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第二十四話 夏だ! 海だ! 水着、ダァー!!!!!



夏季休暇も中盤。

もはや地球滅ぶんじゃね?とか思っちゃうほどに熱が高まったこの夏。

僕は、ついに一線を超える。


「そうだ、海に行こう……!」


今まではサメ映画のせいで避けていた海。

だが、日向さん……おっと。失礼、雪乃だね、雪乃。ふふ……。

女の子の名前が呼べる時が来るなんて……以前の僕じゃまったく考えられないね。


まぁその、なに? 雪乃の一件以降~?

ちょっと~、僕は生まれ変わっちゃったから~?

これはもう、意を決して海に誘っちゃおっかな~ってわけですよ!


――……だが、重要なのはここからだ。


僕は言っておくが可愛い女の子はみんな好きだ。

顔だけでなく、行動や仕草が可愛くてもだ。

クズだと思うか? だが事実だ。


だから僕は藍原さん、そして燕尾先輩、笹草さん、そして雪乃の、全員の水着を見たいと思っている。


でも、その願いがすべて叶うもんじゃないってのも事実……ッ!

確かに全員と海に行けば見れるかもしれない……っ。

だけど、正直……。正直、だ。


三人連続水族館みたいな出来事はもう極力避けたいんだ……!


あれやったことある人いる? マ ジ で 想像よりもかなりの心労だからね?

あまり気にしないようにしてたけど、店員さんとか飼育員さんとかにも結構見られてたような気がするし……互いの気まずさったらないよありゃ……。

と、とにかく! こんなことが起こらないように。

そして、みんなとちゃんと向き合うために僕は今後、一つのイベントは一人と決めたんだ!

全員と行くのもそれはそれで誠実なのかもしれないけれど、一つのイベントの思い出を、その人とだけ作りたいと思うのもまた誠実だろう!?


まぁこれだけ言っても、結局言ってることは最低の女たらしみたいなもんだよな……うぐ……。


そ、それはそれとして!!!!


とにかく、そう決めた以上、僕は責任をもってこの魅惑の選択肢の中から一人の水着姿を選択する必要がある。


まず候補の一番最初はやっぱり藍原さん……。

まるで天使かのような柔らかそうな白い肌に綺麗な黒髪……。

海に行ったらその姿を独り占め……。最高という一言。

水を顔にかけちゃったら、「やったな~!?」とか言ってお互いにかけあいっこなんかしちゃったりして!?


……いや待て!!!

となれば笹草さんも捨てがたいぞ!?

こちらは対照的に小悪魔((笹草さんは自称天使だけど)のような表情で、後輩らしく、「先輩、どこ見てるんすか……?」 なんて言われたり――いや、笹草さんは普通に「フフ……我が解放した第二形態っ! 海戦の蒼鎧に見惚れるのも無理はない……」とか言ってきそうだな……。ウウム……ギリ可愛い、か……?


して、燕尾先輩は……他の男……なんだっけ、ミナトくんとやらと海に行ったりするのだろうか……。

あの静謐な顔と、スラっとした体躯をしつつも、実は女の子らしい水着だったりとか……。グエ、羨ましい……。け、けど、僕を水族館に誘っている以上、少なからずチャンス(?)はある! ……多分!


ゆ、雪乃は……な、なんか昨日あんなことがあったばっかだしちょっと恥ずかしいし……。

いやでも、水着……絶対可愛いよな……。

高校の時から大人びてたし……まさか、大人の水着をっ!?


ハァ~~~~……いったい僕は誰を選べば……ッ!!!?


――ピコンッ。


おや? 

なんか久しぶりのような気がする連絡が……えっと、誰だ? これは……ふむふむ、なるほど……お、おや、おやおやおや~~~~?????


フフ、神はやはり彼女と行けと言っているのだな―――!?





海。それはすべてを包み込む母なる存在。

波打つ浜辺の砂を削り取りながらも、穏やかな旋律を奏でる。


そしてここ――このあたりで有名な海水浴場は……まさに、まさに―――。


「……普通だ」


海で遊ぶ家族。

浜辺でビーチバレーをする男女。

海の家で働くムキムキ褐色男性と、可愛らしい褐色女性。


一見するなら、ここは貞操観念が逆転した世界ではないんじゃないかと疑ってしまうようなそんな光景に、僕は思わず言葉を漏らした。


まっ、それもそうか。

別に貞操観念が逆転したからって男女比が逆転したわけでもないし、それこそ元の世界でも海という場においてなら女性が男性をナンパすることもあると聞く。


にしても気になる点でいえば、男の人、結構な割合でラッシュガード着てんな~。

この世界じゃもしかしてそういう着方が主流だったんだろうか……。


まぁそれ以外を考慮するのならば、ここはさながら元の世界に一番近い空間なのかもしれないけど……。


まっ、それも今だけなんだケドネ―――。


「お、お待たせ……あっ、そ、その、み、水着……似合ってるね……! よ、陽太くん!」

「いや、全然―――ヒュッ」


僕は、声のする方を見て、肺の中の空気を一瞬にして全部外に出す。


元の世界と大きく異なる点。

それは、この僕が、女の子と海に来ているという点ッ!


―――嗚呼。そうだね。感想、だったね。


一言で表すなら、可愛い。

二言で表すなら、可愛くて、死ぬ。

三言で表すなら、可愛くて、死ぬ。僕が。


「あ、藍原さんも……その、か、可愛い、ね……!」


悩んだ末、僕が一緒に海に来たのは、大学の同級生の藍原 唯さん。

いくら誰を誘うか迷っていたとしても、水連大学で最も彼女にしたいランキング一位(僕調べ)の彼女から「海に行こう」と誘われて断れるほど僕は成長していない!!! 

マァ、成長しても断らないケドね。


……いやしかし、本当に、可愛いなこの人は……。

水着の色が紺色、というか藍色なのは自分の苗字とかけてるのかな? 可愛い、十点!

いやぁ~色は派手すぎず、けれども確かに目立つように胸元にある白いフリルがなんとも……可愛い、十点!

露出は抑えめなのに、逆にそれが色気を感じさせるのは、本人の持つ透明感のせいだろうか? 可愛い、十点!

そして、いつも下ろしている綺麗な黒髪は後ろで結われて、なんていう髪型かわかんないけど、新鮮でイイ。すごくイイ!! 可愛すぎる。七十点!!!


合計百点満点の彼女は、しかし、僕の水着を見てはチラチラと目を逸らしている。


……どうして、などと無粋なことは言わない。

まぁ逆で考えたら、同学年の水着ってまじまじと見られないもんね。わかるよ。


うん……にしてもアレだな。

元の世界で男の人が女の人の胸とかを見てるのを女性はわかるというけれど、確かにこれはわかりやすすぎるな???

もうチラ見しすぎて逆に凝視みたいなもんだよ、それ。

……いや、あの……ていうかそんなに見るほどいい体じゃないし、恥ずかしくなってきたのでもうやめませんか???


「あっ、じゃ、じゃあちょっと、海、入ってみる……?」

「えっ、あぁ……そ、あ~……その、陽太くんは大丈夫……?」


ん? 大丈夫?

何のことだ? 精神の安定のことを言っているなら大丈夫じゃないが?


「え、ごめん、何かあった?」

「い、いや~……その、何かってわけじゃないし……あのっ、別に下心とかないんだけど……ほんとにね!? ひ、日焼け止めとかって大丈夫なのかな~って……」


日焼け止め……?

あぁ~! 確かに今日は日差し強いもんな~!

うわ、そうじゃん、このままだと日焼けして体痛くなるのか……それは嫌だなぁ~。

いや~、些細なことでも教えてくれるなんて、やっぱり藍原さんは気が使えるな~~さすがすぎる……!


あれ? でも僕、日焼け止め持ってきてたっけな……。

藍原さんってそういうのちゃんとしてるから持ってるだろうけど借りてもいいんだろうか……。

いや、一応聞いてみるか!


「あぁ! 忘れてたよ、ありがとう……! えーっと、ごめん……藍原さんって、日焼け止めって今持ってたりする? 多分忘れちゃって……」

「うぇ!? あ、いや、持っ……てる、けど、私のでいいの?」


私ので?

いや、そんな日焼け止めに種類ってあるんですか??

全部一緒だと思ってるんですが……。

あ、もしかして僕に使うのが嫌だったり? ……いや、それなら私の"で"いいの?とは聞かないか。

なんだ……?


「藍原さんさえ良かったら借りたいなって……あ、もちろん後で新品買って返すからさ!」

「いやいやいや! それは大丈夫だよ!! 大丈夫!!! じゃ、じゃあ……その……あの……」

「……え、っと……どうかした?」


なんだろう。さっきから藍原さんずっとそわそわしているような……。


はっ、そうか!?

ここは男女の貞操観念が逆転している世界……逆で考えれば、海に来たなら早く海に入りたいと思ってるんじゃ―――!?


「うわ~ごめんっ、パパっと終わらせちゃうからちょっとだけ待っててもらって―――」

「ち、違くて……そ、その、ほら、あの~……」


……???


「……せ、背中、塗ってあげようか~? なんて……い、言ってみちゃったりして……?」


……!?????????





貞操観念が逆転した世界。

そこは僕のようなモテない男が夢を抱く素晴らしい世界。


でも……。


「ど、どうかな……っ! つ、冷たくない……!?」

「ア……ハイ……ダイジョブ、デス……」


これまで別に逆じゃなくてもよかったんじゃない???


横たわる僕と、僕の背中に日焼け止めを塗る藍原さん。


まぁ、僕が藍原さんの体に触りたいと思うように、この世界では藍原さんが僕の体を触りたいと思っててもおかしくないからなぁ。


なんていうか……最近は僕自身がこの世界の女の子の一番気持ちを理解できるからか、変なことでも納得するようになってきたな……。


ん? ということは、だ。


今、僕がしてもらっている日焼け止め塗り。

背中に伝わる女の子らしい小さい手の感触を堪能して嬉しがっている僕。


逆で考えても嬉しいのではなかろうか?


……ウウム、しかしその場合、なんていうのが正解なのか……。

逆で考えるなら、そうだなぁ……。


「ありがとう、藍原さん……! あの、よかったら僕も藍原さんの背中に塗ってあげようか?」

「うぇえ!? えっ、いや、えぇ~!?」


あくまで自然に……下心がないのをアピールしつつ……。


「大丈夫大丈夫、僕が塗ってあげたいだけだから!」


……ン? アレ?

僕は今なんて?


塗ってあげたいだけ……?


あ。藍原さんの顔が固まったな?


いやいや、それはそう。

下心ないのをアピールしようと意識しすぎて一周回って気持ち悪いこと言っちまった……!

ウワ~ヤラカシチャッタヨ~。

やばい、訂正しないと……いやでも、なんて―――。


「あっ、え、それなら……お、お願いしよう、かな……」


―――いや、なんで?

今のでいいんですか?  本当に?

僕が言うのもなんだけどさっきのは普通に気持ち悪くないですか?

いや、あの、本当に横たわって……ウワァ、背中エッ……っていやいや、本当に?????

いいの???????????? 触るよ???????????????????


「じゃ、じゃあ、お願い、ね~?」

「……うぃす……」


れ、冷静になれ……!

以前の僕とは違うんだろ?

変わったんだろ!?

この程度の試練を乗り越えられないようじゃ、これからの何もかもが見通し悪いぞ!!!!


……いや、でも、生肌触るのは、試練の壁高くありゃあせんか???


「じゃ、じゃあ、い、行くよ……?」

「う、うん……お、お願い……」


行くぞ!?

行くんだな!? 今!!! ここで!!!!!!

うおぉおおおおおおおっ!!!!!!


―――そして、僕の日焼け止めを塗った手は、そっと、藍原さんの綺麗な白い背中に触れ。


「あっ……んっ……―――」


拝啓、お父さん、お母さん。

今日、あなた達のムスコは……一線を、超えました――――。





「いや~! 楽しかったねっ!」

「うん、砂浜が熱くて太陽の上を歩いているんじゃないかと思ったよ……」

「確かに~! 砂浜でバーベキューができちゃうね!」


僕たちは日焼け止めを塗り終えた後、綺麗な貝殻を探したり、砂浜で小さな山を作ったり、そして、浅瀬で水をかけあったりと、充実した一日を終えた。


気づけば太陽は水平線へと落ちていき、夕焼けが海面に大きく広がっていた。


……本当に、楽しい一日だった。

海に来たのなんていつぶりだ?

中学の学習で塩作り体験した時以来……ってことはもう五年振りってことか。


……五年前の僕に、今はこんな美少女と海に来ているって知らせたらなんていうんだろうか……。


僕は、舗装された道の少し高い縁の上を歩く女の子――藍原さんを眺めてそう思う。

貞操観念が逆転した世界の影響か、少女というより、少年らしいことをしている藍原さんに、僕は思わず笑みが零れる。


「ん? 陽太くんなに笑ってるの?」


おっと、ちょうど振り向いてしまって気づかれちゃった……恥ずかしっ。

いやでも、こうして夕日に照らされた藍原さんを見ると、本当にここが元の世界ではないことを実感する。

誰もが認めるだろう美少女は、今だけはこうして僕にだけ視線を向けてくれる。


その事実に。


……きっと、少し前の僕なら何も言えなかっただろう。

けど、今は違う。


「ねぇ藍原さん、今更かもしれないけどさ……」


そう僕が話した瞬間。


「えっ、い、え、なに???」


縁を歩いていた藍原さんが、びくりと肩を揺らしてまるで猫のようなスピードで縁を降りて僕に目線を合わせる。

いや、あの、そ、そんな畏まった話じゃないのでそんな身構えないでもらってもいいですか……?


……まったく、不思議な人だな、藍原さんは。


なんでか、藍原さんといると、僕の緊張が吸い取られているような気がするよ……。

まぁそれが、藍原さんが、僕だけじゃなくてみんなに好かれる理由なんだろうな。


「藍原さんって、僕のこと名前で呼ぶじゃん?」

「あ……も、もしかして、い、嫌だった……?」

「いやいやいやいや、違う違う!!!!」


ま、まぁ少しだけ卑屈なような気もするけど……なんていうか、それはそれで親近感が湧くんだよね。


「そうじゃなくて! 名前で呼ばれるの嫌じゃないし、むしろ嬉しいし……っていや、そうじゃなくて……あの、なんていうか……ぼ、僕だけ藍原さんって呼んでるのって、ど、どうなのかな~~って、思って……」


あ、あれ?

覚悟決めたはずなのに、なんか恥ずかしいぞ?

い、一回目じゃないはずなんだけどな??


「……? ど、どういうこと?」


うぐ……そ、そうだよな……さっきのじゃわからないよな……。

う、うぅ~~~~!! いや、ここまで来たんだ!!

行くっきゃないっ!!!


「あ~~~~……っと、その、だから……な、名前……藍原さんのこと……名前で僕も呼んでいいかな、って……思ったん……だけど……」


僕のその言葉に、沈黙が落ちる。

大きな海の波音だけが遠くで続いていて、なんだかここだけが世界から切り離されたみたいな変な浮遊感に包まれる。


けど、それは今まで僕が感じていた疎外感とは違う。

だって、今は、一人じゃないから。


―――と。


「―――すき……」

「……っえ?」


ふと、耳に届いた音に反射的に顔を上げると、藍原さんは自分の口元に手を当てて、すぐに言葉を続けた。


「あっ、い、今更すぎ~っ!!!って言ったの!! あ、と、ぜ、全然いいよ!? よ、喜んで!(?)」


そう言って藍原さんは僕に背を向けて、再び縁を歩き始める、が。


……って、いやいやいやいや……ちょっと待って???


いや、名前がどうとかより、藍原さん、確かに、今……好き……って言ったよな……?

今更すぎ??? いやいや、え? 本当に?


いや~~~わからん~~~~!!! どっちだ????


あの藍原さんが、僕を……!?

いやいやいやいや、そ、そんなわけ……ある……のか……!?


え~~~~~~~どっち~~~~~~???


あぁ……こういう時、アニメや漫画のような鈍感主人公だったならどれだけ悩まずに済んだだろうか……。


う~ん、でも。

たとえそうでも、そうでなくても、きっと、前よりは確実に前進しているはずだし……。


うん。とりあえず今はそうだな……。


このままでいい、か。


「それならよかった! ……また来年も行こう、唯!」


今はこれでいい。

僕らしく。一歩ずつ。ゆっくりと歩いて行こう―――。



正直に言えば、今回別に水着じゃなくてもよかったんですが、水着姿を出さない恋愛ものというのは、レタスのないサラダのようなものだと思うので水着にしました。


まぁ僕はサラダ嫌いなんでどっちでもいいんですけどね……。


次回からEX話と交互で続きます! お楽しみに! 毎日AM一時更新です!

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