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足跡の理由  作者: 瓜葉
第2章 そっちとこっち
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生まれてくること 1

遠距離恋愛になって、もう直ぐ3年になる。

この春休みに初めて幸平が京都にやってくる。


ばれて気まずい思いは嫌だからと、お正月にあった時に幸平がママに言ってくれた。

気恥ずかしいけど、責任の取れない行動はしてないつもりだから……


なのにママは「いいじゃない。春の京都は良いわよ~」なんて簡単に了承してくれた。

幸平はおじさんたちにも話したようで、やっぱり同じような反応だったんだって。


示し合わされたのかな?



旅費だけでも結構かかるから節約のため私の部屋に泊まってもらう。

ちょっと色々想像して、一人で照れてたりもするのだけど。

でも見どころ満載の京都だから、どこに連れて行ってあげようかといろいろ思い描いていた。


そんな時、父から久しぶりに連絡があった。

再婚してからは滅多に連絡してこない父だから少し戸惑う。


「何かあった?」

「元気かなと思って」

「元気よ」

「そうか、それなら良い」

「パパたちは?」


あえて複数形で訊く。


「まあ、元気だ……」


含みのある発言に嫌な予感がする。


「上手く行ってないって話なら聞きたくないけど」


私は冷たく父に言う。


「いや、そういうことじゃない。真理子とはうまくやっているから……」


しばし口籠る父。


「実は子どもが生まれることになった」


今度は私が黙ってしまう。

子どもが生まれるって、私の弟か妹ってこと?


「……おめでとう」


絞り出すように祝福の言葉を口にする。


「ずっと不妊治療を続けてきたから、沙耶も複雑だと思うが新しい兄弟を気持ちよく迎えてほしい」

「……うん、わかった。いつ生まれるの?」

「9月の終わりごろだ」


頭の中をいろんな感情が駆け巡る。

でも私の気持ちを口にすることは出来なかった。

取り敢えず「よかったね」と繰り返し電話を切った。



父の新しい奥さんの真理子さん。

世間では略奪婚って言われる状態だったけど

大人しくて優しい人。


でも真理子さんも実はバツイチ。

DVの夫から逃げるように東京に出てきてパパの会社に入社したらしい。


そこで二人は出会い、そして浮気ではなく本気になってしまった。

運命の赤い糸だったってこと。

許せないけど。


離婚のときに親権でもめたように、父も私を愛してくれていたことはわかっている。

私を引き取り、彼女と一緒に温かい家庭で作らないかと父に言われたこともある。

でも受け入れれなかった。

可愛がってくれて、宝物って言ってくれたのも本当だと思うけど、一番肝心なところで裏切って傷つけられたのだから。


どこかで距離が出来てしまった父娘。


そんな人が50歳目前で再びパパとなる。

生まれてくる子は私の異母兄弟。



兄弟っていいものなのかな?

一人っ子の私にはわからない。


麻美に聞いたら「可愛い時と滅茶苦茶憎らしい時があるから、どうだろう」って言われた。

兄弟が多いから一人部屋なんて無いし、弟や妹ばっかり得してる気がする時もあるんだって。


でも麻美の話にはよく兄弟が登場する。

そういう時は、とっても羨ましいと思う。


私に兄弟……実感がわかない。

堂々巡りの思考回路に陥っていた。




3月の半ばになり、幸平が京都にやってきた。

私はいそいそと空港まで迎えに行く。

ゲートの向こうに幸平の姿が見えて、嬉しくて思わず手を振る。


「沙耶!」


幸平が大きな声で呼んでくれる。

大きなカバンを肩にかけ、ゆっくりと歩いてきた。


「来てくれてありがとう」


小さい声でお礼を言うと、幸平がニカッと笑う。


「こっちは暖かいね。さすがに札幌とは気温が違うよ」

「向こうはまだ雪があるの?」

「あったよ。今年は寒いらしい」


そんな会話しながら幸平が私の手を握り、自分の方へ私を引き寄せた。

耳元に口を近づけてささやかれる。


「すっげぇ楽しみだった」


反則です、それ。


「ちょっ、ちょっと人が見ている」


私の反論など構いもせず、幸平は歩き出す。

迎えに来たはずの私が手をつながれて連れて行かれているみたい。


「こっちで大丈夫?」


案内板を見ながら幸平に尋ねられる。


「たぶん、来た時はここからだったよ」


何とも怪しげな案内をする私。

1時間半の移動中、私はいつになく饒舌だった気がする。


話したかったんだと思う。

麻美にも言えなかった異母兄弟の話もすんなりできた。


「それが最近一番のモヤモヤ?」

「えっ?」

「電話でさ、沙耶が何か言いたそうだったけど、いつも通話時間気にして話さなかっただろ」

「……うん、まあね」


苦笑するしかない。私の思考回路、ばっちり読まれてるんだもん。


「おめでとう、よかったねって言えたんだから良いんじゃない。新しい命はめでたいに違いないしさ」


そう言われると、自分の気持ちがスーッと落ち着くのがわかる。

嬉しいのと、泣きたいのと、いろいろ混じって私は幸平の背中に顔を押し付けた。


「沙耶、電車の中だよ」


からかうような幸平の声。

ずっと私の方がお姉さんだったと思ってたけど、最近は違う気がする。

なんだかとっても大きい。


「いいの、私の顔は見えてないから。幸平だけ恥ずかしい思いして」


幸平の肩がかすかに震え、笑ってる。

しばらくそうしていたら、私の住む町に着いた。


「ここで降りるから」


そういって幸平からさっと離れて歩き出す。


駅前の小さな商店街を抜け、1本脇の道に入ると私の暮らすマンション。

駅から徒歩5分。オートロック式で管理人さんも常駐してくれているのが利点だけど、

幸平と一緒にマンションに入っていくのを見られるのは恥ずかしい。


「こんにちは」と幸平と二人で管理人さんに挨拶をしてエントランスに入り、

エレベータに乗って5階で降り、ようやく自分の部屋にたどり着く。


急にドキドキし始めてる私。

幸平もそわそわしているように見える。



部屋の扉が幸平の後ろでガチャリと閉じた。


「沙耶」


優しく名前を呼ばれる。

私も幸平の名を愛しく呼んだ。


幸平はドサッと荷物を降ろして、そのまま私を抱き寄せる。

私は幸平の体温をいっぱい感じる。


お腹の虫に起こされるまで、二人の距離はゼロのまま……














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