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第三十七話 結末の行方



結果から言えば、藍原さんを含む彼女ら四人の闘いは、この会場の外まで声が漏れ出るほどの盛り上がりを見せた。

さらに言えば、ゲーム研究部が制作したゲームである《Project: Narcissus》もまた、二対二の協力対戦格闘ゲームとしてゲーム業界に激震を走らせることになったんだけど……。


正直、僕はそんなことよりも……。

いや、きっと僕だけじゃなく、他の誰もがこう思っただろう。



―――藍原さんは一体何者なんだろう、と。



すでにプロから打診がきている内藤代表ならともかく、プロゲーマーと互角以上にやりあうその姿を、ただのゲーマーと称するには些か無理があった。


読み合い、コンボ、そしてなにより正確な反撃。

その結果が成したのが―――。


いやぁ、藍原さんの素性を知る僕ですらこう思うんだから、きっと知らない人からすればとんでもない衝撃だっただろうなぁ……。

いや、だって。


「さぁッ! ついにッ!!! ついに長い戦いに決着がつきました――!!」


実況の声が割れたような歓声にかき消されそうになりながらも会場に響く。


「この大舞台の中で繰り広げられた大激戦ッ!! 互いに譲らぬ一進一退の高度な読み合いッ!!! その末にッ! しかししかし誰がこの結果を予想できたのか!? この戦いを制したのは―――!!」


まさか―――。


「《零距離の未来視》藍原唯、そして《百華繚乱の制圧者》内藤花蓮――――ッ!!!」


プロゲーマーの二人に勝ってしまうなんて!!!!!!


しかも、ただの勝利じゃない!!


振り返ること、最終ラウンドを制したほうが勝者という緊迫した一戦―――。


これまでのラウンドと同様に、高度な読み合いである初手を必ず制すると言われているプロゲーマーの一人、成宮さんに序盤のペースを握られ、少しの綻びを決して逃さないもう一人のプロゲーマー、水無瀬さんの正確無比な追撃。

そこにはゲーム研究部が開発したゲームで戦うというアドバンテージは一切存在せず、そのハンデを背負ってすら優位に戦うその姿はまさにプロゲーマーと言われるものだと、彼女らを知らない僕を含め、誰もが理解した。


ただ、最終ラウンドにて事件が起きた。

これまでのラウンドは基本的に内藤さんがプロのどちらかを落としてから落ちるという、プロにも負けない実力を示し、藍原さんの体力的優位でなんとか凌げていたが、なんという悪魔の悪戯か。

ここにきて内藤代表が、相手プロゲーマーを両方残したまま戦線離脱。

それも、体力的にも優位性がない状態でである。


観客の誰もがプロゲーマーの勝利を確信したその時……。


このゲーム、《Project: Narcissus》の大きな特徴の一つであるギミックが発動した。


二対二協力対戦格闘ゲームであるこのゲームは、二対二で戦う性質上、どちらか片方が落とされてしまうと、人数差により圧倒的不利な状況になるというものがある。


しかし、この《Project: Narcissus》では、片方が落とされ、かつ相手が両名残っている状態で自身の体力が半分を切っていると特殊スキルゲージが溜まり、一発逆転の一手を使用することができるというギミックがある。


ただし、一発逆転といえども利点ばかりがあるものではなく。

まずもって発動するには確実に不利な状況にあるということ、そして、発動後十五秒間に相手を倒しきれなければ自爆してこちらが負けるという諸刃の剣でもある。


ゆえに、これまでのラウンドでは安定性からどちらのプレイヤーも使用することがなかったのだが―――最終ラウンドという次のない戦いに、藍原さんはこれを使用した。


このギミックは、自身の使用キャラクターの攻撃力を上げた上で特性を大幅に引き上げるというもので、例えば手数が取り柄のキャラクターなら攻撃速度が上がり、掴みが取り柄のキャラクターなら掴み範囲と掴み速度が大きく向上するといったキャラクターにあった能力向上が発生する。


では、藍原さんの使用キャラクターではどうなるか。


藍原さんが使用しているキャラクターは、反撃特化のカウンターキャラ。

そして得られる特性の向上は、カウンター威力の大幅強化と、カウンター範囲増加。


――つまり、相手が攻撃してこなければ意味がない上に、十五秒後には自爆するという制限付き。


プロゲーマーの二人は、このまま制限時間まで逃げ続けていれば勝ちの場面。

―――しかし、そこはまさにプロの矜持。


成宮さんと水無瀬さんは実際に顔を一瞬見合わせ―――同時に藍原さんへと攻め入った。


のちのインタビューで成宮さんはこう語っていた。


「あそこで逃げても勝てたけど、このお祭りにそんな勝利はアガんねぇだろ!? やるならKO完全勝利! ……と思ってたんだが―――」


成宮さん、水無瀬さんのキャラクターが藍原さんに近づき、各々が別方向から攻撃を仕掛け―――。


「―――カウンターをあの場面で連続で成立させた彼女がとんでもなく凄かった! ただ、それだけの話さ!」


―――乾坤一擲の大勝負。

成宮さんが放った攻撃に合わせてカウンターを放った藍原さんは、しかしそれを途中キャンセル。

少し遅れて入ってきた水無瀬さんは意図を察知するも、しかし半歩遅く。藍原さんは連続カウンターを成立させ、怯んだ成宮さんと同時に水無瀬さんを巻き込む特大威力のカウンターで両名を討ち取った。


この瞬間、僕はあまり格ゲーを知らなかったけれど、それでもなお人生で一番叫んでしまったかもしれない。

いや、あれは本当にすごかった……。

こりゃeスポーツが盛り上がるわけだと思うね。


それと、当然といえば当然だけど、この結果はすぐにSNSでも広がっていたらしく、しかしその中には、プロゲーマーである成宮さん、水無瀬さん両名があくまでお遊びだったんだろうと支持する声もあった。

が……この会場で生で見ていた人なら、決してプロゲーマーの両名が油断していたことや調子が悪かったわけでもないことは素人目でもはっきりと理解できた。


そして大きなモニターに映し出された藍原さんと内藤さんの姿を僕は見て……。


……少し寂しく思えた。

きっと今日を機に、藍原さんはこれからも多大な注目を浴びていくと思う。

それを証明するように、実況が叫んでいた。


「何度も言わせてもらうっすッ! これが学生!? 信じられないっすよ!! いや、信じたくないっす!!」


そしてそれに呼応するように、周囲でも藍原さんに対して話す人も増え続けている。


「……あの人プロじゃないんだよね? やばくない?」

「やばいってかあり得ない、あんなとこで連続カウンター決めれるセンスが凄いわ」

「いや、てかマジで未来見えてなきゃ無理。見えてても無理だけど」

「そりゃそう(笑)わかっててもあんな反応普通できるわけないんだよね」

「慣れてないとはいえ、プロゲーマーに実力ゲーで勝つのは普通に凄すぎる」



近しい人間が有名になる、というのは、正直現実感がないというのが本音だ。

いきなり環境が変わったところで、その人との関係性が変わるわけではない。


……でも。 


――――気づけば、僕は会場の外にいた。

会場内ではいまだ周囲の歓声は続いていて、誰もが興奮と高揚の真っ只中にいる。


……でも、僕はなんとなく、あの喧騒の中にはいられなかった。

胸の奥に、冷たいものが沈んでいる。

嫉妬か。

劣等感か。

それとも、ただの取り残された孤独感なのか。


……いや、これは多分シンプルに寂しさかねぇ……。


僕だけが知っているはずだったものを、他の人にも知られた時の感覚というか……。

はぁ……。

まぁいや、あれが藍原さんがの望んだ結果ならただの友人の僕には何も言えないし。

むしろあの才能なら世間に出たほうがいいとも思えるし……でもなぁ~~~~~~~。


なんというか、無意識に、だけど、藍原さんとはずっとこのままの関係性でもいられるんじゃないかとも思う時もあった。

少し自意識過剰かもだけど、少し自分に似ているところがあったから。


けど、ま、人生はこんなもんだよな~~~。


僕は会場の外に、依然として照り付ける太陽を手をかざして眺める。


太陽。

まったく、こんな暗い人間の僕の名前である陽太とは、その名の通り、天と地ほどの差があるもんだねぇ。


はぁ~~……っと、そういえばそろそろ美研のほうも入れる時間か?


なんか……感動したし、嬉しかったけど……複雑な気持ちだなぁ―――――。




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― 新着の感想 ―
うーん…… これで美研に行ったら、立ち直れないほどの追い打ちを食らいそう……
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