第三話 美少女からのお誘いの連絡に真偽の確認から入るのは当然だよね
いつも見てくださってありがとうございます。
―――時は、遠野陽太がバイトに行く数分前の出来事。
春も中盤、外の気温は段々と暖かくなり始め、色づいていた桜は新緑へと変わりゆく。
そして当然、季節が変われば周囲の人も変わっていくように、今。
大学の同じ学部の交流会が企画されようとしていた。
そして大学の学部の人間は数十人を超える関係上当然といえば当然なのだが、企画においては主催……いわゆる幹事が必要となってくる。
幹事に求められる能力としては、誰とでも気軽に話すことができること。
そして、責任感があり、かつ行動力もあることであるが、現状、その条件を満たす者はこの学部には三人に絞られていた。
一人はテニスサークルにも所属している正統派リーダーの女の子――北野 ひなみ。
二人目は学部内でも何度か教授に質問をしているところを見かける真面目な女の子――南 優香。
そして三人目が、なんと私――藍原 唯。
……入学してこの一か月。
まさか陽太くんを守るための周囲の身辺調査をしていたことでそう思われることになろうとは……!
だがしかし、これはまたとないチャンスでもある。
というのも、当初の目的である友達を増やすことができる点に加え、何よりも本来であれば私としては陽太くんをこんな穢れた会なんかに誘いたくはないけれど、視点を変えてみれば、ここで同じ学部の人に陽太くんと仲いいことをアピールできれば誰も寄って来ない状況を一気に作り出すことができる!!!
そして、ここで幹事になることで自然と陽太君と近い席にすることや、同じグループにすることも可能!!!
つまり私はやりたくはないけど、陽太くんのために幹事になる必要がある。
そのために、まずは二人を説得―――。
「うん、いいよー! 何か困ったことがあったら相談してくれたらいいからね!」
「私も同意見です。むしろ藍原さんにやっていただけて助かります」
―――うん、なんか……はい、ということで幹事になりました。
ま、まぁ??? 達成感はないけど結果オーライだし!!!
さて、それじゃ幹事として最初はとりあえず……。
うん、お店のチェックと称して陽太くんを誘ってみようかな!
―――そして、かつての場面。
「ごめんね、えっと……実は今日は初バイトでさ……高校までは禁止されてたからやってみたくて……」
動揺。
まるでゲームのバグのような出来事に、私は思わず一瞬言葉を失った。
大学生がバイトをするのは自然なことだし、それ自体に疑問や戸惑いはなかった。
ただ……。
「まさか、バイトをするのが初めてだったなんて……」
人生においては、特に印象に残る出来事というのはずっと覚えているものらしい。
例えば、中学高校での部活動、大学入試、そして初バイト。
ということは、陽太くんがこれから働く場所は、陽太くんにとっての思い出の一つとしてずっと残り続ける場所ということで……。
私もそれを知っていれば一緒のバイト先を受けていたのに……!!!!!
周囲に気を取られてまさか陽太くん自身の情報収集を怠るなんて一生の不覚……!
―――こうなった以上、私がやることは一つしかない……!
こうしちゃいられない……! 名残惜しいけど……!
「えっと、じゃあ私用事思い出したからまたね!」
そう言葉を残して私はやるべきことのためにこの場を後にした。
◆
私たちの通う水連大学の最寄駅から電車に乗ること三駅。
そこから歩くこと数分。
―――私は彼の後をつけ、目的のものを見つけることに成功した。
ストーカーという絶対にしてはいけない犯罪行為。
気が付かれたら一生陽太くんと関わることなど許されるものではない。
……でも、私しか彼を守れる人がいないなら、仕方ないよね?????
他の女に騙されないように、バイト先を知るのも当然の流れだもんね???
……さて、陽太くんのバイト先は……え、あれ????
え、あの女だらけのカフェ????
いやいや、陽太くんに限ってそれはないでしょ~。
まさか、バイトに行くっていうのが嘘だった可能性も……っていや、それこそなんのために?
あっ、誰かに電話してる……誰……?ねぇ、それ誰なの……?
「……まさかこんな場所で働くなんて―――え???」
その時見た光景は、まるでゲームの中から出てきたかのような光景だった。
群衆の中から王子様が現れ、姫の元へと向かう。
そんな光景。
端正な顔立ちに遠くからでも際立つ高身長。
スラっとした体に、煌びやかに風に揺れる髪の毛。
そんな王子様が、木陰で可愛く立っている陽太くんの元へと現れ、なにやら一言二言を交わした後、連れられるように件のカフェへと入って行った。
そしてしばらくその光景に呆気に取られていたことをハッと思い出し、私は急いでカフェへと並び始めた。
―――当初の筋書きではこう。
陽太くんの初バイト先に、"偶然"私が現れ、楽しい初バイトとしての印象を付ける。
そして、これをきっかけに仲良くなって、ここを受けちゃったりして一緒に働いちゃったり―――。
ただ、私の頭の中には今、こんなことを考える余裕はなかった。
だってイケメンとイケメンが働くカフェだぞ????
まるで執事カフェじゃん!
そんなん普通に見てみたいじゃん!?
あぁ、こんなことならもっと早く並んでおけばよかった……!!!
そう後悔したのが一度目の後悔。
そして、私が入るころには二人のイケメンの姿がなく、普通のおばさんしかいなかったことで、もっと早く入ればよかったと後悔したのが、二度目の後悔。
そして営業終了付近まで粘れば出てくるんじゃないかと期待してたけど、結局その日は表に出てくることはなく、早く帰ればよかったと後悔したのが、三度目の後悔であった―――。
◆
「あぁ~結局この時間までいたのに全然会えなかったじゃん……も~!」
私は暗がりの帰り道、後悔の念に苛まれていたが、ふと今朝の出来事を思い出した。
そういえば陽太くん、あの時、もしよかったらまた今度一緒に出掛けてくれると嬉しいから、今度また誘ってくれたら唯のために時間をつくるよ!って言ってくれたっけ……。※言ってません。
えっと、陽太くんは……ふふ、まだアイコン設定してないんだ、可愛いなぁ。
えーっとなんて送ろうかな……。
『会いたい』……はいきなりすぎるしちょっと気持ち悪いよね。
『遊びに行かない!?』もなんか必死感出ちゃうかなぁ?
『今朝のお誘いだよ!』……いやいや、これじゃなんか話覚えてて好きって伝わっちゃわないかな!?
うーーーーーーーん……。
えぇい! もうこれでいいでしょう! そ、送信っ!!!!
―――あぁ、どうしよう……既読つくかな、返信なんて返ってくるんだろう……うわぁ~!!!!!
◆
――ピコンッ。
聞き慣れない音とともに携帯の画面が明るく光る。
あまりにも聞き慣れない音に疑問に思って携帯を覗いた瞬間、喉の奥がひゅっとなるのを感じた。
―――――――――――――――――――――――
―藍原 唯 さん
明日講義ないじゃん? -20:14
もしよかったら一緒に買い物に行かない? 買いたいものがあって…… -20:14
―――――――――――――――――――――――
えっ、えっえ、えぇ????
こ、ここれって遊びの誘い……であってるよね????
え、送り先間違えたりとかしてない?????
え、本当に僕???????
……いや、もしかしたら間違いかもしれない……。
それならさっそく確認を……いや、待て。
そうだな、あと一時間ぐらいは様子を見よう……。
すぐに返信して"間違えた!"って言われた日には僕はこのアプリを消してしまうかもしれないからな。うん。
―――ピコンッ。
ん、また? なんだ?
藍原さんからか?
―――――――――――――――――――――――
―燕尾先輩
今日は初めてで疲れただろう? いつもの夜更かしせずにゆっくり休むんだぞ? -20:16
ところで明日は土曜日だが、予定は空いてるだろうか? -20:17
―――――――――――――――――――――――
あぁそういえば、あの後燕尾先輩と連絡先を交換したんだっけ。
……んで、これは、なんのアイコンなんだ……? なんかのアニメか……? ってあ、変わった。
あぁ、なんか普通の犬のイラストになったな。バグだったのかな?
っていうかそれよりも、"いつもの夜更かし"ってなんで知ってんだこの人……。
特にそういう個人的な話してない、よな???
あーでも、結構美形だし、目のクマとかそういうのに敏感だったりするのかもしれないな。
しかしそうだな、予定なんて友達もいない陰キャの僕にあるわけがないんだけど、これまた待たなければいけないな……。
もし、もし仮に、藍原さんの誘いが本当に僕であるのならば、断る理由などあろうはずもない!!
して、そうなれば必然的に予定があるわけだが……うん、いや、まぁなくても別に燕尾先輩には断ればいいか。
どうせ土曜のバイトに入れるかとかそんなんじゃない? 多分……。
はっ、こんな最高の世界に来てまで誰が男と出かけるってんだ!!!!
っと、それなら先に先輩に連絡返しとくか。
えーっと。
―――――――――――――――――――――――
―燕尾先輩
20:22 - 今日はありがとうございました。 はい、ありがとうございます。
20:22 - すみません、明日は予定がありますのですみません……。
―――――――――――――――――――――――
なんかさ、陰キャだからなのかな。
一個一個に返事しちゃうんだけど、そのせいか同じ単語繰り返しちゃうんだよな……。
まぁ燕尾先輩はしっかりしてる人だし別にこういうの気にしなさそうだけど。
さて、とりあえずお風呂にでも入るかな!
今日は初バイト記念だし、ゆっくり浸かろうかな!!!フフフフーン~。
―――そして、彼が携帯に届いた連絡に気が付くのは、実に二時間後であった―――。
◆
遠野陽太がお風呂にゆっくりと入っている一方。
当然、彼の返信に慌てふためく姿が一人。
「おっ、返信が早いな! さすがミナトくんは僕にも優し……って、え、これ……」
僕は今しがた読んだ文に違和感を覚え、再び声に出して読んだ。
「すみません、明日は予定がありますのですみません……」
うん、何度読んでも間違いなくこう書かれている。
……察するに、予定があるということが言いたいのだろうが……。
うん、おかしい。
ミナトくんは休日は確か一人でゲームをしてるはず。
予定があるというのはゲームの予定があるということだろうか?
うん、聞いてみよう。もし一緒にできるゲームなら僕もやってあげてもいいしな!
―――――――――――――――――――――――
―ミナトきゅん
20:23 - 予定、というのはもしやゲームだったりしないだろうか?
20:28 - もし一人でやるつもりなら、僕も一緒にどうだろうか?
―――――――――――――――――――――――
ふむ、自分から誘うというのがこんなに勇気がいるものだとは思わず、送るのに少し時間がかかってしまったな。
しかしミナトくんにも困ったものだ。もはや同じバイトで一緒に仕事をした仲間……いや、それ以上の絆の仲の僕を誘ってくれればいいものを。
……しかし遅いな。
先ほどの連絡から察するに、ミナトくんは返信が早いと思ったのだが……。
いや、今の時間はご飯の可能性もある。もう少しだけ様子を見よう。
あまり食いつきすぎてはミナトくんが好きなクールな女ではないからな。
……も……。
もう一度だけ送ってから待とう! うん!
別に何度送ろうが困るものでもないだろう!
ゲームの中でだってミナトくんは何回でも手紙をもらっても嬉しくしていたからな!
そんな百や千送るわけでもあるまいし。
うん、これが最後だ。
きっとすぐに返ってくることだろう!
―――――――――――――――――――――――
―ミナトきゅん
20:35 - もちろん無理にという話ではない! できればでいいんだ
―――――――――――――――――――――――
◆
そして、遠野陽太がお風呂に入ってから一時間。
慌てふためく姿の人影が、また一人―‐―。
「携帯をまず見ていない可能性もあるし? そもそもまだ連絡に気が付いてないこともあるかもしれないし? お風呂とかご飯とかで手が離せないかもしれないし? なんならバイトで疲れて寝ちゃってるかもしれないじゃん?」
部屋にて何をするわけでもなくウロウロと歩き回りながら呟く人影―――藍原 唯はもう何度目かもわからない連絡画面を見る。
……うん、既読は、なし。
数分前に見た時と何も変わらない画面に、思わず座り込む。
……何がいけなかったんだ……?
もしかして、私の買いたいものばかり優先してる感じが出ちゃった……?
確かに、この文面じゃ陽太くんにとって何のメリットもないし、ちょっと傲慢だったかな……?
でもこれ以外に出かける理由なんて思いつかないし、せっかくの休日だし、平日ではあんまりいけないゲームイベントとか行きたかっただけなのに……!
……まさか、他の女がいる……?
……いや、そんなはずはない。
この一か月、私は陽太くんに女が近づかないようにそれとなく彼女であるかのような匂わせをしたり、悉く会話をしないように立ち回ってきた。
だから、もしいるとするならば過去の知り合い……同級生……とか?
「うわぁあああ~~~~いやだ~~~~~~!!」
どうしよう、それはすごく嫌だ……!
こうなったら、仕方ない。本当は追い連絡なんてしたくない、したくないけど、これも全て陽太くんが曖昧なのが悪いんだからね!!!!
えいっ!
―――――――――――――――――――――――
―陽太くん
21:19 - ごめんね? 迷惑、だったかな?
21:19 - 他の女の人とかと約束とかあった?
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