第二十七話EX2 勝機を見誤るな! 焦らず決めろ! 渾身のジャストガード!!!
「あの、先に私をゲーム研究部に入れてくれませんか?」
――‐と、私がそう口にした瞬間に部室内の空気が変わった気がした。
あぁ、これは……歓迎、というより疑問……かな?
まぁ、この忙しい時期にサークルに入りたいっていうんだからそりゃ無茶言ってると思うけど……。
でも、これが陽太くんの力になるのなら、私は何も恐れない――‐!!!
「マジ!? ウワォ、大歓迎だよ! ね? いいよね、筒井?」
……いや軽ぅ~~~~~~~。
ちょっと揉めると思って身構えたのにあっさりすぎない???
まぁ内藤代表ってそういうところあるのはちょっとわかってたけど……。
いやいいんだよ? 入ろうと思ってたし、ゴタゴタがないに越したことはないし?
でもここまであっさりだとなんかこう、拍子抜けというか……。
せめて何か――‐。
「ん~、私もいいんだけど~。藍原さんって格ゲー知ってる? やってたりする?」
……おや? これは……。
「は、はい! 一応……アケコンでもパッドでもどっちでも大丈夫です。あっ、レバーレスでもちょっとは……」
「オワ、えっ、アケコン知ってんの?? じゃあ意外とガチってる感じ?」
「いや、そんなんじゃない、ですけど……」
あっ、まずったかなぁ~~。
初手で専門用語決め込むとか気持ち悪くなかったかな……?
い、いやでも、ここはゲーム研究部だし、大丈夫、だよね???
というか、やっぱりこの流れって……。
「今日来てる中でランク一番高いのって代表以外で誰だっけ?」
と、筒井副代表の言葉に、先ほどまでモニターの前で討論をしていたうちの一人が手を挙げた。
「あ、私っすね。今んとこまだ《白銀》っすけど、前シーズンなら《師範》っす」
「あぁ、前田さんか! ねぇ藍原さん、それじゃ前田さんと一戦してみない? ほら、こういうのって学祭前のイベントみたいで面白くね?? ね、代表いいよね? ね?」
やっぱりか~。
まぁこうなるって予想はしてたけど。
「まぁ……いいでしょう!!!! では……これより入団テストを開始するッ!!! 双方ッ準備せよッ!!!!!!」
内藤代表の声に部員たちが歓声を上げ……ってほんとここの部はエンタメ力がすごいな……。
えっと、私のコントローラーはっと……うん、パッドか。まぁいいか。
それじゃ……いっちょやったりますかね――‐!!!
◆
「え? そのキャラでいくの? 藍原さん、マジ? た、たぶん違うキャラのがいいかもしれないよ……?」
ゲームが始まり、キャラ選択の時。
筒井副代表が私のモニターを見てそう口にした。
が、まぁ筒井副代表がそう言うのは当然だろう。
なぜなら私が選んだのは、格ゲー界隈ではコンボが安定しないのに飛び道具が一切ないクソキャラとまで揶揄される超近接型のキャラ。
小技の発生ですら遅く、一発の火力も低いという、初心者には扱いにくく、上級者でもまず選ばないほどのキャラクターだから。
でも、私がこのキャラを選んだのには理由がある。
というか理由がなければこいつ選んだ時点でミスピックしちゃったって台パンしてる、私が。
「大丈夫です。前までこのキャラクターよく使ってて……」
「へぇ……だいぶ渋いトコ行くっすねぇ~。っても、こっちは遠慮なくこいつでいくっすよ?」
私の選択を終えた後に前田さんが選んだのは、全シーズン通しても使用率トップを誇る、いわゆる強キャラ。
当然強キャラの名に恥じないほどに技の出が速く、判定も強い。
崩し性能もあるし、何よりも二パターンのハメ技があることが最大の強みだろう。
っていうかこいつだけ全然ナーフされないのガチで運営とできてんでしょ??
こいつ対応面倒くさいし大会で禁止にしてほしいんだけど……って、今はそんなことはどうでもいいか……。
こいつを使うなら集中しないとね――‐。
「……いやぁ……これだけ見るとあからさまな格差マッチだなぁ。しかも前田って無駄に格ゲー上手いし……まぁ、これで勝てたらマジで盛り上がるんだけどなぁ~。ねぇ、代表はどっちが勝つと思います?」
「う~ん、藍原さん……そしてあのキャラ……藍原……なんか見覚えがあるんだよなァ……?」
「……代表……?」
――そして互いのローディングが終わり――いざ、戦いが始まる。
【――Round 1――FIGHT!】
渋い男の声の開始の合図と同時に、当然、強キャラの前田さんは猛然と前に出てくる。
そもそも前田さんの使うキャラなら順当に攻めていても大体押し勝てる。
序盤から距離を詰めてくるのは当然のセオリー……だから!
「来るよね~! そうやって!」
私は初手で一歩引き、相手の中段に合わせて、あるボタンを押す。
「―――うわっ、ジャスガッ!?」
――‐通常、この格ゲーではジャスガ……ジャストガードという、相手の攻撃からおよそ一から二フレーム以内にガードを繰り出した際に発生する特殊演出が存在する。
ジャスガを決めた際には、相手は怯み、かつ相手の動きのみがスローモーションと化すことで逆転の一手を放つことが可能になる。
――‐が、私が使うこのキャラはそれらの効力が一切ない。マジでクソ。
ジャスガをしても相手の動きは怯まず、動きも遅くならない。マジでクソ。
……じゃあ、なにが起こるのかというと、それは至極単純。
「うっわ、マジか……これだけで体力こんな削られんの!? てかジャスガ上手すぎない!?」
そう。
このキャラだけは、超近距離型の特性として、ジャスガをすると相手にダメージを与えることができる。
多分反撃能力的な?
加えて、ほかの技が弱い代わりに、ジャスガのダメージは驚異の相手の攻撃ダメージの三倍。
わかる? 要するに、めちゃくちゃ調整がゴミ。
まぁその辺は今更置いといて、つまり上手くジャスガを当てる事さえできればこのキャラは全キャラ中最高の攻撃力を持つキャラとなるというわけだ。
まっ、なんだかんだクソゴミとか言ってるけど、これがロマンあっていいんだよねぇ~~~!!!
「初手ジャスガマジ!? ガチすごくない!? 代表、このキャラって確かジャスガの判定めっちゃ厳しくなかったですか? 修正入ったんだっけ??」
「……いや、、ジャスガの反撃ダメージ倍率がでかい分、判定も通常の三分の一という仕様なのは変わってないよ……というか、必然的に相手の技とほぼ同時でガードしなきゃいけないから予知レベルがないとそもそも使えないんだけど……いやしかし、これはなァ……」
――‐強キャラの定石はだいたい頭に入ってる。
後は、パターンに当て嵌めていくだけで――‐。
(……ここ!)
「うっわ!? マジ!?」
「うぉおおおおおお!?!? 第一セットをあの前田から取ったの!? このクソキャラで!?」
「すげぇ!!!!!! え! プロじゃん!?」
ふぅ~~~~~~。
なんとか一セットは取れた。
しかし、賭けだったわね……前田さんがちゃんと上手かったから予想できたみたいなものだし……。
でもこれだけ上手いとなると次はそう簡単にはいかないかも……!
私の背後で盛り上がる部員たちをスルーし、次いで始まる第二セットに備える。
気を抜いてる暇はないぞ……!
【――Round 2――FIGHT!】
間髪入れず、再び開戦の合図を告げる男の声に、しかし、今度は前田さんは動かずに様子を見ていた。
……やっぱりこの人の上手さは確かに《師範》というだけはある。
ジャスガ相手なら攻めるよりも受けのほうがいいもんね……!
……なら!
と、自ら近づく私に、前田さんは不敵に笑った。
「かかったっすね!!」
私が近づいたその時、モーションの起こりを見てすぐにガードをするが――‐。
これはっ!
「掴み……っ」
――‐掴み攻撃。
一般に投げ技と称されるそれは、格ゲーにおいてガード不可という特性を持つ技だ。
ただ、その特性と投げ技の仕様上、かなり近距離でないと成立しない技ではあるけど、それが私の使うキャラと致命的に相性が悪い……!
ジャストガードを主体とする上に飛び道具を持たないこのキャラは、当然だが掴みをされる距離まで近づかなければならず、かつ投げ技のガード不可特性はモロに影響を受ける。
単純な話、投げ技に徹されると勝ち目はゼロに近い、ということ……。
油断した……!
「掴めばもう怖くないっすよ!」
ただまぁ、先も言ったけど、勝ち目は完全なゼロではない。
その程度の対策なら、私は何度も経験済みだからね――‐。
「うわっ、上手っ……」
「おぉ! また避けた!?」
掴みに対する有用な手段としては二つある。
掴みをバックステップで回避するか、掴まれる直前に攻撃を先に当てるかだけど、このキャラは攻撃の発生が遅いから基本的には回避一択。
だからまぁ、後は相手が掴みをしそうなタイミングで回避を入れてあげれば何も問題はない。
……後は。
「や、厄介っすね……! こうなったら必殺技っす!! ……って、あ!!!!!!!!!!!!!」
部室内に響く、前田さんの大きな後悔の声と、ゲーム内のジャスガの音。
格ゲーにおいて事実上の逆転の一手である必殺技の、ジャストガード。
相手の体力の三分の一を削る強力な必殺技の三倍の威力、となれば当然。
【You―Win!】
「はぁ~~~~~~、危なかった~~~~~!」
最後のゲージがたまった瞬間、早く試合を終わらせたい焦りで必殺技をする読みガードだったから、あそこで掴まれてたら負けてただろうな~~~~。
はぁ~~~~~~。
と、私が息を吐きながらコントローラーを置いた瞬間。
部室の空気がふわっと弾けたように騒めいた。
「うお~~~~!!! 前田にパーフェクトで勝つってマジ!? すごくない!? しかもこのキャラパででしょ? えぐ~~~~!」
「いやジャスガ全部意味わからんけど、最後の必殺技のジャスガが一番やばい。あれ判定どこなんかわからんくない? てか読んでなきゃ無理くない??」
「いやジャスガもそうだけど、掴みに対してあの精度で避け続けるって普通無理でしょ……! 頭おかしすぎて笑うわこんなの!!」
と、私のプレイを見ていた何人かが、口々に興奮混じりの賞賛を投げかけてくれる。
……いや、こ~~~~れは嬉しいな!?
こんなの思わずニヤケちゃうね???
「……いや、マジで私っていつも負けたら言い訳するっすけど、こんなん言い訳なんて出せないほど完敗っすよ……。え、プロっすか?」
いや~~それほどでも……。
まぁ、まぁ少し大会に出てたことあるけど……プロとかじゃないからね。
私も負けてたら言い訳してたし……。
「いや~~~すっげぇ~~~、マジでひりつく試合だったな~~~!! ねぇ? 代表?」
「うん……あのジャスガは……マジで……って、あっ!?!? ねぇ! 藍原さんって、昔もしかしてカタカナ表記のアイハラでオンライン大会出てなかった? その時もこのキャラで……」
――‐!?
な、内藤代表……な、なんでそれを!?
いきなり言われてびっくりした……。
って、格ゲーも上手い内藤さんだから知っててもおかしくない……か?
いやいや、でも!
「なんでそれを……? そんな有名な大会じゃなかったと思うんですけど……」
そう。
私が当時出ていたのはネットで定期的に開催されていたよくある軽めのオンライン大会。
あの時はジャスガ読みを極めたのが嬉しくて大会に出たものの、決勝で"knight"さんって人に負けて優勝もできなかったぐらいなのに……。
……ん?
knight?
ナイト……。
――‐あっ!!!!!!!!!
「内藤!!!!!!!!!」
「あ~! わかっちゃった? いや~~~あの時のジャスガの子だったとは!! 私にとっても嫌な記憶過ぎて思い出すのに時間かかっちゃったヨ……」
私を決勝で負かした相手は、knight、という名前の一般プレイヤーだった。
私と同じく読みに長けていて、圧倒的なコンボで相手に攻撃させることなく勝利を収めるほどの実力者。
そしてそれは、話に聞く内藤さんのプレイスタイルと全く同じで……。
あぁ! どうして気が付かなかったんだ!!!
「ふふ、私が卒業する前でよかったヨ! リベンジ……もちろんするんだろう????」
「当然!!! あの時からひたすらに勉強したし、今度こそ負けないから!!!!」
――と、熱くなる私たちの周囲では。
「え、え? 今、内藤って……代表のこと呼び捨てにしたよね……?」
「てか、この流れ……過去に決勝で戦ったとか、何その因縁のライバル感……!」
「なんだそれ、アツすぎだろ!!!」
「うお~~~~!! やっちゃえやっちゃえ~~!!」
……あ、あの……恥ずかしいのでそんな期待しないでもらっていいですか!?
勝者と敗者が再会して燃える構図っぽくなってるけど、やってたの世界大会とかじゃなくてネット対戦ですからね!?
そこまで格好よくないですからね!?
私の肩がじわじわとすくみ始めたその時、まるで空気を変えるように内藤さんは私の方へ手を差し出してきた。
これは……。
「……ま、因縁はあるけれど、まずは改めて――ようこそ、ゲーム研究部へ! 藍原さん!」
あぁ、なんだろう。
思い返せば、陽太くんと会う時間が少なくなるから入らなかったサークル。
けれど今、陽太くんのために私はここにいる。
まるで陽太くんが運命を繋げてくれたような……。
「は、はい! よろしくお願いします……!」
私がそう言葉にした瞬間、部室の空気はまた一段と盛り上がった。
「ってことは……マジで、今年は勝てるんじゃね? あの美術研究部に!!」
「いやいやこれは勝てるっしょ!! あとは私らの技量次第だけど!」
――そうだった。
浮かれているけれど、ここに来た私の目標はただ一つ。
この学祭での美研との勝負で勝って、陽太くんをゲーム研究部に入れさせること……!
陽太くんが入りたいと言ったこの研究部に入れるように……。
そして、あの燕尾先輩がいる美研に陽太くんを入れないように……!!
……だから。
陽太くん……私、頑張るからね!!
陽太くんのためにゲーム研究部に勝利をもたらす。
それが……私の、ゲームなの――!
まさか格ゲー話だけで一話使うとは思わなかったです。。。反省します。。。
あと格ゲーは特定のゲームを参考にしているのでわかる方はわかるかもですね……!
毎日AM1:00更新中です! ぜひ、明日もご覧ください!




