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5,二色の花びらは海風に攫われて


 それからの日々は、血と祈りに塗れていた。


 ブランは雇用主である王子を裏切り、自分の持つ情報を全て王女に託した。王子の手駒の振りをして、最後は自ら王子の命を断ち、王女の剣となった。


 その時、王女から名前を与えられた。フランネルがくれたもの。血濡れの狼なんて物騒な呼称だった男が、正式に『ブラン』となった。

 

 

 暗殺者としての技を、初めて誰かの“未来”のために使った。女王となった彼女のもとで、裏の世界を掃き、腐敗を断ち切る。それが、フランネルの願いを叶える道だと信じて。


「お前の言ってた“誇り”ってやつを、少しは分かった気がするよ」


 あの頃と変わらない、血に濡れた手。同じはずなのに、こうも心持ちが違う。


 ――お前も、こんな気持ちだったのか?


 フランネルの顔を思い出すたびに、ブランの心は締め付けられるように傷んだ。けれど、同じ気持ちを知れたのかもしれないと考えると、少し(くすぐ)ったい気がして。


(もっと聞かせてほしかった。もっと教えてほしかった。お前の声で……)

 

 切なさと愛しさを孕んだ眼差しには、かつてのような濁りはなく、確かな光を宿していた。






 ブランは女王の剣として、フランネルの分まで守り抜こうとした。彼女が望んだ世界を自分も見てみたい。そのために、この剣を振るい続けると。


 ――そう誓いを立てたものの、ブランの体は長くは持たなかった。


 暗殺者の道を強いられ、その地位を築くまでに蓄積された過労と、無理やり毒にも耐性を付けさせられた体は、元よりボロボロだった。


 その上、精神が不安定になるたびに、浴びるように酒を飲む生活をしていれば、体がおかしくなって当然で。


 ある日、ブランは口から血を吐いて倒れてしまったのだ。


 弱っていくブランを、女王は静かに見つめていた。


「……なぁ。あの日の、約束を……」

「えぇ、覚えていますよ。大丈夫。貴方は沢山尽くしてくれました。運命に翻弄されながら、そしてその心に深い傷を負いながら、貴方は精一杯走り続けましたね。その姿を、あの子の代わりにわたくしは見させていただきました。約束は必ず守ります。あの子と貴方に誓って」

「そう、か……。それなら……よかっ……」


 ブランは大きく息を吐いて、ふわりと微笑んだ。それは、ブランが生きている間に見せた中で、最も穏やかな笑顔だった。


「長い間、本当にお疲れ様でした。貴方の向かう先で、きっとあの子が待っていることでしょう。何の憂いもないその安らかな笑顔を、どうかあの子に見せてあげてください」


 そしてその夜、ブランは静かに息を引き取った。






 ──数年後。


 海を望む丘に、一際白く美しい聖堂が建てられた。


 女王陛下たっての希望で建てられたそれは、ルネブラン聖堂と名付けられた。別名“白く生まれ変わるための聖堂”と呼ばれ、後に悩める者の憂いに寄り添う場として有名になる。


 

 ブランは、王女の手を取った日から最低限の生活の保証だけを望み、一切の金を求めなかった。普通であれば褒美や爵位を与えられてもおかしくないような功績を残しても、何も受け取らなかった。


 その代わりに、ある願いをしていたのだ。


 彼自身、恐らく自分の余命は長くないだろうと分かっていた。せっかくフランネルが救ってくれた命なのに、どれだけ仕えられるか分からないと。


 役目を全うしない内に、海に行くことは出来ない。フランネルもそうだったように、この国の憂いを払えていない内から、王女の側を離れて南の地に行くことは考えられなかった。


 それでもいつか、海に行ってみたい。彼女が見たいと言っていた、そこへ。


 だから、自分の働きに見合ったらでいいから、自分とフランネルの墓を海の近くに作ってほしいと、そう願っていた。

 


「女王陛下!こんな風の強い日に……!風邪を召されてしまいますよ!」

「ふふふ、ごめんなさい。ここに来ると、どうしても二人に挨拶がしたくて」


 従者の声に微笑みながら、女王は跪く。白い花と濃いピンク色の花に囲まれて、二つの墓が並んでいた。


「確かあちらは……」

「えぇ。運命に引き裂かれて、それでも互いを愛し続けた、わたくしの大切な人達です」


 そこにはこう刻まれていた。


『我が愛しき戦友と、穢れを祓いし悪友。ここに眠る』


 女王は、手にしていた籠からある物を取り出す。それは、二人が愛した白ワインと二つのグラス。銘柄までわざわざ酒場で聞いて準備したものだった。

 

「二人とも、本当にそっくりだったんですよ。これまで貯めたお金であの人を助けてほしいと言ったり、自分の働きでアイツのために海の見えるところに墓を建ててほしいと言ったり……。置いていかれる身にもなってほしいものです」


 海風が吹き、潮の香りが花びらを揺らした。供えられた白ワインが、陽光を受けて煌めいている。

 

「あの子に与えたルネという名前の意味が、また別の形で実ってくれると、わたくしは信じています。そして、あの子が与えた名前を持つ貴方なら、きっと巡り会えるとも……。わたくしの作り上げた争いのない穏やかな国で、いつか二人が再び巡り会えますように……」

 

 その願いは風に攫われ、海へと溶けていく。舞い上がる二色の花びらが戯れる様は、無邪気に空を翔ける二人の魂のように見えた。



 


これにて、本編完結となります!

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。


初の悲恋をテーマにした作品だったのですが、いかがでしたか?ブックマークや☆評価をいただけますと非常に励みになります!気に入っていただけましたら、是非とも宜しくお願いいたします( .ˬ.)"



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