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足跡の理由  作者: 瓜葉
第2章 そっちとこっち
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ちょっと迷って転がって 4

沙耶から合格したと連絡があったのは11月の半ば。


今年が2回目の挑戦だから、本当は在学中に合格したかったなんて言う。

でも、電話の声は晴れやかで、本当に良かったと何度も言った。


「4月からは司法修習生として研修よ」


1年半の研修のうち1年は地方への配属になり、どこになるのか未定らしい。

俺もあと2年はこっちだから、遠距離はまだしばらく解消しそうもない。


付き合い始めて直ぐに遠距離恋愛に突入した俺たちだから

離れていることに不満はないけれど、最近なんだか惰性を感じる。


今のままで良いのだろうか?



待ち受け画面には照れている沙耶の顔。


「可愛くないから写真なんて撮らないで」


カメラを向けると、いつもそう言って怒る。

だから、俺の携帯に入っている写真はとても貴重なもの。


沙耶はどう思っているのだろう?



合格の連絡から数日後、沙耶から札幌に遊びに来ると連絡があった。


「待ってるよ」


そうは言ったものの実習のスケジュールが立て込んでいるから、何処かに遊びには行けないかも。


「いいよ、顔が見られれば満足だから」


そう言って沙耶は札幌へやって来た。


空港から一人で俺の部屋に来て、俺が家に帰ると、ぐっすりと眠っている。

少しだけやつれている気がした。


本当に寝る間を惜しんで勉強したのだろう。

顔に掛かる髪をそっと除け、頬に口付けを落とす。


これぐらいの役得はないとな。


沙耶が目を覚ます。


「おかえり」

「ただいま」


そんなやり取りがとても新鮮で嬉しかった。


「飯、どうする?おなか空いただろう?」

「作ってみた」

「えっ?沙耶が」

「そう。これでも一人暮らし歴長いのよ」

「そりゃそうだけど……」

「嫌なら食べなくても」

「バーカ、ちょっと嬉しくて驚いただけだ」


沙耶は期待しないでと言いながらキッチンに向かう。

フライパンにゴマ油を引いて肉を炒めている。

焼肉?


冷蔵庫から何やら取り出し、食器棚を物色して大きめの器を取り出した。

ラーメンやらうどんを食べるときに使うものだ。


「何、作ってくれたの?」

「ビビンバ」


テーブルに置かれたのは野菜と肉がたっぷり乗ったビビンバ。

焼肉店で時々食べるけど、自分では作ったことがない。


沙耶に先を越され、料理には自信がある俺としては面白くない。


「キムチは買ってきたけど、ナムルは手作りだよ」

「すごいじゃん」

「韓国からの留学生の子に教えてもらったから本格的なはずだよ」

「いただきます」


よく混ぜて口に入れる。


「美味い!」

「良かった。久しぶりだったから、ちょっと心配だったのよ」

「作り方教えてよ」

「やだ」


速攻で拒否される。


「私にも得意なもの欲しいの!」


ムキになる様子がおかしい。

でもそんな沙耶がとっても可愛いくて愛しい。



沙耶が札幌に来ていることを聞きつけた仲間達が会いたがる。

以前に会ったことがあるメンバーが中心だったから、沙耶もあっさりOKしてくれた。


そして俺たちがよく行く居酒屋で飲み会が開かれる。

野郎ばかりかと思っていたら、千尋ちゃん達の姿も見える。

サークルの飲み会だから当たり前と言えばそうなんだけど、少し嫌な予感。


最初は沙耶の隣に座っていたが、トイレに立った後、他の場所で捕まった。

彼女がいない奴らに絡まれて、逃げるように沙耶のところに戻る。


千尋ちゃんが沙耶の隣に来ていて、会話が耳に入ってくる。


「弁護士の方って結婚しても家庭との両立できないんじゃないですか?」

「女だけが家事や育児をしなければ大丈夫だと思うわ」

「先輩、育児しそうだし料理も得意だから良いですね。沙耶さん、幸平先輩のそういうところが良いんですか?」

「えっ?どうなのかな……」

「将来、家事の分担をどうするとかって話、幸平先輩としないんですか?」

「私たちまだ社会人じゃないから、結婚とか考えられない」

「冷めているんですね。私、やっぱり遠距離恋愛は出来ないなぁ。とっても結婚に憧れているし、それに結婚して子供が生まれたら、家庭を優先出来る働き方のほうが良いと思うんですよね」


千尋ちゃんの言葉が痛い。


「貴女はそうできると良いわね」


沙耶が淡々と答える。

内心は怒り狂っているに違いない。


「幸平先輩はどう思っているんですか?価値観が違ってたら、先輩がかわいそう」


かなり酔っているような千尋ちゃんに俺は忘れたい夜を思い出す。

このまま千尋ちゃんと一緒に居させたらまずい。


「千尋ちゃん、飲み過ぎ。ほらもうウーロン茶とかにした方が良いよ」


俺は沙耶と千尋ちゃんの間に割り込んで座る。


「それに俺はかわいそうじゃないよ」

「そうなんですか?先輩、つくされるの好きじゃないの?」


ちょっともたれ掛り気味に千尋ちゃんが言う。

二人を離した方がといい思い間に座ったけれど逆効果かも。


「嫌いじゃないけど、あんまり好きな言葉でもない」

「でも千尋、こう見えても自立していけるよう教職も取ってます!だから……」


千尋ちゃんの思いは受け取れない。

そう口にする前に克己が現れた。


「ちーちゃん。飲み過ぎ。ほらあっちにウーロン茶あるから飲もうね」


千尋ちゃんを後から抱きかかえるように立たせて連れて行く。

俺の方を振り返り、小さく合図される。


沙耶を連れて帰れと言うことか?


俺はそう解釈して、沙耶を促す。


「今日はありがとう。楽しかったよ。悪いけど先に帰るね」


そう告げると、帰るのが早すぎとか、熱いね~とかさんざんからかわれるが、先ほどの千尋ちゃんとのやり取りに気付いていた奴らは悪かったなと言う表情をしている。


俺も沙耶も会釈しながら会場を後にした。




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