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足跡の理由  作者: 瓜葉
第3章 縁は異なもの
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猫じゃらしに絡まると 後編

ビールを飲みながら子猫の名前を二人で考える。


「黒猫のクロとか」

「却下」

「チビ、タマ、ミケ、ポチ……」

「ポチって、それ、犬の名前じゃん。それにしてもセンスないな」

「じゃあ幸平がつけてよ」


そう言われても俺にもセンスがあるとは思えない。


「なぁ、仕事で嫌なことでもあった?」


話題を変えて沙耶に聞く。俺の発言だけが感情爆発させた原因とは思えない。

しばらく黙ってから口を開く。


「普通の人ならわかることを貴女はわからない。あまりにも冷たいって。そんなつもり無かったから、かなり親身になって話も聞いてたつもりだったからショックだった」

「そっか」

「私、冷たい?」

「冷たくないよ。むしろ熱いんじゃない。それに、コイツのことだって拾っただろう」


沙耶の目からポタリと涙が落ちる。

どんな状況で言われたがわからないが、余程堪えたことはわかる。

理不尽なこと言われたって平気な顔しているくせに、時々、ポキッと心が折れるのだ。


俺はテレビに洋画のDVDをセットし、明かりを消した。

ベットにもたれて沙耶に背中を向けると、コツンとおでこが当たる。


涙でぐしょぐしょになり嗚咽している。

変に慰めないで、背中だけ貸してと言われてから、沙耶が落ち込むとこのパターンで慰めることが多い。


俺は画面に流れる洋画を見ている。もう何度も見ているアクション物。

爆発音に驚いたのか子猫が起きた。


ベット上で伸びをして沙耶のそばに寄っていく。

顔に鼻を近づけて匂いをかいている。


「くすぐったい。もう泣いてないから」


沙耶の笑い声。

すごい技だ。俺には真似できない。



「クゥ~」と鳴く。


「はははクーだって、変な鳴き声」

「それ良いじゃん」

「何が?」

「クー」

「ああ、名前。クー、クーちゃん。うん、良いじゃない」


と言うわけで子猫の名前はクーに決まった。


次の日、俺は初めて自分の勤務先に沙耶を連れて行った。

クーの状態をきちんと診察して、猫用のワクチンを打つのだ。

うちの病院、土曜日はローテーションで勤務になっている。

今日は俺は勤務ではないが、一応、白衣に着替えた。


着替えた俺を見て沙耶が笑う。


「なんで笑うの?似合うでしょ」

「まあね。ちゃんと獣医に見えるよ」


スタッフたちも笑っている。

そんなに似合ってないか?と少し落ち込む。


「先生、噂の才媛の彼女ですね。可愛いじゃないですか」


ベテランのスタッフが言う。周りのスタッフも頷いている。

背が低いから可愛く見えるだけじゃないと言いながら、沙耶を褒められて嬉しかった。


診察室にクーを連れて行く。

沙耶はあちこち興味深そうに見ている。


沙耶に説明しながら血液検査とワクチンの接種をした。


待合室で少しだがペット用品を扱っていることを知り、沙耶が見たがる。

「こっちだよ」


俺が沙耶を連れて待合室に出る。


「先生、今日、診療無いんじゃなかったの?」


大きな声を掛けてきたのは、懸案の藤堂さん。


「藤堂さん、ごめんなさい。今日はちょっと私用なので、診察は松原先生になりますから」

「えーやだぁ。マルちゃんの主治医は滝川先生なんだよ。せっかく来たんだから……」


いつものように甘えた声で話しかけられる。

困った俺を助けるように沙耶がやってきた。


「クーのかご、どれにしようか?幸平、どれが良いと思う?」


沙耶がクーを抱いて俺の白衣を引っ張った。


「沙耶の好きなのにすれば良いよ」

「そう?じゃあ私が買うから」

「いいよ、俺が払う。気にせず好きなの選んだらいいよ」

「これにしようかな」


沙耶が選んだのはリュック形にもなるキャリーバック。

普段は手持ちスタイルで使い、非常時などでは背負って移動できるもの。


「良いんじゃない」


窓口で診察代と一緒に会計をし、早速クーを入れてみる。

割りと嫌がらずに中に入ってくれた。


キャリーバックに入ってくれればホームセンターにも連れて行ける。

今時のホームセンターはペット連れオッケーで、専用のカートまであったりするのだ。



俺たちのやり取りは待合室で注目の的で、藤堂さんは明らかに動揺していた。

やっぱりそう言うことだったのかと小さく溜息をつく。


これが俺の彼女だ。



ホームセンターでクーの物を買うのはとても楽しかった。

子猫用のペットフードや猫用ミルク、トイレに猫砂、猫の草、それから給水器。

この給水器はせせらぎの様に水が循環してくれて、インテリアとしてもいい感じだ。沙耶が気に入りそれにした。

あと猫タワーも購入。


たくさんの荷物と共に家に帰る。


早速、買ったものをセッティングすると、狭い部屋がますます狭く思える。

クーだって今は子猫だけど、すぐに大人になってしまう。

窮屈だろうと思う。


引越すか……


「クーのものでいっぱいになっちゃったね」


猫じゃらしでクーと遊びながら沙耶が言う。


「もう少し広いところに引越すかな」

「……私も引越そうかな」


沙耶の言葉に戸惑う。

どういう意味?


俺と暮らしてもいいということ?


パタパタじゃれ回るクーを見ながら考える。

一緒に暮らす俺たちの未来を……










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