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第十三話 過去回想って実際リアルじゃそんな長くないよねって話

皆様のお陰で総合1000ポイントを達成することが出来ました。本当にありがとうございます。

これからも頑張ります



「はぁ~、今日はもう話もまとまったことだし解散しよ~……疲れたよ私……」


そう口にしながらのびのびと体を伸ばす、僕の目の前に座る彼女――藍原さんの言葉に僕も同意し、卓上に置かれたレシートを手に取り、立ち上がる。


「ここは僕が払うよ」

「え、いやいやいいですよ、払いますよ」

「そうね、対価なき施しは魂を蝕む禁忌……私とて財はあるわ」


全く……彼のことになると途端に人が変わるというのに、根は真面目な人たちだ。


「いいさ、この中では僕が一番年上だし。何より君たちはバイトしていないだろう? 気にすることはない、気持ち良く奢られてくれるだけで有難いものさ」


僕のその言葉に両名は互いに顔を見合わせ、お礼とともにお辞儀をする。

……が、まぁこれは少し建前。

正直、今回の奢りは藍原さんへの労いの意味が強い。

……彼女に、笹草さんという異質な存在を任せきりにした贖罪を込めて―――ってあれ、なんか僕も影響されてないか?


っとと、これ以上この場にいると言葉が移ってしまうな……早くこの場を立ち去ろう。


「ふふ、じゃあ、支払ってくるよ」


僕がそう言うや二人は再び感謝しながら、僕がカウンターに向かうのと同時に店の外へ向かった。

レジで財布を開きながら、ふと思う。


そういえば、後輩に奢るのは新歓の時以来……か。

……まぁその新入生も、どうやら僕が原因で辞めてしまって、それからサークルには顔を出しづらいんだけど。

しかし、あの時と比べると、幾分かお金を出しやすいのはどうしてなんだろうか。


「ありがとうございました。またお越しくださいませ」


レシートを受け取り、軽く頭を下げてから店を出ると、二人は三度目の感謝の言葉を僕に投げかける。


「ごちそうさまでした……!」

「光の祝福を感謝……あの、ありがとうございます……。し、漆黒の……いえ、燕尾さんにご加護が宿るよう、天使長に進言しておくわね!」


その言葉を受けたとき、夕暮れの町中に、柔らかい風が流れた。


その時、僕は先の疑問が理解できたような気がした。


……なるほど。

多分、僕は彼女らのことが―――。


「……あれ? 司?」


――と、ふと後ろから聞き慣れた声が聞こえ、振り向くと、向こうから歩いてくる見覚えのある姿が見えた。


「美鈴? どうしてここに?」


そこにいたのは、森美鈴。 僕と同じ大学で、僕と同じ美研に所属する友人。


「奇遇だね~。たまたま画材を買う用事があってこっちにね~、ってあれ? 一緒にいるのって藍原さんじゃん! ……と、あと一人は、初めまして? だよね?」

「あっ、はい! も、森先輩……お久しぶりです!」

「あっ、えっと、その、私は、グラ……あっ、いや、笹……です……」


まぁ、友人の友人は基本的に他人だからこの反応は当然だろう。

にしても笹草さんは動揺しすぎだろうと思うけど……。こういう時こそ普段通りに……って、まぁそりゃ結構年齢が上の先輩ってちょっと怖いイメージあるか。

……う~ん、これはそうだな……。


「美鈴、僕も画材で買いたいのがあるから一緒に行かないかい? それじゃ僕はここで、二人ともまたね!」

「えっ、司こないだも買ってたじゃん……って。えっちょっと、待って! 先行かないで!? あ、藍原さんに聞きたいことが……ああもう! お邪魔しちゃってごめんね! じゃ二人ともまたねー!」


まっ、僕としても美鈴に彼の連絡先は渡したくないからね。

ごめんよ?





「そういえば、そろそろ夏季休暇だね~、司は予定あるの?」


町の古くから画材を取り扱っているお店で、彼女がそう口にした。


そうか、もうそんな時期なのか……。時が進むのは早いね……。


僕たちが通う、鳳仙大学は夏季休暇の時期が少し早いうえに長い。

というのも、鳳仙大学は芸大ではないものの似たような側面を持っていて、卒業生に数多くの画家や音楽家などの芸術家を輩出していることから、ツテを入手するために入学する芸術家志望の人が多くいる。

そして学校側もその側面を強みとして打ち出すために、来る芸術の秋――つまり、学際がある秋までに余裕をもって作品を完成させられるように、夏季休暇が長めに取られているというわけだ。


しかし、予定……か。

今までは特に考えていなかったが、そろそろ就職活動も見据えなきゃいけないし、レポートや論文の準備……ふむ、やることがたくさんだ。


「僕はまぁいつも通りさ。美鈴は?」

「私も……はぁ、彼氏でもいたら違うんだろうけどね~? は~~、彼氏ほし~~~」

「ふふ、確かに……」


……ん? 確かに???


……うん、よく考えよう。

今は大学三年。確かに就職活動や大学の論文の準備も必要な時期だろう。

しかし、人生という大きな物差しで測ったとき、はたして僕の貴重な二十代前半をそんな風に過ごしていいのだろうか?

……講義の単位は問題なし。論文の準備も進めてはいる。就職活動のインターンはまだ先……。

そして来年は、もはや遊ぶ暇がなくなる可能性がある。


……あれ、今年が最後のチャンスなのでは……?


「……美鈴、僕はやるよ」

「……?? え、何急に、なにを?」

「決まっているだろう? 誘うんだよ、ミナトくんを!」


そうだ、最後のチャンスなら、ミナトくんを誘っていろんなところに行くんだ!

そうしたら必然的に僕が選ばれ―――。


「なによ、まーた、ゲームの話? ……あっ!!! そうだ、そういえば司が紹介してくれた男の子!!!! 遠野くんだっけ? 彼、司の好きなそのミナトくんに似てるよね!」


……? 何を言って……?


「似てるじゃなくて、ミナトくんだからね、そりゃそうさ、何を言っているんだい?」


全く、美鈴は本人に向かって似てるだなんて、面白いことを言う。


「何を言ってって……ねぇ、司。もしかして、彼がミナトくんだって言ってる……?」

「……ん? 当然だろう?」


あれ、どうしたんだ? そんな変な顔をして。

もしかして、僕がミナトくんを誘えないと思っているのかい?


「……あ~、司さ……。私は友達としてはっきり言ってあげるけど……今の司は、彼に相応しくないよ」


―――え?


「……み、美鈴? それはいったいどういう……」

「……うーん、司は大切な友達だから教えたい気持ちはあるけど……正直、今のこの状況はさすがに彼に失礼すぎると思う……だから、あえて教えてあげない。ただ一つ言えることがあるとするなら―――このままだと、司は後悔することになるよ。……じゃあね」


そう言って美鈴は、そこで画材を買うことはなく店を後にした。


……初めて見た表情の彼女の後に残ったのは、油絵具の独特な匂いと、麻仁油の甘い香り。

そして、彼女が去り際に残した言葉の余韻だった。


あまりに突然の出来事に追いかけることもできず、ただ、立ちすくむ僕の脳内には。


――彼女の最後の言葉だけが反芻していた―――。







午後七時。

人によっては晩御飯の時間だったり、お風呂の時間だったり、趣味の時間だったりと、まぁ言ってしまえば、微妙な時間。

……あっ、もちろんこの時間に仕事している人もいるだろう。いつも感謝しております……。


とまぁ、大学生としてでいえば、この時間は一日の中で最も微妙な時間といえるだろう。

……つまるところ。


「暇だ……」


ふと、ここ数日を思い出すと、藍原さんと出かけたり、バイトをしたり、笹草さんと電話したり、元の世界じゃ考えられないような充実した日々を送っていた僕だったが、いよいよ今日。

バイトは人手が足りている上に、藍原さんと笹草さんは二人とも予定があると言われ、久しぶりに元の世界に戻ってきたかのような生活をしているという僕は、当然暇を持て余しているというわけだ。


……しかしまぁ、こうして一人でゆっくり考える時間は久しぶりだな……。

なんていうか、こうしていると今までの日常が全部夢だったような気もしてくる。


……高校の時の僕に今の状況を見せたらどうなるんだろう……いや、絶対信じないだろうなぁ。

作り物だろ、とかなんか屁理屈言いそう~~……って……はぁ、またか。


僕は何気なく立ち上がり、冷蔵庫からお茶を取り出して飲む、




――僕は最近、夢を見るようになった。




サークルの見学に行ったとき、森先輩にあることを言われたその日から見るようになった夢は。




……僕の、暗い過去の話だ―――。




◇◆◇




―――って言っても、別に今はそんな気にしてないからいいんだけどね。

普通に高校時代に気になってる女の子に告白もしてないのに振られたってだけの夢だし。


まぁ今では吹っ切れて……。


いや、嘘、だな。

吹っ切れてないから夢にまで出てきているんだろう……。


あの時。

森先輩に、藍原さんの彼氏かと疑われた時の光景が、高校の時の光景と重なった。


『うちが遠野の彼女~!? 無理だって! 冗談辞めてよ~!』


一言一句、覚えている、高校の時の言葉と彼女の表情。


僕は、その言葉を、藍原さんから言われるのを恐れてしまった。

だから逃げた。


……今思えば、この世界は元の世界とは貞操観念が逆転した世界だから、もしかしたらあの場面で、僕が上手いこと立ち回れれば関係が発展することもあったかもしれない。


……けれど、僕はどうしようもないほどに陰キャだ。


たとえこの世界が僕にとって都合のいい世界だとしても、それは変わることはない。

中学、高校と六年間も積み上げてきた陰キャとしての性質は、たった数か月やそこらで変わるわけがないんだから。


いつだって僕は受け身で、相手からの意見を恐れている。


――それが、僕。遠野陽太という、陰キャ。


だから自分からはもう何も言わない。

そうすれば傷つくことはないのだから。


というか、この世界は逆転世界だから、告白してくるのも女の子からだろうし、僕から言わなくても、好意のある人は告白してくるだろう!

あぁ、なんて気楽な世界……!


にしても、藍原さんから告白されたらどうしようか……!

あぁ、いや、笹草さんも……!


うあぁあああ~~~!!

どうしてこんな都合のいい世界なのに、一夫多妻制は導入されていないんだ!?

どう考えても世界のバグだろう!?


……って、まぁそもそも逆転世界自体がバグみたいなもんだけど。


……はぁ~~~~、許されることならば、二人と付き合いたい……。


およ?

そういえばもうすぐ夏季休暇だったな?

今まではゲームのイベント消化しかやることなかったけど、コレはチャンスなのでは?


夏といえば、祭りや、海。

そのいずれも、ナンパをされる場所として有名。

ともすれば、僕もナンパをされるのでは……?

あぁ~でもギャルっぽいのは怖いから、少し普通ぐらいの……いや待て?


海やプールっていやぁ、藍原さんや笹草さんの水着姿が見れる……ってことか……?

オイオイオイオイオイオイオイオイ。


マ ジ か ? ? 


そうだよな、普通に考えたらそうだよな?

よく考えよう。

貞操観念が逆転したとしても、別に水着で海に行くよな???

いや、ラッシュガードを着る可能性も……あ、海はダメだ。

そういえば最近B級サメ映画見ちゃって海が怖くなったんだった。

あいつら砂の中にまで潜ってくるらしいし、なんなら飛んでくるらしいし。

うん、やめよう。死ぬのは嫌だ。


……となると、プール、か。

ここならサメはいないし、ちゃんと泳ぐ場所だから水着に……。

いや、ここもダメだ。

排水溝に吸い込まれるかもしれないし、こういうのってウォータースライダーがあるのがお約束だけど、流れるときに刃物とかあったら怖いし。

うん、やめよう。死ぬのは嫌だ。


っていうかそもそも僕が女の子に見せられるほどの良い体してないわ!


無難に祭りだけ……あれ……?


この世界って、浴衣はどっちが着るんだ?

いやいや、迷走するな、どう考えても女の子だろう、よね?


なんていうか、貞操観念というのがどこまでなのか僕も具体的によくわかってないんだよなぁ……。

とりあえず生活する上では困ることはないんだけど、満員電車で女性がみんな痴漢対策で腕を上にあげるのだけはやめてほしいんだよな。あれ普通に目線困るし、僕だけ被害にあってるから。


まぁ~とりあえず次の祭りがいつかだけ見て散策してみようかな~!


ふっふっふっふ、僕のなつやすみ……今から楽しみだぜ!!!!!!!!


……浴衣は女の子が着るんだよな――――?

【応援お願いします!】


「続きはどうなるんだろう?」


「面白かった!」


 など思っていただけたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

 

 ブックマークや感想もいただけると本当にうれしいです。


 何卒よろしくお願いいたします!

 

 更新は"不定期"【AM1時】更新予定です!

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― 新着の感想 ―
双方待ちの体制に入ってしまったら、関係進展しないわねえ。 何も考えてない遠慮のないぽっと出の相手にかっさらわれる可能性も…
>どうしてこんな都合のいい世界なのに、一夫多妻制は導入されていないんだ!? 一夫多妻制がないってことは、貞操観念は逆転してるけど、男女比は元の世界と変わらなそうですね。
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