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第六話EX 二人の思惑の交差点

徐々にブックマークの数も評価者の方も増えてとても嬉しいです。

ありがとうございます。今日も頑張ります。



初めてこの人をバイト先で目にしたときは、ただ、顔が良い。それだけだった。

まぁ、イケメンだし、高身長だし、声だって柔らかく、優しくていい人そうという感想を除けばだが。


……だけど、二回目に会ったとき。

同じような印象とはまた別に、少し"高圧的"で"攻撃的"な印象を抱いた。


「あぁ、どうも初めまして。僕は燕尾 司。ただのバイト先の先輩、ってところかな」


ただの自己紹介。

特に気にするようなことでもない言葉だったが、私はその言葉に少し、息の詰まる感覚がした。


私は、今までこの性格なのもあって色々な人と接してきた。

それがあるからなのか、相手の少しの感情の変化をなんとなく察することができる。


だからこそ、私はこの言葉に疑問を抱いたのだ。


今、私の目の前にいるイケメン―――燕尾さんが、私に苛立ちや焦燥、敵意のようなものを抱いているのはどうしてだろう、と。

だから私はそれを探るために、できる限り積極的に燕尾さんに話しかけていた。


そしてその疑問が解消されたのは、陽太くんの服を購入する時だった―――。





「えっと、とりあえずお昼もまだ食べてないので一旦ご飯、とか、どう……ですか?」


そう陽太くんが口にしたとき、しまった、と思った。


何をやっているんだ私は!

こっちに向かうまでにもう迷惑はかけないと誓った傍からこの失敗とは!!

どう考えても私からお昼は提案すべきだったじゃないか!

私のせいでこうなってしまっているのに……!


うう、せめてどこかお店を決めて……ってあぁ、ファストフード店しかない!?

まずい……今日は燕尾さんがいるけど、実質デート一日目!

ネットではファストフード店にデートの一回目で行くのはナンセンスと書かれていた……!

つまり、私が提案するべきは男の子ならみんな好きであろうカフェ一択!!!


……けど、カフェとかあんまり行ったことないし、全然わからないから幻滅されるかもしれない……こうなったら!


「いいですね! どこに行きたいですか?」


そう! これが一番簡単!

陽太くんの行きたいところならば間違いがないじゃないか!


「あ、えっと、その……」


あれ、特にないのかな?

うーーーん、でもなぁ……あっ、あそこに"マクルドナド"がある!

あそこならいいかな……いや、でも男の子に提案していいのかな!?

一体どうすれば―――。


「おや? あんなところにマクルドナドがあるじゃないか。あそこでいいんじゃないか?」


――えっ?


「めっちゃいいと思うっす!!!!! さっすが先輩わかってますね~!!!」


え、えええええええええええええええぇぇぇぇえええ!?

いいの!?

ていうかめっちゃ喜んでるの可愛い……じゃなくて!

え!? こんな好きだったの!?

じゃあ私が言えばよかった!!!!!!!!!!!!!

ねぇ!!!!!! 私のが先に気づいてたんだけど!!!!!!!!!!!!!

私がそれ言われたかった!!!!!!!!!!


ええん……。


「あの、藍原さんは大丈夫? あそこで……」


え? なんて? 全然聞いてなかった……え、なに? なんか大丈夫って聞かれたけど……。

……え、もしかして陽太くん、ファストフード店だから私に気を使ってるってこと?

それって、ネットで見た"ラブ権三郎"先生的には脈アリってこと、ですか?

え~~~好き~~~!


「っあ、あぁ! うん、大丈夫だよ! 私も好きだから!」


そう、ファストフードも、陽太くんもね!


……しかし、困ったな……。

このイケメン、なんか私にトゲトゲしてるし、その上で結構邪魔みたいなことしてくるんだよね……。

陽太くんのボディーガードですか????

ていうか燕尾さん、顔は良いのになんでか惹かれないのよね~なんでだろ? それだけ私は陽太くんのことが……!? キャッ。


うーん、でもこの感覚……どこかで感じたことあるような。

どこだったっけ……。






えーっと、この角を曲がって、三つ目の店舗が……あっあった!


「ねぇ、陽太くんはアパレルショップとか初めて?」


私は昨日から夜更かしをしながら血眼になりつつも見つけた店舗を見つけ、思わずテンションが上がって陽太くんに話しかけた。

まぁ陽太くんは結構奥手っぽいしこういうところにはあんまり来なさそうだよね~。


「ま、まぁ何度か……? 行ったことあるけど、ここはわかんないな~! 藍原さんは知ってるの?」


Oh……。

そ、そうだったんだ、意外とアウトドア……なのかな?

っていうか知ってるか、ですって??

もちろん、このお店に関しては生い立ちの歴史からすべて頭に入れてきたわよ!!!

陽太くんとお話するために学んできたんだから!!!


「もちろん! このお店は結構前からできてるみたいで、元々は定食屋だったんだって!」


ふふん、このぐらい知ってるのに驚いたでしょう?

……って、あれ? なんか少し引いてる?

いや、でもなんかいつも以上に優しい笑顔だし……え、もしかして好きってこと!?


そんな、いや~ん!!!!


「えっと、燕尾先輩、別にズボンは黒かったらなんでもいいんですよね?」


って、全然気にしてないんかい~!

なんだったんだ今の温かい目線は……。


うーん、ていうか、燕尾さん? 私と陽太くんで対応全然違いませんか???

なんか妙に優しいというか気を使うというか……そこまでやるのって異性相手ぐらいでしょ……。


―――あれ?


最初は小さな疑問だった。

今日、出会ってから敵意をむき出しにされていたのはどうしてだったんだろうか、と。


しかし私は、この時の燕尾さんの顔を見て、確信した。


「……いや、なんていうか、やっぱ僕は燕尾先輩みたいな人になりたいっすね……」

「――っえ!? また、急にどうしたんだい……」


その顔は、まるで私が陽太くんを思うときの―――女の顔だった。


そうだ、なんで気が付かなかったんだろう。

この人に私が惹かれなかったのは、きっとこの人が女の人だったからだ。

よくよく顔を見れば確かにイケメンではあるけど、女性的な要素もある気もする。


そして、燕尾さんに感じていた既視感は、まるで自分が陽太くんを守るときと同じじゃないか!


……確かめなければいけない。

……けれど、いつそれを確かめる?


今はまだ、陽太くんには言えない。

きっと、いや、恐らく陽太くんと燕尾さんとのやり取りを見るに、陽太くんも燕尾さんが男だと思っている。


であれば、無暗に判明させて私の敵にする必要はない……。

あくまで、静かに、燕尾さんを―――陽太くんから離すしかない―――。




――そして、その時は思ったよりも早くやってきた。


「じゃあ、僕はお会計してきますね!」


そういって陽太くんは急ぐかのようにすぐにレジへと向かってしまった。

となれば、必然的に、今は二人きり。少しタイミングは早いが……話すのなら、今―――。


「「あの、話したいことが」」


―――そして、二人の声が重なった―――。







「「あの、話したいことが」」


僕は驚いた。

まさか、彼女の方からも僕に何か用があるとは思わなかった。


だが、僕は彼女の目を見たとき、瞬時に何を話したいかを理解した。

だから、僕は小さな深呼吸ののち、彼女にこう提案した。


「……ここじゃ話しにくいことなんだろう? 僕も同じさ。……少し悲しいけれど、この後僕と話す時間、ってのにするのはどうだろうか?」


僕の言葉に、彼女は強く頷いた。

……最早、その行動だけでどういう人なのかは理解できたが、ミナトくんがあそこまで幸せそうな顔をする人である以上、僕としても見過ごせるものではない。


そうして軽い打ち合わせののち、ミナトくんは少し焦った顔でこちらに向かってきていた。

ふふ、僕と離れるのがそんなに寂しかったのかい?


……けれど、今日だけは、決着をつけなければいけない相手がいるんだ。

だからすまない、ミナトくん……。


「あっ、陽太くん! 買えたんだ、よかったね! じゃあ、えっと、その……私、この後実は予定があったから今日は先に帰るね?」


打ち合わせ通りに彼女がそう口にする。

……一瞬、一瞬だけ予定通りにせずに僕だけ用事がないことにしてミナトくんと二人きりになろうと考えたが、恐ろしいことに彼女はそれに気が付いたかのようで、僅かコンマ秒だけ僕を睨みつけていた。

……これはまた、恐ろしい番犬もいたものだ……仕方ない。


「あ~、僕もこの後予定があるんだ、次のバイトの時に見れるの楽しみにしてるよ」


そう言って僕は彼女とともにミナトくんの元を離れた。


―――待っててね、ミナトくん。君のために、彼女と少し話さなければいけないんだ。







穏やかなジャズのBGMが流れる落ち着いたカフェの一角。

―――図らずも今朝方、遠野陽太が座っていた席に、二人の美形が重苦しい雰囲気を醸し出していた。


そして、二人の間に二つの飲み物が揃った時。

先に口を開いたのは、端正な顔はまさに俳優かのようなイケメン―――燕尾 司だった。


「……ふむ、それでは年上でもあるから僕から言わせてもらおうか。……僕は、バイト先の先輩である前に、彼の相棒なんだ。……藍原さんがどういう人かはわからないが、僕たちの絆がある以上、諦めた方がいい」


後手。

透き通った黒髪が透かす可愛らしい顔はまさに完全無欠のアイドル―――藍原 唯は、燕尾の言葉を聞いて、それが嘘偽りのないことを言っているのだと理解した。

それに、この言葉が既に陽太くんを狙う女の言葉であることは最早疑う余地もなかった。


……だが、理解したがゆえに沸く感情が、藍原の脳を支配した。


―――何を言っているんだ、この人……変な人、なのかな?


当然である。

普通の思考であるのならば、相棒だとか絆だとかを言われても何が何やらわからないのが当然なのである。


だがしかし!


―――相棒だなんてゲームでしか聞かない……はっ、もしかして、一緒にゲームをする相方だと言いたいのかな!?


彼女もまた、狂ったゲーマーの称号を持つ女性。

普通ではなかったが故に、燕尾にとって都合の良い勘違いを生み出した。


―――困った……私ですらまだ家庭用ゲームは一緒にやっていないのに……!

もしかして誘ってこなかったのも彼女―――燕尾さんの存在がいたから……?


……悔しい、けれど、彼女はまだ、陽太くんが燕尾さんを男と勘違いしている事実を知らない。

まだ知らないかもっていう可能性だけども!!


けれど、それは少なからず私にとってのアドバンテージだ!

ここでわざわざ言ってあげるつもりはないが、心の余裕はこれのお陰で保ててる!!!


「燕尾さん、よく考えてほしいのですが、今日は、陽太くんは、"私と"、”二人きりで”、約束していたんです。あなたは、たまたまそこに居合わせただけ、ですよね?」


刹那―――燕尾の余裕ぶった表情が、一瞬苦虫を嚙み潰したかのように歪んだ。

燕尾が考えないようにしていた事実。

すなわち、藍原さんに会えると知った時の陽太くんの顔はまさに、自分らの絆を上回っていることを指し示していたこと。


―――くっ、やはり、これは分が悪いな……。

いくら僕が何を言おうとも、彼女にはこの手札がある以上、まだ出会って日が浅い僕では太刀打ちできるカードがない……とでも、思ったかい?


「時に、藍原さん。君は"好み"という言葉を知っているかい?」


―――っ!?


その単語に、藍原はすでに大きい目をさらに大きくさせた。


"好み"。

即ち、陽太くんと接する上で最も重要な要素。


異性と近しい関係になる近道は、本人の好みを反映させることにある。

例えば、ロングヘア―が好きならば髪を伸ばす。

メガネが好きならメガネをかけるなど、小さなことでさえ、こと異性との関係上では強い意味を持つ。


そして、その"好み"を、陽太くんの好みを、私は知らない。


―――くっ、そんな重要な手札を隠し持っていたのっ!?

彼女の言う言葉が本当であるなら、燕尾さんの特徴から推察するに、陽太くんの好みは―――っ!


「あぁ、推察の通りさ。 クールで冷静、そして一人称が僕の、落ち着いた姉のような口調。それが"好み"、さ」

「……そん……な……!」





さて、ここまで彼女らの話を知ってきたものならばもう理解していると思うが、あえて言おう。


彼女—―燕尾 司の言う彼の"好み"とは、あくまで彼女が推している"ワールドリバース"のキャラである、ミナトくんの好みである。


燕尾はあまりにも推しに似すぎている遠野に対して推しを重ね合わせ過ぎて、現実との境目を見失った二次元オタク。

ゆえに、今日日この時まで遠野とミナトくんを同一視している節があるために、彼女は自信を持ってそう宣言した。


無論、遠野の好みが全然違うことは言うまでもない。


……だが、そんなことはもちろん藍原には知る由もない事であるため、当然―――。


「ふふ、今更キャラ変しようものならしてみるといい。ま、この僕とキャラ被りをしてしまうだろうけどね」

「そんな……いや、でも……うう!」


―――こうなる。

客観的に見れば、どう考えても燕尾には藍原に勝てるものなど一つもない負け戦。

だが、彼女のその自信溢れた口調と丁寧な言い方も相まって、同じく恋愛経験のない藍原は負けることのない戦いにおいて、戦意喪失しかけていた。


―――そんな……。私が陽太くんの好みから外れていたってこと……!?

でも陽太くんは間違いなく私を好きな行動もあったハズ……!



しかし、これは神の助けか。

ここで彼女を助けるための助け船が、ガラス張りの壁から現れた。


「……え……あれって……」


ガラスの向こうには今話題の渦中の彼—――遠野陽太の姿が見え、一瞬口元が綻びかけるも、しかし彼の今の状況を把握し、思わず口を開けた。


「ん? 負けそうだからって誤魔化す作戦かい? そんな外に一体何が……ッ!?」


あまりにも驚愕の表情を浮かべる目の前の相手、藍原に釣られて同様に燕尾が外の光景を見て、絶句した。


ガラス張りの向こうに繰り広げられていた光景は、なんと、遠野に向かってなにやら別の女が話しかけている状況だった。

……そう、これもまた神のいたずらか、助け船は一隻。されど乗客は二名存在したのだ。

その女は遠野となにやらしばらく話した後、踵を返すようにその場を立ち去っていった。


ただ、これだけならばカフェで見ている彼女らも静観を決めていたが、決定的だったのは別れ際。


「あれって、まさか……!」

「あぁ、当然だろう! 他に何を渡すって言うんだッ!」


女が遠野に渡した白い紙。

即ち―――。


「くっ……連絡先……!」


連絡先を渡された光景を見た燕尾は思わず席を立ちあがるも、何故かその腕を藍原に掴まれた。


「~~何をしている!? アレは連絡先だぞ!? 早く登録するのを阻止しないと!」

「……分かってるっ! ……でも。残念ながら私たちには止められないわ……」

「は!? 何を……ッ!」


何を、と聞こうとした燕尾もまた、藍原の言葉の意味をようやく理解した。


そう、彼女らはあくまで遠野に対して、"予定があるから帰る"とまで言ったのだ。

そこに彼女らが現れれば、大きな不都合と乖離が生じてしまい、結果的に彼からの不信感を買うことになってしまう。


故に。


「……くっ……僕らは……一体何をして……ッ!」

「……ねぇ、燕尾さん?」


彼女らもまた奇妙な縁か、遠野と同じく、ただ、彼の恋路が発生するのを見届けるしかないという"BSS"を体感していた。

……いや、藍原さんは"WSS"だろうか。


しかし、この経験は、藍原さんにある意識を生み出させることになった。


「……今はまだ、結果を急いているべきじゃないわ……不本意だけれど、私と組みましょう?」


そしてその言葉を聞いた燕尾もまた、同様の意志を感じ取った。


「……ふむ、致し方ない……これ以上邪魔が増えるのは僕にとっても得策じゃないからね……」

「……ふふふ」

「……ははは」






かくして《彼に近づく女を撃退する同盟》が結成されたのだが、それを遠野が知る術は残念ながらなく、彼のハーレム計画の弊害が着々と育っていっているのだった―――。

【応援お願いします!】


「続きはどうなるんだろう?」


「面白かった!」


 など思っていただけたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

 

 ブックマークや感想もいただけると本当にうれしいです。


 何卒よろしくお願いいたします!

 

 更新は"不定期"【AM1時】更新予定です!

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