第三十四話 怪物退治上等!!!燃えてきたぁあああ!!!!
水連大学と鳳仙大学、二つの大学が合同で開催する学祭――その名も、水仙祭。
このお祭りは三日間にわたって行われていて、両校それぞれのキャンパスで同時に催される仕組みになっている。
水連大学のほうは、スポーツ系のサークルが中心になって体験イベントを開いたり、縁日やちょっとしたアトラクションを用意したりと、どちらかというと家族連れをターゲットにした、穏やかで賑やかな雰囲気の学園祭。
多くの人が想像する学祭というとこっちを想像するんじゃないかな?
だから……鳳仙大学側を初めて訪れる人は、きっとその空気の違いに面食らうと思う。
なぜなら、鳳仙大学の学祭は文化系サークルの展示が中心で……例えるなら、まるで美術館。
いや、下手をすると本当の美術館とも言えるかもしれないところだからね。
正門には、まるでプロの手によるかのような見事な看板が掲げられていて、それをくぐった先では、インフォメーションスタッフのような人たちがいて、丁寧に鑑賞受付をしてくれる。
そこだけ切り取ればもう完全に学祭じゃないよね。私もこれには驚いた。
でも、きちんと事前に鳳仙大学のことを調べてきた人なら、それにも納得できると思う。
鳳仙大学は、学校自体のネームバリューから、すでに芸術家として活動していたり、業界で注目されていたりする学生も珍しくない。
そういうこともあって、この学祭における学生が創った作品という枠では到底括れないような展示が本当にいくつもあるから、犯罪防止の観点からもそれぐらい厳重な入校チェックが入る、というわけね。
ちなみに、私が所属しているゲーム研究部も文化系サークルの一つとしてこの鳳仙大学側で展示を行うことになってるんだよね。
まぁ、ゲーム研究が文化?って、ちょっと不思議に思うかもしれないけれど……私たちの部では、単にゲームを遊ぶだけじゃなくて、ゲームそのものを制作する活動もしていて、それが技術開発という側面として文化系に分類されてる感じかなぁ?
ちなみに副代表の筒井さん制作のゲームはもう世に出て結構な人気があるらしい。すごいね!
……っとと、重要なことを言い忘れてた!
実は、この鳳仙大学側の展示には、ちょっとした競技性があるんだ~。
なんと、来場者が各サークルの展示に対して評価をつけていける仕組みになっていて、その評価が翌年度のサークルの追加活動資金に反映されるんだって!
つまり、サークルにとっては文字どおり生き残りがかかった一大イベントでもあるってわけ。
だからある意味、文化系サークルの人たちにとっては学園祭、というよりもまぁ予算獲得のためのイベントって感じなのかもね~。
……で、そんな中で。実は去年。
私たちゲーム研究部は――準優勝だったのだとか!
去年は筒井先輩が制作した格闘ゲームで、内藤先輩が挑戦者と戦うっていう簡単なものだったらしいけど、どうやら内藤先輩がまぁとんでもないほどに勝率を重ねに重ねちゃったらしく……ついにはプロゲーマーの人なんかも来たらしいんだけどそれもなんと返り討ち!
結果的にSNSを中心に話題になって、来場者は激増! そしてこれが内藤先輩がプロゲーマーとしてスカウトされるっていうきっかけなんだって。
夢があるよね~。
……ん? 準優勝ってことは優勝はどこだったのかって?
そんなの、もう分りきってることだよね~……。
―――美術研究部。
森先輩を始めとした才能のある絵師たちによる、美麗で神秘的な絵画の数々。
影絵を使った見栄えのいい映像作品。
着ぐるみを使った案内や説明など、子供も楽しめる配慮。
……そして、何より大きかったのは、とある一人の作品だったらしい。
―――私はそれを聞いたとき、自身の心が震え上がるのが分かった。
燕尾 司 作 - 『眠れる熾天使』
まるで天使のように見える男の子を象徴した作品は、たった一つにして、美術研究部の評価の半分を占めたという。
燕尾 司。
美研の副代表にして、既に彼女の描いた作品は美術品として取引されているほどの怪物画家。
……まったく、そんな有名なのに、一切それを表に出さない辺りが癪に障るよね~~~。
だからこそ、私はゲーム研究部で勝ちたいとより強く思った。
今年は美術研究部に勝つ。
そして陽太くんをゲーム研究部に入れさせる。
……そう、燕尾さんを完璧に叩き潰して!!!!!
――――と思っていたのに。
(はぁ~~~~~~~??? なんであの人勝負受けないのよ!!!!!!)
私が提示した勝負は、まず間違いなく彼女にとって有利!
その上で、好きな人との後夜祭まで賭けたのに、それでもやらないですって!?!?
どういうこと!!!!????
……あぁいや、理由はそういえば言ってたわね……。
なんだっけ、陽太くんを推しと重ねて好きになったから、私のは偽物だ~だっけ???
いやどうでもいい~~~~~~~!!!!!
私は燕尾さんの心の内はわかんないけど、偽物の恋って何??????
恋は恋じゃない?? な~~んかウダウダ言ってたけどさ。
はぁ……せっかく燃えてきてたのに、ちょっと冷めちゃったな……。
陽太くんとの会話で、どうにかなってほしいけど……。
ってあれ? なんで私は敵に塩を送る真似をしちゃったんだ???
あのまま引いてくれるならそれでよかったんじゃ……。
ウワ~~~~!!!!
やらかした~~~~~~~!!!
ど、どうしよう!?
あ、でもまだ陽太くんって燕尾さんが男だと思ってる……ハズ、よね?????
それならなんとかなるか????
あ~~~~~~~~どうしよ~~~~~~~~~。
「……藍原さん……大丈夫?」
―――この声はッ!?
「なんでここに……燕尾さん……!」
知っている声に私は振り向くと、そこには……。
「……あの、一応聞くんですけど、なんですかその顔は」
「えぇ? ……いやぁ? 別にぃ?」
―――ピキッ。
なんだそのしゃべり方はよォ。
さっきまで沈んでたやつの面じゃねぇなァ?
「……陽太くんと、なにが……?」
ここまでの変わりよう……まず間違いなく例の話し合いで何かがあったに違いない……!
いったい何が……!?
「え~? そうだなぁ~……。あっ、例の勝負! それで、藍原さんが僕に勝ったらそれを教えてあげるよ!」
「っ!!? ……えらい変わりようですね本当に……それは、勝負を受ける、ってことでいいんですか?」
「―――勿論」
……っ。
今度は即答……。
いったい何があったのかは分からないけど……。
「はんっ、ようやく覚悟が決まるなんて遅いですよ。それに、美術作品をすでに出した貴方が今更できることもないですけどね!」
そう。
ことこの勝負において、知名度的に有利なのは間違いなく、燕尾さん。
だけど、絵画とゲームという仕様上、絵画のほうは既に完成形。
なにも手を加えることはできないうえに、私のゲームは修正が可能。
つまり、来場者にとってより良いものを提供し続けられるという側面を持っている。
だから、この有利差も追いつめられる……そう、思ってはいるのに……。
―――なんて自信に満ちた表情してんのよ?
「ふふ、そうだね。でも、その必要はない。……かつてそれほど名声を得ることがなかった画家が、時間を経てから大きな評価を得たように、絵画というのは、永久に成長し続ける僕らの魂……まぁ僕の作品は言葉の通り、とでも言っておこうか」
「言うわね……。それなら、期限は最終日の後夜祭まで。それまでに、より多くの評価を得られたほうが、陽太くんとの後夜祭を得ることができ、そして、私が勝ったら会話の内容も教えてもらうわよ!」
「あぁ、いいだろう。楽しみに待っているよ、藍原さん」
そうして、私たちの契りからしばし後。
水連大学、そして鳳仙大学の快晴の空に、祭の開催を告げる花火が打ちあがった。
さぁ、行くわよ――――!!!




