第二話EX バイトに入ってきた後輩が推しに似ているって、それ何て作品ですか?
度々ですが、ブックマークをしてくれてありがとうございます。
頑張ります。
クールな王子様。
周囲から見た僕の評価は概ねこうだろう。
男性のような端正な顔に加えて高身長。
一人称が僕であることも相まってそのイメージはかなり強くなっているように思う。
僕が所属する鳳仙大学の彼氏にしたい人ランキングでは常に上位に位置するような、自他ともに認める美形。
だけど、本当の僕は全く違う。
「ねぇ司! 見てこれ! 彼氏とお揃いなんだ~!」
「おぉ、綺麗なネックレスだね、似合ってるよ」
「やった~! 司に言われるの彼氏に言われるより嬉しいかも~! あっ、彼氏もうすぐ来るみたいだから、またね!」
清々しい笑顔とともに彼女はそう言い残して、僕と同じ大学の友達は颯爽と立ち去って行った。
そしてその後姿を見て、私は大きなため息を吐く。
「はぁ~……彼氏……いいなぁ~……」
そう、僕はれっきとした女子だ。
顔が良いのはただ親の遺伝子が優れていただけ。
高身長なのはバレー部の男子に近づくためにバレーをしていただけ。
そして、一人称が僕なのは―――。
と、誰にも聞こえるはずのない声で欲望を呟いた直後、ふと肩に強い衝撃を覚えた。
「なーに独り言言ってんの? ってか司ならすぐできるでしょ~?」
「うわぁ!? 美鈴!? ちょ、ちょっといきなり話しかけないでくれるかい!?」
心臓が止まるかと思った……。
後ろから唐突に肩を組まれた腕を振りほどくと、そこには私の高校時代からの親友である、森 美鈴が面白いものを見たかのような表情を浮かべていた。
「はいはい、っていうか、さっきの言葉。彼氏がつくれるのにつくらない人が言うのは嫌味に聞こえるよ~? まぁ、司のその顔で彼氏って言っても違和感しかないんだけどね」
「いや、まぁ、そうかもだけど……」
彼女の言うことは一理ある。
僕は自分でも思うほど顔が整っているし、性格もまぁ悪くはないほうだと思う。
まぁ顔が良いとはいってもどちらかといえば男性的な顔立ちなのが少しマイナスポイントだけど、それを差し引いても同じ大学の先輩からも声をかけてもらうことは割とある……のだけれど……。
「わかってるって~、何回聞いたと思ってんの? どうせ三次元には興味ないんでしょ~? ほら、今はあれ、なんだっけ、最近推してるあの……」
「"ワーリバ"の"ミナトくん"! もう何回も言ってるのに全然覚えてくれないじゃないか! まったく……美鈴もワーリバやったらあの子のちょっと生意気だけど嬉しいときは素直に喜んでて、声も高くも低くもないのにちょっと男らしいところとか、少しSっぽいところとか絶対気に入るというのに」
「ハイハイ、私はそういうのあんまわかんないって~……ったく、司はいっつもその子の話になると人が変わるんだから……もう、どうしてその容姿で二次元オタクになるんだか……」
そう。僕は彼女の言う通り、二次元オタクと呼ばれる人間なのだ。
そして、一人称が僕なのは、昔からずっとハマっている大人気漫画の『ワールド・リバースシティ』、通称ワーリバに出てくる僕の推しであるミナトくんが、僕っ子が好きだからという単純な理由。
そしてこのような話し方もミナトくんがこういう女性がタイプだからという、ザ・オタクなのである。
僕が二次元へとハマった理由も単純な話。
ビジュが最高にそそるから以外に他ならない。
高校生らしく元気いっぱいの笑顔に、少し生意気そうな吊り目。
長いまつ毛なんてもう女の子だろアレは!!!!!好きだ!!!!!!
……んんっ、まぁ現実でも確かに男性アイドルなんかは良い顔もいるとは思うが、それでもやはり二次元の魅力には勝てない。
可愛い顔をしているのに、やると決めたことは絶対にやるという強い意志もあって、まさに理想の男性!
まぁ要するに、自分の理想を体現してくれる二次元へと僕がはまり込むのは最早必然的だったと言っていいだろう。
ただまぁ、いくら二次元が好きだと言っても僕も彼氏が欲しいと思うことももちろんある。
そりゃ女なんだから人並みの欲はあるし、時折一人は寂しく思う時もある。
が、やはりこの顔のせいで、好意を寄せてくるのは主に同性―――僕を男だと勘違いして告白をしてくる女の人がほとんどで、男性経験はもちろんゼロ。
しかもこの歪んだ性格のせいで男の人からは好意を寄せられることもなく、ついぞ今に至る……。
あ~どこかに無邪気で可愛い生意気後輩 (ミナトくん)とかいないだろうか?
「っと、そういえば司は今日バイトなんだっけ?」
あ、そういえばそうだった。
最近は研究やら論文やら忙しかったからなぁ……あれ?
たしか店長が今日は新人がくるって言ってたっけ。
あちゃー……ワーリバのゲームイベントで完全に忘れてた……。
まぁでもミナトくんのイベントだし、仕方ないよね!
まだどんな人かは聞いてないけど、人手があるのは助かるなぁ。
時間空いたらそれだけやれることも増えるもんね!
「うん、ここ最近行けてなかったからね……でも今日は新しいバイトの子が入ってくるらしくて、店長がすごい喜んでたな」
「そうなんだ! 人手も足りそうでよかったね~! それじゃ私はもう少し研究室にこもってこようかな~! またね!」
「うん、またね」
そうして私は美鈴に別れの挨拶をしてバイトに向かうために大学を後にした。
私が働いているのは落ち着いた雰囲気の個人カフェで、店長の淹れた珈琲に一目ぼれをして働かせてもらうことになったという経緯がある。
最初こそは落ち着いた雰囲気も相まってお客さんはそう多くなかったのだが、まぁ……この僕の容姿のせいでどうやら僕を男だと勘違いをした女性のお客さんがかなり増え、最近では落ち着いたというより、もはや執事カフェのようになってしまった。
あまりにも雰囲気が変わって申し訳なく思っていたのだが、店長としては売り上げが伸びてはいるから問題はなしと言って特に気にしないでくれた。
……とはいっても、正直今までの落ち着いた雰囲気は店長の作り上げたも大切なものだから、それを壊してしまった僕は責任を感じざるを得ない。
「申し訳ないけど、辞めるべき、かなぁ~……」
最近は特にそう思うようになった。
研究や論文が忙しかった要因もあるにはあるのだが、やはり一番は申し訳なさとして顔を出せずにいた。
が、つい先日、僕を雇ってくれた店長から新しいバイトを雇うのでそれの教育をしてくれないと頼まれてしまったからには、行かないわけにはいかない。
まっ、新人を育ててやめるのを最後の仕事に……うん、穴埋めには丁度いいかな。
◆
「司ちゃん、なんやら新しく入るっちゅう子が店ん前で困っとるみたいでの? ちょっち迎えに行っとくれんかいね?」
そう店長の坂本さんから言われたのが、午後のピーク帯頃だった。
確かにこれだけ店内が混んでいるのなら外もまぁ混んでいるだろうし、初めて来たならなおさら入りにくいだろう。
っと、そういえばどんな人が来るのか聞いてなかったな。迎えに行くなら聞いとかないと。
「いいですよ。その子の特徴は?」
出来ればわかりやすい特徴だったらありがたいけど、この店長結構大雑把だからな~。
僕のこと名前でちゃん呼びする割に、実はいまだに男だって勘違いしてるぐらいだし……。
さて、今日はどんな子が来てくれるのかな。
「うーんと……あぁそうじゃ、めんこい男の子やいね! たしか真面目そうないい子じゃった」
へぇ、男の子か~!
カフェに応募するぐらいだからちょっとイケイケな感じなのかな~?
……いや待って? 今なんて??????
「店長、"めんこい"って確か"可愛い"って意味だったよね? たしかに男の子だったの?」
「そうじゃね~、まぁでも司ちゃんのほうがわたしゃは好きさね~、昔好きだった俳優さんに似て―――」
―――ごめん、店長! 今はそれどころじゃない!!!!
可愛い男の子だって!?
なんでそれをもっと早く言ってくれないんだ!!!!
行くよ、迎えに!!!!!!!!
僕はエプロンを颯爽と脱ぎ捨て、激混みしている入り口を抜け、限界まで目を見開いた。
想定通り、入り口付近に並ぶ人だかりは結構なもので、これは確かに入りにくいだろうと思いつつ、周囲を見渡す。
あれは……違うか。
あれも、うーん、男の子……だけど、可愛くは……ないかな。
……おっ、えっあ、あれは?
店の近く、というにはいささか遠すぎる位置。
目を凝らしてようやく表情が読み取れる日陰でこちらをの様子を伺うように見ている一人の男の子の姿がそこにはいた。
ただ、確かに言えることがあるとするのならば、僕は彼の顔が、タイプだった。
端正な顔立ちの中に残るあどけなさと幼さの奇跡の調和。
少し吊り目がちな目なのにも関わらず、困り眉。
緊張しているのか、キュッと結ぶ唇は少し尖がっており、まぁとにかく。
―――似ている。
ただその一言に尽きる。
まるでワーリバのミナトくんが成長して少し大人になったみたいな……ってあれ?
いまもしかして、僕との目を逸らしたのかな……?
え”、てかなにそれその表情可愛すぎないか????????????
そう思った時にはすでに僕の足は彼へと向かっていた。
そして間近で改めてこの子を見て思う。
ほぉあっ、え、近くで見ても可愛いな??
え、好きかも……っとおおおっと待て待てそれはさすがに早まりすぎだぞ燕尾 司!?
うわ自分でもびっくりした~……あまりにも推しの顔過ぎてついぞワーリバの世界に来たのかと思った……。
まったく、大体いくら大好きな二次元キャラに似てるからって中身がそうとは限らないだろう?
恋愛経験がない僕にだって理想というものはある!
例えばこんな感じで恥ずかしがってるけど、ちょっと意地っ張りなところとかあったら良い、とかね?
……しかし何も話さないのもアレだな、不審者っぽいし、一応聞いてみるか……?
「君、もしかしてバイトの子?」
「……」
……え?
無視……じゃない、よね……?
聞こえなかっただけ……だよね?
え、それとも……。
「違うのかい?」
「……」
う、うわぁぁぁああああ、困ったな……。
どうしよう、違う可能性を考えてはいたけどいざその瞬間になると頭の中が真っ白だ!!!
いくら外見がクールでも別に内面までクールなわけじゃないんだぞ!?
え、でもこの子じゃないなら一体誰……?
周囲にそんな人はいないし……え、もしかして帰ったとか!?
うわ~ありえそう……はぁ~……。
「新しい人が来てくれるって、店長喜んでくれてたのにな……」
あっと、やば、思わずこの子の前で変なこと言っちゃった!
やばいやばい! 変な印象持ってないかな……って、あれ? な、なんで睨んで。
「あの、すみゅません……僕がバイトの、です……」
―――はへぇ?
◆
店長曰く、彼の名前は遠野陽太くんというらしい。
私が通う、鳳仙大学から二駅ほど離れたところにある水連大学の一年生なんだという。
……ふむ、大学一年生……彼が留年をしていなければ大体三才差、か。
……悪くない。
どう考えても理想のカップルの年齢差じゃないか。
しかも……。
「やっぱり似てる……」
改めて携帯でワーリバのミナトくんを見て思う。
ということは、実質これはミナトくんとバイトしてるもんなのでは?????
いや、待て、しかしこの顔……もうすでに彼女がいる可能性もある。
あまりにもミナトくんすぎて彼女がいたら失神する可能性もあるが、とにかく今すぐにでも有無を聞きたい! けど、それを言ってなんか狙ってる感を知られてバイトを辞められることは一番避けなければいけない!!!
付き合いたいという気持ちはあるが、そもそもここからいなくなられるともっと困る。
「あの、き、着替え終わった、です」
っと、着替えが終わっふぁ~~!! 可愛い~~~!!!
え!? 本当に僕と同じ制服なの!?
はぁ、今まで推しの絵を描いて着させていたけど、まさか実物大で拝めるとは……ッ。
おっと、危ない危ない、さすがに外面は取り繕わないと気持ち悪がられてしまうな。
「うん、似合ってるじゃないか!」
「あ、っす……」
はぁああ~~~???
あっすってなに? なんなの? ちょっと恥ずかしがってるの? んもう可愛いね????
あぁ、そのとんがってる唇の上に住みたい……っと、危ない。
また二次元推しモードになるところだった……。
あくまでミナトくんは冷静な女が好きなんだから……。
しかし、僕が来た時でさえ店舗に人が集まっていたのに、この子も働いたらどうなっちゃうんだこの店は?
「やれやれ、僕目当てだとかで人がたくさん来てたけど、君までここで働き始めたらこのカフェ爆発しちゃうんじゃないかな?」
本当に、店長はこんな状態でも本当に気にしていないのだろうか?
まぁ後で聞いてみるか。とにかく今は忙しいから妄想に耽るのもほどほどに早速仕事にとりかからないとだな。
「それじゃ、最初は軽い接客からお願いしようかな。接客はできるかな?」
見たところ確かに真面目そうだけど、こういう接客とかってしてたのかな?
……え? あれ、やば、ちょっと嫉妬心半端ないかも????
え、ここの前に働いてたら絶対にクソ女に誑かされちゃってるじゃん? え、無理……。
ねぇ、どうなの? ミナトくんは純粋だよね? そんな奴につかまってないよね?
「あの、バイトするのが実は初めてで……よかったら教えてもらえない、ですか?」
――――勝訴。
もちろん信じてたよ。君は綺麗だもんね……。
しかもなんだその上目遣いはどこで覚えてきたんだ、けしからん!!!!!!!
ふふ、しかしそうか、私が初めて……あっやば、笑いが抑えられない。
私が初めてを、やさしく教えてあげるからね……!
「ははっ、そうなんだ! じゃあまずは―――」
◆
クソ! クソクソクソ!!!!
「えー? 何名に見えるー?」
「えっ、あっと、に、二名様でよろしい、です、でしょうか!?」
目線の端に汚い女狐を捉えた僕は、最速で珈琲を作りすぐさま彼を悪の手から逃すために奔走した。
「ねぇねぇ~、店員さんさ―――」
「お客様、お待たせして申し訳ありません。お席が空いたのでご案内いたしますね? 二名様で?」
「えっ、あっはい!」
僕もこの顔である以上、人の視線や気持ちに対してアニメの主人公のように鈍感ではない。
だから、今案内している女子高生らが僕を見て虜になっていることなどはすぐに理解できた。
……だからこそ、僕は許せない。
「ねぇお兄さん、仕事終わったら―――」
「いえ、結構です。料理が決まりましたらベルでお呼びください」
「えっ、ベルなんてどこにも―――」
「じゃあ適当に呼んでください、それでは失礼いたします」
こんな尻軽女ごときに、ミナトくんには近寄らせない!
……けど……!
「ねぇ、君新人? なんか初々しいね」
「うぃ、えっ、と、あの、ご注文は……?」
「えー! じゃあ、あな―――」
「お客様、ただいまお店が混んでおりますので、お席のほう時間指定になってしまうのですがよろしいでしょうか?」
数があまりにも多すぎる……!!!
元はといえば僕が呼んだ客ではあるものの、まさかこれが裏目にでるとは……!
クソっ、僕のミナトくんなのに……!!!
こうなったら仕方ない、奥の手を使うしか……!
「さて、まだ始めたばっかりだし、とりあえず休憩しよっか!」
とりあえずまだ初心者であることを利用してこの場から遠ざける……!
幸い僕はここで教育者という最高の立場!!!!
これを利用しない手は―――ない!
◆
僕は自作の珈琲を彼の机の前に置いて問いかけた。
「どう? 初めてバイトした感想は」
「そう、ですね~、いや、なんていうか思ってたより大変ですね……」
うんうん、そうだよね!
特に今日は変なお客さんが多かったもんね!
……しかし今後もずっと守れるとは限らない……釘を刺しておかないと!
「あ、連絡先とか渡されても連絡しちゃダメだからね~? あれ受けると厄介だから……」
ミナトくんは良い子だし、流されやすいからなぁ~!
隠れて連絡先を渡すキメェ奴もいるかもしれないから、それだけはまず阻止しておかないとね。
あぁもう! どうしよう! うれしいけどそれ以上に心配が―――。
「正直、燕尾さんはすごい、っすよね~」
―――っ!?
「……っえ!? なになに急に!?」
えっ、告白イベントかい???????
早くない????????
「いや、なんか最初は顔が良いだけとか思ってたんですけど……でも仕事の仕方とかは顔関係ないし、あんなふうにテキパキと自信を持って接客できるのすげーカッコいいなって」
……あぁ、そういう……。
いやそういうとか冷静な感じじゃないって。え、なにこれ夢???
ミナトくんから仕事休憩に褒められるイベント????
あれ、疲れすぎてゲームの中に入っちゃった??????????
ていうか、待って?
今、顔が良いって言ったよね???????
え、ミナトくん僕のことやっぱり好きだったりする??????
「ぅえぇ何急にどうしたの!?」
どうしよう……え、困った……動悸が早すぎて頭がクラクラしてきた……。
もうこれ以上は要らない……なんて幸せな一日になったことだろう……。あぁ。幸……。
「燕尾さん、僕、決めたっす!」
……え、なに、結婚を? しよう、今すぐ。
そうと決まればまずは婚姻届けを―――。
「僕、燕尾さんみたいにかっこよくなって、燕尾さんよりモテてみせます!!!!」
「……え?」
え、何?
モテ……え????
ちょっと待って、頭が働かないんだけど、え、今モテてみせるって言った?????
えまってまってそれは違うよね?????
え、解釈が……え、私じゃ物足りないってことなの?????
ねぇ、それっていったいどういう―――。
「だから先輩! もっと僕に色々教えてくださいね!」
刹那。
僕は今まで考えていた黒い感情が、一瞬にして消えていった。
覚えているのは、確かな彼の無垢なる笑顔。
まるでミナトくんが、そのまま画面から出てきて話しかけてきたかのような夢のような現実。
その時、僕は理解した。
あぁ、そうか。
ミナトくんが誰かのものになる前に、僕のものにしないと、と―――。
【応援お願いします!】
「続きはどうなるんだろう?」
「面白かった!」
など思っていただけたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークや感想もいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします!
更新は"不定期"【AM1時】更新予定です!