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第五話 美少女とお出かけ日和!美少女抜きで???



肌を照りつける太陽。

大学やバイトもない土曜。

そんな最高の日にある最高の用。

それは美少女とお出かけデートだYO!!!!!!!


現在時刻――十時半。


今日は、かの美少女―――藍原さんと約束した買い物の日。

十分な時間でお風呂に入り、服も選び、準備は完璧!!!


……ん? 十時半なら約束の時間は過ぎてるって?


いやいや、そんな僕ともあろう人間が美少女とのお出かけに間に合わないわけないでしょ?


ねぇ、藍原さん?










――まぁ、その藍原さんが居ないんですけどネ。


携帯を見る。時刻は、うん、間違いなく十時半。


周囲を見る。家族連れ、カップル、男子高校生。


携帯をもう一度見る。約束の日、うん、間違いなく今日。


……え°っ??????? すっぽかされ??????????


はッ、いや待て遠野陽太童貞十八歳!

この場合は確か、女の子が何か起きていないか確認するのが先決ッ!!!!!

それでこそできる男の第一歩!!!!!!!!!!!!!


……まぁ、ネットの受け売りですけど。


……ていうか第一歩がすでにマイナス方面ですけど。


―――――――――――――――――――――――


―藍原 唯さん


10:32- 藍原さん、大丈夫ですか? 何かあった?

10:32- 一応着いてるから、いつでも連絡してください


―――――――――――――――――――――――


……さて、後は連絡が返ってくるまではこちらからは何も見ないでおこう。

もし永遠に既読が付かなかったら僕はこの場で溶けていなくなっちゃうだろうから。


しかし、陰キャが外に出れただけでも奇跡だってんのに一人で何したらいいんじゃ。


うーーん。

いや、しかし、ふとこうして外の景色を見てみると、やはりこの世界は異常だってことを認識するねぇ……。


カップルとかでも男の人が女の人の腕に絡んでるし、人気スポットみたいなところでは男子高校生が占拠して動画撮ってるし、挙句の果てにはお洒落なお店はほとんど男性用だし……この世界においては化粧ももしかして男性がやるのかな……?

大学で友達はいないし、間近で顔を見ることもないからわかんないんだケド……。


しかしまぁ、この世界でも世の中上手く回ってるってことは、案外元の世界で論争されているような男女の差なんてのはあんまりないのかもしんないな……。


けど、確かに今、僕にとって有難いのはこの世界だな。

女の子にモテるってのは殿堂入りとして、もう一つ―――。


「いらっしゃいませ~、店内ですか? お持ち帰りですか?」


フラッと立ち寄ったカフェで、男性の店員に質問される。


「店内でお願いします」


周囲を見渡せば、男性、女性、男性、男性、女性、男性、女性。

見かけ上はそんな変わらないけど、比で言えば男性のほうが多いカフェは僕がいた世界ではあまりなかった。

だから陰キャとしては暇つぶしにカフェに入るなんて選択肢は絶対になかった。

しかし、この男女比、そして店員も男性が多いとなると必然的に入りやすさが段違いに跳ね上がる。


そしてこの世界のいいところは、元居た世界とチェーン店などは全く変わらないことだ。

まぁ、貞操観念が入れ替わったからといってお店が変わることはないし当然と言えば当然だけど、それによって今まで食べたかったけど断念せざるを得なかったものを食べられることができるというのは純粋にうれしい。

え、家に直接届けてもらうシステムを使えばいいって?

だ、だって、こういうお店に入って飲むほうがなんか美味しく感じるでしょ!?


……さて、とりあえずカフェに入ったはいいけど、まだ藍原さんからは返事がない。

嫌な考えが頭をよぎるが、藍原さんに限ってそれはないと頭を振る。


陰キャの思考ではこの後は帰るかあるいはゲームセンターに立ち寄ったりなんかする程度のもんだけど、仮に。もし仮に藍原さんが来るとすれば間違いなくゲームセンターは寄りたいだろうから先に行ってお金を使ってしまうのも味気ない。


そうだ、もう一つ選択肢があったじゃないか!

と、ふと僕は一つの可能性を見つけ、地図で近くを調べる。


「おっ、ここ安いな。暇つぶしにはちょうどいいな!」







「っし、歌うか!」


流行りの曲がBGMとして流れる狭い一室。

柔らかいソファと無難な机の上に乗せられた飲み物の入った一つのコップ。


そう―――陰キャの救いの場、カラオケに僕は来た。


最初は受付とかちょっと面倒かなとも思ったけれど、なんと今のカラオケは受付がいらないらしい。

……知ってたか?


あらかじめ予約をしておけば、その時間になったら勝手に部屋に入っていいらしいが、本当か?

これ後で知らない人入ってきたりしないよね????


……ま、まぁいいか。そのときは譲り渡そう……。うん。


――ピコンッ。


ん? 携帯の通知……藍原さん……じゃない、なんだ燕尾先輩かい。

なになに?


―――――――――――――――――――――――


―燕尾先輩


今なにしてるんだい?- 11:08


―――――――――――――――――――――――


いややっぱこの人絶対暇人だよな????


くそう、なにしてるか僕も知りたいよ!!!!!!

今日は美少女とお出かけだったのに何が悲しくて一人カラオケなんかに……うぅ……。


とりあえず今は燕尾先輩でもいいから話し相手になってもらおう……。


「今一人でカラオケに来てますよ~」っと。


さ、とりあえず元気になる曲歌いますかね!!


行くぜ!!!


「~~~~富、名声――――」





「――~~ホールジュアハ~~ンズ」


たっはぁ~~~~!!!

さすがに一人カラオケだとずっと歌っちゃうから疲れるな~~~。

別に休憩してもいいんだけどフリータイムで入っちゃったから歌わないと勿体なく感じちゃうんだよな。


……はい、まだ藍原さんから連絡はありません、と。


え、もう十一時半だよ????? 本当に大丈夫????

かといって彼氏でもないのに追撃で連絡するのはちょっとキモ過ぎるよな……?

いやでも逆の世界で考えたら、女の子から心配の連絡来るのは嬉しい、よな???


……運命の時、だな……。


送るべきか、送らないべきか……!

うーん! 筋肉ルーレットッ!!!!! 筋肉ないけど!!


えー、送る! 送らない! 送―――。


「……ん?」


今、なんかドアのところでこっち覗いてる人がいたような……。

え、あ、声に出してましたかね……?

は、はずかし~。

はぁ、こんな馬鹿なことしてないで不通に歌って気をまぎらわ―――。


―――カチャッ。


「ねぇ、君一人? ウチらと一緒に歌わない??」

「―――っえ°???」


言葉の通り、思考停止。

僕が歌おうとマイクを持った瞬間に開けられる扉。

そしてそこから入ってきた金髪と茶髪の女性二人組は笑みを浮かべながら僕の様子を窺っていた。


「え、っと、あの。え、部屋、間違え、あの……」


あまりの出来事に、咄嗟に出る言葉は上手く紡げず、目が泳いでしまう、が。


え? 女の人!? 間違えて……じゃないよな!? さっき一緒に歌わないって言ってたし……。

え、いいの!?!!? マジで!?!? 


―――そう、これは僕にとっては二度目の奇跡。紛うことなきナンパ!!!!!!!!

一度目は藍原さんとの出会いに変わったが、今回は違う。


誰にも邪魔されることのない、天国が今ここに!!!!!!


いきなり個室に入ってこられる恐怖???

そんなの興奮に勝てるわけねぇ!!!!!!!

これが逆の性別であるなら恐れを抱いただろうが、僕は男!

そして相手は結構可愛い女の子二人組!!!!!!!

これに喜びを得ず、何が男か!!!!!!!!!!!!!!


大切な人にしか欲情しない?

それもまた正しいと、僕は思う。

けれど僕は違う!!!!!!!


女の子と!!!! イチャイチャしたい!!!!!!!!!!!!!!!!

さぁ!!!一緒に歌おうか!!!!!!


そんな欲望を持つ僕。

そして、それを期待する女性が二人、密室に集う。


そんな状況―――何も起こらないワケがなく―――!


「――すみません、そこ入りたいんだけれど、どいてくれないかな?」

「……オヨ?」


僕はもちろん、女の子二人が声を発した素振りはない。

そして、この声の主を、僕は知っている。

が、知っているが故に沸く疑問。


……なんで燕尾先輩がここに??????


「っえ、あ、あの、お兄さんもよかったら歌いませんか!?」


あ、ねぇ、ちょっと待って?

それはダメじゃん?

ねぇ、あなただけはここに来ちゃダメじゃん?


「よ、よかったら連絡先でもっ!」


ホーラ。

女の子二人とももう僕なんて見えなくなっちゃったヨ。

そりゃこんなイケメンが来りゃ僕なんてコオロギですわ。もう鳴くぞ????

まったく、なんてことしてくれるんだこのイケメンは??????


「いや、そういうのはいいから、どいてくれる? あまりにもしつこいと警察呼ぶよ」

「……あ、す、すみません……いこ!」


なーーーーんてことしてくれるんだこのイケメンは???????????


「……ふぅ、大丈夫だったかい? なんか知ってる声が聞こえたから来ちゃったよ」


来ちゃったよって……え、あの僕の小さな声一つで気づいたの???

もはやすごいというか怖いよもう。

……はぁ……どうしてこう、タイミング悪く……いや、しかしこの世界ではきっと純粋な"善意"なんだろうなぁ……。

逆の世界で知り合いの女の子が輩に絡まれてたらそりゃ助けるもんな……。

……僕には無理だけど。


「イエ、タスカリマシタ……」

「ふふ、しかしこんな"偶然"もあるもんだね!」


いや、ほんとに……まさか休日にさえ会うとは思いませんでしたよ……。

ていうかカラオケに来るんなら連絡してくれよ……避けたのに……。


「こんな縁も中々ないし、どうだい? 一人なら僕と歌わない?」


はぁ……テンションは下がったけど、まぁ今日だけはこれでいいか……。

一人で歌うのにも飽きてきたし、このイケメンの歌も少し気になるし。


「えぇ、いいですよ。その代わり、たくさんいい歌聞かせてくださいね!」






午前九時。

ショッピングモール内の店舗がオープンし始める時間帯。


恐らく彼はここに来る。


この街では有名なショッピングモール。

充実した空間であること、そしてなによりも彼の家、通う大学が近いこと。

彼の性格からして遠出を好まないことを条件に脳内でソートをかけ、ここに行き着いた。


誰と約束しているのかはわからない。一人の可能性もある、が、それは見てからでないとわからない。


――上り始めている太陽が体の熱も上げていく。

緊張と、会えるかもという期待で入り混じる感情で思わず吐き気が現れる。


くそ……いったい誰と……、あーしんど……あそこのベンチなら全体を見渡せるな……ちょっとだけ座ろう……。


尤も、彼女はそれがただの睡眠不足であることなど、一ミリも考えていなかった―――。




――午前十時。


涼しい風が吹き始め、外で過ごすには快適な時間。

暖かい陽気は、訪れをもたらした。


待ち人を待ち続ける彼女―――燕尾 司の予想通り、彼―――遠野陽太はそのショッピングモールを訪れた。

そして、なんと運命のいたずらか、遠野はこの時の待ち合わせ相手である藍原 唯を待つ場所に、見晴らしのいいベンチを選択―――それは燕尾が座るベンチの真横のベンチだった。


しかし、この時の遠野は初めての女性とのお出かけに緊張し、視界はまるで有名な魚――サカバンバスピスのように直線的であり、隣に座っている燕尾先輩を華麗にスルー!


当然それに対し燕尾先輩は異議を申し立てる……ハズだった。


そう、暖かい陽気は、訪れをもたらしたのだ。


―――彼女に、睡魔という訪れを。


睡眠不足と調査による積み重なった疲労は、この丁度いい暖かさによって溶かされ、彼女はまるで銅像かのように微動だにせずに夢の中へと旅立っていった。


かくして、二人は最も近い距離にして交わることなく、一時間が経過した。


「……ハッ」


そうして目覚めた彼女は思わずすぐに携帯を開き、天を仰いだ。


一時間……何を、しているんだ、僕は……。


少しの休息と疲労回復と引き換えに失ったチャンスに大きなため息をつく。


……しかし、まだ終わったわけじゃない……むしろここからじゃないか……!

まずは彼に連絡を……! 今なにしてる、っと。


おぉ、返信が早い……ということは今は一人ってことか……な!?


―――――――――――――――――――――――


―ミナトきゅん


今は一人でカラオケにきてます- 11:09


―――――――――――――――――――――――


はぁ!? 一人でカラオケ!?!!?

なんだって、そんな、僕を誘ってくれてもよかったじゃないか!!!!?


というか一人で、カラオケ?????

男の子が?????

おい、店員に見られて勝手に部屋に入られたりでもしたらどうするんだ!??!?

危機感ってのがないのか!?!?


まずいな……この辺は治安があまりよくない……!

近辺のカラオケ屋をしらみつぶしで探すしか……いや、一人でと来ていたということは優先すべきは値段か!?

確か、この近辺で値段が一番安いのは……ここッ!!


そこからはすぐ、僕は調べ上げたカラオケ屋に走った。


見つけるのは運で、そもそもここにいない可能性もあったが、これはまさに運命といえるだろう。


探している中で聞こえた微かな声。

他の部屋の騒音の中を通り抜けるほど聞き慣れた彼の声。


そこに、目障りな女狐どもがいることなど、もはやどうでもよかった。

君たちではこの僕らの絆には勝てないのだから。


あぁ、ようやく会えた……しかも一人じゃないか……。


―――えっ、てか私服可愛ヨッ!!?!?!?

マジ? これ無料スか? 課金しないでいいんスか?

おっほ、専用コーデ無料配布キタコレ!!!


……っとと、危ない、また発作が出てしまうところだった……。

こんな姿はさすがにミナトくんには見せられないな。


あぁしかし、彼を少しでも疑った僕をどうか許してほしい。

だからどうか、これぐらいも許してほしい。


「こんな縁も中々ないし、どうだい? 一人なら僕と歌わない?」


無理だと言われれば、素直に帰ろう。

今日はとりあえず彼が無事だったことと、休日のレア衣装を拝めたことに、ただ、感謝を―――。


「えぇ、いいですよ。その代わり、たくさんいい歌聞かせてくださいね!」


―――ンヒョッ。え、マジっすか??????

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