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零日目(1):その女、天乃川怜音

この小説を書く際、けっこう色々なことにチャレンジしました。内容的にはSF&恋愛(?)といったところでしょうか。読んでいただけたら幸いです。

 まさかこんなことになろうとは思っていなかった。ありえない。こんなの、ありえない。認めない。認めたくない。けど、認めざるをえない。だって、証拠はぼくのすぐ目の前に横たわっているから。

 それはぼくの死体。

 倒れたぼくは、ぴくりとも動かない。絶望と恐怖と諦念と疑念の入り交じった目を見開き、口を阿呆みたいにぽかんと開け、九月末の冷たい風が吹き抜ける寒空の下、コンクリートの道路に大の字に寝そべっている。そして、腹には一本のナイフが突き刺さっていた。

 そのナイフが、ぼくの死因だった。

 それはさっくりとぼくの腹に突き刺さり、服を切り裂き、皮膚を貫き、内蔵を抉り、ぼくの生命を奪った。

 血は流れていない。よほどそのナイフが上手く刺さっているのか、それとも元々ぼくは血の通っていない人間だったかのどちらかだろう。しかし、血の流れていない死体は、ひどく滑稽なものだった。

 小説や漫画の冒頭で、こんなにもあっさりと殺された主人公など、前代未聞だろう。これから剣を握って敵と戦ったり、可愛いヒロインと旅をして世界を救ったり。そんな空想、妄想は塵も欠片も存在しなかった。冒頭にして物語終了だなんて、文字通り、お話にならない。



 それにしても、自分の死体が拝めるなんて、滅多に無い経験だ。そしてもう、二度とないだろう。

 死んだのだ、ぼくは。

 ということは、今のぼくは幽霊だ。

 自分の、幽霊としての姿を見てみる。わりと普通だ。色素が全体的に少し薄くなった感はあるが、服も着ているし、足もちゃんとある。到底、死んだとは思えなかった。

 でも、これだけ目の前に死の証拠が残っているのだ。否定しろというほうが無理である。

『マジで死んじゃったのかよ……』

 ――いや待て。

 ぼくは自分の思考にストップをかけた。死んだという事実よりも、まず《何が起こったか》を調べるのが先決なんじゃないだろうか。だいたい、何で腹にナイフが突き刺さっているんだよ。他殺だろ、これ。

 すぐに、ぼくは死ぬ前の記憶を呼び起こした。

 たしか、今日も退屈な学校が終了し、流行のテレビゲームをやろうと小走りで家に帰った。テレビゲームに熱中すること数時間後、夕食を食べた。そしていざゲームの続きを、と思ったら、明日の学校でA4のレポート用紙が必要だということに気づき、急いでコンビニに買いに行った。この時、時計の針は夜の十時を示していた、と思う。レポート用紙を購入し、やっとゲームの続きが出来ると思って家路を急いだ矢先、

『刺されたんだっけ……』

 で、この有様。

 それにしても、誰に刺されたか、まったく覚えていない。気づいた時にはこうなっていた。

 はぁ。

 ため息ひとつ。

 ――普通、幽霊になったら成仏するしかないよな。

 ぼくは空を見上げた。日本全国に張り巡らされている闇を緩和ように、明るく輝く満月が見える。ぼくはまるでその満月に吸い込まれるように、現実から剥離していく感覚を覚えた。

 その時――

「やっと死んだのね」

 凛と張った声。自信と気品に満ち溢れ、どことなく高圧的。その声は闇夜の静寂を切り裂き、一直線にぼくの耳へと突き刺さった。

「こんばんは、瀬戸内(せとうち)浩哉(ひろや)

 暗闇の中から、一人の少女が姿を現した。



 美しかった。

 歳は十代半ば。月明かりを受けて銀色に輝く、流れ落ちるような髪。強い意志を秘めた二重の、琥珀色の双眸。華奢な体つきだが、弱々しさは微塵も感じられない。むしろ、その存在感は闇夜を葬り去るくらい、月光を寄せ付けないくらい、神々しかった。

「わたしは天乃川(あまのがわ)怜音(レイン)。浩哉、あなたをわたしの守護霊にしてあげる」

 その圧倒的な、有無をいわせない物言いに押され、ぼくはいつの間にか首を縦に振っていた。

 それが運の尽きだった。

 殺されるよりもよっぽどタチが悪い。

 ぼくの――彼女の守護霊としての生活が、

 こうして幕を開けた。


この小説は、既に最終話まで完成しています。なので、連載打ち切りはありません。基本的に週2〜3回の更新を目安に、全部で21話掲載予定です。

ぜひ、最終話までお付き合いください。

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