エピローグ
これにて一旦完結致します。
お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。
感想を頂いた皆様、誤字報告を頂いた皆様、本当に感謝いたしております。
皆様のお陰で励まされ、完結することが出来ました。
ありがとうございます。
また、ほっこり回など追加出来ればと思っています。
元王妃と元王太子の悲しい面談の後、ゾフィー元王妃の訃報を受けたグラーシュ公爵とアンジェリカと側近たちはアルテーヌに戻った。
これを機に王都から引き上げる予定だ。
後継者であるアンジェリカとユアン翁が共同で喪主となり、荘厳な葬儀が執り行われた。
トーラント国からはトーネット伯爵が、モンテ国とアルザス国からもそれぞれ弔問の使者が参列し、割譲された元バランデーヌの民たちも皆挙ってゾフィー元王妃の死を悼んだ。
ゾフィー元王妃の棺はアルテーヌの礼拝堂に併設された霊廟に納められた。
葬儀の後、アンジェリカは側近たちと共に、母マリーの眠るグラーシュ公爵家の霊廟を訪れた。白い大理石で作られた広い霊廟の中に、母マリーの墓標とその側にもう一つ同じ墓標が並んでいる。
長い間何も刻まれていなかった墓標には、新しく『ゾフィー・アルテーヌ』と刻まれている。
その前でユアン翁が片膝を突いて佇んでいた。
「終わりましたわね。大伯父様」
アンジェリカが声を掛けると、ユアン翁は立ち上がって皆に向かって言った。
「ええ、終わりました。公女様にも皆にも苦労を掛けましたな。カトリーヌ嬢、長い間ありがとう」
そう言って墓標に刻まれた名にそっと触れ、晴れ晴れとした顔を向けて言った。
「やっと名を刻むことが出来ました」
ゾフィー元王妃は、妊娠中から盛られ続けた毒と出産の後の過酷な幽閉で、一時は持ち直したものの満身創痍の状態だった。娘のマリーを失った後、アンジェリカの為と気力を奮い立たせてはいたが、アンジェリカの一歳の誕生日を祝った後にこの世を去ってしまったのだ。
ゾフィー王妃が亡くなった事がバランデーヌに知られれば、バランデーヌはアルテーヌの権利を主張し、アンジェリカは更に危険な立場に置かれる事になる。それを避けるためにゾフィー元王妃は自分の死を隠すようにユアン翁とグラーシュ公爵に遺言を残していた。
ゾフィー元王妃は表舞台に一切出ず、幽閉で白髪になった姿を見せないために常にベールを被っていると広く知れ渡っていたことが、その死を隠すために功を奏した。
会談や面会の必要があるときは、背格好の似た者が影武者となり、カトリーヌが才能を見出されて以降はユアン翁の監修の下、子供のころからその声を担ってきたのだ。
アンジェリカとパトリシアがカトリーヌの背を撫で長年の苦労を労った。
墓標の前でそれぞれの婚約の報告を終え、皆で霊廟を後にした。
葬儀から一月後、喪中であることを考慮して、三組の婚約が慎ましく発表され、一年後の喪が明けると同時に結婚式を執り行う事も同時に発表された。
バランデーヌの脅威が去り、初めての慶事の発表にアルテーヌは明るさに包まれた。
◇◇◇
アルテーヌでの生活も落ち着きを取り戻した頃、ここでも行われている定例の朝会議にて、三通の手紙がテーブルに置かれた。
一通はすっかりお馴染みの薄桃色のレースの縁取りが施されたカトレア模様の便せんだが、エリオット公女の印章が押されている。
もうすぐアルテーヌで暮らせることをとても楽しみにしていると、少女らしく書き綴った愛らしい手紙だった。微笑ましく読み進めていると最後の一文で笑みが引っ込んだ。
ヤギを見てみたいと書いてあるわ。どうしましょう。
もう一通はジルベールからだった。
温情を頂いたにも関わらず、元王妃の下に残る事を勝手に決めてしまった事を詫びる手紙だった。あの時の彼のとっさの判断は我々一同納得の結果だった。元王妃の側で最期を看取りたいという希望に付いても異論はない。
そして考えた末の事なのだろう、髪の色と目の色だけでなく顔立ちもあれほど似ている自分が側に居ては、口さがない噂が立つことは避けられない。それでは養育してくれているミラー夫妻や、何よりもクレイグに迷惑が掛かるしテオにとってもいい結果にはならないだろうと綴られている。元王妃を看取ったら、遠くで見守りながら間接的に支援する形で恩情に報いたいという。確かにテオは日に日にジルベールの面影を濃くしている。ジルベールからの申し出はミラー夫妻とクレイグに伝えて話し合ってみよう。
来月エリオット公女を迎えに王都に行く予定になっている。それに合わせて面談の申し入れの返事を出した。
そして最後の一通、エリオット公爵の印章が押された馴染みの便せんに書かれていたのは、元王太子の最期を知らせる言葉だった。
アンジェリカは側近たちに手紙を渡して言った。
「王太子殿下、終了のお知らせよ」




