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足跡の理由  作者: 瓜葉
第3章 縁は異なもの
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引っ越し蕎麦を食べるには

クーは俺と沙耶が飼い始めた子猫。

好奇心旺盛でやんちゃな子。


運動量が半端なく俺のワンルームマンションではあまりに手狭で引っ越しをすることにした。

沙耶も引越そうかなとつぶやいたのを良いことに一緒に不動産屋に連れて行く。


「新婚さんですか?」


担当者に聞かれるが、違います!と訂正し、あくまで同居人を強調し希望の条件を言う。


1.ペット可のマンション

2.沙耶の事務所に乗り換えなしで行ける

3.駅から10分以内

4.俺の勤務先に車で30分以内

5.出来れば2LDK以上

6.築10年未満


そしてもう一つ付け足す。


7.同棲可なこと


直接一緒に住もうと言うことが出来ないヘタレでゴメン。

でも反論しないから、了承ってことで良いんだよな?


担当者が俺が出した条件に合う物件を探してくれて、そのうちの3件ほど下見した。


1件目は何だかピンと来なかったが、2件目に見たところが良かった。

真ん中に広いLDKがあり左右に一部屋づつある2LDK。

駅から10分と書かれているが、もう少しあるかもしれないが、バスに乗ることも可能らしい。


「ルームシェアも可能な物件です」


なんてフォローが上手いんだ。

同棲って言うより同居って感じだとハードルを下げてやる。


キッチンも広い。

難点は多少家賃が高いこと。一人では絶対に払いきれない。

沙耶の表情をうかがうが、結構、気に入っていると思う。

取り敢えず3件目も見せてもらったが、やはり先ほどの物件が良い。


担当者が近くに停めた車を取りに行っている間に沙耶と話す。


「俺は2件目のところが良いと思うけど、沙耶は?」

「私もそこが良いけど……」

「けど?」

「本当に良いの?」

「何が?」

「私と一緒に暮らすこと」

「もちろん。ごめん、本当は先に言うべきことなのに」


俺は沙耶の目を見つめる。


「俺は沙耶と一緒に暮らしたい」


ようやく言えた。

沙耶ははっきり頷いてくれる。



担当者の車に乗り込み、早速、2件目の部屋にしたいと伝えると、不動産屋で申込用紙を記入することになる。


「同棲の場合、契約形態はどうなるんですか?」


沙耶が本領発揮して訊ねる。


「当社の場合、お一方に契約者になっていただき、もうお一方を同居人としてお申込みいただきます。保証人様はお二人ともにお一人づつ立てていただくこととなります」


へーなるほど。保証人はそれぞれの親になってもらえってことか?

同棲って親公認じゃないと難しいんだ。


「どっちが契約者になる?」


俺が沙耶に訊く。

本当は「俺でいい?」って言いたいけど、沙耶相手に言えないよな。


「こういう場合は男性の方が契約者になることが一般的です」


担当者がにっこり笑って教えてくれる。


「わかりました。じゃあ幸平が契約者になって」


あっけない展開にビックリした。

驚いたまま俺は申込書を書き込むことになり、同居人欄に沙耶の名前を書いた。

本当に一緒に暮らすことになったんだと思う。


手続きを終え不動産屋を後にすると沙耶に聞く。


「俺が契約者で良かったのか?」

「いいよ。幸平が男尊女卑の感覚が強い人な絶対に譲れないけど、違うから。無駄なエネルギーは使いたくないの」


褒められたのか、俺?

保証人になってもらうため、両方の親に同棲することを伝えなければならないが、こっちもあっさり了承される。


沙耶の気持ちをわかっている俺の親からは「結婚、結婚って急かすんじゃないよ!」って釘を差された。

反対に沙耶の方は「結婚したくないっていつまでも我儘言わないの」と言われてケンカになったらしい。


「ママに結婚について言われたくない!」と言うのが沙耶の主張。


大家さんから了承の返答をもらう頃には、沙耶のママから俺へ直接「沙耶をお願いね」と連絡があった。仲直りは出来たらしい。


そんなこんなで、クーを拾ってから2ヵ月も経たないうちに俺たちの同棲生活が始まることになった。


結婚する訳ではなく同棲だけど、気分はかなり高揚していた。

沙耶と一緒に暮らせる。


長い長い遠距離恋愛の期間にどれだけ夢見たことか。

沙耶も同じだったようで準備はスムーズに進む。


そして引越しの日。

まず俺の荷物を運び込む。次に沙耶の荷物が運ばれて来た。


「よろしく」

なぜか二人で照れ合いながら挨拶をした。


二つある部屋はベットルームと書斎として使う事にした。

ベットは迷いに迷ったけれどダブルベットを割り勘で買う。

隣に体温を感じていたいと互いに思っていたのだ。


引越しが終わり、キャリーバックから出たクーは部屋中の匂いを嗅ぎまわり、自分の猫タワーに気がつきピョンと飛び乗って座り込んだ。

興奮状態だったのが漸く落ち着いたみたいで一安心。


猫は住居が変わることにストレスを感じる生き物だから心配だったが何とかなりそうだ。

トイレの位置もわかったようで、エサも水も飲んでいる。


沙耶は微笑んでそんなクーの様子を見ている。


俺はキッチンの片付けをしながら沙耶を見つめる。

おしゃれなカウンターキッチンは会話しながら料理が出来るところが良い。



「沙耶、夕飯は蕎麦で良い?」


そう訊くと、良いよと答えが返ってきた。


料理好きな俺が主に調理を担当。洗濯は沙耶がやってくれる。

掃除は休みの人が休みの日にやる。


大まかな家事の分担を決め、家計費専用の通帳を作った。

結婚したわけではないから、そこのところはキチンとしたい。


俺は大きな鍋で蕎麦を茹でる。

茹で上がった蕎麦を水で締めザルに盛る。


テーブルの上にざる蕎麦を置く。


「いただきます」と二人で食べた。


片付けは沙耶も手伝ってくれる。

明日は月曜日だから二人とも仕事だけど、帰る必要はない。

ここが自分の家なのだから。


些細なことだけど一緒に暮らすってこういうことなんだ。


クーが沙耶の膝の上で寝ている。

引越しで疲れたのか沙耶も寝ているようだ。


しばらく寝顔を見つめてしまう。

これから始まる生活が二人にとって幸せなものになるように……







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