第一話 陰キャに美少女の友達ができるのはおかしいとは思ってましたが、世界がおかしいのならそういうものかと思えます
「ねぇ陽太くん、この後予定ある?」
講義が終わり、騒めく講義室内でそう口にするのは僕の隣に座る黒髪美少女の藍原 唯さんだ。
可愛らしく首を傾げ、そう話しかけている相手はなんとあろうことか、このド陰キャの僕。
まるで嘘のような本当の話。
これは神のいたずらか、果たして世界からの哀れみか、とはいえ大学生活初日に美少女と仲良くなって隣の席に座るという二次創作も驚きの最高のスタートを切った僕だったが、講義中、このことに関して僕にはある仮説が頭をよぎってしまった。
そう、もしかしてこれは陽キャが考えたドッキリ、もとい、彼女の罰ゲームなんじゃないだろうかという仮説。
そもそも僕みたいな根暗でオドオドしているド陰キャにこんな美少女が話しかけてくる時点でまず疑いを持つべきだったんだ。
浮かれてはいたことは否めないが、もし、その可能性があるのだとしたら。
僕はしっかりと確認する必要がある―――。
「うぇ、予定? ちょ、ちょっと待ってね?」
そう、今後の予定をな!!!!!
いやいや、当然だろう???
そもそもドッキリだろうが罰ゲームだろうがなんだろうが、美少女と話せるのなら陰キャとしてはなんだっていいに決まってるだろ!? 馬鹿にしてるのか!?
というか、本心で接してくれる人かもしれない人に疑いを持つほうが失礼だろ!!!謝れ!!!ごめんなさい!!!!
そしてこれも当然だが、陰キャの僕に今後の予定なんかない。あるわきゃない。
でも一応確認しておく仕草はする。なんでなんだろね、妙なプライド、かな……。
「うん、特にないけど……どうかした?」
「もしよかったらこの後、一緒に遊びに行かないかな~、って思ったんだけど……」
……ふむ、これは現実。ですかな?
目の前には今にも天使からスカウトが来るほどの美少女が、この僕に。
こ の 僕 に 。
講義終わりの遊びの誘いをしている、だと?
いやいや、いくら罰ゲームだとしてもそれはやりすぎだよ……。
それに、僕みたいな陰キャと歩いていたら藍原さんの評価も下がっちゃうしな……。
ここは潔く断ろう、うん。申し訳ないけどね。
「えと、あ~……」
「あっ、やっぱダメ、かな?」
「うううん!? いや全然大丈夫だよ? 行こう!?」
はい無理です断れませんでした~!
大体、陰キャごときが選択権なんてあるわけないじゃんね?
断ることがもう烏滸がましいよ、うん。
だから別に、僕はあくまで仕方なくね? 仕方なくだから!
だから周りの男の人の視線やめてもらえませんかね!?
ヒィイイーーー。
◆
ドドカッ。
そこから先は、正直、ドンドドンッ緊張のあまり覚えていない。
だから、ドンッ僕は今、ドドカッ目の前の状況がどうしてこうなっているのレンダ~かがわからないのです。
あぁ、そうでしたドカッね、ちゃんと説明しないとわからないですよね。
それと、わかりやすいように効果音も消しておきますね。
え~、なんて説明したらいいか……。
えっと、僕らは今、ゲームセンターにやってきています。
そして今、僕らはゲームセンターにある太鼓を叩いています。
えぇ、有名なあのゲーム、『太鼓マスターVX ~天才への道標~』です。
さて、驚くべきはまぁそこでもいいんですが、僕が驚いたのはまぁ、当然藍原さんに関してです。
なんでかって? あぁ、それはすぐにわかりますので、一瞬だけ効果音を戻しますね?
では、どうぞ―――。
ドカカドドカカドドドカ!
ドドカドドカドドカドン!
カカドンドカ!
連打~~~~!
ドドカドドカドドカドカドン!
ドドカドンカ―――。
―――フルコンプだデン!
はい。コレです。
「ふぅ~! 危なかった~! けど、あそこの連打はダブストもっといけてたな~! この曲ラッシュきつすぎるんだよね~!」
そう言ってバッグから取り出していた自分のバチを再びしまいながら、今日一番の笑顔を見せるのは、先ほどまで見えないレベルで腕を振るっていた彼女、藍原さんだ。
……果たして、この美少女がまさかの趣味を持っていることなど誰が予想できていただろうか?
僕もゲームは得意だと思っていたけれど、もはやこの人の前では塵芥も同然だろうと思わせるほどの技術は、一瞬で僕の緊張をすべて消し去らせた。
それほどまでに、うん。
「いや、すごいね! フルコンプなんて初めて見た!」
「いやいや、この曲は簡単だからね! 譜面分岐がついてるわけでもないし!」
僕はそう話す藍原さんの顔をまじまじと見つめる。
……うん、やはり可愛い。
とてもこの顔からよくわからないゲームの線も女御が出てくるようには思えないぞ?
うーん、なんていうか―――。
「意外、すね。なんかあんまりゲームとかやらなそうに見えるから……」
「えっ!? あ、あ~……やっぱりそうだよね……」
あれ? なんか悲しそう?
え、悲しむ要素なんてどこにあったんだ?
だって。
「すごいじゃん! 僕もゲーム好きでよくやるんだけど、こんなにできないから教えてほしいぐらいだわ! 他にも何かできるの?」
正直専門用語はわからないし意外な特技にびっくりしたけど、そもそもゲーム好きの美少女って陰キャからしたら最高じゃね?
僕もゲーム好きだし、一緒にやれるし何より可愛いし?
と、僕がそう言うや先の悲しそうな表情から一転―――ってえ、めっちゃ嬉しそうな顔してない?
「えっ! 本当に!? え~! じゃあ次はあれやろ! ほらいこっ!」
そう言って彼女はまた違うゲーム機の元に向かっていった。いや切り替え早いなびっくりした。
……まぁ、確かに僕も同じゲーム友達とか見つけたら嬉しくなるけど……彼女の場合、女の子だし同じ趣味の子とかいなかったのかもしれないから余計なのかな。
美少女だからってイメージで決めつけてたけど、彼女も別にただの一人の人間だしな。
……よし、こうなったら他のゲームで上手いところ見せて良い印象付けてあわよくば……!へへ!
◆
「はぁ~! 楽しかった! こんなに楽しかったの、陽太くんが初めてだよ! 陽太くん、イーチはできてたし、トリルもできるようになったらもっと上手くなると思うよ!」
太陽の光が落ち始め、夕暮れが目に差し込もうとする時分。
彼女はかなり嬉しいことを言ってくれているが、今の僕には、何も入ってこなかった。
先のゲームセンターで個人的に勝負すること八回。
そのすべてを悉く、大敗。
無論、圧倒的実力差から少しだけ手を抜かれる始末……。
うぅ、情けない……。
彼女の前で良いところ見せたかったのにお世辞まで言われるとは……。
「ねぇ、陽太くん」
「……ん?」
なんだろう……もうすでに情けなくて帰りたいのですが……。
「もしよかったらさ、また遊びに行かない……?」
うっ、それはまた醜態を晒すことになるので……っておい。待てよ。
違うだろ? 違うよな?
今この人なんて言った?
また、遊びに?
「いいの!?!? い、行けるなら行きたい……!」
美少女から再度のお誘いだぞ!?
いつまでひねくれているんだ遠野陽太!
こんなチャンスは二度とないぞ!?!?
そして僕の返事を聞いて、柔らかな笑みを浮かべ、夕日に照らされたその笑顔はまるで映画のワンシーンのようで……。
「えへへ、それならよかった! 今日はありがとね!」
どんなに可愛い美少女と楽しい日常を過ごしたとはいえ、僕がド陰キャであることには何の変わりもない。
いきなり爽やかになることも、明るくなることも、前向きになることもない。
だけど、今、この一瞬だけは、なぜか勇気を出せた。
「あ、あの! も、もしよかったら、れ、んらくさき……とかって……」
これはきっと世界のバグだ。
大学生活初日にして、人生初のナンパから助けてくれたのが同じ大学の美少女で。
そこから仲良くなってその日に遊びに行くなんて、きっとこの世界がおかしくなっていなければ説明がつかない。
そしてなにより。
「えっ! いいの!? もちろん! これ、私のバーコードだよ!」
こんな美少女と、連絡先を交換できるなんてありえない。
「えっと、それじゃ、陽太くん、また明日ね! 私もう帰るね!」
「う、うん。また明日」
そう言って彼女は足早にその場から立ち去って行った。
僕は彼女の連絡先のアイコンが謎のカエルのイラストなのが気になったが、それすら含めて、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
美少女と連絡先の交換?
そんなのもう実質好きってことでは?
いやもちろん違うのはわかってるけど、少なくとも好意があるのか?
……いや、ないな。
危ない危ない、勘違いは痛い目見るってネットにも書いてあったしな。
あんな人が僕に好意を寄せる場面なんか一個もなかったじゃないか……これが現実さ。
連絡先を交換できたのも彼女が優しいからだろうし……もし断られてたらそれこそ大学辞めてたね、うん。
……それにしても。
さっきのゲームセンターに行って思ったけど、最近は女性のがゲームするんだなぁ。
最近行ってなかったからわかんなかったけど、いや一番驚いたのはメダルゲームの筐体の下に腕まで突っ込んでる女子中学生かな?がいたことだな。
あれ女の子でもやるんだな……。
……ってあれ? やば、考え事してたら変な道に入っちゃったぞ……。
てかここって、もしかして……。
まだ明るいながらもネオンがまばらにつき始めたそこは、間違いなく、いかがわしいお店だ!
ひぇ~ちょっと興味はあるけど、さすがに藍原さんと別れた後には行けない……と思っていたら、ふと、気になる看板を見つけた―――。
「熟男……? 熟女じゃなくて……?」
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