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足跡の理由  作者: 瓜葉
第2章 そっちとこっち
28/42

寒くて熱い一日


「ビックニュース!すごいよ、驚くな」


興奮状態で幸平から電話がかかってきた。


「どうしたの?」

「元旦、空けとけよ。朝、10時から販売だってさ。7時には並びたいから、6時に迎えに行くから」

「だから、何?」


さっぱり要領の得ない話に私はイラついた。


「あ、ごめん。サッカーのこと。アキダスが決勝決めたんだよ」


サッカーの熱心なファンであることはわかっているけれど、そんなにはしゃがれても付いていけない。

そう言えばニュースで初めての決勝進出ってやっていたような・・・・・。

幸平が応援しているチームなのにボンヤリと見ていただけだ。


おめでとうって言えば良かったのかな?


「怒ってる?」


私の沈黙に幸平が訊ねてきた。


「あ、違うの。私こそゴメン。おめでとう良かったね」

「ありがとう!!!」


ちょっぴりしゅんとしていた幸平が勢いを盛り返す。


「でさ、一緒に試合、見に行こう」

「へっ?いつ?」

「だから元旦。初日の出見ながら電車に乗って国立競技場へ行こうよ」


耳元を冷たい風が吹き抜ける気がした。

パスしたい。

寒いのやだ。

サッカー興味ないし・・・・・・。


「生で見たら沙耶も絶対サッカーの魅力がわかるよ」

「俺がチケット代持つ。昼代も飲み物代も」


ためらう私に畳み掛けるように誘う幸平。

そんなに一生懸命言われたら断れない。


止めは「絶対、沙耶と一緒に見たいんだ」だった。

ズルイよ。嫌だって言えないじゃない。




そしてやってきた1月1日。

幸平と国立競技場へやってきた。


モコモコ厚手のコートに手袋、帽子にマフラーに耳あてと防寒対策は万全だ。

幸平は保温ポットにたっぷり暖かい飲み物を入れてきた。



当日券売り場には既に列が出来ている。

物好きな人が多いと思うけれど、自分達もその中の一組だ。


寒いから離れていられない。

互いの体温を分け合って寒さに耐えた。


チケットを手に入れた時の嬉しさといったらなかったけど、でも学生の私達が手に出来たのは自由席のみ。

ほんの束の間、近くの店で暖を取り軽い食事をして、また列に並んだ。

それでも不思議なもので、テレビのニュースで見るこう言う光景に「馬鹿じゃない」と思っていた私だけど何だか楽しかった。

幸平と一緒なのだからか、それとも並んでいるファンが醸し出す試合への期待感なのか判らないけれど、サッカーに関しては無知な私までワクワクしてきた。



だから試合開始のホイッスルが鳴った時にはサッカーファンの一員になっている気分だった。

長い待ち時間の間に幸平から選手一人ひとりの情報から、見所、これまでの経過などなど山ほどの知識を得ていた私は、いつしか夢中になって応援していた。

怪我を乗り越え、ようやく試合に出れた選手。現役最年長の選手。若手期待の選手。

誰もにチャンスが来ますように。

頑張れますように。


もう少し、あともう少しでゴールなのに・・・・・・。


幸平がサッカーをしている姿は何度も見ていた。

真剣な表情でボールを追い、仲間に声を掛ける幸平。

弱小チームなのに最後までいつも走っていた。

それはきっとどのチームも当たり前のことなのだろうけれど私はとても感動したのだ。


一つのボールを追い続ける姿が素敵だ。

なかなか得点にはならない。

押されても際どい所で守り抜く集中力。


サッカーの魅力って、そう言うところなのかな。


0-0のまま試合終了間際まで進む。


そして運命の瞬間。


もつれたゴール前の攻防からシュートが放たれる。

キーパーの手をかすめネットが大きく揺れた。


観客席は大歓声に包まれた。


「入った?」


遠くてはっきり判らないけど、電光掲示板に1-0と標示された。


もう凄いよ。

幸平も興奮状態で手を突き上げて喜んでいる。


残り時間はあと僅か。

勝利はもうそこまで。


私は自分が戦っているような気分になっていた。

体中に力が入っている。


相手チームが最後の反撃を試みて、シュートされたボールをキーパーの手が弾き、その瞬間、試合終了のホイッスルが鳴った。



スタンドが揺れるほどの大歓声の中、私は自分が泣いていることに気が付いた。

誰かを応援しているつもりが何か大きなものを得ている――そんな感覚だ。





興奮冷めやらぬ中、帰途に付く幸平と私。

しかっりと手を繋いでいた。


「ありがとう」


私は幸平の腕に頭を寄せる。


「楽しんでくれて嬉しかった」


幸平の頬が私の頭に当たる。



いつかまた一緒に見に来ようと誓ったのだ。

離れて過ごす私達だから、同じ空間で味わえた感動の大切さを知っている。

だから、また今度を楽しみに出来ると思う。


今年も離れているけど大好きだから――電車の中で幸平の耳元へささやいた。

私からのお年玉。





架空の話です。実際の状況と違うと思いますがご了承くださいね。

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