第三十話EX3 契り
先の出来事の興奮から心臓の音が鳴り止まないまま、私たちは目的地へとたどり着いた。
「ここ、よ……」
「ここって……メ、メイド喫茶!?」
あぁ、やっぱり微妙な表情してる……?
で、でもここの本領はさっきのメイドカフェとは違って女子がメイドしてるからきっと面白いはずよ!
男装メイドなんてそうそうないものね!
「えぇ、そうなのよ」
ふふ、大丈夫よ!
ここから面白いものが見れるんだから!
あっ、ほら早速!
「い、いらっしゃいませ~!」
現れたのは同じクラスでも少し話したことがあるぐらいの高橋さん。
ふふ、私としてはクラスメイトの女子のこんな姿を見れるのは面白くて仕方がないわね!
さて、陽太は……え????
「まさか……」
な、なにその表情は……。
お、驚き?
あ、あ~~~、そうよね!そりゃこんな変なことしてたら驚くに決まっているわよね!?
「えぇ……私たちのクラスは、男装するメイド喫茶なのだわ?」
「あれ!? 笹草さんじゃん! あ、えっと、か、彼氏さん……ですか?」
えっ!? 高橋さん!? 話しかけてくるの!?
私たち全然話したことないわよね!?
「イエッ、あの、えっと……」
ど、どうしようっ!
クラスメイトともそんなまともに話したことないし……、陽太が彼氏!?
い、いやぁ、そんな、ど、どうすれば……。
「……心愛……行こう……ッ!」
……え、陽太?
急に手を引っ張るなんてどうしたの!?
というか、テ、テンション高くないかしら???
あんな目の輝き、初めて見たような……。
え、もしかして、陽太って逆メイドのほうが好きだったり……?
「え、あ……うん……よ、陽太って、こういうの好きだったのね……」
あれ?
それなら私でも、喜ばせてあげられるじゃない!!
なんて私は幸運なのかしら――――!
◆
教室に入り、クラスメイトの男装姿を眺める陽太に、しかし少しの不安が生まれてしまう。
……ここまでいろんなクラスメイトのメイド服見てるけど、もし私の男装姿が変で喜んでくれなかったらどうしようかしら!?
普段見ない人の男装だから興味を持ってるだけで、今まで普通に接してた人が男装し始めたら嫌がるかしら……!?
い、いや、でも、ここまで来たら引けないし……。
ええい!!!
「あ、あぁ……陽太? あの、さ、先に頼んでていいから……わ、私は少し、トイレに行ってくるわね?」
「え? あ、うん、わかったよ」
悩んでも仕方ないわ!
やると決めたのならやるのよ! グラス!!!
そして私は教室の奥へ行く。
「あ、あれっ、さ、笹草さん? どうしたの?」
「……わ、私もメイド服……き、来てもいいかしら……?」
私がそう口にしたとき、その場にいた裏方の調理担当の男子はみな驚いたように目を見開いていた。
……まぁそれもそうね。
今まで周囲と関わってこなかった私がいきなりメイド服を着たいだなんて言うんだもの。
……でも、笑われたっていい。
私の全てを変えてくれた陽太のためなら――‐。
「えっ!? いいじゃん! 着なよ! 笹草さん絶対に合うと思うよ!」
「笹草さん着てくれるの!? うわぁ~楽しみ!」
「おい! 絶対あの女子たち呼ぶなよ~! 折角笹草さんのメイド服見れるんだから!」
――え。
あの、これはいったいなにかしら……?
「あっ、笹草もメイドになるの? うわぁ、男子らいいモデル来たからって喜びすぎでしょ……」
「高橋……さん、えっと、この騒ぎは……なぜ……?」
と、私の問いに、入り口で私たちを案内してくれた高橋さんは目を丸くして答えてくれる。
「えぇ!? あぁ……でもそうか、あんまりこうして話す機会なかったもんね~……。ほら、笹草さんって顔整ってるじゃん? そりゃそんな人の男装メイド見たくない人はいないでしょ~? 同性の私でも見たいもん!」
「顔が……え、と、え……?」
「さぁさぁ早く! ふふ……じゃあ男子お願いね~!」
え、えぇ~~~~~~????
◆
フリル良し。
丈良し。
表情……良し?
「……ふぅ~~~~~~」
私は男子が用意してくれたメイド服に着替え、大きく息を吸ってついに、カーテンの向こう側へ足を踏み出した。
「お待たせ……しました、ご主人さま♡」
「あ、は、はい……って、こ、心愛……!? え、えぇっ!?!?」
うわぁあああ! 声裏返ってないわよね!?!?
すごい見てないかしら!?
大丈夫よね!? 変じゃないわよね!?
く、クラスの人はいい感じって言ってくれてたけど……。
陽太の表情が全然わからないわ!?
そ、その呆けた顔は喜んでるって捉えてもいいのかしら!?
「よ、陽太が好きだと思ったから……そ、そのっ、これは接客体験としてやむを得ず、であって……! べ、別に私がやりたいわけじゃないのよっ!」
~~~~~~~~!
ぜ、全然何も言わないのだけど!?
なに!? 変なわけ!?
何か言いなさいよ~~~~~~~!!
っていうか……まだ注文もしていないのね?
……そ、それなら……。
「……ちゅ、注文はまだ……なのね。……えっと、その……な、なににするのかしらっ!?」
えーっと?
あ~、私も料理に関しては何があるか見てなかったのよね……って、なにこれ!?
こんな変な名前なの!?
こ、これはさすがに頼みにくいわよ…ねぇ陽太?
「え、えっと……じゃあ、その……とろける恋のオムらぶプレート、で……」
――‐!?
あら? あらら???
今なんて……。と、とろける恋のオムらぶプレート!?
……ふ、ふふっ。
陽太もノリノリじゃない!
「えぇ、了解なのだわっ!」
―――って、あれ? 待って?
……このオムらぶプレートってそういえば―――。
「注文ありがとう笹草さん! はい! じゃあこれ! ケチャップでお客さんの好きなもの書いて、ちゃんと例のセリフ言って渡してね!」
そういって私は調理担当の男子から、美味しそうなオムライスを渡される。
あぁ、やっぱりそうだ……っ!!!?
な、なんてこと……!
よりにもよってまさか陽太がこれを頼むなんて……!
いや、考えようによっては他の女子にやられなかったことは僥倖か……!?
うぅ、にしても恥ずかしいわね!?
でも……行くしかないわ!!!1
「お、お待たせ……しました。こちら、とろける恋のオムらぶプレートになります……」
う、うぅ……見られるのは慣れたけど……。
さすがに名前を言うのは恥ずかしいわね……。
赫朱と黄昏の献供にでも改名したらいいのに……。
あ、そ、そうだ……確か……。
「け、ケチャップでお絵描き、するのよね……な、なにか、描くのかしら……」
き、緊張しちゃってお絵描きだなんて!?
はぁ……封魂の紅文字とか言えばよかったのにっ!
というか何を書けばいいのかしら……す、好きとかそういうのなのかしら!?
いや、でもまさかハートとか……!?
「じゃあ……名前、書いてもらっても、いい?」
あぁ!名前ね! 名前……そ、それもそうよね!
「~~っ! べ、別にそれくらい……平気よっ!」
えーっと、確か陽太って字は、太陽の陽に……太陽の太……ってあれ?
陽太ってそういえば太陽って漢字をまんま反対にした名前なのね?
……あら? すごく、いい名前じゃない!
「よ、陽太……っと……。……う、うまく……書けたかしら……?」
あとはアレだけね……。
はぁ~~~~~緊張するわ!?
でも、今ならなんていうか、ちゃんと言える気がする。
え~~~い! 行くわよ!
「……も、もえ……もえ……きゅ、きゅんっ♡」
……。
……あれ?
陽太の動きが止まっちゃったわね……。
え、もしかして何か変だったかしら!?
「よ、陽太?」
「―――はっ!? あ、ごめんごめん、ちょっと驚いちゃって……」
「あ……もしかしてあんまり上手じゃなかったかしら……」
そうよね……メイド喫茶好きからしたら私みたいな人にやられても―――。
「そんなまさか!? めっちゃ可愛くて驚いちゃっただけだよ! めちゃくちゃ嬉しい、ありがとう! 心愛!」
―――‐……。
「心愛……?」
「ピ、ピィッ……」
な、なんてこと……。
この私を……か、可愛いって……。
えっ、待つのよ?
さっきはかっこいいって言って、今回は可愛い?????
私知ってるのよ?
確か男子は女子に可愛いって思ってたら、それは沼ってるっていうサインだって。
ってことは陽太……もしかして私のこと―――‐。
◆
楽しい時間は、あっという間だった。
秋桜文化祭の招待客限定開催は、十五時には終わりを迎える。
だから、十五時を迎える今、私は、陽太を見送りに来ていた。
「いや~、本当に楽しかったよ! 招待してくれてありがとう!」
「いいわよ! わ、私も良い記憶を得られたもの……」
そういうや陽太は、明るく手を振って校門を出ようとして―――。
「……わっ、ど、どうしたの!?」
―――私は思わず、陽太の手を掴んでいた。
あ、あれ!? な、なんで私は手を……。
なんて……いくら鈍感なフリをしようとも。
そんなのもう、充分に理解している。
私は……。
「ね、ねぇ陽太。ひ、一つ聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと? うん、なんでもいいけど……どうしたの?」
私は高校生で、陽太は大学生。
私はこれから大学受験のために勉強尽くしになり、陽太の周りにいる女子……藍哭ノ巫女と、漆黒の尾羽……いえ、藍原先輩と燕尾先輩とは流れる時間も違うし、一緒にいられる時間も限られている。
きっと誘えば陽太は来てくれるだろうけど……えぇ、そうね。
これは女の独占欲、というものかしら。
「陽太は……私のことは……嫌い?」
「……っえ!? な、なにいきなり……!?」
「お願いよ、答えてくれるかしら?」
ズルい聞き方だなとは思うわ。
好きという言葉は決して言わず、男子に思いを委ねるのは。
……でも、陽太ならきっと、他の男子とは違ってちゃんと答えてくれるような気がして―――。
「い、いやいや、嫌いなわけないでしょ!? ど、どうしたの急に!?」
……ねぇ、陽太。
陽太は私のこと、どう思っているのかしら。
私は好き。
貴方のことが、どんどん好きになる。
私を受け入れてくれたことも、私のために色々してくれることも、その他のどれも。
「そう……なのね……」
今日は、一年に一回しかない文化祭という、特別な日。
そして、私にとっては、一生に一度しかない、最後の、特別な文化祭。
だから、だろうかしら。
最近少年漫画を読んだからかもしれない。
恋愛番組を見るようになったからかもしれないし、恋愛映画を見た影響かもしれない。
普段の私では、決してできない行動が、どうしてか、この時だけはできる気がした。
私は、戸惑う陽太の目元を手で覆い、唇を、そっと頬に近づけた――――。
「っ、えっ、いや、えっ、こ、えっ!?」
突然の行動に動揺しながらも、しかしどこか顔が赤い彼の表情に、私はたぶん、生まれてから今までで一番の笑顔を向けた。
「今日はありがとうねっ!! じゃあ、また!!!」
そういって私は、振り返ることなく、学校へと戻る足を速める。
唇に残る、彼の温もりを感じながら――――――。




