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【第13回ネット小説大賞受賞・書籍化決定】王太子殿下、終了のお知らせです  作者: お伝


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聞く価値の無い聴取 -1

モリー特製ビーフシチューの美容液パックを洗い流して礼服に着替え、モリー謹製のお菓子とベルジェ伯爵夫人の淹れてくれるこの世で一番おいしいお茶をゆっくりと堪能した後、国王陛下の裁定の場に呼ばれるのを待ちながら、メルヴィルとパトリシアとカトリーヌと共に聴取が行われている裁定の場から齎される報告を受け、報告書に目を通す。


三人は私を取り囲むように座って黙々と報告を聞きながら、結っていない私の髪をずっと触っている。

そう言う私も気が付けば触っている。

もう、びっくりするほどつるつるなのだ。

さすがモリー、本当に良い仕事しかしないわ。


聴取が最初に行われたのは、ヘイデン伯爵家のサイラスとミーガンだ。

二人は終始自分たちは悪くないと主張し、最後までその態度を変えなかったそうだ。

制服については、ラシェル殿下からの下賜だと訴え、ヘアピンを着けたのはラシェル殿下からの指示だと泣きながら訴えたらしい。


しかし、あの部屋がグラーシュ公女の控室だと知っていながら無断で入室した時点で、そこにある制服や装飾品がグラーシュ公女の物だという事は明らかであり、グラーシュ公女の私物をラシェル殿下が本人の承諾なしに持ち出す事も、ましてや他人に下賜する権利など無い。その様な常識的な事にも思い至らなかったのかと問われても、ただ自分はラシェル殿下のご意向に沿って付き従っただけだと言い募り、とにかく自分は悪くないの一点張りで話が通じなかったらしい。


証人としてその場で証言をした侍女によれば、当時の状況の説明を求められて、ミーガン嬢が自ら家具の中身を取り出し、公爵家の使用人たちに命じて化粧をさせたり、インクやペンなども勝手に使用した事、ヘアピンはミーガン嬢が鏡台の引出しを開けて見つけたものを取り出して、髪に当て似合うかと皆に問い、それを見たラシェル殿下が公爵家の使用人である自分たちに命じて着けさせた事、そしてその様子を見ていた兄のサイラスを含めた側近たちは何ら咎める事もしなかったと話すと、兄妹揃って『全部嘘だ、侍女の分際で伯爵令嬢の自分を陥れようとしている不届きなこの侍女を捕らえろ、ラシェル殿下に愛される自分に嫉妬したグラーシュ公女の差し金だ』などと喚き散らし、手が付けられなくなったので口を塞がれてしまったそうだ。


反省の色なしと見做されて、二人とも拘束されたまま待機室に連行されていったそうだ。

そこで他の人物たちの聴取が終わるのを待ち、裁定が下される。


待機室は四つあり、裁定の場を取り囲むように配置されている。

それぞれの壁に空けられた小窓から裁定の場が見聞きできるようになっている。

後の二つの待機室にはラシェル殿下と側近の三人が分けられて入れられているようだ。

私がそこへ呼ばれなかったのは、聞く価値が無いと判断されたのだろう。

その判断はとてもありがたい。


彼らはサイラスとミーガンの態度を見て何か思う所があったかしら。

…同類だもの、思う所は同じかもしれない。

とにかく感情移入は禁物だわ。



制服とヘアピンはどうするかと聞かれたので、制服は即座に焼却処分して、ヘアピンはバラバラにして確認後、売却してそのお金は寄付することにした。

戻って来た盗難品を受け入れる事は決してしない。公爵家の紋章の入った物は悪用を防ぐために小物に至るまで廃棄の場合は焼却する。

侵入者があった部屋も同じ事、その部屋に踏み入れる事は決してしない。

過去には、家具に暗器が仕込まれていたり、扉や壁を触っただけで意識を失ったこともあった。

扉や家具、壁や床や天井に至るまで、不審な人物の出入りした部屋は悉く撤去する。

これはグラーシュとアルテーヌの領地では鉄則なのだ。


また、公爵家の紋章が入った物をお父様や私が誰かに贈る事は絶対にないと周知されている。使用している事が分かった時点でそれは盗品だ。

それが明るみになれば、もうその人物はおろか家族も社交界で生きてはいけない。


控室を出てすぐ、紋章の入った小さなボタンとヘアピンが人の目に付く前に袋詰めにして運び出したヘイデン伯爵の判断は見事だった。さすが次期宰相と目されていた人物だけのことはある。

まだ幼い弟君が居るのだ。こちらからの情報が無駄にならずに済んで良かった。


今回の事だけでなく、毎日のように繰り返された公爵令嬢に対する不敬に対しても、二人は最後まで私に対して謝罪の言葉を口にする事はなかった。

言葉は分かっても話の通じない人間ほど厄介なものは無い。どんなに真摯に向き合って理解させようとしてもそれは全て徒労に終わる。二人が正にそれだった。


私の希望で、二人だけでなくラシェル殿下や側近の保護者達には、彼らが行う私に対する行為が仮令どの様なものであったとしても、決して咎めたり注意したりしないように伝えていた。

その為、更生の機会を封じてしまった事には少しの罪悪感はあるが、自身で気づき、立ち止まるべきポイントはいくつも与えてあった。

それを、誰にも咎められないのを免罪符に増長していって取り返しのつかない事態になるまで気付かなかったのは彼ら自身の責任だ。


注意を受けてのその場限りの謝罪など何の意味もない。

意味のない事に付き合わされて私の貴重な時間を使われるなどまっぴらだ。


続いて、エリオット公爵令息ルイ、フラン侯爵子息ジルベール、ミラー伯爵子息クレイグが裁定の場に呼ばれたようだ。

私の手のひらで踊っていたことに気付いたらしい彼らは一体何を語るだろう。

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― 新着の感想 ―
盗っ人は手を切り落とさなきゃ…!(゜д゜) 反省も謝罪もしないうえ、一応は王族である殿下のせいにして全部の罪を引っ被せようとしてるんだから、ギルティー!
「言葉は分かっても話の通じない人間ほど厄介なものは無い。」は散々しかけてくきているバランデーヌ国にも言えるけど、ベクトルが全く違うからこのお馬鹿王子の一味はより厄介…
むちゃくちゃ面白いです。設定がすごく練られているから、まだ10話なのに文章の長さに関係なく内容が濃いです。 感想にもありましたが、アンジェリカたちは次元が違いますね。まさに常在戦場。アンジェリカと彼…
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