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閑話  茶番の終わり

客観的な善良と主観的な善良は大きく違うとエリオット公爵は認識している。

国王夫妻の場合は主観的な善良であり、自身がそう信じ込んでいる以上、その考えを覆す事は非常に困難だった。


前エリオット公爵は、とっさの判断で王太子だった甥を新国王に推したものの、前国王である父親の卑怯な内面を極端に嫌う姿に不安があった。

そして、新国王が自身の正しいと信じる善良さと正義感を否定される事に強く反発する姿を目にするようになると、それに迎合する者たちに取り込まれる事を何よりも警戒するようになったのだ。

しかし、国王の権力の前では不興を買った者は簡単に排除されてしまう。

ギリギリのバランスを取りながら助言をし続け、自身の後を託した息子の現エリオット公爵と共に根気強く取り組んできた結果が、温厚で善良、正義感溢れる国王と冷徹で容赦のない宰相という位置づけであり、何事も周囲に相談をするという約束に近い制約だった。


それも新国王にとっては口煩い叔父のただの小言程度だと思っていた事が、前エリオット公爵亡き後の行動で見て取れる。


トーラント国の議会は、アルテーヌの権利をこのまま手中にし続ける事を最重要事項としていた。その為には王家と次期相続人を擁するグラーシュ公爵家との婚姻が理想だった。ラシェル王子の立太子に合わせて、国王から次期相続人がグラーシュ公女である事を明かされた議会は、王家の思惑とも一致した事で諸手を挙げて婚約話を推し進める事にしたのだ。


グラーシュ公爵家からは、それまで明かしていなかった次期相続人の性別を、事前の相談もなく勝手に明かした王家に対して厳重な抗議があったが、当時のエリオット公爵始め重鎮たちは、婚約者となり王家の介入があった方がグラーシュ公女の安全はより強固になると思っていた。


それがいかに甘い考えだったかは、グラーシュ公爵家一門に嫌というほど思い知らされ、宰相としての怠慢だと言わざるを得ず、申し開きのしようもない。

婚約後は、バランデーヌへの対応と共に出来るだけの協力体制を敷いて来たつもりだが、助けられた事の方が圧倒的に多い。


そればかりか、モンテ国とアルザス国とのバランデーヌ割譲の協議のテーブルに着いて分かった事は、割譲にトーラント国が参入できたのは、初代の守護者と決まったアンジェリカ嬢が、トーラント国に属するグラーシュ公爵家の次期女当主に指名された事が理由だった。


協議のテーブルでは、将来アルテーヌを廻る争いが起った場合、二国間の争いになれば豊かなアルテーヌの土地は蹂躙され、分断するまで争いが続く可能性があり、それを防ぐ為には三国による三つ巴の構築が理想であると結論付いた。

加えて、現状の(亡命中の王妃)という、他国からの干渉が出来ず、自国も経済封鎖された上、亡命中のために手が出せない事で独自の動きが出来る位置づけが上手く機能している事を鑑みて、持ち回りでの守護者という案で纏まったのだ。


トーラントという国が重要視されているわけではない。

もしもアンジェリカ嬢が、バランデーヌ王の孫であり王妃から生まれた正当な王女の子である事を主張して王位を勝ち取り、トーラント王国の王太子から掛けられた冤罪事件を理由に三国で攻め入れられたなら、割譲されるのはトーラント国の方だった。

その場合アルテーヌの初代守護者は、ゾフィー王妃の兄であるマクガリー辺境伯家の者が、血統からも長年の尽力の功績からも相応しいだろう。



エリオット公爵は独り言ちた。


何と迂闊な事だ。

今まで目の前の事で手いっぱいで思い至らなかった。

それもまた言い訳に過ぎないな。


この状況は国の舵取りを誤り、小賢しい陰謀を画策したルイの父親でもある私への断罪でもあるのだ。

場を取り仕切る事で自分のして来た事の結果に向き合い、自身への裁定も下せという事だ。

グラーシュ公女と周囲を守る五人に目を向ける。

慈悲深い采配に感謝と共に感嘆し、同時に頼もしい主を頂く彼らを羨ましいと思う。



◇◇◇

エリオット公爵の顔つきが変わった事に気付いたアンジェリカは口元の笑みを消して扇子を閉じた。

茶番が終わったわね。



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― 新着の感想 ―
やっぱり王国許せないので、きっちり終了されて欲しいですね。 国王と王妃、あの親にしてこの子あり。
ここまで全てCHA-BANだったと言い切る公女様かっこいい… そして彼女の側近の皆さん、パフォーマンスもお上手だこと…!!
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