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30/46

★★★悪魔の末路

★三つです。

ここまでしなくても、という心の声で前回の投稿から外した部分です。

沢山人が亡くなります。

処刑の様子もあります。

苦手な方はスルーして下さい。

読まなくても矛盾の無い回です。


誤字報告、本当にいつもありがとうございます。

感想やご意見、とても励みになっています。ありがとうございます。


どうせ眠れないからと、その夜を父のグラーシュ公爵と共に礼拝堂で明かしたアンジェリカは、夜明けの鐘の音に促されるようにグラーシュ公爵のエスコートで広場の処刑場へ足を向けた。


そこでは、既にユアン翁が特別に設えた執行台を確認していた。

壇上にはエリオット公爵と重臣たちも集まっており、四人の者たちが拘束されて跪かされている。

これから行われる処刑は、元バランデーヌ王だけではない。

元バランデーヌ王がゾフィー王妃を娶る前に既にその側に置いていた、王の最愛と言われた側妃とその娘、そして孫娘と孫息子の四人に対しても執行される。

その事を元バランデーヌ王はまだ知らない。


元バランデーヌ王にも人の心はあったのか、それとも他の思惑があったのかは分からない。

しかし、襲撃されたことを知ったと同時に即座に側妃と娘と孫たちを玉座の間へ集めて隠し通路から逃がしていたのは事実だった。

隠し通路は玉座の間からしか辿れない。


元バランデーヌ王は、彼らを逃がした後にその部屋に逃げ込んだ。

ユアン翁はそれを追い、先頭を切って玉座の間へ突入したと同時に跳躍と共に切りかかった。迎え撃ったバランデーヌ王が宿敵同士の激戦の末に捕らえられた時には、逃がした彼らは逃げおおせているはずだった。


捕らえられ護送されているのは元バランデーヌ王ただ一人で、ユアン翁やグラーシュ公爵が出す指示や、周囲が小声で話す『まだ見つからない』という会話も耳に入っていた。



しかし、それはユアン翁の策略だった。

奴の事なら知り尽くしていると自負しているユアン翁は、捕らえた奴がどんな過酷な拷問にかけられようと、どんな残酷な刑を執行されようと、全く堪えた様子を見せずに高笑いだけを残して命を終える様子が手に取る様に分かっていた。

ならば、何が奴を絶望させ、本当に恐ろしいものとは何なのかを思い知るのか。



ユアン翁は一足先に潜入させた暗部によって襲撃の一報をわざと耳に入れた後、奴がどの様な行動を取るか注意深く観察していた。


誰にどのように指示を出すのか。


誰をどこから逃がすのか。


隠し通路は玉座の間からしか辿れない。

彼らを逃がした後にその部屋に逃げ込み、時間稼ぎする事は容易に想像がついた。

時間稼ぎはこちらにとっても好都合だ。本人に知られることなく逃がした者を捕らえられる。


元バランデーヌ王の誤算は、王妃として王宮で過ごしたゾフィーが、その隠し通路の存在と出口を知っていた事だ。

教えるつもりなどなかったはずだが、名ばかりの王妃教育中にたまたま紛れ込んでいた城の地図をゾフィーが目にして覚えていたのだ。


四人には自白剤を与えて、こちらの問いには全て本心を答えるように準備をされている。

彼らの処刑を目の当たりにしてもなお、何も感じることなく高笑いだけを残すようなら本物の悪魔だ。

人知の及ばない生き物だったと諦めがつく。



山の端から朝日が差し込む時刻になり、広場に人々が集まり始めた。

壇上に拘束されている四人の罪人と、絞首刑台の他、二つの磔刑台と鐘楼から突き出された演台を目にして、集まった民衆が騒めく。

そこへ、首枷と繋がった手枷を後ろ手に着けられ、鉄の管をかまされた元バランデーヌ王が荷車に乗せられて運ばれてきた。


絞首刑台に乗せられた元バランデーヌ王は、壇上の四人を目にして大きく目を見開いて食い入るように見つめている。


壇上に上がったトーネット伯爵が書類を掲げ、壇上の罪人に罪状を確認する。


「亡国バランデーヌの側妃、其方は王妃ゾフィーを幽閉し、衰弱死を画策した元王に加担し、また、自身の生んだ娘を王妃ゾフィーの生んだ王女マリーと偽装することを元王と共に画策した罪状に間違いはないか。自身の罪を嘘偽りなく告白せよ」


壇上に立たされた女は、話し出した。


「王の寵愛は私だけのもの、私が王妃になるはずだったのに、その座を奪ったあの女が許せなかった。だから計画を知った時には嬉しかったわ。だから幽閉先を城壁に変えさせて、罪人が吊るされて朽ちていく様を見て恐怖に震える姿を見ていい気味だと思ったの。なのに二人とも三年も生きて助け出されるなんて思ってもみなかったわ。助け出された所でお腹に居る時から毒を盛っていたからあの娘なんてすぐ死ぬと思っていたのに、まさか子を産むなんて」


元側妃は、自身の言葉に恐怖で青ざめた顔で首を振っている。

トーネット伯爵はその様子を顧みることなく宣言した。


「罪状は確定した。その女を磔刑に処すことをトーラント議会は承認した」


元側妃が磔刑台に上げられて括り付けられると、元バランデーヌ王は何やら叫びながら膝で這って近づこうとしたが、近くに居た衛士に転がされて背中を踏まれ、腹ばいになってもなお言葉にならない叫び声を上げている。


ユアン翁とグラーシュ公爵、アンジェリカはその姿をじっと見つめている。

磔刑の準備が整ったところで、トーネット伯爵が次の書類を掲げて次の罪人に罪状を確認した。


「亡国バランデーヌの王女、王妃ゾフィーの生んだ王女マリーになり替わるべく育てられたことは其方の罪ではないが、王女マリーに子が生まれたことが分かると、元王と共謀して自身の子をなり替わらせるべく、何度もその誘拐を画策した罪状に間違いはないか。自身の罪を嘘偽りなく告白せよ」


元王女は、母の元側妃が磔刑台に括られている様子を震えながら真っ青な顔で眺めながら答えた。


「私は王宮で生まれ育った第一王女なのに、あの死に損ないの王女がいたせいで王太女にも女王にもなれなかった。どうせ死ぬなら子など産まずにさっさと死ねば良かったのよ。子なら簡単に攫えると思ったのにどの子か分からないなんておかしいわ。何度も全員を捕まえて皆殺しにしようとしたのに人数が多いし護衛や守りが固くて出来なかったのよ。忌々しいったらないわ」


何とか口を押さえて言葉を止めようとしていたが拘束されていてそれが出来なかったようだ。首を振り、涙をまき散らしながら話す姿は醜悪だった。

トーネット伯爵は険しい顔で元王女を見据えて宣言した。


「罪状は確定した。その女を磔刑に処すことをトーラント議会は承認した」


暴れて泣き叫んでいる元王女は、衛兵によって元側妃の隣に立てられたもう一つの磔刑台に括り付けられた。

元バランデーヌ王は、もがきながらずっと言葉にならない叫び声を上げ続けている。


厳しい顔のまま、トーネット伯爵は最後の書類を掲げて残った二人の罪状を読み上げた。


「亡国バランデーヌ王女の子、二人はアルテーヌの相続人が令嬢である事を知ると、共謀してその誘拐を計画し、元王と共謀してそれを実行した。その誘拐は未遂に終わったものの、その方法は生死を問わぬ悪逆非道なものであった。その罪状に間違いはないか。自身らの罪を嘘偽りなく告白せよ」


祖父母と母が処刑を待つばかりの状態で、がくがくと震えながら真っ青な顔の二人が口を開いた。


「お爺様は生き死にはどうでも良いって言ったのに、お兄さまがその女たちを全員生け捕りにして自分の妻にしようとしていたの。だから私は反対して全員殺して死体を持ってくるように言ったのよ。だってそうしてその女になり替わらないと私には何のメリットもないんだもの。そうしたら、お兄さまが、自分はその女と結婚してトーラントの王になるから、やっぱり生け捕りが良いって言ったの。私はバランデーヌの女王になれば良いって。でもお兄さまは嘘つきで信用できないから、やっぱり殺して持ってくるようにこっそり命令していたの」


それを聞いていた兄は、血の気の無い顔で目を泳がせながらも妹に食って掛かった。


「確かにお爺様は生き死にはどうでも良いと言ったけど、どれも極上の女たちだと聞いていたから、せっかく生け捕りにする方法を考えて全員を慰み者にしようと思っていたのに、やっぱりお前が殺せって言ったんだな。お前みたいな狡くて馬鹿な女を女王にできるわけないだろう」


兄妹は顔を見合わせながらわなわなと震えている。

トーネット伯爵は険しい顔に眉間の皺をさらに深くして、兄妹を睨み付けて宣言した。


「罪状は確定した。その者たちについては、自身が考えグラーシュ公女に行使した方法を再現して刑とする事をトーラント議会は承認した」


泣きわめきながら座り込んで抵抗する二人を、衛士たちは引きずるように連れ出し、鐘楼から突き出された演台の上に乗せた。


「これより刑を執行する」


立ち上がった摂政エリオット公爵の宣言により処刑が開始された。

エリオット公爵が演台の下に顔を向けて手を上げたのを合図に、ヒュンヒュンと音がしたかと思うと、演台の二人に向かって夥しい数の鎖の付いたかぎ針が投げつけられ、着ている服や髪に引っ掛かかったと思うや否や強い力で引っ張られて地面に叩きつけられた。


一瞬の出来事だった。集まった民衆も言葉を失ったように静まり返っている。

あの二人はこれと同じ事をグラーシュ公女に行ったのだと、誰からともなく発せられた声に民衆は我に返り、叩きつけられてもう動かない二人と処刑を待つ者たちへ非難と怒号が向けられた。

倒れている二人を確認した僧侶たちが十字を切り、執行終了の合図を送ると、衛兵に運ばれて元バランデーヌ王を運んできた荷車に乗せられた。


目の前の出来事に、アンジェリカの脳裏に襲撃の時の光景が再現され、一気に血の気が引いてがくがくと震えが起った。それを見て取ったグラーシュ公爵とユアン翁が両側から手を取りしっかり支えてくれた。

その間も、ユアン翁は元バランデーヌ王から目を離す事はなかった。


続いて、エリオット公爵は磔刑台に顔を向けて手を上げた。

それを合図に、子の最期を見せつけられて泣き叫ぶ磔刑台の二人に向かって次々と槍が打ち込まれた。次第に声が出なくなり打ち込まれた槍に反応が無くなると、僧侶たちが近づいてこと切れたことを確認し、十字を切ると執行終了の合図を送った。

二人は磔刑台から降ろされ、子たちと同じ荷車に乗せられた。

四人は教会の共同墓地に掘られた穴へ運ばれる事になっている。


四人の処刑を目の当たりにした絞首刑台の元バランデーヌ王は、身をよじり、顔を真っ赤にして声を限りに叫んでいる。


絞首刑台にユアン翁が上がり、衛兵に立たされ憤怒の表情で身をよじって暴れる元バランデーヌ王の首に縄を掛けながら静かに言った。


「お前がゾフィーを攫ったりしなければ、皆死なずに済んだ」


縄を掛け終わったユアン翁が一歩下がってさらに告げた。


「全てお前のせいだ」


それが、元バランデーヌ王が最期に聞いた言葉になった。


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― 新着の感想 ―
読んでて疑問ですが、処刑された孫たちの父親って出てきてないですよね。 病死とか離縁ですかねえ。
思ったよりさっぱりだった
ちょっとは酷い程度で所詮は『人の範疇(歴史上の人物を思い浮かべながら)』だったか
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