第四十五話 ハロウィンナイトパーティ
私は多分……というか、ほぼ確実に陰キャと言われる部類だと思うわ。
周囲の人に合わせることもできないし、自分の世界に入り込んじゃって周りが見えなくなることだってあるから……。
今だってできればかっこいい言葉を使いたいぐらいだもの、それは確かに人から嫌われることもあるかもしれないわ。
かといって一方的に嫌うのは許せないけどね!
……んんっ、ま、まぁそれはそれとして。
私は私の思うように生きて、それこそ誰かに合わせたり、誰かに理解されたいなんて感情とは無縁なんだろうなと思っていたわ。
けれど、そんなものは実はただの強がりで……。
―――文化祭のあの日。
私はどうしても……あの時……よ、陽太を……―――っ!
「ぬあ~~~~~っ!!! どうしてあんなことしちゃったのかしら~~~~~~っ!!」
私はあの日のことを思い出しては、何度も何度も後悔の念が頭を過ぎっていた。
例えば。
これが少年漫画の類であれば、男子も胸キュンな展開ではあったのだろうけど、ここは現実で。
それもこんな陰キャから勝手にキ、キ……キ……あ~~~っ!! 接吻よね!? そう、接吻をね? されようものなら、普通に考えればセクハラもセクハラ……いや、痴漢と訴えられる可能性すらあるワケで……。
「……あれから連絡もないし……完っ全に嫌われたわね、これは……」
あの時あんなことをしなければ……。
あの時に既に返事を聞いていたら……。
そんな過去の後悔は、常に私の頭の中をグルグルと回っていて……。
ついぞ十月ももう終わりの時まで一切の連絡を取ることができないでいた。
けれども。
「さすがにこのままじゃいけないわよね……ねぇ、ノクティーネもそう思うわよね?」
私は、彼からもらった大切なクラゲの友達――水霊ノクティーネにそう話しかけると、ノクティーネもまた私に語り掛けてきた。
『えぇ――――時の流れは早く――――まるで泡のように関係は流れていきます――――』
「そうね……ただでさえ私はもうすぐ受験だし……ちゃんと決着をつけるのなら今しかないわよね……!」
『はい――――大きな決断の時です―――全力でぶつかっていきましょう―――』
うん。
ノクティーネもこう言ってくれてるし、もうやってしまったことは仕方ないわ。
ここで再び陽太を誘って、乗ってきてくれればそれは良し。
もし無視されてしまうことがあったら……それは、ただ、今まで通りの生活に戻るだけ……。
そうと決まれば!
「ノクティーネ! 久しぶりに会う人に会う口実を作る文を一緒に考えましょう!」
『かしこまりました―――では、まず相手にわかりやすいように日程を――――』
はぁ~~~~~~~緊張するわね……!
でも大丈夫。私は最高位の天使――グラス。
この程度の試練は山ほどしてきたもの!!!!
あとは私が勇気を出すだけよ!!!!!!!!!!
『―――また、他の文言が良ければいつでも仰ってくださいね――――』
「えぇ、ありがとうノクティーネ!」
『どういたしまして――――私は貴方の友人ノクティーネ――――いつでもお側にいます――――』
◆
「お兄さん! かっこいいね! よかったらこれから―――」
「あ、すみません……待ち合わせをしているので……」
「そんなこと言わずにさ! ……ちっ、気取りすぎだしよく見たらブスじゃん」
「……」
さて、聞こえてきたのは男性の声ですか? 女性の声ですか?
えぇ、まぁもうこんなに時間が経ってたら皆さんお分かりですね。
当然、声をかけてきたのが女性で、対応をしたのが僕ですとも。
ん? 僕が何回もナンパされてませんか、ですって?
それはモテているのではないですかって?
いやいや、何を言っているんだね。
僕は前の世界でよく知ってるんだよ。
こういうナンパによく声を掛けられる人ってのは気弱そうで、なんか押せばヤレそうと思われてるだけだってことをね。
……まぁ正直男性の本能に従えばそのままついていくことも少しは悩むんだけど、とはいえやっぱりこういうナンパで声をかけてくる人ってなんか怖いし、なにより僕が今まで接してきた人がとんでもなく顔が良いだけに惹かれる部分がないというか……。
そう考えると、今までの僕からは少し変化があったってことか。
今まではワンチャンあるかも!とか思っちゃってたもんなぁ。
いやぁ、慣れってやつもあるかもしれないけれど、もしかしたらこの世界で過ごすうちに僕も知らずのうちにこの世界に染まり始めてるってこともあるかもしれないのかな?
……にしてもナンパの後に暴言吐かれるのだけは未だに慣れてないけどネ……。
とはいえ、僕に対してまでナンパをする人がいる、というのは通常ではあまりないことで。
こうして僕がナンパをされているのは、今日という日が特別な日だからだ。
十月最後の大イベントといえば、一つしか思い浮かばないだろう?
そう! ハロウィンだ!!!
元々は収穫祭だの死者が戻ってくる日だのと言われる祭りだけど、今や若者にとっては一種の仮装イベントとなっていて、まぁ色んな問題点を抱えつつも人気のイベントとして街が賑わうきっかけにもなっている。
そしてそんな陽キャのイベントになぜ僕が一人でいるかと言われれば、まぁ普通に笹草さんに誘われたからだ。
……正直、あの文化祭の一件以降、特に会話もなかったわけだけど、ハロウィン、という仮装イベントにあの笹草さんから誘いが来るかなとは思っていたから驚きはすれど納得はできたね。
勝手なイメージだけど、中二病にとってハロウィンは一番盛り上がるイベントなんじゃないだろうか?
かくいう僕も少しわくわくをしているというか、なんか笹草さんのコスプレとか……って、あれ?
いやでも待てよ?
さっきの女の人もそうだったし、よくよく見渡してみても女の人全然仮装してなくないか???
――――あっ、そうじゃん!?
うわぁ!!!!! 逆転世界だ!!!!!!!
道理でメイドの男とかナースの男とか男性警官とか色々いたわけだ!!!!!!!
ぐあぁ~~~~~! てっきりハロウィンで浮かれた男の逆張りコスプレかと思ってたけど、こっちが正解じゃねぇか!!!!!
クソ! 油断するとすぐに痛い目を見ちまう!!!
で、でも! 海での水着や祭りでの浴衣みたいに女性がすることだってっきっと……!
……あ、あの、今通り過ぎた、顔を白塗りにしたピエロの女性集団はなんですか???
なんか重厚な機械みたいなのを纏った女性はなんなんですか!?
おい嘘だろ!!!!アレがこの世界でのコスプレの正解だってのか!?
「くそう……笹草さんの可愛いコスプレが見たかったぜ……ッ」
「―――っ、い、いきなり俯いたかと思えば、そ、そんな変なこと言うなんてっ、ど、どうしたのよ……?」
あぁ、いやそうだよな。この世界では僕のほうが変なんだったよな……って、ん???
今の声って……!?
「――――――っ!!!!!! さ、ささ、あっ、えあっ、こ、心愛っ!? 来てたんだ!?」
聞き覚えのある声に顔を上げ、そこにいた見覚えのある女の子―――僕と約束をしていた笹草 心愛さんを見た僕は、瞬間、心臓が止まったような錯覚が起きた。
まぁそれはそう。
あんなことを言ってるのを聞かれてるなんて誰が正気を保てようか!?
いやしかし、せめてもの譲歩というべきか……彼女は普通の―――いやそれでも十分に可愛い―――服を着ていた。
うぅ……さすがに包帯とかいうアッチ系はなかったか……。
それはそれで別の意味で緊張はするんだけど……。
「さっき来たばかりだけど……というか、男の子でも女子のコスプレは気になるものなの……?」
いやはや愚問も愚問だね、と言いたいところだけど、生憎おかしいのはどうやら僕のほうだからここはあえて……。
「あぁいや、うん、まぁ、そう、かな……?」
「ふ~ん……まぁ気持ちはわからないでもないけれどね……にしても、陽太はコスプレはしなかったのね?」
「うん、コスプレなんてしたことないからね……」
なんて言っても、正直少しだけ考えなかったわけでもないけど、この世界基準のコスプレは僕にとってはかなり尖ってるから諦めたんだよな……。メイド服なんて着れんよ……。
「―——ねぇ、あれミナトたそのコスプレじゃない!?」
「―——え、本当じゃん!? うわ! めっちゃ似てる!」
あ、そうだった。
確か燕尾先輩曰く、僕はゲームキャラのミナトくん? ってキャラに似てるらしいから何もしなくてもコスプレしてるようなもん―――。
「あのっ! 一緒に写真撮りませんか!?」
「―——え」
うわ、びっくりした……。
急に目の前に現れて……一緒に写真?
どうして僕がこんな女の子たちと?
あれ? そういえばさっきのって、もしかして僕に向けて言ってた?
「よ、陽太……?」
あ、あぁそうね。普段なら別に写真撮ってもいいんだけど、今日は笹草さんがいるからね。
ここは丁重にお断りさせて―――。
「―—えっ、ミナトくんなの!?」
「―—あの衣装って最近出たやつじゃない!?」
―――え???
「あのっ、私たちとも写真お願いします!」
「SNSのIDってなんですか!?」
「写真撮ってもいいですか!?」
僕が断ろうとした矢先、しかしここはパリピの集うイベント――ハロウィンである。
話は徐々に膨らみ、気が付けば、僕は笹草さんから大きく離れ、人ごみに巻き込まれてしまった。
「うわっ、あのっ、押さ、押さないでください~~~~~!」
お盆休みのため次回更新は8/22 (金)になります。




