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貞操観念が逆転した世界でハーレム目指そうとしたけど陰キャすぎる僕には無理でした!  作者: 朝雨 さめ
二章

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最終話  貞操観念が逆転した世界でハーレム目指そうとしたけど陰キャすぎる僕には無理でした!



異性にモテたい、と思うのは、今までモテることのなかった人なら一度は必ず思うことだろう。


それこそ思春期の男子ならば、女の子に無条件で言い寄られたり好意を持たれたりしたいと思うことなんて当然あるといっていい。


しかし、現代の恋愛関係はどうしたって男性側からの好意が女性に一方的に向けられることが多く、女性側からしたら望まない好意を受け取ることに辟易することもあるだろう。


では、そんな関係が逆転する世界があるとしたら?


男性は女性から一方的に好意を向けられ、女性が男性からの好意を無条件に欲しがる世界。


もしそんな世界に行くことができるとしたら、君ならどうするだろうか?


これは、そんな世界に迷い込んでしまった陰キャの僕が、ハーレムを作ろうとする物語……だった。


―――僕はこの世界に来てから一人の美少女と出会い、そこからイケメンな先輩、中二病の女の子、そして、過去に好きだった同級生とも出会い、この一年間で多くの出来事を経験した。


彼女たちと笑い合い、時に衝突し、時に支え合った結果、僕は彼女たち全員に告白されるという夢みたいな出来事に直面した。


選ぶ人と、選ばれる人。

何日も考え、その度に悩み、揺れていた。


けれど……ついに、たった一人の想い人に、明日―――クリスマスに想いを告げることを決めた。


そして。


今は、十二月二十四日の夜。

クリスマスイブということもあって街だけでなく、周囲の家の窓からもクリスマスに備えた明かりが漏れ出しているこの日。


……クリスマスは家族と過ごす日のために、イブの方が重要だという人もいるようだけど……まぁ陰キャの僕に、それも多くの人に告白されている状況でそんな配慮ができる余裕があると思うかい?


というわけで、ついに明日。

クリスマスの日は、僕にとっても……そして彼女らにとっても運命の日。


決意は固めた。

後悔は……ない、と言い切りたい。

いや、言い切ったっていい!


この先どうなるかはわからないけれど。

神様がくれたチャンスを、絶対に僕はモノにする―――!




―――そう強く誓いながら、僕はベッドに横たわった。

心臓はまだ少し早鐘を打っている。


「……明日、伝えるんだ……」


小さく呟いたその言葉は、夜の静けさに溶けていった。

やがてまぶたは重くなり、意識はゆっくりと闇に沈んでいく。


―――そして僕は、決意を胸に眠りへと落ちていった。



☆★☆



―――そして、朝が来た。


目覚まし時計の電子音が静かな部屋に響き、僕はゆっくりと瞼を開けた。

カーテンの隙間から差し込む冬の朝日が、まだ冷え切った空気を柔らかく照らしている。


「……ふぁぁ……」


小さな欠伸を漏らしながら布団から抜け出す。

冷たい床に足を置いた瞬間、思わず肩をすくめる。

けれど、これももう慣れたものだ。


洗面所に向かい、顔を洗う。

冷水が肌を打ち、眠気が一気に吹き飛ぶ。

鏡に映る自分の顔は……特別な日だというのに普段と何も変わらない。


(ま、そんなもんか……)


歯を磨いた後、朝食を口に運ぶ。

トーストの香ばしさと温かいスープの湯気が、少しだけ心を落ち着けてくれる。


――今日はクリスマス。

僕にとって記念すべき日だというのに……しかし僕の生活はいつもと変わらない。

まぁそれもそのはず。

だって今日は――――普通に大学に行く日なのだから!


不思議に思った人もいるだろうか?

あれ、大学一年生の冬休みなのに大学に行くの?と。


……おいおい、だから何度も言うが僕は陰キャだぜ?


……確かに今の僕の周囲には女性が多いと言えるだろう。

かつての孤独な日々とは比べものにならないほど予定もあったし!


けれど、根っからの陰キャである僕は!


なんと!


大学の冬季集中講義を取ってしまっているのだ!!!


……なんて馬鹿なことを、と思うか?

だが、大学生の本分は学業や研究だ。そこをはき違えてはいけないよ? ワトソンくん。


冬季集中講義では、大学内の評価はもちろん、教授との仲を深める重要な機会でもある。

……まぁ僕は陰キャだから教授と積極的に話すことはないけれど……少しでも印象を残すために出席することは大切だと思うんだ……ワトソンくん……。


―――と、そうこうしているうちに、部屋の時計の針は進んでいく。


「っと、そろそろ電車の時間に遅れちゃうな」


そうして僕は慌てて昨日準備した鞄を肩に掛け、玄関を出る。


―――とりあえず、今後のことは大学が終わった後だからな。

今は勉強に集中しよう。

……いや、決して緊張を忘れようとしているわけじゃないよ?

これは……そう、ただの準備運動さ。


―――などと、誰に向かって話しているのか……。

そうして僕は陰キャらしく独り言を言いながらも家を出て、涼しさが残る暖かな日差しのもとに出る。


う~~~~ん、いい天気!

これだけ日差しが出ていると冬だというのに暖かく感じて心地いいね~~~!


―――ただ、そんな清々しい空気と日差しを浴びた僕はこの時はまだ、何も気が付いていなかったのだ。



★☆★



初めは、ふとした違和感だった。

いつも通りの何気ない通学途中、電車で通っているときに感じた違和感。


(……? あれ? クリスマスの朝って、こんなに人が多いものなのか?)


視線を巡らせるまでもなく、電車内はぎゅうぎゅう詰め。

肩が触れ合うほどの混雑に、思わず眉をひそめる。


今日はクリスマスだ。

確かに社会人にとっては普通の平日かもしれないけれど、学生はほとんどが冬休みのはず。

しかし、やけに学生が多いような気がする。


(……部活動とか冬季合宿とか、そういうのがあるのかな……?)


―――初めはそんな程度の、ほんの些細な違和感。


しかしこのときはそんなことは気にすることはなく電車を降り、改札を抜ける。

そして大学へ向かおうと、構内で人の流れに身を任せて歩いていたその時――それは起こった。


「この人痴漢です!」


そう叫ぶ人がいたら思わず視線を向けちゃうのは人間としての性なのだろう。

例に違わず僕も声がする方向を見やり、体が硬直した。


「え……?」


それもそのはず。


そこにいたのは、どこかの高校の制服を着た女子高校生と、スーツに身を包んだ男性。


……いやまぁ、普通の思考なら当然その認識でも正しいのだけれど、この世界基準で見ればそれは異常だから……。

と、かつての生活よりも今の生活に慣れてしまった僕にとってはそれはあまりにも非日常だった。


「えぇ……なにそれ……」


しかし時間は待ってくれないため、珍しいこともあるもんだという気持ちと共に、僕は長らく通った水連大学へと足を向かわせた。

まぁ前にいた世界でも、たまにはああいう特例も起きるだろう……と、自分を納得させるためにそんなことを考えていた時。

ふと、目の前に厳つい風貌の男性と、透き通った綺麗な髪を揺らす女性の後ろ姿が見えた。


これまた珍しい組み合わせもあるものだと軽く流しながら背後を通り過ぎようとした、その瞬間だった。

突然、グッ、と強い力で腕を引っ張られた僕は 「ぐえっ!」っと思わずみっともない声が漏れる。


そして気が付けば、なぜか目の前に厳つい男の顔が迫っていた。


「……っと、え、なんですか……?」


当然、何が何やら分からない僕は首を傾げたが、状況から見て、これはもしや女性の強引なナンパに助けを求めてきたんじゃ? と思い始めた僕の耳に、しかし低い声が響いた。


「あぁ? てめぇ、誰だよ?」


そう口にしたのはまさかの厳つい男性だった。


……いや、だからさっきからそうだけど一応正しくはあるけどね?

どうにもこういう話し方をする男性は久しぶりだし驚くというか……。

ただ……。


「え、っと……僕は……」


なんでこの女性は何も言わないのだろうか??

俯いて震えているだけで……ん? 震えている???


……あれ? てことはこれはもしかして逆ナンをされているのではないだろうか!?


確かにこの男性は男性にしては肉食系っぽいし……って何か頭がこんがらがる文だな……ってそれはそれとして、逆ナンしててもおかしくなさそう!(陰キャ並感)


となると、助けてあげたほうがいいよな?

えっと―――。


「ん? あれ? ゆい? うわ、ゆいじゃん、久しぶり! 何してるの?」


そうしてとっさに過去の記憶から名前を引っ張り出して知り合いのフリをする。

かつて僕にそうしてくれた人がやってくれたことを、しかし自分がいざやってみると、慣れない芝居じみた声色に少し気恥ずかしさに襲われる。

すると女性も察してくれたのか、慌てて合わせてくれる―――が。


「……っ、あ、ゆ、ゆうき、だよね? ひ、久しぶり! この人は……」


―――その瞬間、僕は彼女の顔を見て固まった。


「え……いや……藍原さん!?」


―――なぜか僕は、彼女の顔を見て、思わずそう呟いてしまっていた。


それもそのはず。

纏う雰囲気こそどこか違うような気もするけれど、その顔は僕がよく知る藍原さんに似ていた……いや、本人と全く同じ顔だったのだから。


―――けれど。


「……え? いや……あ、え? そ、そうだけど……? ……え?」


それは、どこかおかしいと感じるにはあまりにも大きな違和感だった。

彼女の表情はまるで僕のことなんて記憶にないと言わんばかりに困惑していたのだから。


僕はその事実に思わず彼女らを放って、嫌な予感とともに携帯を見て……息を呑んだ。


「……四月……? っ、いや……え?」


表示された日付に頭が真っ白になる。

十二月二十五日、クリスマスだったはずの今日。


しかし携帯の表示は、間違いなく四月になっていた。



――――なぜ、気が付かなかったのだろうか。

浮かれていたといえばそうなのかもしれない。


ただ、クリスマスにもかかわらず街にはイルミネーションの一切がなかったこと。

やけに学生が電車に多かったこと。

そして……僕はこの日を知っていること。


僕はその違和感に、気が付かないようにしていただけなのかもしれない。


だって、今日のこの日付は、かつて僕が異世界に転移したあの日で―――――。







―――――そこから先は、ほとんど放心状態だった。


衝撃に思考が追いつかず、僕は目の前の男に何かを言った気がする。

だが、覚えているのは彼の言葉だけ。


「は? チッ、もういいわ。きめぇなクソガキが……死ねよ」


散々な言われようではあったけれど、今の僕にとってはそんなことはどうでもよかった――――。




☆★☆




――――それから。

困惑したまま僕は大学へ向かい、かつて受けた講義を受け、そして――――気が付けば、以前と同じように、構内にある休憩スペースのベンチに腰掛けていた。


手には家族以外の連絡先が入っていない携帯電話。

画面を見つめても、かつての友人はたったの一人もいなかった。


ふと周囲を見渡すと、やれ道行く女子学生に話しかける男子大生やら、女子大生から恋人に大胆なキスをする人――って相変わらず学内でなにやってんだよ……――とか、最近流行りの動画投稿サイトに投稿するための動画を撮っている女子学生なんかが目に入った。


……これは、果たして世界がおかしくなったのか。

それとも、僕自身がおかしくなったのだろうか。


あまりの急展開に思わずそんな感情を抱くも、しかし僕は一つの結論にたどり着いた。


これはおそらく、僕は元の世界へと戻ることができたのだろう、と。


よくこういう状況になると夢オチという言葉が使われると思う。

でも僕は確かにそこで生きていて、感じたものは残っている。

……まぁ日付まで巻き戻っていることを鑑みるとそう考えるのが妥当だとは思うけど……。


とはいえ。

なんか、これまでの人生を夢オチだなんて言葉一つで片付けるのは……僕は少しだけ、嫌だった。


「いや~、まさかこんな結末になるとは……」


僕はそう独り言を呟きながらベンチに倒れこんだ。


見上げれば相変わらずの晴天で、雲一つない広大な青空を見ていると、僕の悩みなどちっぽけなものに見えてくる。

……ので、僕はその景色を一旦閉ざすために目を閉じて、こう思う。


いやさ……そりゃ僕は童貞だし? 陰キャだし? 女の子とも付き合ったことはないですよ?

でもさぁ!! それなら最後まで夢見せてくれてもよくないですか!?

せっかく……! せっかく初めての彼女ができるはずだったのに……!!!


―――なんて、一旦思うことを全部出してみたけれど、正直これは建前だと自分でもわかる。


僕が今、かつての世界において本当に後悔していることがあるとするならば、それは……。


「結局……返事を伝えられなかったなぁ……」


―――そう。

僕が後悔しているのはたった一つ。


かつて僕のような人に勇気を出して想いを伝えてくれた人に対して、僕自身が答えを出す前に夢から醒めてしまったことだ。


僕がいた世界が、今も変わらずに動いているかはわからない。

だから、後悔する先もないかもしれないけれど……。


「……はぁ~~~~……」


ただ、それだけが悔やまれる。

こんなことならもっと早く伝えてあげるべきだったのかなぁ~……。


……あ、今思えば部屋の景色も変わってた気がする。

うわぁ、なんでそこで気が付かなかったんだ……っていや、そこで気が付いても遅いか……。


いや~……そうかぁ~……。

なんだかんだ言っても――――。


「……これで終わり、かぁ~……」


――――と、そんな思いに耽っていたその時。


「―――あ、あれっ、あ、貴方は……さっきの……?」


不意に掛けられた声に目を開けて顔を上げると、そこには今朝、僕が藍原さんと勘違いをした女性がそこにいた。

彼女は僕がベンチで倒れていると思って声をかけてきてくれたのだろうか?

全く……こんな変な人にも話しかけてくれるなんて、この世界でも優しいのは変わらないな。


「……あぁ。……あの、さっきは変な感じになってすみませんでした……ちょっと知り合いに似てたので」


―――そう僕が勘違いをしたことに謝罪すると、しかし彼女は勢いよく首を振った。


「い、いえいえ! 私があなたに無理に助けをさせてしまっただけで……! えっと、私のほうこそごめんなさい……その……確かに名前を知っていたことは驚いたけど……」


彼女はそう言って、かつての彼女のように可愛らしい仕草で謝罪した。

その姿を見て……僕は少しだけ胸がきゅっと痛んだ。


―――彼女の名前は、確かに藍原 唯さんだった。


そりゃ貞操観念やらが逆転した世界だったのだから名前は変わるはずがないのだけど……。

とはいえ当然、こっちの世界では僕は藍原さんと親しくなってはいないので、彼女からしたらいきなり本名を当てられて驚いたことだろう。

僕ならストーカーかと思って警戒するもんだけど。


しかし、こうして"本当の"藍原さんと話していると、どうしても頭に過ぎってしまうなぁ。


「そうですよね……あ、でも助けに関しては本当に気にしないでください! ああいう人って怖いですからね~。……あ、それじゃ、僕はこれで……」


今、僕が話している彼女は、かつての彼女ではない、ということを。


僕が親しくなっていた藍原さんは……もう……。


―――――そうした寂しさと悲しさから僕がベンチから立ち上がり、彼女に手を振って立ち去ろうとしたその時だった。


「あ、あのっ……な、何か悩んでいることがあれば聞きましょうか? ……わ、私でよければですけど……」

「―――え?」


思わず振り向いて見た彼女の顔は、しかし滲んだように不明瞭だった。


「……な、泣いていたから……その……心配、と言うか……お礼っていうと変かもだけど……ほら! 人に話せば楽になることはあると思うし……?」


泣いている?

僕が?


そうして目元を指で拭うと、確かに指は濡れていた。


拭っても、拭っても、しかし止めどなく溢れるものに、僕は困惑した。


「あれ……えっ? なんで……」


感受性は豊かなほうだ。

感動する映画や漫画、アニメで泣くことは全然ある。

けれど、実際の出来事で泣くなんてのは相当なことがないとなかった。

だから、そこで僕ははっきりと気がついた。


僕が後悔しているのは、決して最後まで想いを伝えられなかったことだけじゃなく。

もう……二度と彼女らに会うことも、遊ぶことも、話すこともできないことが、たまらなく寂しくて悔しいんだ。


笑い声も、ふざけ合った仕草も、何気ない会話も――すべてが遠い幻になり。

僕自身を変えてくれた彼女たちに対しての"ありがとう"も……"好き"という言葉でさえも、ただ喉の奥で震えて消えていった。





―――――はずだった。






「あっ、えっと……これ……良かったら使う? あと隣、座ってもいいかな?」

「―――えっ?」


そう言って目の前に差し出されたのは、可愛らしい薄い緑色のハンカチ。

隅には謎のカエルのイラストが刺繍がしてあるそれを見て、僕はあることを思いながら思わず言葉が零れた。


「ありがとう……」


そうしてハンカチを受け取った時に僅かに触れた指先に少しだけ体が強張ってしまうけれど、僕はそのまま涙を拭い、隣に座った彼女の顔をしっかりと見た。


長い睫に大きな瞳、可愛らしい表情はどこからどう見てもかつての藍原さん。


―――彼女はかつての彼女ではない。

それは間違いなく正しい事実だ。


……けれど。


「……このカエル、好きなの?」


そう問いかけると、彼女は一瞬戸惑った表情を浮かべるも、すぐに笑顔でこう答えた。


「うん! これね、私の好きなゲームのキャラクターなんだ!」と。:


その時、僕は先ほど思った感情が正しかったことを理解した。


彼女はかつての彼女ではない。

―――けれど、その何もかもが違うわけではない。


だって彼女は変わらず優しく、明るく、そして、可愛らしく笑っているのだから。


……僕は先ほど、これで終わりと口にした。


それは僕が経験した夢のような―――いや、実際には夢だったのかもしれないけど―――そんな物語が終わったことに対しての言葉だった。


けれど、僕は前と同じくここにいて、彼女と会話をしている。


だとするのなら、これは決して終わりなんかじゃなくて――――。


「へー! いいね、僕も可愛くて好きかも」


僕の言葉に、彼女は驚いた表情を浮かべ、しかし嬉しそうにこう言った。


「わー! え、嬉しい! あんまり好きな人いなくて……!」


―――これはきっと、すべての始まり。


でなければ、あれほどまでに美少女たちと関わってきた僕が、今さらもう一人の美少女と話すだけで未だに心臓がバクバクしている理由が付かないだろう?

おかしい。絶対におかしい。

……いや、でも美少女と話すのに慣れる人なんているのか???

いいや、いるワケがないね! だって良い匂いするし!!!


――――夢オチは最低、と誰かが言っていた気がする。

確かに物語を読む側はそうなのかもしれないし、僕も読んでいる作品がそうなったら思わず「え~!」と言ってしまうかもしれない。


……けれど、僕は。

それを経験した僕は、この結末を最低だとは思わない。


彼女たちがくれた時間と思い出は僕の中に確かに残っているし、そのお陰で今の僕がいるのだから。

だから、今日も僕は彼女たちが好きでいてくれた男でいよう。

そう思った時。


「それでさ! ……って、そういえばさっきの学部説明会で確か……遠野君? って書かれてたけど……下の名前はなんていうの? ほら、私だけ名前も知られてるのは不公平じゃない?」


―――ふと、彼女はそう言った。


いやはや……こんな美少女に二度も名前を聞かれるなんて出来事を経験できるのは、多分、僕だけだろう……なんて、そんなことを思いつつ僕は彼女の顔を真っ直ぐ見て笑顔でこう言った。


「陽太だよ。……太陽を反対にして陽太。……いい名前でしょ?」


これは、かつては自虐ネタとして使っていたもの。

だけど、今の僕にとっては大切なもの。


みんなが大切に呼んでくれて、本当に太陽のように明るく未来を指し示してくれた、大事な名前、


そう僕が自己紹介を終えた瞬間、彼女の大きな瞳がぱちりとさらに大きく見開かれた。

驚きに目を丸くしたまま、ほんの一瞬言葉を失ったように口を閉ざしていたけれど、しかし次の瞬間、頬がふわりと緩み、柔らかな笑みが浮かんだ。


「えー! めっちゃいい名前だね! じゃあさ、陽太君って呼んでもいい?」


―――その声は弾むように明るく、まるで止まっていた時間が再び動き出すような感覚を呼び起こした。


そして、世界はまた、回りだす。


「もちろん! ……って、え、どうしたの?」


―――僕が彼女にそう答えた時。

彼女は少しだけ肩をすぼめ、視線を泳がせながらなぜか急に席を立った。

そして不思議そうに見つめる僕に、やがて彼女は勇気を振り絞るように言葉を紡いだ。


「……あ、あのさ……! 実は私、あんまり友達がいなくて……よ、よかったら、これをきっかけに? これから仲良くしてほしいって思うんだけど……どうかな? ……あ、いや! 別にそんな強制とかじゃないんだけどね!? ただほら……これから同じ学部だし? ほら、好きなものも一緒だし! ど、どうかな……?」


そう口にする彼女の表情や震えから、その必死さが伝わってくる。

声は震え、指先は制服の裾をぎゅっと握りしめ、頬はほんのり赤く染まり、言葉の最後は小さく消え入りそうだった。


しかしそれは、かつての彼女とは違い、むしろ過去の僕を見ているようで……。

思わず口元が緩み、笑いが漏れてしまった。


「……くくっ……いや~……僕ってこんなだったのかな……」


そう小声で話した言葉は彼女には届かず。

けれども僕が笑っていることに彼女は驚いたように目を瞬かせ、慌てて問い返してきた。


「……え? な、なんで笑って……? え、あ、嘘、嫌だったかな!? えっと、そんな……」


その慌てる姿があまりにも真っ直ぐで。

頭では僕の知る彼女と目の前の彼女は違うのだと何度も言い聞かせているのにも関わらず、胸が温かくなる。


―――でも、それじゃダメなんだ。


そうして、僕はかつての彼女と、今、目の前にいる彼女を切り離すかのように小さく首を振り、笑顔で答えた。


「いやいや! ……なんか可愛いなって思って。……笑ってごめんね?」


彼女は彼女。

たとえ同じ顔でも、過去の彼女とは違う存在で、彼女にとっても今の僕がすべて。

それならば、この震える唇も、伏せられた視線も、すべてが今の僕に向けられたものだと胸を張って受け止め、僕はそれに真摯に答えてあげるべきだろう。


以前の僕ならばきっと、こんな陰キャと!? と思っていたかもしれない。


でも、僕はもう、彼女らが好きでいてくれた自分は否定しない。

そして、後悔を二度としないために、僕はもう、思ったことはすぐに言うと決めたんだ。


「っ! え、いや、その……別に、そんな―――って、そうだ! それよりも悩み! 悩みがあったんじゃないの? ほら、私と同姓同名の――――」


―――そう言葉を濁す彼女に、こちらは真剣な声で続けた。


「ちょっと、その前に! ……まずさっきの答えだけど……」


……以前は言われる側だった。

けれども世界が回れば全部が変わる。


「これからよろしくね、藍原さん!」


―――僕のその言葉に、驚きと喜びが入り混じった表情のまま彼女は小さく息を呑み、そして――。


「―――っ! よ、よろしくね! 陽太君!」


その声は震えながらも、彼女の表情には確かな笑顔を伴っていた。

まるで……新しい世界の始まりを告げるように。










―――ま、いくら変わったとはいえ、未だに最初から女の子を名前で呼ぶのはハードルが高いよね!!!



☆★☆



―――さて、僕の物語はこれからも続いていく。

けれど、それと同じように君らの人生もこれからも続いていくのだろう。


だから、僕は最後に改めてこう締めくくろうと思う。


陰キャに美少女の友達ができるのはおかしいと、僕は今でも思っている。

もし本当に陰キャに美少女の友達ができるのなら、それは世界がおかしいのだろう。


そんなものは夢の世界で、現実とは斯くも悲しいもの……。


運命の相手と遭遇なんてことはそうそう起きることはない。




―――いや、果たして本当にそうだろうか?




僕がいたのは、たかが貞操観念が逆転しただけの世界だ。


確かに僕はその世界で自信を持つことができた。

けれど、考えてみれば自信なんて世界が逆転していなくても持てるもの。


……結局のところ、世界がどう変わろうと、自分自身が変わらなければ何も始まらない。


そう―――少しのきっかけがあれば、人は変わることができるんだ。


それこそ、何気ない場所で陰キャに美少女の友達ができることだって。


お洒落なカフェで夢の世界よりも素晴らしい現実を手にすることだって。


道端で運命の相手に遭遇することだって。


過去にあった嫌な気持ちが全部なくなることだってある。


だから、少しずつでいい。

もし運命を変えたいのなら、まずは自分から変わってみてはどうだろうか?


そうすればきっと、世界は明るく見えるから。







―――ただまぁ、そうだなぁ……。


さっきは何でもできる、とは言った。


言ったけれど、あの世界でさえ僕にも達成できなかったことがある……。


それは、当初の目標にして、僕が達成できなかったこと。


……だから、最後に謝っておこうと思う。





スゥウウウウウウ―――――。














いくらなんでも!

―――貞操観念が逆転した世界でハーレム目指そうとしたけど陰キャすぎる僕には無理でした!










――――――完。

以上で、「貞操観念が逆転した世界でハーレム目指そうとしたけど陰キャすぎる僕には無理でした!」メインストーリー完結になります!


ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!


正直な話、執筆の途中で何度も止まったりしたこともありました。

ですが、毎話感想をいただけたり、新しく評価、ブックマークをいただくたびに"待ってくれている人がいるんだ"と思え、なんとか最後まで走り抜けることができました。

本当に、心から感謝しています!


余談になりますが、この後のエピローグ(主人公が転移した理由や、この世界で出会った彼女たちのその後など)についても構想はあり、書こうかなとも思いましたが、まずは一度この物語を完結させたいと思い、この形で区切りをつけました。

ただ、もし「続きが読みたい」と思ってくださる方がいれば、少しずつ追加していこうかなと考えています。


また、陽太は結局誰と付き合おうとしたのだろう……という疑問があると思いますが、個人的には誰かは決めていますが、各々好きに想像してください!(この結末は書かないので……多分……)


最後に改めてお伝えしますが、ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございました!


もしこの作品を気に入っていただけたなら、他の作品も覗いていただけると幸いです。

ジャンルは違いますが、また違った物語を楽しんでもらえると思います。


それでは――また次の物語でお会いしましょう。

ありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
コメント遅くなりました。ついに最終回ですか。 完結、おめでとうごどいます。 なるほど、こういうエンディングになりましたか。元の世界に戻ったとしても、彼の在り方には変化があったのですから、何もなかった…
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