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足跡の理由  作者: 瓜葉
第2章 そっちとこっち
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ちょっと迷って転がって 2

記憶のない夜の後、俺は何も無かったようにふるまった。

サッカーも高校の部活のように毎日あるわけではないから、学部の違う千尋ちゃんとは会うこともない。


次の週の半ばになり、再びグランドで千尋ちゃんと再会した。


「この間、大丈夫だった?」


一応、泊めてもらったお礼は言わねばと口にする。


「大丈夫です。私、誰にも言いませんから。心配しないでください」

「えっ、あ、いや、こちらこそ泊めてくれてありがとう」


誰にも言わないとわざわざ言われると意味深に感じてしまう。

酔っぱらって朝になってましたねって笑ってくれればすっきりするのに。


臆病な俺は、何も無かっただろうと言い切ることもできず、曖昧な笑いを浮かべてしまった。


「何、二人でコソコソしてるんだ」


後から大きな声がかかり、振り向くと克巳が立っている。

俺が言葉を探しているうちに千尋ちゃんが口を開いた。

普段と違い、ちょっと冷たい印象の声だ。


「克己先輩には関係ない話です。幸平先輩、ほんと気にしてないから大丈夫です」


それだけ言って走り去っていく千尋ちゃん。

疑惑の眼差しをした克己と俺が残される。


「おまえ、千尋ちゃんに何をした」

「何にもしてないよ」


惚けてしらを切るしかない。


「千尋ちゃんを泣かしたら許さないぞ」

「だから、そんなんじゃないって。おまえこそ、早く告白でもして千尋ちゃんを捕まえろよ」

「チェッ。モテる奴は嫌だね。簡単には行かないから、俺が悩んでいるのに」

「俺だってモテないぞ」

「いやモテてる。遠距離恋愛とはいえ彼女もいるくせに。園丘さんに告白されたのに断っただろ?それに木村からも」


すごい情報網。どうやって知ったか気になるけれど、それを追求したら藪蛇だ。

中学でも高校でも誰かから告白されたなんて経験はない。

その二人から告白されたのは事実だけど、沙耶に義理立てしたわけではないが、気持ちを動かされることは無かった。

誰かを好きだなんて自覚したのは、きっと沙耶だけだ。

綺麗だとか、可愛いとか、プロポーションの良さに目が行くことはあるけれど、それ以上の感情が湧いて

来たことはないのだ。


自己分析をしてみると、きっとそんな草食的なところが女子に安心感を与えているのだと思う。


沙耶は俺のどこが良いのだろう?

俺のことを優柔不断だとか、諦めが早すぎるとか、いろいろ文句を言う。

でも俺の作る料理は好きらしい。

胃袋で捕まえているのか?


一つだけ言えるのは、俺は沙耶を支えたいと強く思い、沙耶が俺の支えになっているということ。

俺と一緒にいる時の沙耶は怒ったり、拗ねたり、ストレートに気持ちを表すけれど、学校とかで見せる顔は違う。

俺も沙耶の前では飾ることもない。

もっとも普段の俺も格好つけているわけではないが。


「ちぇっ、否定しないのかよ」


返答をしない俺に克己は怒りを増している。


「悪い、ちょっとぼんやりしていた」

「遠距離恋愛だからって、二股しようなんて許さないからな!」


二股って、話が飛躍しすぎで笑ってしまう。


「克己、おまえこそ妄想のし過ぎじゃないの?早く告白して玉砕して来いよ」

「何だとぉ!!!」


口が滑った。

悪い、悪いと俺は克己の前から逃亡を図る。

俺の方が足は速い。


克己と話している間に千尋ちゃんの言動に引っかかっていたことを失念していた。





そして数日後、驚きの噂が耳に届く。


俺と千尋ちゃんが酔った勢いで、やっちゃったらしいと。

その上、噂では俺が覚えていないと千尋ちゃんから逃げ回っていることになっていた。


伝言ゲームの言い間違いのように事実がだんだん変わっていく。


克己は千尋ちゃん命だから怒り狂って危なくて仕方がない。

他の男どもは俺の説明に納得してくれたが、問題は女子だ。


視線が痛い。

千尋ちゃんの友人って子から呼び出され「どうするつもりですか?」と詰問される。

どうするつもりって言われても、そんなことは無かったと説明しても納得はしてくれない。


俺は、そんな不埒なことをしていない――と思っている。

でも千尋ちゃんがそんなことを吹聴しているとも思えない。


だから本人と直接話した方が良いと思っているのに、千尋ちゃんはサークルにも顔を出さない。

メールをしても返信さえないままだった。




―― 今年の夏は予備校で一日を過ごすことになりそうです ――


沙耶から久しぶり送信されたメール。

短答試験には通ったけれど、論文試験が通らなければ、来年、再度受けなおさなければならないらしい。

論文試験に口述試験と続くから息つく暇もないようだ。

そんな沙耶に俺のトラブルを知らせることなどできる筈もない。


リラックスできるよう面白い話だけ近況として返す。

この頃は返信不要!がメールの最後の言葉になっている。


ちょっとでもクスリと笑ってくれていれば良いけど……

食事、ちゃんと食べているのだろうか?

心配しだすときりがない。

大丈夫と信じること、それが沙耶への俺の思いだ。




そして俺は千尋ちゃんと会えないことを言い訳に噂が消えるのをただ待っていた。

でも、そんなに簡単にはいかなかったのだ。


ある日、克己が悲壮な顔で俺に告げた。


「俺は千尋ちゃんの幸せを願っている。おまえは遠距離恋愛の女とキッパリ手を切って、千尋ちゃんを幸せにしてやってくれ」


知らないうちに事態はさらに悪化していたようで俺は自分の愚かさを呪う。



司法試験は旧試験です。ウィキペディアの情報をもとに書いていますが、実際の日程や方法と違っている箇所も多々あると思います。ご了承のうえ読んでくださいね。

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