クレイグの贖罪
凱旋パレードの出迎えのために廊下を出た所で、トーネット伯爵から封をしたカトレア模様の便せんを渡された。
返事を口頭でも良いのですぐに貰いたいと伝えられて封を切った。
『天使は神の御腕に託すや、否や』
即座に『否』と返事をし、パトリシアの差し出した便せんに、『天使はアルテーヌの地に舞い降りることでしょう』と走り書きをしてトーネット伯爵に託した。
本人たちに知らせる事なく天に帰してしまう事は出来たというのに、聞いてくれた事に感謝した。
子に罪はない。
この世に迎え入れる事を決めたからには、親たちの因果が報いる事の無い様に、幸せになれるように心を配らなければならない。
凱旋パレードまではまだ少し時間がある。
私は急ぎクレイグの元へ向かった。
クレイグの置かれた部屋に通されると、彼は床にひれ伏していた。
「何のための行動かしら」
そう声を掛けると、クレイグは顔を上げて今までの私に対する言葉と態度、それらの行動が間違っていると分かってからもラシェル殿下と側近たちの行いを止める事をしなかった事を詫びた。
「謝罪はあなたの心を軽くするだけのものである事、そしてそれを聞くために私の時間を奪うものであり、私には許しを与える義務はないという事は分かっている?」
クレイグは再び頭を床に着けて続けた。
「もちろん許しを請う事は致しませんし、もとより許されるとは思っていません。ただ、謝罪をせずにはいられませんでした」
その言葉を聞いて心が決まった。
「分かりました。それでは貴方に罰を受けた後の贖罪の機会を与えましょう。
貴方にはアルテーヌの地で平民の農夫となり、ミーガン嬢が生む子を育てて貰いたいのです。出自を知らせる事なく平民の子として男手一つで育てて貰う事になるわ」
クレイグが目を見開いて質問してきた。
「…それはラシェル殿下の子という事でしょうか…」
私は首を振って答えた。
「ラシェル殿下、エリオット小公爵、フラン小侯爵、この三人のうちの誰の子かはわからないわ」
それを聞いて呆然と私を見つめるクレイグに向かって続けた。
「罰は過酷なものになるでしょう。生き延びる事は難しいかもしれません。でもあなたの謝罪が本物で贖罪の機会を生きる理由に出来るならきっと耐えられる。あの五人の尻拭いを引き受けて償う覚悟はあるかしら」
私の言葉を聞くうちに覚悟を決めた様子のクレイグは再び床に頭を着けて答えた。
「謹んでお受けいたします」
「そう、では必ず生き延びて子を迎えに来てね。生まれて来る子に罪はないわ。
貴方の今の後悔を繰り返さない様に、平民として幸せに生きて行けるように導いてあげて。約束よ」
立ち上がったクレイグが深々と頭を下げた。
「贖罪の機会を与えて下さり、グラーシュ公女の御慈悲に感謝いたします。
ご希望に沿えるよう精一杯務める覚悟です」
その言葉を聞いて部屋を後にした。
さあ、残りの不愉快な仲間達に引導を渡しに行きましょう。
それにしても、エリオット公女をお預かりする事はもう決定なのかしら。
そう呟いて、ここの所エリオット公爵から届く、薄桃色のレースの縁取りが施されたカトレア模様の便せんを眺めてパトリシアと顔を見合わせた。
カトリーヌにエリオット公爵夫妻の人形を作ってもらわなくちゃ。




