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足跡の理由  作者: 瓜葉
第1章 いつから、どこから?
9/42

その駅は危険地帯かも。

青春の真っ只中、受験生の俺達に夏休みは残酷だ。

毎日のようにある夏期講習。

冷房の効いた室内から屋外へ出る時の何ともいえない倦怠感。



去年までは、部活の練習でグランド走っていた。辛かったけど、楽しかったと思う。

汗かいて疲れ果ててベットに倒れこむ―――それって幸せだったんだ。


でも、今は感傷にひたっていられない。俺は、受験生だ。



志望校もいくつか見繕ってある。


化学と生物は好きだ。ひょっとしたら得意かもしれない、だから薬学部なんてどうかと思っている。

問題は、合格できるレベルまで勉強が追いつけるかということだ。




「幸平!」



後から声を掛けられた。振り向かなくても誰か判る―――沙耶だ。



「おまえも塾だったのかよ」



前を向いたまま答える。



「おまえもって、幸平も塾だったんだ」

「まあな」

「同じとこだったら良かったのに」

「やだ」

「なんで?」

「ったく、いいじゃないか、そんな事」



沙耶と一緒の塾じゃなくて良かったとつくづく思う。自分がどうしたいのか解らないから。



「それもそうね。私と一緒じゃない方がいいのよね、幸平は」

「別にそう言うわけじゃないけど」

「いいよ、無理しなくても。さ、早く帰ろう」


あっさり言う沙耶とこのまま帰るのはツマラナイ。


「腹減ったな、何か食べていかないか?」

「う~ん、どうしようかな」



そう言って沙耶は腕時計に目をやった。一瞬、キツイ表情を浮かべる。



「ね、私、行きたいところあるんだ。時間あるんでしょ?付き合ってよ」

「いいけど、どこ行くの?」

「行けば分かるよ。今日は土曜日だから、たぶんいる」

「いる?誰が?」

「煩いな、行くの?行かないの?」

「行くよ」



家に帰って勉強する!!!っていつもなら言う沙耶に何が起こったのだろう。

俺は訝しく思ったけど、その疑問を口にすることはなく沙耶の後ろから付いていく。




今、出てきた改札を再び通り、俺達は再び電車に乗った。

学校のある駅を通り過ぎて大きなターミナル駅に着く。



「ここで降りるから」



黙って頷いて俺は沙耶に従った。

あれから殆ど沙耶は話さなかったから、俺が一方的にサッカーの話だの、塾の変な奴の話だとかをして間をつないでいた。



無口なまま沙耶は駅前のロータリーに向かう。

その先はちょっと知られたホテル街。

俺は心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。



その時、歌声が聞こえてきた。アコースティックギターとキーボードの二人組みが切ないメロディーを奏でていた。



「中野裕也?」

「そう、ここで毎週土曜日歌ってるんだ」

「へー知らなかった。何で沙耶が知ってるの?」

「中野君から教えてもらったから、時々来てる。結構ファンがいるんだよ」



歌声に耳を傾けている沙耶の顔が微笑んでいる。

曲が終わって拍手が沸き起こった。俺も拍手を贈る。

中野が顔を上げ沙耶と目を合わして、それから俺に視線が向いた。


中野に冷たい顔をされたと思った。



ひょっとして沙耶との間に何かあるのだろうか?―――何かって・・・・・・・。



ギターの奴が何かを話して次の曲が始まる。

今度はリズム感の心地いい曲だったけど、好きな奴が振り向かないって内容で、中野が時々、沙耶に視線を向けるのが気になった。


隣の沙耶をチラリと見ると楽しそうに聞き入っている。

何度も聞いているのか小さく口ずさんだりして、俺は面白くなかった。



路上ライブが終わり中野と話す。



「井原が連れて来てくれたの?来てくれて、ありがと」と言われたので



「教えてくれれば、もっと早く来てやってたよ」

と、返した。


だけど俺の内心は疑心暗鬼でいっぱいだった。



「悪い悪い。あのガッコじゃ浮いてるからさ、俺。言いづらかったんだよ。おまえも受験生になったからな」


おまえも受験生だと思うぞと俺は心の中でつぶやいた。達観しているのかあきらめているのか、中野裕也って奴はよくわからない。




「今日もたくさん聞いてくれてたね。固定ファンも出来てきたみたいじゃない?」



俺の苛立ちなど知りもしないで、沙耶が微笑を浮かべて話すのもシャクに触る。



「まあね。今度、自主制作CD作ろうと思ってさ、そん時は二人とも協力よろしく」

「ああ、声かけてくれ」



中野の相棒が何事か話し出したのをきりに俺達は帰ることにした。



「いつから知ってた?」

「3年になって直ぐぐらい。偶然、ここで見つけたのよ」

「そうなんだ。結構いい歌、歌ってるじゃん」

「私もそう思う。それで時々、来てるの」


ここに来るまでの無口な沙耶とは別人のように機嫌が良くなっている。


横を歩く沙耶の気持ちが知りたい。

キスの感触だけが甦る。


俺達は手も繋いでいない。

ただの幼馴染のままなのか・・・・・・・。





「中野を好きなのか?」



唐突に俺の口から漏れた言葉。



「えっ?」



立ち止まって俺を見つめる沙耶。

怒ってる、そう解る顔をしている。




「サイテー!」


そういい残して沙耶は走り去ってしまった。




「沙耶!」



俺は名前を呼ぶことしか出来なかった。

伝えたい想いはあるけれど、言葉にすることが出来ない気がした。


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