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【第13回ネット小説大賞受賞・書籍化決定】王太子殿下、終了のお知らせです  作者: お伝


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閑話 アルテーヌの娘たち

お読みいただいた皆様、いつもありがとうございます。

今回はちょっと休憩回です。

誤字脱字報告、いつも感謝しています。

感想も本当に励みになっています。ありがとうございます。

元バランデーヌ王が晒し刑にされていた一月の間で、バランデーヌの割譲の条約等が無事締結した。

各国とアルテーヌとの流通や契約も、既に水面下で具体的な交渉を進めていた為、後は調整と調印のみとなっており比較的スムーズに進んだのだった。

モンテ国とアルザス国の大使たちは、元バランデーヌ王家の処刑を見届けて各国へ報告も終わらせたと聞いた。

各国とアルテーヌにとっては目まぐるしい一月だったが、ここへ来て漸く一息吐けるようになった。



まだ油断は出来ないが、一応の脅威は去ったと言える状態になり、アンジェリカと側近の五人は、やっと自分本来の姿でのびのびと生きる事が出来るようになったのだ。

しかし、長年命を狙われ続けていた彼らは、常に周囲を警戒した緊張状態が通常だった生活からすぐには抜け出せず、当初は解放感よりも戸惑いの方が大きかった。


それでも少しずつ緊張がほどけて来て、今までの様な張り詰めた雰囲気が少し和らいで来た頃の事だった。

特に戸惑ったのは、周囲の令息・令嬢の目や態度だった。

今までも羨望の眼差しで見られてはいたが、取り立てて近づいて来るものは居なかった。

王太子殿下の婚約者という立場であった事も要因の一つだろうが、近づいて来るものへ向けられる鋭い眼差しが一番の原因だっただろう。


今回の結果、アンジェリカは王太子殿下の婚約者ではなくなり、側近たちはそれぞれに個性を出して、皆の雰囲気が少し柔らかくなった事で周囲に人々が集まり始めてしまったのだ。

特に、政変と言える事態により、一時休校となっていた学園が新校舎で再開された初登校日の今日、みんな大変な目に遭ったのだ。

学園からやっとの思いでグラーシュ公爵家のタウンハウスへ戻って来て、現在女子三人で緊急会議中だ。

アンジェリカがため息を吐くように話し出した。


「あれが黄色い声というのかしら。メルヴィルとマルコムとカールが馬車から降りた時の女生徒たちのあの声は凄かったわね。その後の移動も大変だったし」


パトリシアが怫然として話し出した。


「廊下をマルコムと歩いていたら、突然令嬢が突進してきたの。襲撃かと思って身を躱したら勝手に転んで泣き始めて、しかも!私が転ばせたとか言い出して側に居たマルコムに助けを求めたのよ。もう訳が分からなかったわ」


えっ、とアンジェリカが真剣な顔で身を乗り出すと、それを見ていたカトリーヌがくすくすと笑いながら続きを話した。


「でも、マルコムはパトリシアの手を取って、『僕のパトリシアはそんなことは決してしません』って言って、廊下に座り込んでいる令嬢を一瞥もせずに通り過ぎたでしょ?

放置された令嬢は何か喚いていたけど、誰にも相手にされずに一人で立ち上がって走って逃げて行ったわよ」


ああ、それは恥ずかしいわよねぇとアンジェリカが目を遣ると、パトリシアは真っ赤な顔で頬を押さえていた。マルコムとパトリシアはペアを組むようになった頃から想い合っていて、この度めでたく婚約予定なのだ。

マルコムはグラーシュ公爵家の持つ伯爵位を継いで今まで通り筆頭秘書官として、パトリシアは母のペルジェ伯爵夫人の職を引き継いで侍女長となり、夫婦でアンジェリカを支えることになっている。


パトリシアのこんな顔を見るのは初めてで、こちらまで頬が緩んでしまう。

アンジェリカとカトリーヌのニヤニヤ顔を見て、今度はパトリシアがカトリーヌに言った。


「カトリーヌだって、カールが後ろにぴったりくっついて周囲を凄い顔で睨みながら歩いていたって、マルコムから聞いたわ。くっついてるのは相変わらずだけど、最近は目つきが怖すぎるって言ってたわよ」


アンジェリカはその光景を思い浮かべて思わず、ふふっと笑ってしまった。

カールがカトリーヌにぞっこんなのは周知の事だ。カトリーヌに一目ぼれをしたカールは、絶対に他の子にカトリーヌのパートナーを譲らなかったのだ。その条件としてカトリーヌの父のデュボア伯爵から課せられた剣技や体術を磨きに磨いてきた。

あまり感情を表に出さないカトリーヌが押されているのではと心配されていたのだが、カトリーヌは襲撃で大怪我を負ったカールの寝室に泊まり込み、誰にも触らせずにつきっきりで看病したのだ。ツンデレが判明して以来、もうカールにはカトリーヌしか見えていない。


デュボア伯爵家は実力重視で後継者を決める為、次のデュボア伯爵はカトリーヌが指名される事が決まっている。マクガリー辺境伯家へはデュボア伯爵から正式に申し入れをしているそうだから、傍系の子息であるカールは辺境伯の承諾が届き次第デュボア家に婿入りする予定だ。


「大丈夫だって言ってるのに、どうしても、ってくっついてくるのよ。それに、カールはいつもにこにこしかしてないわ」


アンジェリカとパトリシアは顔を近づけてこそこそ話をするように話し出した。


「嬉しいって言えばいいのにねぇ」

「そうよねぇ。それに、にこにこじゃなくてデレデレの間違いじゃない?」

「そもそもカールは私たちにだって、にこにこ話しかけたりしないもの」

「ほんと、カトリーヌはツンデレなんだから」

「でもカールはそれも可愛くて仕方ないんじゃない?」


二人が横目でカトリーヌを見ながら大きなひそひそ声で話していると、それまでつんと横を向いて聞こえないふりをしていたカトリーヌが、メルヴィルの人形を取り出して話し始めた。


『私は君に名を呼ぶ許可を出していない。二度と私の名を口にするな。私の名を呼べるのはこの世でただ一人、私の唯一の女神であるアンジェリカだけだ』


それを聞いたパトリシアが目を輝かせて聞いて来た。


「そんなことがあったの? もちろん、詳しく聞かせてくれるでしょう?」


アンジェリカが目を泳がせていると、カトリーヌの寸劇が始まった。

側に居たメイドたちも目を輝かせて集まって来た。


カオナシ人形がメルヴィル人形に走り寄って腕に絡みつこうとする。


カオナシ:『メルさまー』


メルヴィル人形の側に居たアンジェリカ人形がするりと間に入ってメルヴィル人形の腕を取った。

するとカオナシ人形が、アンジェリカ人形に詰め寄ってメルヴィル人形から引きはがそうとする。


カオナシ:『私はメルさまに大事なお話があるのです。グラーシュ公女、邪魔をしないでください』


メルヴィル人形が、カオナシ人形がアンジェリカ人形に触れる前に、アンジェリカ人形の腰を抱き寄せてカオナシ人形から距離を取った。


メルヴィル:『どこの誰だか知らないが、アンジェリカに危害を加える者には容赦はしない』


するとカオナシ人形は恥ずかしげもなく言い放った。


カオナシ:『我が侯爵家から辺境伯家へ、わたくしとメルさまの婚約の申し入れをしています。わたくしはメルさまの婚約者になるのです』


メルヴィル人形はアンジェリカ人形をぎゅっと抱きしめて、カオナシ人形を睨んで言った。


メルヴィル:『勝手な妄想をまき散らさないでくれ。大迷惑だ。私の婚約者は既に決まっている。元国王の横槍で中断されていただけだ』


カオナシ人形が詰め寄って来たので、メルヴィル人形は小さな護身用のスティックをカオナシ人形に突き付けるように向けた。


カオナシ:『そんな話は聞いていません。それに家格は我が侯爵家の方が上、辺境伯家からは断れないわ。わたくしたちの婚約は決定なのです』


メルヴィル人形はアンジェリカ人形をさらにぎゅっと抱きしめてカオナシ人形を睨んでいる。


メルヴィル:『辺境伯家は侯爵家と同列だ。そんなことも分からない頭だとは心から気の毒でならない。それに今回のバランデーヌ制圧の功績の褒賞として我が辺境伯家の序列は上がったし、婚約に就いては摂政のエリオット公爵閣下からの承認が既に下りている』


カオナシ人形は更に言い募った。


カオナシ:『家からの正式な返事があるまではまだ分からないわ。わたくしは諦めません』


メルヴィル人形は頭を振り、カオナシ人形を指差して言った。


メルヴィル:『では、今ここで貴侯爵家から辺境伯家への婚約の打診ははっきりと断る。これは辺境伯家の総意だ。これ以上付きまとうなら我が辺境伯家から貴侯爵家へ正式な抗議文を送る』


カオナシ人形はしつこい。


カオナシ:『そんな、わたくしはメルさまをお慕いしていて…』


メルヴィル人形はカオナシ人形の言葉を遮って止めを刺した。


メルヴィル:『私は君に名を呼ぶ許可を出していない。二度と私の名を口にするな。私の名を呼べるのはこの世でただ一人、私の唯一の女神であるアンジェリカだけだ』


顔を真っ赤にしているアンジェリカを尻目に、してやったりとご満悦のカトリーヌとパトリシアをはじめとした部屋に居る侍女やメイドたちも皆きゃあきゃあと声を上げて拍手喝采だった。



アンジェリカの乳母であり侍女長のペルジェ伯爵夫人は、漸く訪れたこの穏やかな光景をうっすらと涙を浮かべて見つめていた。

今までずっと命を脅かされて緊張を強いられ、年頃であれば当然の感情を出す事すらままならなかったアルテーヌの娘たちが、恋を語り美しく花開いていく様子に感慨も一入だった。


アルテーヌの子たちの母の一人として、この場に居るものだけでなくアルテーヌの子どもたちが皆、今までの分も幸せになって欲しいと心から願ったのだった。




一方その頃、鍛錬場に居たメルヴィルとマルコムとカールも同じように話し合っていた。

彼女らの廻りに飛び交う羽虫たちをいかに排除するか。

カールは、気迫をもって睨みを利かせれば排除できると豪語し、メルヴィルは、それがだめなら決闘だなと、さらっと物騒な事を言っている。

しかし厄介なのは他国の王家からの打診だ。

それについては、マルコムが良い笑顔で答えていた。


「心配ないと思うよ。エリオット公爵が摂政の権限でトーネット伯爵に返事を伝えていたからね。

『手紙はヤギが食ったと言って断れ』って」


ああ、それなら大丈夫だな。

ヤギなら仕方ない。




◇◇◇

程なくして、グラーシュ公爵から、ラシェル元王子と不愉快な仲間達の部屋の準備が整ったと連絡があった。



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― 新着の感想 ―
「彼女らの廻りに飛び交う羽虫たちをいかに排除するか」 と男性陣は話し合ったようですが、カールは羽虫を寄せ付けなかったからいいけど、他の二人については羽虫は貴方達男性陣廻りを飛び交っていませんでしたか?…
結婚とかするんだ 家族ができてしまうと大事なものが増えるからね。なによりも1番大事と言えるならいいけど次の世代とかまで続いていくとは思えないし 主君からそれなりに近しい友になった感じかな?お疲れさん
おつむの弱い人達はあれだけの事が起こっても「僕(私)は違う!」という思考で行動するのでしょうから... やっと平穏が訪れたと思ったのに気が休まらないですね(笑)
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