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足跡の理由  作者: 瓜葉
第3章 縁は異なもの
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フォークとナイフの使い方

「幸平、明日、悠を預かることになったの、どうしよう」


悠というのは沙耶の異母弟で今年5歳になった男の子。

出産の時に偶然居合わせて感動したのがついこの間だったと思うのに、最近は生意気なガキになっていた。沙耶は可愛くて仕方がない様で、俺たちの時間に時々割り込んでくる。

でも、ここで嫌だと言ったら、沙耶は悠を取るんだよな。


「いいじゃん、一緒に遊んでやるよ」


俺の返答に安堵の声がする。


「良かった。真理子さん、同窓会なんだって。本当はパパが面倒を見る筈が急な出張が入ってしまったって、さっき連絡があったのよ」

「了解、じゃあ明日は沙耶を迎えに行って、それから悠のところに行けばいいか。何時に行く約束?」

「10時。真理子さん、美容院にも行きたいって……」

「うん、わかった。どこか連れていくか?」

「公園とか?」

「お弁当持って」

「…誰が作るの?」

「そりゃあお姉ちゃんだろ」


からかうと無言で怒りのオーラを発する。

冗談じゃ済まなくなるから、慌てて発言撤回を宣言した。


取り敢えず目的地は悠に決めさせようということになる。



そして、日曜日。

3月らしく暖かい良い天気だ。


沙耶を迎えに行き、その後、悠の家に向かう。

両親が離婚し、それぞれ再婚した時は寂しそうだった沙耶だが、今はどちらの家族にも大切にしてもらっている。

心の奥底には裏切られた悲しみや捨てられた感情があると思うけど、無理して笑顔を作っているわけではないから、俺も安心して見ていられる。


「なんで幸平がいっしょなの!」


俺の姿を見た途端に悠がすねた。

ちぇっ、可愛くない。お前のためにチャイルドシートも用意して沙耶に感激されたんだぞ!


「幸平が一緒だと、車だからどこでも行けるよ」


沙耶になだめられニッコリ笑う。


「じゃあさ、ゆうえんちがいい」


悠の希望で目的地は遊園地となる。

チャイルドシートに喜んで座り、隣には沙耶に座るように言う。


「沙耶は助手席に座るんだ」


ちょっと意地悪を言うと


「沙耶ちゃんは、ぼくのおねえちゃんなんだからね。幸平のおねえちゃんじゃないの!」


5歳児なりの理屈で対抗してくる。

沙耶はもうすでにウンザリした顔をして、何も言わず後部座席に乗った。



車の中では悠の幼稚園の話で盛り上がる。

一人前に好きな女の子もいるらしい。



遊園地に着くと目を輝かせて、あっという間に駆け出しそうで慌てて手をつなぐ。


「沙耶ちゃんも」


俺と沙耶の間で嬉しそうにしている悠。

楽しくって歌まで歌っているから、知らない人から「パパとママと一緒でいいねぇ」と声を掛けられた。


「ちがうよ。沙耶ちゃんと幸平なの」


律儀に訂正するところが子どもだ。

回りから見れば親子に見えても不思議ではないのだろう。


春休み直前の遊園地は思ったほど混雑しておらず、それほど並ばずにアトラクションに乗れた。


「ぼく、もうおっきいから、あれにのる!」


指差す先にはジェットコースター。

子ども用らしく105センチから乗れることになっていた。


「あたし、パス」


ジェットコースター嫌いの沙耶が言う。

悠も乗れるんだから過激ではないと誘うけど、怖がりなのは昔と一緒。


「空中ブランコで十分よ」


観覧車だって怖くて泣いたことがあるから無理には誘わない。


「沙耶、怖いんだって。だから悠、俺と二人で乗ろう」


沙耶と乗りたいらしいけど、ジェットコースターの誘惑にも勝てないらしい。

結局、二人で乗ることになった。


二人で行列の最後に並ぶ。

沙耶は近くのベンチで待ってると言う。


「ねえ幸平は沙耶ちゃんと けっこん するの?」


不意に悠から聞かれた。

沙耶の父親が気にして家で話題になっているのか?


「たぶんね」

「いつ?」


答えにくいことを聞く奴だ。


「なんで?」

「このあいだ、アミちゃんが けっこんしきにいって、ふぉーくときるやつで ごはんたべたんだって」

「フォークと切るやつ?」

「そう。ぼく、それやりたい」

「……」


切るやつってナイフのことか?

結婚しないのって、そういう理由で訊いたのか?


「なんだ。フォークとナイフ使いたいなら、今日、使える店に連れて行ってやるよ」

「ほんと?」

「あぁ」

「やったー。ぜったい、やくそくだからね。パパにおねがいしたら、沙耶ちゃんは まだわかいから けっこんしないって おこるんだもん」


どんな会話がされたんだろうか?

聞くのが怖い。


ジェットコースターは子供が乗れるものだからと甘く考えていたが、ちょこまかと曲がり結構スリルがあった。

沙耶を無理に乗せなくて良かったかもしれない。


出口のところに沙耶が迎えに来ている。


「沙耶ちゃん、みてた?ぼくかっこよかったでしょ。ぜんぜんこわくなかったよ」


初めてのジェットコースターに興奮状態の悠。


その後、いくつかアトラクションに乗ってからお昼にする。

案内図で目星をつけていた園内の洋食レストラン。

メニューの感じからフォークとナイフが出てくるだろうと見当をつける。


昼時で混んでいる店内だったが、少し待つと席へと案内される。

子ども用のイスがすでに用意されている席で、周りも子供連ればかり。


隣の席の子がお子様ランチを食べている。

狙い通り小さなフォークとナイフがセットされていた。


「ほら悠、このお子様ランチ食べると使えるぞ」


沙耶に内緒で話する。


「何、使えるの?」


そういう会話は聞き逃さない沙耶が訊く。


「ふぉーくときるやつじゃなくって、なんだっけ?」

「ナイフ」


俺が小声でフォローする。


「そう、ナイフをつかうんだ。ぼく、もうおおっきいからね。アミちゃんにまけないんだ」

「あみちゃんって悠の好きな子じゃないの?」

「ちがうよ。ぼくのすきなのはミミちゃん」


お子様ランチを注文するとテーブルに子供用のフォークとナイフがセットされる。

あんまり嬉しそうで俺は写真を撮る。


そしてウェイトレスのお姉さんがお子様ランチを持ってきた。


「悠、一人で食べれるの?」


沙耶が訊くと、ウンと頷くものの、どうやって持っていいいのか分からないようだ。

俺と沙耶とで手取り足取り教える。


しばらく格闘して、何とか口に入れる。

後はフォークだけで食べたらと言っても、嫌だと最後までフォークとナイフを使って食べきった。

時間はかなりかかったし、味わって食べたかどうだか疑わしいけど、満足そうな顔してる。


午後もいくつかアトラクションに乗り、真理子さんが帰宅予定の6時に合わせて帰路につく。

悠はゲート付近のショップで買った剣とベルトのおもちゃを手に持ってご機嫌だ。


「ねえ、沙耶ちゃん」

「何?」

「いつけっこんするの?」


また爆弾発言をする悠。


「誰が結婚するの?」


冷めた声の沙耶。バックミラー越しに沙耶と目が会う。

俺は悠に何も吹き込んでいないと目で訴える。


「沙耶ちゃんと幸平。アミちゃんが けっこんしきで しろいきれいなぬのもって きょーかいであるいたっていうんだよ。すっごくだいじなおしごとなんだって。いいなぁ、ぼくもやりたい」


恐るべしアミちゃん。

無邪気な悠のお願いに怒るわけにもいかず、沙耶はひきつった笑顔を浮かべている。


その後、悠はアミちゃんから聞いた話をずっとしている。

余程、羨ましかったんだろうな。


いつか本当に俺と沙耶が結婚する時は悠にやってもらおう。

恥ずかしいから嫌だという前に。


そのうち静かになり、家に着く頃には悠はグッスリ眠っていた。

時々ニッコリ笑っているから、楽しい夢でもみているのだろう。


悠を送り届けて、二人になった。

沙耶は何か言いたそう。


だから、俺が先に言う。


「大丈夫だよ、俺はまだ待てるから。沙耶が準備できるまで、ちゃんと待っててやるから……」


助手席に座った沙耶の返事は「待てって」だった。

遠い未来の小さな約束。ちょっと前進したのかもしれない。












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