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足跡の理由  作者: 瓜葉
第1章 いつから、どこから?
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ゴールは遠く

親父の足首はやはり骨折していて、ギブスをはめた不便な生活になった。

そうなると俺の家事の負担が大きくなる。

「受験生なんだけど」と一応言ってみるが反応はない。家族なんだから当たり前か。

もし一人暮らしになっても立派にやっていけると変な自信だけはある。



部活は最後の試合に向けて馬鹿みたいに燃えていた。

毎日、学校に行って、サッカーやって・・・その繰り返しで、あっという間にカレンダーは変わっていく。



でも俺はちょっとだけ変わった。あの日の沙耶に刺激され、少しは机に向かうようになったのだ。


高校を出て就職しようとするほど気概もないし、今更どこかの推薦も狙えないから受験するしかないだろう。

取り合えず大学に行って、それからもう少し広い視野で自分の将来を考えたいなんて――結局は親の脛をかじらせてもらうことにしたのだ。





いつの間にか雨の季節になり、いよいよ明日が試合だ。


帰りがたまたま一緒になったので、明日試合だと沙耶に伝えると、

「どことやるの?」と聞かれた。


「F大付属」と、答えたが、サッカーに興味ない沙耶は「ふ~ん」と言うばかり。

だから俺は優勝候補の一つだと教えてやる。


「そうなんだ。大変だね」

ってまるで他人事。そりゃ他人事だけど・・・勝ちたかったのに相手が悪い。

抽選で組み合わせが決まった時の落胆を思い出し、俺はブルーな気分に包まれた。


俺の気持ちに気付いたのか


「そんな顔しないでよ。勝てますようにって祈っておいてあげるわよ。

 それに万が一でも勝てるかもしれないじゃない。頑張ってね」と励まされた。


「頑張るよ」と答えたものの俺は少し寂しい気持ちだった。

見に来てよって言葉が頭の中を過るけど、それを口にすることはなかった。



そして俺たちのサッカーの試合。


梅雨だというのに嫌になるほど晴天で、それでも俺達はボールを蹴って走り回った。

滝のように流れ落ちる汗が時々に目に入る。

さすがに優勝候補に挙げられるチームらしく、パスもドリブルも上手く技術の差が歴然としていた。


でも俺たちにだって意地がある。何とか1点を取りたいとみんな必死で走りまわる。

これが俺たちのサッカーだ。進学校だってなめるな!体力強化をするために地道な基礎練習を頑張ってきたんだ。

前半はゴールを死守し、何度かチャンスもあった。ゴールポストに当たるシュートもあったのだ。

あと少しで点が取れそうだった。


しかし、後半になると、相手チームのペースにはまり俺達はバテて行く。

必死に守ったゴールを2度も奪われた。


ゴールが遠い。

結局2-0で試合終了のホイッスルが鳴る。



終わった・・・・・・・・グランドに倒れこむように横になり空を仰ぐ。






部長の浅野が俺に手を差し出してきた。


「終わったな」

「ああ」

「勝てそうだったのになぁ」

「ああ」

「3年間、お前とサッカーやれて楽しかったよ」

「俺もだ!」


汗だくになったユニフォームを脱ぐ。

浅野も脱いで上半身裸のまま俺達は、もう一度グランドを走った。

ふと見上げたスタンドに沙耶がいた。


「沙耶?」


気が付いて声を掛ける。


「図書館に来てたから・・・・・・残念だったね」

「ああ」

「じゃ、帰るから」


踵を返して出口に向かう沙耶の目が潤んでいた気がする。


「ありがとな!!!」


気が付かないフリをして俺は背中に声を掛けた。






地区予選に敗退しておれたち3年生は引退した。


毎日、暇になり、お袋に何気なく塾にでも行こうかなと話した途端、パンフレットの山が差し出された。


「母さん、あんたが自分から行くになってくれるのを待ってたのよ。何処でもいい、お前の行きたい塾を選んでちょうだい」


勉強しろ、勉強しろと煩く言われた覚えはなかった。

どんなに成績が下がってきても気にしてないのかと思ってたけれど心配してたんだと、急に気が付いた。ごめん。



そして俺は、取り合えず学校の帰りに寄れそうな所にある塾を選び通い始めた。


何のために勉強するのかも、これからどうしたのかも未定のまま・・・。

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