表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/21

一日目(3):守護霊の悩み

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………』

 多分、今まで生きてきた中で一番長いため息をついたであろうぼくは、公園のベンチに座っていた。いや、ベンチの上に浮いていた。座ろうとするとすり抜けてしまうし、浮いていることは特に疲れるわけでもないからだ。

 公園にある大きなアナログ式の時計台を見る。時計の針は四時ちょうどを示していた。

 もう学校の授業は終わっている。帰宅する者は帰宅し、部活がある者は部活、遊ぶ者は遊び、塾がある者は塾。各々が勝って気ままに過ごせる時間帯。そんな時間帯に、ぼくは何で公園にいるのだろう?

 もしかしたら、黒丸が追ってきてくれると思っていた。

 もしかしたら、白丸が止めてくれると思っていた。

 もしかしたら、怜音に《赤い糸》を引っ張られると思っていた。

 ――だが、そのどれもが無かった。

 ぼくが速く飛びすぎたせいもあるが、それにしても、誰かに強く引きとめて欲しかった。ぼくが怜音たちにとって必要な存在であると、示して欲しかった。

『何のための守護霊だよ』

 梨恵や京介からも存在を認識されず、怜音たちからも必要とされないぼくの存在は、守護霊じゃなくてこれじゃ浮遊霊みたいだ。

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………』

 また、長いため息が出た。死にたい気分だ。……もう死んでいるけど。

 そしてまた、無性に腹が立ってきた。誰に対してか分からない怒りを、とりあえず物にぶつけてみることにする。

 ぼくはベンチに右ストレートをぶちかました。

 見事にすり抜けた。

 今度はゴミ箱を蹴り飛ばした。

 見事にすり抜けた。空振りの反動でこけそうになった。

 虚しさが心を包む。

 何やってるんだろう、ぼく?



 その時ふと、自分の首に巻かれているものを思い出した。

 《赤い糸》。

 その端を持つべき人間は、今はいない。

 これは……チャンスだ。今なら、ほどいて捨てられる。

 そう思うやいなや、ぼくは首に巻かれている赤い糸を外そうとした。だが、これが思いのほかきつく縛られており、なかなか外すことが出来ない。

 ぼくはヨガでもやってるようなポーズをとりながら、懸命に赤い糸を外そうと噴悶した。

 ――余計に絡まった。

 その上、どんどん息が苦しくなってくる。

 ……ヤバイ。

 このままじゃ、文字通り『自分の首を絞める』はめになる。



 結局、ぼくは赤い糸を外すのをやめた。朝の時より余計に苦しくなったが、ぼくは外すのを諦めた。苦しいけど、我慢だ。自業自得だし。

 でも、この後どうする?

 このまま一生、首に巻きつく糸に苦しめられるのか?

 怜音に外してもらうのが一番良いが、あの女がただで外してくれるとは思えない。それどころか「もっと苦しませてあげる」とか言いそうだ。それに、あいつのところへ行くのは気が引ける。

 あんな啖呵を切ってしまった以上、『ゴメン! あれは冗談でした! あはは!』なんて言えるはずがない。男として。いや、もう男としてのプライドなんかズタズタのボロボロだけどね、怜音の前じゃ。

『…………あれ?』

 今、微妙に違和感を覚えた。

 他でもない、自分自身に。

 まるでこれでは、ぼくが怜音のことをよく知っているヤツのようではないか。……ぼくと怜音が会ったのは、昨日の夜だ。まだ一日すら経っていない。

 しかし、今、ぼくは怜音の性格を把握しているような考えをしていた。今だけじゃない。今日の朝も同様だった。同様の違和感を覚えた。

 ――彼女は、憂えている。

 彼女のなにが、ぼくに分かるというのだ。

 何も分かっていないくせに。

 まるで、頭の中に靄が渦巻いているようだ。全ての輪郭がぼやけて見える。大事なものがあることは分かっているのに、ぼやけた輪郭の中に埋没している。ぼくは手を懸命に伸ばし、大事なものに触れようとした。そこにあるかないかも、分からないのに。

 いつの間にか、記憶を探るような感覚の中に、ぼくは溺れていた。なぜだか分からないけど、彼女がもっと昔からぼくの中にいたような気がしたから。

 記憶の中で行き着いたところは、空っぽの暗闇だったけど。

 その時、眩いほどの光があたりを包み込んだ。考え事はそれによって強制的に打ち切られ、ぼくの意識は外側に向いた。そして、気づいた。



 元々、この公園は人の気が少ない。

 この公園も広いは広いが、この近くにもっとここより大きな公園があり、子供や母親たちは必然的にそっちへ流れていくのだ。遊具もそっちの方が断然多い。ここなんて鉄棒と砂場くらいだ。

 だから、四六時中、この公園はひっそりとしている。まるで忘れられた場所のように。

 そんな寂しい場所に、いつのまにか二人の男が立っていた。

 歳は二人とも二十代から三十代くらい。ヤクザのようなサングラスをかけ、さながら天使のように白い衣を羽織っている。それが二人の容貌にひどく不釣合いだった。いい歳した男が二人、天使のコスチュームを着たって、可愛くもなんともない。むしろキモい。それに、そのコスチュームとサングラスは不釣合いだろ。

 二人の男はぼくを見ている。いや、正確に言うなら、『ぼくの方』を見ている、か。

 二人の男は、ぼくに一歩近づいた。けれど、二人にはぼくの姿は見えていない。なら多分、このベンチに座ろうとしているのだろう。

『はいはい、どきますよ』

 聞こえるはずも無いのに、ぼくはそう呟いて、立ち上がった。


 ――刹那


 ぼくは後方へ吹き飛んだ。ベンチをすり抜け、公園に生えている木をすり抜け、公園と道路を隔てるフェンスにぶつかって止まった。

 蹴られた。あのヘンテコな天使もどきのコスプレ(なぜかサングラスをかけているけど)をした男に。

 ありえないことだ。霊であるぼくに触れられる人間は、怜音以外いないはず。

 けれど今、確かに蹴られた。その証拠に、腹部がズキズキと痛む。

 それに、ベンチと木はすり抜けたのに、フェンスにはぶつかった。霊なのに。

「瀬戸内浩哉だな?」

 二人のうちの一人が、そう言った。サングラスをかけているので、目が窺えない。ゆえに、何を考えているのかがまったく分からない。

『ぼくの姿が見えるのか?』

「当たり前だ。……私たちは、あの世の使者だ」

 あの世の人間か。ならば、ぼくの姿は見えているし、声も聞こえるはずだ。触れることだって、可能だ。

『ぼくを迎えに来たのか?』

 このままあの世に連れて行かれるのだろうか。

 しかし、男は首を横に振った。

「違う……」

 白い衣が翻る。

「貴様を殺しにきたのだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>SF部門>「今日から守護霊!?」に投票 「この作品」が気に入ったらクリックして「ネット小説ランキングに投票する」を押し、投票してください。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ