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第十一話 心理と統計。恋愛的に正しいのはどっちなの!? 男心は雨模様……え、じゃあ気象学ですか?


講義終わり。

夕暮れ時の静かなファミレスにて、私はこう話を切り出した。


「……最近、変だと思わない?」


その私の真剣な眼差しを受けて、目の前に座る端正な顔のイケメンの女性――燕尾さんはこう返す。


「……ふむ、確かに僕という素晴らしい女性がいるのに、あんな変人だらけのサークルに入ろうだなんて……それは言葉の通り、変としか言いようがないね」


うんうん、確かに私という可愛い女の子と毎日話せているのに、サークルなんていうものに入って私との時間を失おうとするなんて、確かに変―――。


「って違うわよ!!! サークルの件については落ち着いたってこの間話したでしょう?」

「あぁ、そうだったな。全く……君がいきなり美研の見学に来たいというから何かと思えば……そういえば美鈴が連絡が来ないと嘆いていたが、まさか君が?」

「当然! いくら燕尾さんの仲の良い友人だからといえど、敵を増やす可能性は排除しないとね。……女なんて全員獣だもの……」


――ってそうじゃなくて! 


「……最近、女の影を感じるとは思わない?」


私のこの言葉に、燕尾さんは目を細め、やや戸惑ったような表情を浮かべた。

……ってこうしてみると本当に男の人みたいね……これで中身は女の子なんだから頭もバグるし、サークルクラッシャーって呼び名がつくもんよ……。


「……ふむ、それは当然、僕ら以外の、という意味かい?」

「もちろんよ。特に顕著なのは"口調"ね……」


と、そう自分で言葉にしながら、過去の出来事を思い出す。

……気のせいかもしれない、と何度もそう自分に言い聞かせた。

でも、そう言い切るには明らかにおかしい言動がいくつもあったのよね……。

例えば―――。


「たまに、悪夢が……とか言い始めることが増えたりと、言い回しに違和感を感じるのよね」

「……確かに、最近バイト中でも”漆黒”とか”契約”とか言ってたな……。うーん、でもそれぐらい気にすることでもないんじゃないか?」


燕尾さんは腕を組み、冷静な口調で答えたが、しかし私は思う。


……いや、バイト中にそれ言うのは普通じゃなくない? と。

どう考えても日常生活で使わなそうな単語なのだけれど、この人本当に気にすることないと思っているの?? バイト先大丈夫そう???


……って、そんなこともどうでもよくて!


「明らかに以前と違うでしょ? ……私はあれを女の影響じゃないかと睨んでいるの」


漆黒やら契約やら……思春期の女の子ならいざ知らず、今までそんな素振りすら見せなかった男の子が突然、厨二病のような言葉を話す原因など、他の女の影響以外にあり得ないんだから!

……けれど、私が確信を持てていないのは、陽太くんの行動パターンに何の変化もないことにある……。

確か、先日女から連絡先を受け取っていたように見えたけれど、どこか困惑した様子だったし、事実、あれから会っている様子も全くない……。

サークルについても森先輩の連絡先は私が死守したから連絡している節はないし……。


だからこの人なら何か知っているかなって思ったのだけど……。

この人……。


「それは思い込みじゃないか? 統計的には、近年男性でも思春期特有の口調が出ることもあるみたいだし、ただの偶然という可能性が高いと思うよ―――感覚は主観的だからね。例えば、ある研究では、人間の『直感』による予測が正しい確率は約六十パーセント。決して無視できないけど、百パーセントではないということが分かっているし―――」


いや、めっちゃくちゃ喋るな!?

急に変な話をし始めたから何かと思ったよ。

……そういえば、森先輩も燕尾さんは個性的だって言ってたっけ……。


……ていうか、それ! ちょっと異議あり!!!!


「それは違うわ! 心理学的に言えば、感情伝染という現象もあるの。無意識のうちに好意的に思っている人や身近な人の感情を複写して、段々とその人に似ていくという傾向よ。……私がずっと横で見てきたからこそわかる表情筋、声の抑揚、そして……わかりやすい言動の変化……! これらを偶然と言い切るには不安要素がいくら何でも多すぎよ。……これは間違いなく他の女が原因だとは思わない?」


どう?

私の推論が正しければ、間違いなく女の影はある!

だって私が陽太くんの些細な変化を見逃すはずがないもの―――!


「……心理学的観察か。興味深いけれど……他人を勝手に推し量っただけの意見は、憶測というんだよ」


―――なっ!?

そんな、そんなこと言う!?


「じゃ、じゃあ逆に聞くけど、燕尾さんはどう思ってるの?」

「僕の意見は。そうだな……例えば、この返信ログを見てほしい」


返信ログ……?

ってなにこれ? なんか数字がたくさん書いてあるけど……。


「これは、僕と連絡を開始した時期からの平均返信時間の統計を割り出せるものさ」


え、なにそれほしいかも。

どこで手に入るんですか??


「それを見るに……ほら、初期段階と直近の五日間を比べても、その誤差は五分以内でほぼ変動なし。それに、返信内容も変わったテンションや極端な絵文字増加といった異常もない。……つまり、他の誰かに夢中になっている兆候は、統計的には見当たらないってことさ」


……なるほど、これが憶測ではなく、目に見える実証ってことね?

いや素直にすごいなこの人、こんなことできんの???

……でも。


「じゃあ私からも言わせてもらうけれど、実際、過去と比較して思春期の女子特有の言動が出た回数の統計はどうなの? まさか、統計において考慮しないデータなんてものはないでしょう?」


いくら連絡頻度を引き合いに出そうとも、実際に目の前で起きている陽太くん自身の変化は無視できるものではない。

つまるところ、こうなっている原因の解析には至っていないのだから!


「ぐっ……た、確かに先月と比べると異質な発言は明らかに増え続けているさ……けど、その原因となっているものが女性によるものという確信もないわけだ。……僕らは必然的に恋愛スキームが活性化されている状態だからそう感じてしまっているという可能性もあるだろう?」


うっ……それも一理ある、わね……。

心理学の教授も、心理学を学んでいると無意識に恋に対するバイアスがかかるって言ってたし……。

けれど!


「実際、行動に変化が現れてる以上、要因の一つとして考慮すべきものではあると思う。 思春期女子特有の言動を無意識にしてしまった人は、その後恥ずかしがるのが定石……燕尾さんの言い方でいえば統計として高く出ているでしょう? けど、それを恥ずかしがるでもなく何度も言うってことは、それを誰かに認められてる可能性が高いってこと!」


……少なくとも、陽太くん自身が厨二病的言動を発言した後に何かを思い出すような仕草をしていることから、間違いなく裏に誰かの存在はいるはず……!

っていうか!!!


「ねぇ、そんなに否定するのならさ? 燕尾さんは裏に誰もいないって断言できるの?」


私の言葉に、燕尾さんは少しだけ表情が歪む。

ねぇ、この人本当に陽太くんのことが好きなんだよね?

なんか少しすれ違うっていうか……。

まぁ、人を好きになる理由も、好きになった後の行動も自由だからいいと思うけど……。


――私は、絶対に陽太くんを守らなきゃいけないから。


「……断言はしない。……あくまで今のところ、統計的には他の女子がいるとする根拠が希薄、というのが僕の見解で――」

「―――そう、でも私の見解は違う。……彼の言動の変化は、関係性の変化による自己再定義……つまり、恋をした時の典型的な心理変容だと思うから」


そう自分で口にしながら私は唇を嚙み締めた。

……陽太くんの精神にまで侵食するほどの影響を与えるほどの存在感……到底許せるものではない……!

絶対に見つけ出して……。


―――って、そうか、そうだ! そうじゃないか!


「燕尾さん! こんなに悩む暇があるなら、直接聞きに行くよ!!!!!」

「え、直接って……えぇ!?」


そうよ! わからなければ聞いたらいいの!

もし、それでも教えてくれないときは……んふふ。


待っててね! 陽太くん……そして……陰に潜む、盗人さん?

私がすべて暴いてあげる――。


……ってあれ?

これ、私も影響受け始めてない???







大学の三限の終わりを告げる音が校内に響いた瞬間。

私は隣に座る彼―――陽太くんに声をかけた。


「ねぇ陽太くん! 最近気になってたことがあるんだけど聞いてもいい?」

「っえ? え、あ、はい!」


私の問いに、隣に座っている陽太くんは動揺しつつもしっかりとこっちを見て……えっ、カワヨ。

私のことそんなに見つめてどうしたの?

私のことが好きなの??

って私が呼んだんだった! んへへ。

ていうかあれ? 顔こんなに可愛かったっけ????? えっ、好き……。


アッ、今目逸らしたよね!? なになに、照れてるの???

目きょろきょろして、どこ見たらいいかわからないのカナ?? カワイイネ???


―――って違うでしょう!!!???

なにをやってるんだ私!!!!!


危ない……陽太くんの顔は吸い込まれてしまう不思議な魔力があるな……って、また影響受けてるッ!


「あのさ、自覚してるかわからないんだけどね? たまに話す、漆黒だとか、深淵が~とかって、誰かの影響だったりするの?」

「―――っ!!! え、っと……あ~、そう!!!! あ、僕口に出してた!?」


おろ??

この動揺……目線の揺れ……なんか誤魔化そうとしてる……?


……ふーん……これは調べなきゃだね。


「うん! 実は私もそういうの好きでさ~、良かったらその友達? 紹介してほしいなって!」

「うぇえ!? あ、藍原さんが!? え、い、意外、だね~! えっと、し、知り合いに聞いてみるよ~」


え、意外……?

意外って思ってくれてるの? ねぇ、それなら私のことどう思ってるの?

ていうか待って? 普通に私、高校まで厨二病だったんだけど??

これ知られたくないナ???


……しかし、知り合い、か……。

普通友達って言いそうなものだけど、もしかして友達とかではない……?

それに、隠すにしても不自然な言い回し……どういう関係なの????


「あ、返信……あっ、えっっと……うん、交換していいみたいだから連絡先教えるよ!」


おっ、なんだ、向こうは向こうでそんなに隠すようなものでもないのか?

もしかして燕尾さんの言う通り、私の勘違いで、普通に男友達とかだったりするのかな?


「じゃあ、連絡先送ってもらっていい?」


ま、とりあえずその辺は交換すればわかるでしょ―――ってあれ、陽太くんなんか困ってる?

え、もしかして、本当は教えたくない……とかじゃない、よね?


「あ、あの……藍原さん……」


オット~?

はい、出ました! 上目遣い!!!!

どの角度で見たらそんなかわいい顔ができるンだ!? 教えてくれよ!!!


ていうかオイ、なんだ!? このタイミングでなんでそんな表情するんだい??

そんな表情されたら私がDAI()! ってそんなんどうでもいいんだい!!!


「どうしたの?」

「えっと、その……れ、連絡先の教え方がわからなくて……あ、あの、教えてもらっても、いい、かな?」













―――その時の心境、ですか?


そうですね……。

みんなが求める大秘宝って、コレだったんだなって……。


言葉にするのは難しいかもしれません。


でも、確かに言えることがあります。


それは―――度が過ぎた可愛さは、人を殺し得る……ということですね―――。













「あ、あれ、藍原さん……? 藍原さん???」


―――はっ!? 私は今、死んでいた……!?


「あ、あぁ! ごめんね! ボーっとしてて……もちろんいいよ!」


なんということだ……いくら私に男性経験がないからといってまさかあんな、あんな……んへへ……思い出すだけで口角が……って危ない! 陽太くんの前でそんないやらしい顔したら嫌われる!!!

ここは冷静に……そう、陽太くんの好みである冷静にクールな女になるのよ! 唯!!!


……ってあれ? 教えるってことは必然的に体が近くなるってことで……。

あれ、もしかしてこれって触れ―――。


「これはね……ここを押して……そうっ、で―――こうして―――」

「あっ、ハ、ハイ……」


―――男の子に触るのは、難しいことじゃない。

連続で触るのなら、その日のうちでないと厳しいかも?


初めて触るのは、偶然でも無意識でもいい。


一回触れることができてしまえば、相手との心理的距離は縮まり、ハードルは低くなる。


普段からスキンシップが多めの関わり合いをしているかのように……。


……例えるなら、相手の中に自分しかいないと思える特別感のようなものかな……。


私は何回触ったのかって?


―――四回。

運が良かっただけよ――――。


「―――よしっと、これで送信すれば……うんっ、ありがとうね!」

「イイエ……」


……いや待って? 運が良かっただけとか何言っちゃってんの!?

普通にさっき携帯借りるついでに触っちゃったけど……。


これ捕まらないよね?????


ていうか、嫌がられてないよね?????


え、やばい普通に、手の感触がずっと残ってるんだけど?


うっは! もう手洗わないでおこうかな???


え、え、しかも距離も近かったよね????

臭くなかったかな????

てか、陽太くんめっちゃいい匂いなんだけどアレなに?????

男の子ってみんないい匂いするよね??? アレなに??????

え、ちょっと待って、普通にやばい。

もう正直この連絡先とかどうでもいい……今すぐ帰ってこの匂いを堪能したい……!


はぁ~~~……この元凶のせいで悩んでいたけれど、今はただ―――君に感謝を―――ってあれ、なんだこの名前……。


「……ねぇ、陽太くん。……これって本名……?」


陽太くんから送られてきた連絡先に書かれていた名前は、"グラス"。


……いや、まさかな?


まさか連絡先の名前までこれにする人がいるわけが……。


「いや……あの……前まではちゃんと名前にしてたんだけどネ……ウン……」


……正直、ここまでヤバイ人を想定していたかと言われれば、まぁ当然、否。

私みたいな人でも優しく接してくれる陽太くんですら困惑するレベル……。


グラス……うん、確かにこれは、連絡先を教えるのを躊躇うわ……。

疑ってゴメン……。


そして―――安心してね。

ここからこの怪物は……私が引き受けるから……!


「それじゃ、私は今日は三限までだから帰るね! 連絡先ありがとう! また明日ね!」


さぁ、勝負を始めよう―――!!


―――――――――――――――――――――――


―グラス


既読 14:28 - 初めまして、陽太くんから連絡先もらった藍原です!

既読 14:28 - 名前は何て呼んだらいいの?


陽太の友人ならば、私の真名であるグラスと呼ぶことを許そう - 15:02

そろそろ現れる頃だと思っていたよ、藍哭ノ巫女 - 15:02


―――――――――――――――――――――――




――――――Huh???――――――




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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

 

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 何卒よろしくお願いいたします!

 

 更新は"不定期"【AM1時】更新予定です!

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おお、現厨二と元厨二との対決か。 奇襲したかと思いきや、待ち受けされていましたか。 まあ彼から連絡は行っていたのかな。
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