厄介な問題
お読みいただきありがとうございます。
感想の貴重なご意見、とても参考になります。
一人語り劇場の沼に嵌ってしまう所でした…
皆様、本当にありがとうございます(^^)
「言葉遊びをするつもりはないぞ、ルイ」
エリオット公爵がルイに向かって疲れた顔を向けて言った。
「確かに お前は 事前資料は受け取ってはいない。
マルコム殿からクレイグに手渡された資料を、ジルベールが突き返したと報告を受けている。仮にそれを読んでいなかったとしても、発表前に配られた資料を読み発表を聞いていれば分かった事だ。もうお前たちの繰り言に付き合うのは沢山だ。非公開で裁定を下し処遇を言い渡すつもりだったがやめだ」
国王を見据え、側に控えたトーネット伯爵に向かって指示を出した。
「凱旋を見届けた後、国王の退位発表と裁定は公開とする。それまで全員を別々の部屋に入れておくように」
そう伝えて、踵を返し背後から聞こえるルイの騒ぐ声を振り払うように仮眠室へ向かった。
午後には前マクガリー辺境伯ユアン翁が今回の英雄としてグラーシュ公爵と共に凱旋する。
戦勝に貢献した友好国であるモンテ国王とアルザス国王がともに近衛を率いて凱旋に加わりバランデーヌ割譲の協定を結ぶために入国の予定だ。
捕縛された時に足の腱を切られ、檻に入れられて護送されたバランデーヌ元王は、罪状を読み上げられ、手足と首に枷を付けられて広場で晒し物にされた後に刑が決まるまで収監の予定だが、さて、どの牢にするべきかと廊下を進みながら考える。
目ぼしい場所はあの五人の為に既に準備が終っている。
突然、その牢でルイは残りの短い生涯を過ごす事になるのだと、その事実を実感を持って理解し、思わず歩みを止めた。
次に顔を合わせる時は、彼らの罪を発表して裁定を下す時だ。
廊下に面した窓から差し込む仄白い光が大理石の床をうっすらと照らしている。
その様子を眺めながら先ほどの会話を思い出し、あれが最期の会話になった事を残念に思う。
その想いを振り払うように息を吐いて再び歩を進めた。
もう間もなく夜が明ける。
その前にもう一つ、厄介な問題を報告しておこう。
◇◇◇
朝食後のお茶の時間、毎朝の日課である報告会では側近の五人が揃ってテーブルに着く。アンジェリカがテーブルの上に載せたカトレア模様の便箋を前に、パトリシアとカトリーヌは深いため息を吐き、メイヴィルとカール、マルコムは苦い顔をして腕を組んでいる。
「問題は、誰の子かという事よね」
パトリシアがアンジェリカの後ろに控える侍女長のベルジェ伯爵夫人の顔を見ながら答えた。
「こればっかりはお母様の勘が外れて欲しかったのですが…
頻度で考えればラシェル殿下の子である可能性が高いですが、時期を考えればジルベール卿と、たった一度とはいえルイ卿の可能性は捨てられない様です」
ベルジェ伯爵夫人がそれを聞いて頷いている。
貴重品を持ち出すために学園の控室に赴いていたベルジェ伯爵夫人は、フィッティングルームで制服を脱いだミーガンを見てそれと気づいたそうだ。
報告を受けて、エリオット公爵の元へ侍女に扮した女医に手紙を届けさせたのだ。
「入浴介助の時にそれとなく診察をさせて、本人には妊娠している事を伝えていないそうよ。
そんなこと知ったら大騒ぎするでしょうから、これ以上彼らのお守りをしてる時間も体力も無いんですって」
マルコムが腕組みしたまま唸っている。
「髪の色も目の色も全然違う三人ですよ? 本人には誰の子か分かってるんでしょうか?
仮にあの殿下の子だと騒いでも、生まれて来て他の二人にそっくりだったらどうするつもりなんでしょうね」
カトリーヌが顔を顰めて答えた。
「そんな生易しい女性じゃありませんよ。
クレイグ卿に手を出さなかった理由は、もしも誰かの夫人に納まらなければならなかった時に、文官夫人じゃ自分を着飾る財力がないからって言ってましたからね。もちろん独り言ですけど。
今の状況でラシェル殿下の子だと騒いでも後がない事くらいは分かってますし、エリオット公爵は子を出しに助けてくれる人じゃない事は分かるでしょう。情に訴えかけて助けてくれそうなのはジルベール卿のフラン侯爵家だと踏んでいるでしょうね。生まれて来て明らかに息子の子じゃないと分かっても、無理やり手籠めにされた時の子だと言って泣き崩れたりして切り抜けられると思っていると思いますよ。
『愛しているのはジル様だけなのです!』とか言って」
カトリーヌの声真似を聞いて全員の顔色が悪くなった。
「やめてカトリーヌ、その声は聴きたくないわ…」
裁定は公開だという事もトーネット伯爵から伝え聞いた。
後は午後の大伯父様とお父様の凱旋を迎える準備をするだけだ。
大人たちの手腕をじっくり拝見させて頂きましょう。




