三日目(2):剣閃舞い乱れる
黒丸は荒々しく吼え、敵に突撃した。敵が避けて半分に分散すると、黒丸は片方のグループを壁に追い立てるように体の向きを変えた。
なるほど。残り半分はぼくのノルマというわけか。
ぼくは改めて敵を見た。黒丸が半分に分けたため、ぼくの担当は二人だけだ。
忌々しいほどの白い天使のコスプレに、威圧的な黒いサングラスの二人組。よく見てみると片方は男で、もう片方は女らしかった。女の方は髪が長い。
横目で見ると、黒丸の方は既に戦闘が始まっているらしかった。黒丸の咆哮が地を震わす。
ぼくは意を決し、日本刀の形状になっている右腕を構えた。
まずは手前にいる男の方に斬りかかった。地面を飛ぶように蹴り、右袈裟に腕を振り切る。しかし、全体重を込めた一撃は空を切った。男は半身を逸らし、鉈のような形状をした右足を蹴り上げてくる。ぼくはその蹴りを軽くかわすと、隙のできた男に一撃を与えようと振りかぶった。
しかしその瞬間、視界が光に包まれた。
咄嗟に、ぼくは地面を転がるようにして二人から距離をとった。一刹那後、一筋の光が頭上を掠めた。
――光の矢だった。
矢は宇宙を駆け巡る彗星のように光の尾を引き、目の前に鮮やかな残像を残した。それは女が撃ったものだった。
だが、見とれている暇は無い。間髪入れず鉈の舞が飛んでくる。それらを右腕でいなすが、またも飛んできた光の矢に体勢を崩された。
『クソッ!』
このコンビ、強い。接近戦の鉈に、遠距離戦の矢。……黒丸のヤツ、敵の分け方間違えてんじゃねぇか。
その時――
考え事をしていて気が緩み、迫ってくる光の矢に気づかなかった。慌てて右腕を胸元に持ってくる。光の矢を、全身で受け止める。
正面から大砲の弾を受けたような衝撃が体中を走った。右腕が痺れ、日本刀の形状が崩れる。そこへ間断なく鉈が襲い掛かった。
刹那、マグマのような灼熱が全身を貫いた。
しかし、それは痛みではなく、漲る力。燃え滾る生命のエネルギーが首から流れ込んでくる。
赤い糸を伝って。
『サンキュ! 怜音!』
激しい力の奔流が首から全身へ伝わる。流れ落ちる滝の音を体の中から聞きながら、ぼくは振りかざされた鉈を左腕で弾いた。男が怯んだ隙に、日本刀の形状を取り戻した右腕で右袈裟に切り裂く。
そして同時に飛んできた光の矢を弾き落とし、女まで一気に距離を詰め、今度は左袈裟に切り上げた。
あの世からの使者は声も上げずに倒れた。一瞬の出来事だったので、おそらく何が起こったかすら気づいていないだろう。
ぼくは倒れた二人を眺め、ほぅと息をついた。高まっていた動悸も、今は少しだけ落ち着いていた。幽霊でも、激しい運動は辛いものだ。ぼくは顔を上げ、黒丸の方を見た。
彼はまだ戦っていた。しかし、残っている敵は一人だけ。あとの二人は既に倒されている。
『終わりだ!』
黒丸が高らかに吼え、宙に飛び上がった。鋭い爪を立て、敵に襲い掛かる。そして為すすべも無く、敵は黒丸によって押し潰されてしまった。
黒丸はしたり顔で、ぼくを見た。久々に暴れられて、相当嬉しかったようだ。
『まあ、なんかぼくらの勝ちっぽいね』
ぼくは振り返って怜音を見た。彼女は相変わらずにこりとも笑わず、「勝つのが当たり前でしょ」とでも言いたそうな顔をしていた。
……それでも、その表情はいつもより穏やかだったと思う。
三日目終了
残り二日