第四十三話 閑話休題に人を知る 前編
「……あのさ、雪乃って……もしかして全日本選手権とか出てたりする?」
「ん~? 出てないよ~?」
「じゃあ、実はネットで有名な歌手とかだったりしない?」
「しないよ~?」
「えっと、じゃあ―――」
と、僕が再び目の前にいる飲み物を可愛らしく飲む女性―――高校の同級生だった日向さんに向かって質問を繰り返していた時、日向さんは先んじて首を振った。
「本当にただの大学生だよ~……どうしたの、急に~?」
「……いや……なんていうか、最近身近に驚きの連続があったから少し安心するよ……」
「う~ん、喜んでいいものか悩ましいねそれは~」
激動の水仙祭も終わり、もう十月も終わりに近づく頃。
僕は日向さんと勉強会をしていた。
場所はまぁ一人暮らしもしていて丁度いいということで僕の家に来てもらっているのだけれど……。
よくよく考えれば、僕の家に女性を上げるのは何気に初めてなんじゃないだろうか?
う~~ん……まぁ以前の僕と比べればかなりすごい進歩というか絶対になかったであろうことなんだけど、こういうのってさ、普通逆じゃない????
男の子が女の子の家に行ってドギマギするパターンじゃ……って、そうだそうだ。
毎回忘れがちだけどここが貞操観念が逆転した世界ならこれはこれで普通なのか。
ん、ていうことは?
「ねぇ、雪乃ってもしかして今、緊張してる?」
この世界では、女の子が男の子の家に来てドキドキするってことなんじゃないのか?
いや~、でも日向さんはあんまりそういうの気にしなさそう―――。
「え、え~? いや~、それは~まぁ、少し、だけは……」
……ワオ。
ナンテコッタイ、パンナコッタイ。
こんなに可愛い女の子が僕の家に来て緊張?
うう、そんな日が来るなんて……夢にも思わなかったよ……いや、夢には思ったかも。
「もう~それはそれとして、さっきの話しってもしかして、陽太君の通う藍原さんて人? それとも燕尾さんって人?」
―――!?
「え!? なんで知ってるの!?」
ひ、日向さんって特に関わりないよね!? あ、いや、でももしかしたら裏で繋がりが……?
「や~、ネットでこの間話題になってたからさ~。なんだっけ、確か水連のゲーマー美少女と鳳仙の美形アーティストって書いてあったような~」
「あぁ……まぁ確かにあれは有名になるか……うん、そのどっちとも知り合いなんだけど、僕もそこまでとは知らなかったんだよね……」
「えぇ~!? よ、陽太君、こんなすごい人と知り合いなの!? すごいね~……」
日向さんの言葉に、しかし僕は首を振った。
――すごいのは僕じゃなくてあの二人だから。
いやぁ、ほんとに……。
あの二人はすごいと思う。
――どうしてこんな僕を好いてくれたのか……って、あれ??
よくよく考えたら、僕って好意を向けられたことはわかってるけど、それがどうしてなのか聞いてないんじゃないか?????
日向さんも、笹草さんも、燕尾さんは勘違いから好きになったってのは聞いたけど……藍原さんはよくわからないしな……。
おや?
もしかして僕は人からちゃんと好意をもらっているというのに返事を保留にするという不誠実なことをしておいて、なおかつちゃんと向き合っていなかったのでは????
……うん、それはよくない。非常によくないですよ?
日向さんと約束をした今年中に返事を考えるという中で、もう十月も終わろうとしている。
いくら慣れていないからって、僕が他の人に興味をちゃんと持たないといけないよな。
それをしていなかったから、藍原さんがあそこまでゲームが上手かったこと、そして燕尾先輩が有名な画家だったこと、笹草さんが学校で嫌な気持を抱いていたことも知らなかったんだ。
みんなが教えてくれなかったわけじゃない。
僕がちゃんと向き合わなきゃって言ったんじゃないか!
「あ~、ねぇ、雪乃。今日は勉強会もそうなんだけど、雪乃のこと色々聞いてもいいかな?」
「えっ!? えぇ~!? いや~、いいけど~……どしたの急に……?」
「いいからいいから、そうだなぁ、じゃあ一個目は―――――」
◆
それから日向さんにいくつか聞いて分かったことがあるとするのなら、僕はまるで人のことを見ていなかったんだなということだろうか。
好きな食べ物、高校時代の部活、今の趣味に至るまで、僕は初めて知ることばかりだった。
そして新しい一面を知ったことでさらに分かったことがある。
それは、意外な一面が見えた時にとても嬉しい気持ちになることだ。
例えば、おっとりとした口調だけど実は運動は好きだとか。
料理が苦手で、未だに面倒くさいときはカップ麺にしちゃうだとか。
聞いたところで何かが変わるわけではない些細な質問でさえ、新しい発見と嬉しさがある。
なんていうか……人を知ることで温かい気持ちになり始めたモンスターみたいなこと言ってんな……。
いかに僕が陰キャで、人との関わりを断っていたかがわかる……。
っと、そうだった、いきなり本題に入るのはアレかと思って雑談から始めたら思いの外盛り上がっちゃったから、そろそろ聞いておくか……。
「あのさ、改めてなんだけど……どうして雪乃は僕を好きになってくれたの?」
その僕の質問に、先までは軽快に答えていた日向さんの言葉が止まった。
けれど、少しだけ恥ずかしそうに顔を背けながらも、ゆっくりと話し出してくれる。
「……う~ん……改めて言うと変、なんだけど~……」
「……変??」
「うん。最初はね~、私と似てるな~ってところから気になり始めて~、そこからは気づいたら好きだった、っていうか……」
……ん? え、それだけ?????
あれ、なんか思ったより少ないし、思ったより薄くないか?????
いや、まぁ元の世界基準で考えた男性の恋愛観に当てはめれば、ギリ妥当か……?
に、にしても薄くないか!?
なんかてっきり優しいだとか面白いだとか? ワンチャンかっこいいとかあると思ってたのに!
うぅ、聞かなきゃいけないことだったとはいえ、少し残念だったな……。
「あ、でも~、今はたくさん思ってることあるよ~」
「……え、今は?」
「うん。ほら~、女の子って好きになるきっかけは薄いけど、そのあとにどんどん好きになる要素が見えてくるっていうじゃん~?」
「……う~~~ん、そ、うだね!」
うん、逆変換すると元の世界の男はそんなもんなんじゃないだろうか? 多分。そうなのかな? うん。気抜くとどっちかわかんなくなりそうだなこれ。
「だから~、最初はそうだったんだけど~……話してくうちに、なんか他の男の子よりも話しやすいし、話も理解してくれるのが気楽っていうか~、思いやりもあるし、よく話題も出してくれるし、なによりなんか女の子に媚びてないのが私は好きかな~!」
な、なんか……褒められてるはずなのにちょっとグサグサ来たな……。
要するに僕は元の世界ではダメ男だと突きつけられている気がしたよ……いや事実だけども!!!
けれどもまぁ、いろんな面を見てくれてるってのは本当にありがたいことだよな。
少し前まで恨んでたってほどじゃないにしろ、嫌悪感ある相手だったとは思えないほどだよ。
「なんていうか意外なところだったけど、改めて聞くと少し恥ずかしいね……」
「そっちが言わせたのに~? まぁいいけど……それで~、今年中にはちゃんと答え、出してくれるんだよね~?」
うっ……痛いところを……。
「もちろん、ちゃんと約束したからね……」
まさか燕尾さんからも告白されるとは思わなくてね……笹草さんの件も整理しきれてないってのにさ……。
「いや~でも、私のライバルが、まさかあんなネットの有名人だなんてね~。だから最初のほうに変なこと聞いてきたんだ~?」
変なことって……まぁその通りだけど……。
「でも、まぁ少し前だったら卑屈になってたかもだけど、今は別に純粋に、素直にすごいとは思うけど、意識はしてないよ」
「え~? ほんとに~? う~ん、でも、確かに変わったかも~? なんか、最初の時に感じた私と似てる点がなくなった気がする~」
「あれ……それはいいかもだけど、好きになるきっかけなくなってない??」
僕がそういうと、日向さんは少しだけ考える様子を見せた。




