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★元王子と不愉快な仲間たち-2

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回はグラーシュのお父様がえげつないのと、人が亡くなる描写もありますので、★をひとつ付けました。

痛い事、気味が悪い事が苦手な方はお気を付けください。


誤字報告、感想を頂いた皆様、本当にいつも感謝しております。

その日、夜明けの鐘の音と共にミーガン以外の五人は独房から出され、広場に面した鉄格子の小さな窓の前に立たされて元バランデーヌ王とその妻子と孫の処刑を間近に見せつけられたのだった。


五人の立っている小窓は鐘楼の真下にあった。刑の執行により、夥しい数の鈎針に捕らえられた状態で目の前に倒れている、元バランデーヌ王の孫二人の姿に言葉を失っている様子を見た騎士の一人が、ラシェルとルイとジルベールに、近くに落ちていた棒を拾って顔に向けながら蔑み切った声で告げた。

指を向けるのさえも嫌なようだ。


「この三人だ、はっきり覚えているぞ。あの日、元王家の身勝手のせいでグラーシュ公女と側近の皆様はこれと同じ襲撃を受けたのだ。元凶であるにも関わらず襲撃の後にのこのこと部屋にやってきて、詫びるどころか見舞いの一つも言わず、暴言を喚き散らして逃げ帰ったクズどもだ。

公女様と皆様はもちろん、あの部屋に居た全員が一丸となって必死に襲撃者と対峙し、カール様は重傷を負いながらも皆様を守り抜いた。それが叶わなければ、グラーシュ公女と側近の皆様はあの二人と同じ姿になっていた」


その騎士は、刑の執行終了の合図によって運ばれていく二人を見やりながら呟いた。


「しかし、よくもこんなにも非道な事を考え付いたものだ。正に自業自得、バランデーヌの人でなしどもには似合いの最期だ」


その騎士の言葉に憤慨して飛び掛かろうとした三人を周囲の騎士たちが押さえつけ、頭を掴んで小窓に固定した。

その体勢のまま次々と執行される刑を見届け、人々が去った広場に残された元バランデーヌ王が、風に揺れるのを言葉なく見つめていた。


背後で騎士たちが一斉に礼を執る気配に振り向くと、グラーシュ公爵が穏やかな笑顔で立っていた。公爵に何やら囁かれた侍従が頷き、伝えられた言葉に五人は顔を見合わせた。


「あなた方が生涯を過ごす部屋の用意はもう間もなく整います。それまでの間、元国王夫妻と元フラン侯爵夫妻と共に貴族牢に収監します」


侍従の言葉が終るとグラーシュ公爵は無言で踵を返して歩き出し、その後を騎士に引き摺られるように五人が連行された先は、離宮にある瀟洒な外観の離れだった。

数代前の側妃が幽閉されていた貴族牢だとラシェルがほっとしたように言った事でクレイグを除く三人があからさまに安堵の様子を見せ、ここならメグも一安心だとこそこそと話し合っていた。


通された広々とした部屋は、窓を中心にして格子で細かく仕切り直されており、カーテンのない窓際に五つの寝台が並べて固定されている。

そして、開け放った扉の廊下の先には、粗末ながら頑丈な作りの棺が四つ並べられていた。


侍従の『元国王夫妻と元フラン侯爵夫妻と共に貴族牢に収監します』との言葉を思い出したラシェルとジルベールが棺に駆け寄ろうとすると、グラーシュ公爵は持っていたステッキで二人を止めた。

それを見たグラーシュ公爵の護衛騎士が二人に告げた。


「棺は密封されていますので開ける事は出来ません。尤も、開いたとしても見ない事をお勧めします」


その言葉にラシェルとジルベールが護衛騎士に食って掛かった。


「お体の損傷が激しいという事だな!一体ここで我らの父母に何をした!」


その問いには侍従が答えた。


「我々は何もしていません」


侍従はラシェルとジルベールの目を交互に見ながら続けた。


「彼らは当然の刑を受けたまでの事。バランデーヌのスパイだったフラン侯爵夫妻とその一族、そして加担した一派は全員が絞首刑となり、首謀者だったフラン侯爵夫妻は野晒し刑により広場で晒した後はそこの窓の外に吊るされていた。

元国王夫妻は、グラーシュ公爵閣下の温情で収監されていた特別牢が気に入らぬと暴言を吐き続け、貴族牢へ移せとしつこく言い募ったため彼らの希望によりこの場へ移動した。それだけの事です」


両親と一族の処刑を知らされていなかったジルベールはその場に崩れ落ち、ラシェルは更に言い募った。


「では何故ここに収監されただけの僕の両親が亡くなっている!お前たちが殺したんだな、この外道め!」


その言葉を吐いた瞬間、グラーシュ公爵がステッキを振り上げ、ラシェルの肩をめがけて強かに振り下ろした。


鎖骨が折れる音が辺りに響き、思わず膝を突いてうめき声を上げながらグラーシュ公爵を見上げたラシェルは戦慄した。

笑顔のまま感情の籠らない瞳がじっと自分を見つめている。

ゆっくりと近づいて来るその顔から目が離せず、恐怖のあまり失禁した事にも気づかなかった。


「クズの分際で我らを外道呼ばわりとは恐れ入る。お前ごときに口を開くなど片腹痛いが、人殺しの汚名は雪がねばならん」


グラーシュ公爵はラシェルの周囲に広がる失禁の滲みを蔑むように見下ろして遠ざかると、続けて言った。


「お前の母を殺したのはお前の父だ。この部屋に収監され、窓の外に吊るされたフラン侯爵夫妻を見たお前の母は、錯乱状態になって昼夜を問わず叫び続けたのだ。それに堪えかねたお前の父が自分の妻を手にかけ、その後自ら命を絶っているのが見つかった。我らはお前の両親の我が儘の末の後始末までつけてやっている」


そう言うと、座り込んだままのラシェルを見据えながらステッキを側の格子に叩きつけた。精緻な彫刻とグラーシュ公爵家の紋章が施された見事なステッキは真っ二つに折れ、その様子に震え上がったラシェルと他の四人を尻目に、グラーシュ公爵は折れたステッキを侍従に渡しながら別人のような柔和な笑みを向けて言った。


「せっかくの工房長の心づくしだったのに、残念だが穢れてしまったので処分しておいてくれ。工房長にはくれぐれも申し訳なかったと伝えて、もう一本作ってもらえるよう頼んで欲しい」


侍従はステッキを受け取り、こちらも穏やかな表情で答えている。


「公女様を愚弄した者が触れたなどと聞けば、工房長は即座に薪にして火に焚べてしまうでしょう。もちろん、新しいステッキの注文にも応じてくれますとも」


そんな穏やかな会話を続けながら、護衛騎士と侍従を引き連れたグラーシュ公爵は五人を一顧だにせず部屋を後にした。

そんなグラーシュ公爵一行を、礼を執って見送った騎士たちは四人をそれぞれの格子の中に押し込んで錠を掛けた。

そしてまだ座り込んだままのラシェルに向かって水の桶と消毒液と布を渡して言った。


「自分の粗相は自分で始末しろ。密封しているとはいえ腐敗した遺体が近くにあるのだ。

すぐにきちんと処理をしておかないと悪い疫病が発生する」


そう言って指示を出しながら、肩の痛みと羞恥と憤慨で顔を真っ赤にしたラシェルに粗相の掃除をさせた。そして、頑なに囚人服を拒み、着続けて薄汚れた服を無理やり脱がせて囚人服に着替えさせると格子の中に放り込んで錠を掛けた。

肩の治療をされない事に腹を立てて抗議するラシェルだったが、一瞥した騎士は言い放った。


「どうせ何もせず動かないのだから放っておけば治る」


もう一度錠を確認した騎士が部屋の入り口で注意事項を告げようとした時、サイラスが声を上げた。


「妹は、ミーガンはどうなりましたか」


その問いには、他の騎士から返答があった。


「その女の事はグラーシュ公女に一任されている。処刑の立ち合いと、この貴族牢での収監はグラーシュ公女の温情により免除され、幽閉先へ直接送られる事になっている」


それを聞いて安堵の表情を浮かべた者たちに複雑な表情を向けて騎士は告げた。

ここよりいくらかはましかもしれないが、どちらもそう安堵出来る場所ではないだろうに。


「毎朝一日分のパンとチーズと水が届けられるのは一般牢と同じだ。

明後日、窓の外に元バランデーヌ王が吊るされる事になっている。それ以降は寝食どころではないだろうから、それまでの間に食べるだけ食べてしっかり寝ておいた方が良い」


ジルベールは顔を上げ、つい先日まで両親が吊られていたという窓をじっと見上げていた。


それから三日目の朝、離宮の貴族牢の窓の外に元バランデーヌ王は吊るされた。

本人が『我が死に顔は恐ろしい』と予言した通りの凄まじいその死に顔に、収監されている五人は戦慄した。

騎士の言った通り寝食もままならず、吊られた元バランデーヌ王が風に揺られて窓を打つ音に耳を塞ぎ、目を瞑って日々をやり過ごした。

そうして幾日が経ったかもう分からなくなった頃、大勢の靴音に顔を上げると、開け放たれた扉の前にグラーシュ公爵とエリオット公爵が立っていた。


「漸く幽閉先の準備ができた。移動だ」


グラーシュ公爵の合図で五人が格子の外へ出され、両脇を抱えられるようにして部屋を出された。

部屋を出る時、扉の前に居たエリオット公爵に、憔悴しきったルイが縋るような視線を向けたが、エリオット公爵がルイに目を向ける事はなかった。

全員が部屋から出された時、窓の外をじっと見ていたエリオット公爵が口を開いた。


「グラーシュ公女の言った通りだな。冷静に見ればただ気味が悪いだけだ」


離宮を出た所で、一足先に幽閉先へ赴くグラーシュ公爵を見送ったエリオット公爵は、振り返って五人に告げた。


「最後の施しだ。入浴を許可する」


これから徒歩で向かう場所に入るにあたり、彼らには囚人服を着用させておかなければならない。自主的に着替えたクレイグと失禁して仕方なく着替えたラシェル以外は、薄汚れたブラウスとスラックスを頑なに脱ごうとはしなかった。それなら、今彼らが一番欲していて自主的に服を脱ぐ場を用意すれば良い。

何よりも、あの部屋の中に居たなら無理もないのだが、このまま連れて歩くには臭いが酷すぎた。


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― 新着の感想 ―
ラシェルのめげなさよ(笑) めでたい頭してるだけある~。 外道め!なんて食い掛かってるけど、それもポーズで本当は両親が死んだ事なんて特に悲しいとも思ってないよねラシェルは。 まだ本番じゃなくこれただの…
幽閉場所の酷いところと言ったら有名な絵画にもなったロシアの女帝のアレかな?と思いましたが序の口でしたね。 三代の恨みは化性ですら尻込みする件かもしれませんね…怪物以下かな。
容赦ないですねえ。素晴らしいと思います。
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