間違い探しで遊びましょう。それでどっちの絵が間違ってないんですか?
その7
間違い探しで遊びましょう。それでどっちの絵が間違ってないんですか?
そろそろヨアンナ・有村について話そうと思う。
きっと最後の最後まで。
きっと最期の最期まで。
この戦いに貢献して、反逆して、反旗を翻した偉大なる女性の存在は僕達の戦いの軌跡をなぞる上で。
謎を解き明かす上で絶対に必要な人物である。
初めてヨアンナさんと出会ったのは五月五日の子供の日で間違い無い。
四月の始め頃にこの戦いに巻き込まれ、約一ヶ月の頃の話だ。
その当時、どこに新婚旅行に行ったのかさえわからないあさぎの協力者についての興味関心がほとんど薄れてしまい。
黙々とレベル上げにいそしんでいた僕達と、当然のように、そして必然的に出会う事になったのは日本体育館での事だ。
俺の世界で言うところの日本武道館で、確かに俺達の世界とあさぎの世界は似ているものの若干違っていた。
鏡合わせのようで、決してそうではない。
間違い探しの上級編でもやらさえているような、違和感を感じない差異が随所にある。
慣れた今ではそれさえも感じなくなってしまい、気を抜くと自分がどっちの世界にいるのか戸惑ってしまう。
もっとも、その頃はその違いに戸惑っていた頃の話なんだけど。
「ちょっと待って、えっ!? そっちではSAGEジュピターじゃないの?」
「木星じゃなくてこっちは土星だった。あと、名前はサゲじゃなくて俺の苗字と同じ」
「話を聞けば聞くほど、違和感を覚えるわね……。私のところじゃハード戦争はプレイエアポートとか光の早さで消えていったのに!」
「語呂悪ッ! その名前は確かに消えるな!」
「ゲームでの二強はPCEXとジュピターがガチンコだったよ!」
「よりによってそのハードがトップ争いに巻き込まれたんだ!」
「人外魔境シリーズはマジで名作! あれが出るハードっていうのはやっぱり強かったのよ!」
「こっちでいうそれも名作だけど、こっちのソレはそのハード出るはずだったけど開発中止だったぜ!」
「マジなの!? でも、そういうのが起きてたっていう時期は一緒なのが不思議よね」
「なんか話を聞いてるとそうだよな、こっちもどかで歯車がズレれば起きてもおかしくないってところが特にそうだよな、そっちってFFとDQってどうなんてんの?」
「FFってファイナンシャル・ファンタジーの事?」
「株式投資のゲームっぽくなっちゃってる!?」
「DQはドラマチック・クエストの事よね?」
「そこはあんまりニュアンスが変わってないんだ!?」
「出してる会社が前に合併するって大騒ぎになったわよ、合併後の名前はスク☆エニ」
「萌え4コマみたいな名前になってるな……馬鹿ゲーとか出してそう」
「馬鹿ゲーは出てないけど、過去の名作を食いつぶしている今のやり方にちょっと古参のファンは呆れてる感じだね」
「そこはこっちの世界でも同じだ」
「なんとも不思議な感じね、名作といえば私って無双シリーズが好きなんだけど、まったく新しいの出してくれないのよね」
「こっちは無双しかでないぞ、最近では戦国でも三国でもなくなってるし」
「いいなー、こっちはうざったいくらいに秀吉の野望が出てるわよ。最近は秀吉だけじゃなくてハンニバルの野望とか赤穂浪士の野望とかも出てるわ」
「赤穂浪士の野望とか吉良邸に討ち行って終わりじゃねぇか!」
「そこまでの地味な積み重ねをシミュレートするのよ! 最初はよくできてるなーって思ったけどシリーズやる事がいっしょでね。最近は赤穂浪士の一員にマンガのキャラとかロボットがゲスト参戦してたりするのよ」
「やる事が一緒って聞くと無双と同じだなって思うけど、そっちのそれも結構面白そうだな」
「っていうか、歴史上の登場人物の名前は同じなのね?」
「やってる事が違ってたりするのか?」
「うーん、織田信長って本能寺で死ぬ?」
「死ぬ死ぬ、余裕綽々で明智に裏切られる!」
「うーん、同じっぽい……。お互いの世界の違いがよくわかんないね。っと、そろそろ行こうか」
何処に何をしに行くかというと、サバンナマスクさんの試合を観に日本体育館まで足を延ばそうというのだ。
大会名はN1センセーション子供の日大会。
Nはニトロに略らしく、それぐらい危険で刺激的な旋風が巻き起こる、というような触れ込みなのだと考えていた。
そんな大会名に子供の日大会という、ずいぶんとアットホームな名前を副題にするのはちょっとアンバランスだと思うのだが。
アンバランスといえばあさぎの世界も基本的に地名は変わらないし、駅名も変わらない、本当にちょっとした事しか変わらないのが違和感といえば本当に違和感で、何も感じない。
何も感じないという点においては、このプロレス観戦というイベントに関しても俺は特に何も感じていなかった。
好きか嫌いかと言えばどちらでもない。
だから足を運ぶ事に関しては面倒だとは思わないけれど、進んで早足になるかというほどでもない。
付き合いという奴だ。
ただ、隣のあさぎのテンションが最高に高まっているのだからそれに水を差すのも野暮ってものだろう。
「さぁ、最高にテンションがあがってきたわよね千鶴!」
「ソウダネ」
「リングサイドとかマジで感激だわ! サバンナさん様様よね!」
「ソウダネ」
「やっぱりパンフレットとTシャツだけじゃなくて、スポーツタオルも買った方がいいかな!?」
「ソウダネ」
「やっべ! 楽しみすぎて試合が始まる前にコーラ全部飲んじゃったよ!」
「ソウダネ」
本当に楽しみなのだろう、すっごい高いテンションであさぎは続ける。
正直ウザイ。
適当に相づちを打ちつつ、周囲を見渡すと意外な事に席の入りはまばらだった。
試合開始まであと三十分もあるのに、この席の空き具合はどうなのだろう。
あさぎの隣の席もまだ埋まっていない。
健太君が来るというわけではない、健太君は何でも楽屋にいるらしいのだ。
特別待遇だなー、と思いつつもサバンナマスクは何と言って健太君を楽屋に招いているのだろう。
普通に親戚の子とか、言ってるんだろうか。
などと、至極どうでもいいような事を考えながら俺は適当にあさぎに相づちを打っていた。
ボキャブラリーとしては「ソウダネ」「ナルホドネ」「ソレハスゴイネ」の三パターンのヘビィローテショーンなのだけど、あさぎは馬鹿である事とテンションが上がりすぎて冷静に物事を考えられなくなっているのでそれに気がついてもいないようだった。
ここまでくると気の毒な子だ。
ファミコンのアドベンチャーの受け答えだってもうちょっとまともで気の利いた返事をしたと思うのだけど。
などと思っていたらみるみると席が埋まりはじめた。
どうやら直前にどんどんと席が埋まるのがプロレスらしい。
確かに前座とかが無いのだからそういう物なのこましれない。
いや、第一試合が前座っていうのか?
うーん、そういう日常生活で使えるうんちくをあさぎは説明してほしいものなのだけど。
すると、あさぎの隣の席が埋まった。
俺も、さすがにあさぎも目を奪われる。
すらっとした足が映える黒のホットパンツに、銀ラメのスニーカー。腰にオレンジのジャージを巻いてい、白地にドクロがプリントされたキャミソール。
そのキャミソールという脆いセキュリティーではそのたわわな胸は隠しきれないばかりにもりあがっていた。
いや、小さい方が好みだけどこえはこれでガン見する。
見ざるを得ない。
見ないといけない! 男として!!
いや、まぁね……。
胸にも目はいくけど、どうしてもそのズレにズレまくった色彩センスもそうだけど。
何といっても明らかに日本人ではないという点も、日本人としては気になる。
ナチュラルなブロンドをポニーティルに縛り上げ、その金髪と赤い眼鏡のコントラストも実に視線を奪う。
「いやー、良かったマニアタヨ! ショッピンはどうしても時間ワスレルネ!」
胡散臭い日本語だった。
何だろう、西洋人の間違った日本語イントネーションというより日本人がふざけて中国人の真似をするような。
この人が日本語わからないアルヨとか言い出しても違和感の無いような。
そもそも英語の発声が日本人だ、ぜんぜんナチュラルな感じではない。
「ハーイ、ナイストゥーミーチュー。私はヨアンナ言いマース。ヨロシクネー、アサギ&ハンサムボーイ」
友好的に握手を求めてくる女。
ヨアンナと言ったかこの女、あさぎもなんとは無しに握手に応じるが違和感を感じている。
そして、思い出す。
ヨアンナ・有村。
あさぎの端末に名前があった一人だ。
あさぎも気がついたのか取った手を乱暴に放した。
「ノーノーノー、誤解しないでくだサーイ。ワタシ、あなたターチと戦いに来たわけでないデース。むしろその逆デース」
ヨアンナは外人らしいオーバーなボディーパフォーマンスをしながら、おどけてそう言った。
「ハンサムボーイはアサギのカレシ? それともパートナー? ワタシのパートナーは今、イマセーン。ちょっと会場には入れないパートナーなのデ。それは今日はイイですよね、オッケィ、始まりマース。楽しみマショウ!」
そしてアナウンスが流れ、派手な演出の後。
第一試合は始まった。
客席はいつの間にか満席だった。