも鬱陶しいといった様子であさぎが話を続けた。


「私は友達の病気を治すために戦ってる、千鶴は奪われた家族を取り戻すために戦ってる。さっぱりわからないけど、あなた達は。少なくてもつくしちゃんはその言えない何かのために戦ってるんでしょ。じゃあ、それに協力している善人もそれを理解して戦ってる。いいコンビじゃない。私達が戦った奴らにはお互いが何の理解もしないでいた。とんでもない悪党もいた。でも、君たちは違うんでしょ。私達に理解して欲しいから、私達が理解できると思ったから声をかけたんでしょ?」


 當間と西村の心を抉るように。

 削りとるようにあさぎは続けた。


「なんとなくわかるんだけどさ、君たちってまだ誰も倒してないでしょ、もっとストレートに言おうか。まだ誰も殺してないでしょう?」


 その言葉が決定的だった。

 二人の心が折れた。

 狙っていた事が見透かされて、見通されたかのような。

 嘘をついて誤魔化せたと思っていた子供が、その実はバレるバレない以前に騙せてさえいなかったと気がついた時のようなそんな顔。


「どうして……わかったんですか?」


 當間の当然の疑問は俺も抱いていた。

 しかし、あさぎの回答は俺ですらわからないものだった。

 俺では理解できない事だった。

 それが悔しい事だった。

 いっそあさぎに殴ってほしいくらいだった。


「あなた達は人を殺した目をしてない」


 決定的な一言だった。

 二人は観念するしかない。

 俺も黙るしかない。


「でも、まだ勝ち残ってる。今まで誰とも戦ってないってわけじゃないよね?」


 あさぎの質問に當間は答えた。


「僕の星座は蠍座で、能力が毒の付加なんです。それでつくしちゃんの能力が…」


「當間さん!」


 西村が止めた。

 それはそうだ、同盟を組むと決まってもいないのに能力をバラすなんてダメに決まってる。


「私はエリダヌス座、攻撃に特化。千鶴は蛇使い座で補助に特化してる!」


「おおい!?」


 バラしちゃった。

 こいつは本当に馬鹿だ、馬鹿だが。

 ある意味、効果的だ。

 これでは黙っていられない、沈黙を続けられない。

 同盟を組むという、決まってからでないとできない情報交換をあえて事前にする事によって、決まらなくても事前に名乗らなければいけない感覚に陥る。


「言わなくてもいいわよ、仮に聞かなくても能力値の上限向上ができてないあなた達に負けるとは思えないし」


 そして上からの目線。

 そうだ、彼らは倒していないと言っていたのだからどんなに経験値を積んでもDで止まってしまう。

 かたやこっちはCまで行っているのだ、単純に自力が違う。

 能力がわかっていても自力が違っては戦いになったら後込みしてしまう。

 これは二人にしてみてはプレッシャーだ。

 いや、本当にあさぎは頭が回る。

 馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、本当は賢いんじゃないか?


「いずれにせよ、戦うとなったらぶっ潰すわ!」


 そう思うのに、最後がチンピラみたいだからどうにもその賢さを信じられないんだよな。

 賢いっていうか、そうした方が有利になるっていう野生のカンが喋らせているのかもしれない。


「私の星座はペガサスです、そして能力はスピードに特化してます」


「俺の毒を当てた後、つくしちゃんにペガサスを呼んでもらってそれで逃げ回るってのが戦法なんだけど。毒じゃ弱らせても倒しきる事ができないらしくて」


「ああ、なるほどね」


 戦闘になったら毒を与えて後は逃げ回る。

 十分経てば逃げられるようになるから、相手としては毒に犯されたまま戦う必要はないから向こうも逃げる。

 コンビネーションとしては、とどめを刺すという気概さえあればかなり完成されたものだ。


 ……いや、これはいけるぞ。

 追いきれないほど早く動けるならば、俺が西村さんと一緒に逃げて。

 毒にして弱った相手をあさぎが決める。

 万が一の事態は俺が回復で治してやれるんだから、當間だってあさぎと一緒に戦える。

 考えてみれば完璧なチーム編成だ。

 これは同盟を組むというのもいよいよ現実味を帯びてきたなと俺は思ったわけだけど。

 あさぎときたら。


「えっ!西村さんの能力ってペガサス召還なの!?」


「え、ま、まぁ……」


「ペガサスって飛ぶ馬でしょ、羽の生えた白馬でしょ!」


「そ、そうですけど……」


「うわ、マジでかっけぇ! ってかペガサスって。私もそれが良かったわ! 主人公級の待遇じゃない、何だよエリダヌスって」


 マジ文句だった。

 それに本気でペガサスを羨ましがっていた。

 ……確かにペガサス召還の能力とか俺だって少し羨ましい、蛇使い座の回復能力も便利だけど、それとは違うロマンがある。

 


「今度乗せて!」


「い、いいですよ」


 あさぎの勢いに押される形で西村さんは思わず頷いてしまう。

 いや、そういう問題じゃねぇだろう。


「あの、それじゃ……」


 そういう問題にしたいから當間が割って入る。

 そりゃそうだ。


「おっけーおっけー! 同盟を組みましょうよ! ペガサス乗りたいし!」


「そんな理由で……」


「ジョークに決まってるじゃない、あさぎさんて面白い人」



 當間もあさぎのテンションに押されて引いてしまう。

 そして西村さんはあさぎのこの反応を好意的に解釈してくれているけど、素でそう思っているのは間違いないと思うぞ。

 こんな理由で纏められてしまうと、俺があれこれ考えた事やあさぎの話術に感心した事さえどうでも良くなってしまうじゃないか。


「じゃあ、俺も乗せてくんない」


「それは無理です」


 即答だった。

 西村さんは一刀両断という形で俺の申し出をぶった斬った。

 これは、ちょっと凹む。


「あ、いえ。すぐにはってだけでですね……」


 かえって申し訳なさそうに西村さんは続けた。


「その……えっと……」


「つくしちゃん、後でそれとなく俺から言っておくから」


「いえ、一緒に戦うなら。これは知っていてもらわないと……申し訳ないですし……それが原因でもしやられたりしたら……」


 消え入るような声で西村さんは続けた。

 そんな西村さんに助け船を入れるように、結論だけを當間は答えた。


「つくしちゃんは男性恐怖症なんだ」


 そうか、と納得した。

 つまりあの時、動けなくなったのは。


「私……学校で……男子に注意して……そしたら……後で……」


「もういいわ」


 あさぎが話を切った。


「つくしちゃんは悪くない、ごめんね。はしゃいで」


「いえ、いいんです」


 同じ女性としてしかわからない物がそこにはあったのだろう。

 つまり西村さんは、ソレを無かった事にするために戦っている。


「家から出るのも最初はできなくて、だから本当に最近なんです。一緒に行動できるようになったのは」


「當間さんは一生懸命おどけてみせて、私を元気づけてくれて。本当に優しくて良い人なんです」


「そんな事はないって」



「私の願いに比べたら當間さんのお願いなんて真似できないです、當間さん……子供の頃にお友達を何か難しい病気で亡くしてしまったらしくて……でも、當間さんのお願いはお友達を蘇らせるんじゃなくて、お友達がかかった病気の簡単な治療法の確立なんです。もう、友達と同じ病気で悲しい思いをする人がいないようにって」


 西村は涙ぐみながらそう言った。

 當間も涙くみながら気にするなと言った。

 確かにそこにはお互いを信頼する物があった。


「君、スゴいね……私も病気の友達を治したいってお願いだけどさ。そうは考えられなかったよ」


 友達の病気を治すという願いのあさぎには思う所があったのだろう。

 俺だって思う、個人の復活を願わずにそう願える當間の心の強さに。

 感心するしかなかった。

 感銘を受けるしかなかった。


「當間君、実は……」


 勝ち残りたいという意志が強くなる。

 二人に出会えて良かった。

 この出会いは俺達に覚悟以上の強さを与えてくれた、だからサバンナマスクとヨアンナさんの事を話した。

 紹介したいと思った。

 それから長く話した、世界の違いや些細な事や、将来の夢の事。

 當間善人は俺の世界の住人で、西村つくしはあさぎの世界の住人。

 當間君はこの戦いの願いじゃなくても、その病気に関われるように医大生らしかった。

 医大なんてお金がかかるから、普通の家じゃお金がかかって大変だった事。

 この戦いが始まる時に住んでいた、参考書と中古のテレビくらしか物が無かったボロアパートが燃えてしまって、大家さんの入っていた火災保険から出た金額が膨大だった事。


 他にもいろいろあったけど、何を話したか覚えてない。

 これで俺達のチームは十名。

 そして少なくても、もしヨアンナさん達とサバンナマスク達と戦う事になっても、俺たちは俺たちで戦える。


 歳が近いのもまた良かったと思う。

 お互いに無い部分は補える、そう感じていた。

 そう確信した。


 家に帰って眠り。

 翌朝、サバンナマスク達とヨアンナさんにその二人の話をしようと思っていた。

 朝、起きて端末を目にすると。



 端末に増えたはずの二人の名前が文字化け(・・・・・・・・・・)していた(・・・・)







 當間善人

 星座の加護 蠍座


 西村つくし

 星座の加護 ペガサス座


 能力値は共に不明、両名共に死亡。


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