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星のアスクレピオス  作者: 面沢銀
前半パート  星へと至る予選編
12/66

とても仲のよい打算関係。

 その9

  とても仲のよい打算関係。



「もうこの予選はおそらくそろそろ終盤戦デス」


「ええっ、もう!?」


 ヨアンナさんの言葉にあさぎは驚いた、というか俺も驚いている。

 開始一ヶ月、最終的に六十四人が残るという事は残りの人数で換算するなら既にもう七十人くらいが脱落したという事になる。


 早いようで、そうでもないのかもしれない。

 俺と会う前にあさぎが一人、俺と一緒になってから土田を既に倒している、それとサバンナマスクが二人。

 この同盟間だけで最低でも四人なのだから、同時に進行しているからにはむしろそれくらい進んでいるといった方が妥当だろう。


「私達も一人倒してマスしね」


「私の協力者も二人倒してるはずだよ」


 訂正、この同盟間だけで七人倒している。

 つまり、十分の一を俺達が排除した計算になるわけか。


「私の持つ情報デハ、なんだかある一組が五組を撃破しているソウです。とんでもナイ奴がイマスね」


 さらにスゴい奴がいた。

 つまり十人を倒した奴がいるのか、あまり遭遇したくはない相手である事には間違いないけど。

 運がよかろうが悪かろうが、いずれは戦わないといけない存在だ。


「ただ、ここまではいいペースで減テきましたが。これからはそうはいかないデス」


「つまり?」


 サバンナマスクが首を傾げる。


「今までは、私もソウですが出会ったから戦う。みたいな流れデシタ。でも、今残テる人はもうこの戦いのルールを把握している人です。なら現状で成長のゲンカイまで伸ばしてから戦いを挑むホウがいいデス。先ほど、私も言いマシたがこれからは情報戦デス。パラメータ的なところも重要ですケド、相手の能力を知テタ方がゼタイにいいです」


「つまり、接触はするけどすぐに戦いにならない?」


「デスね。結果トシテ、私達みたいに共闘をしている人も出てくるハズです。そして一番怖いのがこのパターンですネ。多対一で戦える私達のメリットが無くなるワケですから」


「でも、その場合は相手がバラケている時に挑めばいいのではないか?」


「ノー、サバンナさん。条件は私達も一緒デス。それこそずっと一緒に皆で行動シナイといけません。世界が二つもあってさらに一緒トカ不可能です。サバンナさんだって興業がアルでしょう?」


「いや、でも。この際はそうするしかないんじゃないか?」


「ノー、千鶴。理想はソウですけど、そうなるとレベル上げが非効率です。エネミーを倒してもEXP得られるのは倒した1組だけ。一緒に行動してレベル上げをシテタラ、相手のレベルが先に上がってしマテ、それこそ太刀打ち出来ない状態で戦う事にナルヨ?」


 確かにそうだ。

 このゲーム、本当に良く出来ている。

 共闘さえも許さない造りに最初から出来上がっている。


「よくわかんないけど、今まで通りってこと?」


 いや、そこはわかってくれよ。


「今まで通りレベル上げを続けて、戦う時には戦う。それで戦う時には皆に相談。そういう形かな」


「なるほどねー。私ってばさよくあるバトルロイヤル漫画みたいに次々に私達に挑戦者がやってくるような感じでいたんだけど」


「コミックやゲームじゃないんだかラそんなに都合よく自分のレヴェルに合わせた敵は続けて来ないデス」


 その通りだ。

 引き延ばしとか、主人公が劇的に強くなる展開とか、切った張ったの殺し合いなのだ、ライバルキャラだって出来ようがない。

 そんな物はそれこそ脚本がある世界だ、シナリオがある世界だ。

 実際の進行なんて、地味で唐突で、そして愚直に強くなるしかない。

 そんな当たり前の事をやっとあさぎが理解してくれたところで、サバンナさんが俺も思っていた事を聞いてくれた。


「ところでヨアンナさん、あなたのパートナーは? 共闘するのはいいのだが、パートナーに合わせてくれないと。どんな人かがわからない方と共闘とは難しい」


「オーケィ、もちろん会わせるよ。どんな人というと、ちょっと困るけど。大丈夫、見た目は怖いけど優しいしジェントルマンだよ。ただ、このお店には入れないからネ。そうだ、あさぎ達の協力者と一緒にご対面にしまショウ。いつ帰ってクルの?」


「来週には帰ってくるよ」


「オーケィ! それじゃ、その時は私のマイハウスでお会いしましょう。その時に伝えたいを全部話マス。ま、今日は親睦会ってコトで飲めや歌えシましょう」


 ってなわけで。

 主にあさぎとヨアンナさんが飲み散らかして大騒ぎした。

 どんちゃん騒ぎってのはああいうのを言うのだろう。

 意外だったのはサバンナマスクはあまり多く物を食べない。

 プロレスラーとかモリモリと食べるイメージがあったのだけど、決してそうではない。

 食べる量を決め、メニューを決め、栄養を決め、時間を決め、それらを繰り返す。

 ストイックな生活の果てにその身に宿る戦う為の体。

 食欲、性欲、きっと時には睡眠欲さえも押さえ込むであろう日常、人間の三大欲求を堪え忍んで続く生活。


 機械的に続けられる、まさに修行のような生活を支えるモチベーションはファンを楽しませるという物に尽きる。

 常に誰かのために戦う。

 だけど、突き詰めていくと世の中はそうなのかもしれない。

 家を支えるサラリーマンのお父さんだって家族を守るために働いている。

 戦っている。


 家ではのけ者にされようとも、バカにされようとも、ありがたみなど感じてもらえなくても。

 声援など無くても。

 サバンナマスクのように、その姿はまるでヒールだ。

 誰よりも正しく、それでいて優しく、それを日常化して。

 戦っている。


 この戦いもそうなのだろう。

 相手の願いを叶えるために戦う。

 それを正しいと信じ、それ故に苦悩し、それを非日常と受け入れて。

 戦っている。

 戦っていける。


 ……俺がそんな哲学めいたかっこいい事を考えている隣では。

 半分、俺の肩によりかかったへべれけになったあさぎの姿があった。


「ういー」


 完全な酩酊状態だ。

 こいつのために戦うの止そうかな。

 なんだったら無い乳の一つでも揉んでやろうか?

 しないけどね、でもそんな事まで考えてしまう実に情けない姿を晒していた。

 これも俺に対する信頼の形なのかな。


「みゃー」


 いや、やっぱり何も考えてないんだろうな。

 俺がしっかりしないと。


「星空同盟参上!」


「ちょっと!?何その名前に変なポーズ!」


 俺が決意を新たにしたところで、その二人組は唐突に現れた。

 いや、唐突すぎてちょっと困った。

 困ったというか、呆然としたというか呆気にとられたというか。

 とにかく面白い事しようとして、盛り上げようとして滑りに滑った奴が。

 単純に馬鹿が、変なポーズで登場した。


 例えば空から降ってくるとか、幽霊のようにいきなり現れるとかしてくれたらなこっちも反応してやれるのだけど。

 路地裏から安いおばけ屋敷のようにわっと飛び出してきただけというのが何とも目も当てられない。

 それなりにまぁ、イケメンで体操のお兄さんのような爽やかな顔立ち。

 着ている服もそれなりに大人しい感じだけど、なんだか忍者みたいに顔を半分隠したロングマフラーが、これまた中途半端なキャラ付けをしていて突っ込みにも困る。


 で、この兄ちゃんに突っ込みを入れるように出てきた女子高生。

 中学生よりは大人びているから、きっと女子高生。

 制服姿だから間違いない。

 少し癖があるような跳ねたおかっぱに縁なし眼鏡、厳しい物言いもできる系の現代型委員長。


さそり座の當間善人とうまよしと! 君は?」


「えっと…瀬賀千鶴です…」


「初めまして、西村にしむらつくしです」


 蠍座とか十二星座の一つだしとても強そうだけど、果たしてこのキャラクター性はいかがなものなのだろうか。

 そもそも最初から星座バラしたらイカンだろ。


「それで何の用なの?」


「君達を星空同盟に勧誘しようと思って」


「……はあ」


 気のない返事をするしかない。

 キャラクター性に気圧されているからではなくて、同盟関係を持ちかけるのが日に二回もあるっていうのに少し驚いているからだ。

 ヨアンナさんの話を思い出す。


 予選は既に終盤戦、そういった関係を作る人たちが出てくるかもしれないという事を。

 ならばヨアンナさんの言葉は的を射ているのだろう。

 俺はここをどう判断したらいいのだろう、もしもこっちのなんたら同盟の方が荷担して吉だというのなら、それも有りだ。


 考え方としては俺達となんたら同盟の合併という選択肢だってありえないと言い切れない。

 枠がオーバーしてしまうのならば論外だが、いずれ戦う事になるとしてもここで相手の戦力を探っておくのは不利益じゃない。

 するとまた舌戦になるわけだが……。

 果たしてコイツ等は話が通じるのだろうか、西森さんはともかく當間に関しては溢れる馬鹿臭が凄い。


「そのなんたら同盟っていうのに……仮に入ったとして俺達にメリットはあるの?」


「えっと……ほら、仲間は多い方がいいし……」


 あれ?

 何か慌ててるぞ?


「その理屈はわかるけどさ、現状では俺と君って敵だってわかってる?」


「はい、だから一緒に戦えればなと思って!」


「だから、そのメリットは?」


「えっ?」


「えっ?」


 思わず聞き返してしまう。

 まさか。

 いや、まさかとは思うけど……。


「もしかして本気で何も考えてないのに声かけてきた?」


「違います! 違います! あの、じゃあ分かった! 僕たち敵じゃないです!」


「何がわかったの? 敵だよね?」


「敵だけど敵じゃないです? オーケィ?」


「ノー」


「何でノーなんすか!」


「何でって、そういうルールだし」


「本当、そうですよねー」


 納得しちゃったぞ。

 それはそれで困るな、煽りすぎて本当に戦闘になったらあさぎがこの状態じゃ戦い難い。


「じゃあ、交渉決裂ですか?」


 俺と當間との間に割って入るように、西村つくしが平坦な声で言ってきた。

 そして、西村つくしの手には。

 街灯のほの暗い光をキラリと反射させる金属が!

 もっと正確に言うなら、いつだったか若者の所持が問題になったバタフライナイフが握られていた。

 見た目が委員長みたいな大人しい姿だから油断していた。

 むしろ最近の傾向はそういう子の方が危ないキャラが多い気がする。

 くそっ、漫画やアニメで得た知識を生かせなかった。


 またしても、警戒を怠った。

 大人しそうな見た目と相成って、アンバランスに映るそのナイフを持った西村の様子はサバンナマスクと初めて対峙した時とはまた異なる恐怖がある。


「いや、ちょっと! それをしまって! 」


「どうしてですか、あなた敵なんですよね? 対しているのだから防衛手段を用いませんと」


「いやいやいや!この人の言う通りだよ! つくしちゃん! それをしまって!」


「えっ?」


「えっ?」


 思わず當間君と目を合わせてしまう。

 俺が慌てるならまだしも、どうして當間君まで慌てるんだ?


「つくしちゃん! そういうのはダメ! 絶対!」


「どうして? れはそういう戦いでそういうルールですよね?」


「本当、そうですよねー」


「いやいやいやいや」


 依然として、物騒この上ないナイフを、ホラー映画の動く人形のように構えたままの西村と引け腰の當間の会話に思わず突っ込みをいれてしまう。

 俺はそういう事をしている場合じゃないだろ。

 當間もまたそこで納得している場合じゃないだろ。


「ますます意味がわからないんだけど、君達は何なの?」


「このゲームの参加者です」


「いや、それはわかってる。そういうのいいから。」


「お命、頂戴します!」


「まてまてまてまて!」


 あさぎを抱えて後ずさりする俺に対してナイフを振りかぶる西村さん。


「本当に待ってよ!つくしちゃん!」


 それを後ろから羽交い締めにするように當間が止めに入ると、西村さんはビクンと体を反応させるとナイフを落とし。

 そのまま地面にしゃがみ込んでしまい、自分の身体を抱きしめるようにガタガタと震えだしてしまう。


「あ、あわわ。ご、ごめんよつくしちゃん……あぁ、もう!こんなはずじゃ……こんなつもりじゃんかったのに……」


 少し先ほどとは違った様子で當間は頭を抱えると、真面目な顔で當間は続けた。


「あの、本当にごめんなさい。こいうつもりじゃなくてですね。えっと、メリットとかって言われちゃうと。本当、僕達にしか無い話なんで……あの、それでも……。本当にそれでもで良くて、ちょっとでも今の話を考えてくれるなら。また会ってくれませんか?」


 真摯な、それでいて切実で、しどろもどろになって懇願する當間の様子に俺は少し圧倒される。

 その様子に少し言葉を失うが、それでも今の當間の言葉の違和感には気がついた。

 僕達にしかメリットが無い。

 それはおかしい、同盟を組むという以上は成立さえしてしまえば一定のメリットは確立されるのだ。

 なのに當間はそれを感じていない。

 むしろ考える余地もないという様子だ。


 それは第一印象である馬鹿だから気がつかないというものではなく、馬鹿だからこうしかできないという正直さがあった。

 西村の様子もおかしいし、あさぎだってこんな状況だ。


 答えが出ない。

 答えが出せない。

 だからといって約束をする必要はなく。

 俺は考えておくと曖昧な事を言ってその場を離れた。



 

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