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足跡の理由  作者: 瓜葉
第1章 いつから、どこから?
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自業自得か災難か


「はぁ…」


居間のソファーに寝転がって吐いても仕方が無い溜息を繰り返す。



哲ちゃんとのやり取りと、その後のサッカー部の部長である浅野とのやり取りが繰り返しよみがえる。


「ごめん、浅野。オレ、哲ちゃんから部活禁止を言い渡されたんだ」

って言った時、部長の浅野は俺を視線で殺せるほど睨んだ。

「なんで?」

「なんでって、英語の宿題を沙耶の写して出したのがばれた」

「・・・」


こいつの無言の圧力は本当に怖い。


「いつまで?」

「何が?」

「・・・・・・・」


やばい、ほんとにやばい。

浅野のサッカーに掛ける情熱は半端ないのだ。

弱小サッカー部なのに、超ハードな練習メニューを組んでいるが、こなし切れていない。

試験前だ、模試前だと練習が出来なかったり、週5日までしか部活はやってはいけないとか進学校らしい変な規則があったり、塾があると休む奴がチラホラいてなかなか全員が集まらないのだ。


浅野はだからいつも苛立っている。サッカーをもっとしたいのだ。

実際に浅野はサッカーが上手い。どっかの某プロチームのジュニアに所属していたこともあるらしい。

本人は自慢したことはないが、一緒の中学だった奴が言っていた。

なんで止めたのか不明だけど、もったいない。


「宿題なんて、さっさとやれば良いだけじゃないか」


そして沙耶と同じようなことを平然と言う。

浅野はこんなにサッカーに打ち込んでいても沙耶と同じようにトップクラスの成績を取っている。俺だって、そうできるものならしたいと思うが出来ないものは出来ないのだ。


「もう直ぐ試合なんだぞ。簡単に終わらせて良いのか!とにかく明日には来てくれ。幸平がいないと困るんだからな!」


ホントにゴメン。いい加減なことが多いけど、サッカーのことだけは俺だって真剣だ。

浅野はそれをわかってくれる大切な友人だ。

だから、そんな友人に迷惑をかけることになったことが結構堪えている。



もう高校3年。部活によっては引退試合も終わっていたりする。

俺たちサッカー部にとって夏休み前の地区予選が最後の試合になるんだ。

勝ち残れば夏休み返上で練習!ってことになるのだろうけど、俺たちは進学校の弱少サッカー部なのだ。

やっぱり今度が最後になるのかな・・・・・・。


とにかく浅野の言う通り試合は近いのだ、部活禁止を解除してもらうためにもこれを仕上げねば。

そう思いながら真っ白なままの反省文の紙を見つめる。


「めんどくせぇ」と俺はつぶやいた。




玄関から音がする。親父が帰って来たみたいだ。



うちはお袋が看護師で親父は役所勤めの公務員。

比較的、定時に帰れる親父の方が炊事をすることが多い家庭だった。

今日も親父が炊事当番なので沢山買い物でもしてきたのか、ガタガタと大きな音が玄関でしている。


「おい、幸平。ちょっと手を貸してくれ」

「大丈夫ですか?」


と、聞き慣れた沙耶の声もする。


「どうしたの?」


玄関に出てみると、沙耶の肩に掴まって情けない顔をしている親父の姿があった。


「いや、そこで転んで捻挫したみたいなんだ。ちょうど沙耶ちゃんが通りかかって助けて貰ったんだよ」

「おじさん、やっぱり病院行った方が良いですよ」



二人掛かりでソファーに親父を座らせる。


「大丈夫だよ、ただの捻挫だ。幸平、湿布を持ってきてくれ」


そう強がっているが、うめきながら靴下を脱いでいる。

見るからに痛そうだ。通常の足首の倍ぐらいあるように見える。

とにかくそのままにしておけないと薬箱を探した。


しかしようやく探し出した薬箱にも健康家族のせいかロクなものは入っていない。

沙耶ものぞき込んでくる。


「肩こり用じゃダメかな?」


封が開いた箱を出す。同じ湿布じゃないのかな?


「でもこれ貼ったら剥がす時に痛そうだよ」


と沙耶が言う。そういえばサッカー部に常備してあるものは、もっとはがれやすそうだ。

湿布は薬屋に買いに行った方が早いということになり、とりあえずタオルを濡らして冷やすことにした。


洗面所でタオルを濡らして親父の足首に当てる。顔をしかめているから、余程痛いのだろう。

そうこうしているうちにお袋が帰ってきた。


親父の足を一目見て病院に行くことを決め、勤務先の病院――総合病院だ――に連絡を入れタクシーを呼んだ。

こういう時のお袋の行動力には脱帽してしまう。


「じゃあ、後をお願いね。足首の骨折だと思うから、入院にはならないと思うけれど、処置に時間がかかるかるだろうから、夕飯、悪いけど適当に食べてて。

沙耶ちゃん、ありがとう助かったわ。――じゃあ行ってくるから」


痛みで顔をしかめる親父をタクシーに乗せて二人を見送った。

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